46話 豪華な釣船。
「お疲れ様!会いたかった?」
全ての予定地に石畳を敷き詰め終えた俺は、漸く我が子に会うことが出来た。
「当たり前だろ!何度夢に見たことか…」
「そんなに私が恋しかったんだ」
「えっ?」
「えっ?」
「「……」」
「あ、ああ、そうだよ」
「無理しなくて良いよ。子供優先なのは仕方ないよね」
言葉とは裏腹に聖奈の視線は冷たい。
これかっ!?世の男性達が間違えるヤツはっ!!
「聖奈さん。予定通りです」
「ありがとう、ミランちゃん。在庫もかな?」
「はい。他の予定地とを繋ぐ道は今からでも」
ナイスミラン!
ミランにその意図があったのかどうかはわからないが、話を逸らすことに成功した。
俺からしたら休暇のつもりだったが、聖奈にとってはただただストレスが…いや、フラストレーションが溜まっただけだったのかもしれない。
「順調でなによりだよ。エリーちゃんの方はどうかな?」
「はい。エリーさんの方も研究と実験は問題なく進んでいると伺っています」
「これで、地球の技術を向こうで使えそうだね」
エリーは魔導具の専門家だ。
畑違いではあるが、物作りのプロと呼べる。
そのエリーを筆頭としたチームに、俺が盗んで来た地球のデータを使って、地球で使われている技術を模倣させていた。
簡単に言えば、コンクリートやアスファルトなどの物質から、それらを工作する為の機械についてなどだ。
その情報だけならばインターネットの世界に溢れているのだが、地球とソニーでは物質の成り立ちやそもそもの物理法則すら違う可能性がある。
そこで宇宙工学などの応用を使い、同じ素材がなくとも似たようなことがソニーでも出来ないかと模索しているんだ。
「街は見た目から石畳が良いけど、主要な道はアスファルトやコンクリートがいいよね!」
うん。街の道がアスファルトでもいいよ。俺はね?
「ヨーロッパのように、コンクリートと石畳の混合はどうでしょうか?ズレなどが長期的に起こりづらく安定すると思いますよ」
「いいねっ!流石ミランちゃんっ!早く異世界版コンクリートが出来ないかなぁ…」
何故コンクリートにそこまで情熱を注げるんだ……
わからん。
「これが硬くなんのか?」
半月後、試作段階のコンクリートを使い、検証を行っていた。
場所は新大陸。
綺麗に並べられた石畳みの隙間へと、コンクリートを流し込んでいる最中である。
「一週間くらいで乾き切るのが普通なんだけど、これは一時間で乾くらしい」
強度大丈夫か?
「これだけ簡単に作れるなら誰にでも任せられるぜ?」
「そうだな。外に漏れないようにしっかりとガードさえしていれば、ライルの言う通り誰でも使うことが出来るのが、コンクリートの利点の一つだな」
この異世界版コンクリートには欠点が二つある。
一つは、速乾性が高いので作り置きが難しいこと。
一つは、強度を上げる為に魔石を砕いて混ぜているので、費用の点からお手軽とは言えない代物になったことだ。
「おっ。もう固まったんじゃねーか?」
「動かせそうか?」
「やってみるぜ」
石畳みは高さこそ合わせてあるが、埋めたりはしていない。
ライルであれば簡単に持ち上げることが出来るはずだが……
「ダメだ。全部くっついちまってるから、俺じゃあ持ち上げれねーな。セイなら出来るんじゃねーか?」
「いや、力試しじゃないからな?ライルが剥がせないなら強度としては問題ないから、一先ずの成功だな」
後は製作者が納得するかどうか。あ。監督(聖奈)もか。
「完璧だねっ!じゃあ計画通りに進めてね!」
製作者は結果について分かっていたようで、あまり反応がなかった。
代わりに監督は大絶賛してくれたけど。
「分かった。建物ではなくて、初めに道だな?」
「うん!建物はもう少し研究が進んでから考えたいから。基本は渡した書類の通りで良いと思うけど、細かい判断は現場に任せるよ」
「了解だ。こっちは問題ないか?」
実験が成功すると、次は実用化となる。
それは当たり前なのだが、暇な時間と忙しい時間の差が激しい……
「問題はないよ。お義父様が釣りに行きたいみたいだから、次の休みの時にでも連れて行ってあげてね」
「了解だ。……その時に流聖は」
「無理に決まってるよ?まだ首も座ってないんだよ?」
はい…すみません……
俺が子供とスキンシップ出来るようになるまでは、まだまだ時間が掛かりそうだ……
抱っこもあまりさせてくれない。
理由は単純。
俺の力が強いから見ていて怖いらしい。
俺はスーパー◯イヤ人か何かか?
転移魔法を駆使し、作業員を新大陸へと連れていくこと暫く。
漸く今回の人員と物資を運び終えた俺は、久しぶりの休暇を地球で過ごしていた。
「釣りに連れて行けとは言ったが…これは釣船じゃあないだろう?」
「そうだな。これはロングレンジクルーザーっていう種類の船だ。長い航海に耐えられる設計だから、流聖を連れてきても問題ないってわけだな!」
「そういう意味じゃ……」
親父が何かブツブツと聞き取れない声で喋っているが、無視だ。
息子と過ごせる休みが漸く来たんだから、親父の相手はミランに任せて俺は船室へと急ぎ向かっていく。
「お義父様、仕掛けはこれで大丈夫でしょうか?」
「あ、ああ。ミランさんは器用だね…釣り暦30年の私よりも結び目が綺麗だ……」
うん。問題なさそうだな。
船内への入り口で一度立ち止まって二人を見たが、どう見ても仲の良い家族にしか見えなかった。
俺は急足で階段を降りたのだった。
「そうそう。ミルクと首を優しく支えてあげてね」
俺は今育児をしている。
この俺が、だ!
緊張のあまり、手が震えていないだろうか?
聖奈と違ってゴツゴツしているから、不快に感じていないだろうか?
不安だ……
だって、俺の腕より小さいんだぜ?
でもエリーの胸よりは……ゲフンッゲフンッ
「お、おお…ちゃんと飲んでる…」
「凄いよね?こんなに小さいのに一生懸命生きているんだよ。これが私から出てきたなんて、今でも信じられないよ」
うん。最後のセリフで全て台無しだよ……
これって……
出てきたって……
「聖!次は私よ!」
「お、おい!俺は父親なんだぞ!しかも滅多に会えないし!」
「私は貴方の姉よっ!弟のモノは姉のモノよっ!」
ジャ◯アンじゃねーかっ!
「お姉ちゃん…流石に譲ってあげて…」
「……ふん」
あの聖奈さえドン引いている。
本当に我が姉は我儘だな……
「ほら。落とすなよ?」
「落とすわけないでしょ!貴方のことは落としたけど」
「えっ?」
えっ?なにそれ?
我儘な姉に可愛い我が子を抱かせるも、知らない話が飛び出してきた。
「由奈はね、聖が生まれた時に抱っこさせてって言ってきたの。
危ないけど、見ていたら大丈夫よね?って考えて渡したら落としたのよ」
「え…俺、よく生きてたな?」
「お父さんがしっかりとキャッチしたわ。後五センチで床と激突してたのよ?よかったわね」
良くねーよ!?
幼稚園児に新生児を抱かせるな!
これほど親父に感謝した日はなかった。
この後しっかりと父親孝行をしたのは、言うまでもないよな?
『東雲社長。お客様がお越しです』
釣りという名のクルージングを終え、俺達は家へと帰ってきていた。
夕食を食べようかという時に、職員から連絡が入る。
「誰だ?」
『中東の方です。如何いたしましょう?』
「少し待ってくれ」
俺はそう伝えると、聖奈に意見を求めた。




