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45話 道路整備。

 






流聖(りゅうせい)なんてどうかしら?』


 さらに月日は流れ、ついに一児の父となった。

 母子共に、無事に出産を乗り越えて初めての満月の夜、ルナ様に名付けを頼んだところ、中々今風な名前を提案してくれた。


「ありがとう。いい名前だな」

「ありがとうございます。由来などはあるのでしょうか?」


 お腹を痛めて産んだ子の名付けだ。流石の聖奈もルナ様へと聞きたいことを聞いている。


『聖は言わずもがな、流は様々な場所へと流れる様な二人と似るように願って付けたわ。人の生は短い。その中で流れる様に様々な出来事を体験できる楽しい人生になると良いわね』


「ありがとうございます。この子は流聖。ルナ様への感謝を忘れない様に育てて見せます」


『ふふっ。気にしないで。次の子を楽しみにしているわ』


 その言葉を最後に、世界が時を取り戻した。


「流聖。俺達に似るなよー」


 この世に生まれ七日。漸く名前が付いた我が子へ向けて、半ば本心である言葉を冗談めかして伝えた。


「流ちゃん。パパに似て、優しい人に育ってね。あ。でも、女関係は真似しちゃダメだよ?」

「愛らしい子です。聖さんに似て、女誑しになるでしょう」

「……二人とも。ない事ばかり教えるのはやめてね?」


 事実は仕方がない。だって事実なんだもの。

 だが、年齢イコールが長かった俺を子供の前で揶揄うのはやめて!


 お父さんなんだから見栄を張りたいんだよっ!




 聖奈の出産があった為、別大陸への進出は中断を余儀なくされた。


 急いでいたのは聖奈だけで、周りは満場一致で計画を練り直すことに賛成し、そうなったのだ。


 もちろん産んだからすぐに、というわけもなく。

 産後三ヶ月は家から出ないように通達を出し、俺とミランで見張ることとなった。


 家といっても馬鹿でかいので、運動不足やストレスも問題ないはずだ。

 産後一週間で退院した聖奈は、今日からここで三ヶ月間の軟禁生活が始まる。


「ゆっくりしてくれたらいいけど……」

「何か言った?」

「何も。さっ。もう休もう」


 聖奈はここまで走り続けてきた。

 この機会にゆっくり休んでくれたら安心なのだが……

 無理かな…?









「ふぅ。こんなもんかな?」


 聖奈がじっとしているなんて幻想だった。

 目の前には堆く積まれた石の山。

 石といっても石板だけれども……綺麗にカットされた石板ということは、隙間なく積まれているということでもあり、その量は莫大だ。


 この厚みのある石板はバーランドで切り出したもので、その公共事業には莫大な費用が掛かった。

 といっても、国家運営からすると大した金額ではない。個人的に見ると凄いのだが。


 それでも金貨換算で30万枚。

 日本円に直すと300億。大金だ。


 これまでバーランド王国作りに掛かった公共事業費の二割と言えば、さらにわかりやすいかもしれない。


「明日は人員輸送だ。今日は帰って酒を飲もう」


 ここは新大陸。


 この仕事が終わるまでは、可愛い我が子の顔すら見せてもらえない。

 鬼嫁に与えられたミッションを遂行する為に、手順を思い浮かべながら帰路につくのであった。










「おいっ!石板が足りねーぞ!早く運べ!」


 男達の怒号が飛び交っている。


 翌日になり、人員輸送を済ませた後、問題がないか現場を見回っているところだ。


「この様子だと、予定より早く終われそうですね」

「そうだな。国王(おれ)がいるから張り切っているのかもしれないが、いなくてもそこまでペースは変わらないだろうな」

「魔物が出ないから暇だぜ」


 ミランの言葉に俺なりの返事をすれば、ライルから暇だと苦情が出た。


「魔物が出る方が問題だからな。あくまでも用心の為の俺たちだからな?」

「知ってるけどよぉ。これなら店番の方が楽しかったぜ…」


 …店番が楽しい?

 いかんっ!ライルがブラック体質にっ!

 って、元々か……


 連れてきた男達は、新大陸のインフラ整備に従事している。

 石板は石畳として使用している。

 整備された道さえあれば、後々の国造りが楽になるのだ。


 先ずは道。

 その次に排水路の整備。

 それが出来て初めて建築へと移行される。


 新大陸の進出予定地付近の街道を含む区画は既に決めており、先ずは首都となる港町を含む大都市の区画整理を開始した。


「ここに新しい国を作るってのは分かったけど、俺もここに住むのか?」

「正直に言うと、ついてきてほしい。だけど、ライルとマリンの人生だ。よく話し合って、後悔ないように決めてくれ」

「バーランドはどうすんだ?」


 地球で安全に暮らせる場所は確保出来た。

 後は異世界(こっち)なのだが……やはり、新大陸で暮らすことになるだろう。


「バーランドは既に止められない流れが出来ている。だから、手放すよ」

「良いのか?あれだけ力も財も使ったのに?」

「ああ。力も財もまた稼いだりつければいいしな」


 俺が生きている間は今のままでも問題ない。

 それは聖奈達ともしっかり話し合った。


 結論は……

『俺がいつ死ぬかわからない』

 だった。


 もし、聖奈やミランがバーランド王国にいる時に死ねば、新大陸を統治する者がいなくなってしまう。

 逆に新大陸にいる時に死ねば、バーランドが荒れることは間違いないだろう。


 それなら始めからバーランドを手放すべきだ。


 そうすれば、バーランドや他の国へ聖奈達がいる時に俺が死ぬ可能性は低くなる。

 いずれ新大陸が安定すれば、また旅に出たり旅行に出たりもあるだろう。

 その時に死んだとしても、困る人は多くない。

 既に安定しているのだから。


「バーランド王国はバーランド国へと名前を変える」

「ま、王がいないんだから、不思議はねーな」

「そうだ。その為の選挙制度だからな」


 バーランドでは小さな規模での選挙制度を既に取り入れている。

 これは建国当初からのもので、国民も慣れてきた頃だ。


「町の代官を決めるヤツだろ?アレを国規模ですんのか?」

「そうだ。ゆくゆくは国のトップを選挙で決めて、政治を行なっていくことになるだろう」

「ゆくゆく?」

「ああ。今のバーランドでは、国全体の選挙は不可能だろう。俺達がいるなら別だが、移動方法に乏しすぎる。

 だから、今の王都を首都として、そこのトップを国の代表にする予定だ」


 もしくは日本と同じく、地方も含めた政治家達を集めて、その中でトップを決めても良い。


 大統領制か内閣制かは正直どちらでも良いと思っている。

 それを含めて今いる人達に決めさせたい。


「貴族は?流石に黙ってねーと思うぜ?」

「黙らせるさ。聖奈が…」


 うん。情けないけど、俺が黙らせるとしたら力づくになっちゃうから……


「バーランドは真の平等を目指すことになる。平民という言葉も無くなる。人の下に奴隷を作らず、人の上に貴族も作らない。

 犯罪奴隷は、奴隷ではなく労役義務のある犯罪者として扱う」

「それって、言葉だけじゃねーのか?」

「そうだ。最初はな。いずれ奴隷という言葉すら知らない者達ばかりの時代が来た時、奴隷という身分は初めて消えたことになる」


 バーランドに借金奴隷はいない。

 人を売り物にすることを禁止したからだ。


 自身を売って家族を助けることは出来なくなったが、代わりに国への借金を可能にした。

 返済方法は物納でも労働でも受け入れている。


 奴隷商からは当然反発もあったが、金で黙らせた。

 元々数が多かったわけじゃないしな。


 そこに居た奴隷達は国へ借金したことにして、今は普通に暮らしている。もちろん返済は続いているが。


「今日はここまでのようです」

「ん。わかった。じゃあ帰ろうか」

「おう」「はい」『腹が減ったのじゃ…』


 コン、居たのか……


 予期せぬ所(フード)から返事があり驚いてしまった。


 俺達が帰るのは城ではない。首都予定地にある仮設住宅だ。

 作業員を毎日運ぶのは骨が折れるし、順次作業員は増えていく。

 彼らは仕事が終わるまでバーランドへ帰れないのだ。


 国王の俺が嫁に家から追い出されているのだから、その国民が国に帰れなくても何の不思議もないなっ!


「はぁ…流聖の寝顔が見たい…」


 月に祈れば帰れるが、バレたら後が怖いので出来ない。


 他の作業員はテント暮らしだが、俺達には立派なログハウスがある。


 ライルを転移魔法で王都へ送ると、ミランが夕食を用意してくれているだろう新大陸へと向けて、再び転移魔法を発動したのだった。

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