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43話 終焉の大木。

 





『世界樹じゃなくて、高密度な魔力溜まりが起こした変異ね』


 夜になり満月に祈ると、ルナ様から返事があった。

 聞いた内容はもちろん世界樹(仮)について。


「放っておいても問題ないのか?」

『壊したら魔力崩壊…分かりやすく言うと天変地異が起こるわ。管理人を置くことを勧めるわ』

「ありがとう。管理って言っても人が悪さしないように見張れって意味だろう?了解した。またな」


 またね。

 そう残し、時間は動き出した。


「つまり魔力が詰まった爆弾みたいなものって事だね」

「多分な」

「管理は誰に任せましょう?」


 問題はそこだ。

 あれだけの大木だがらちょっとやそっとの事では壊れないと思うが、人が目的を持って動けば壊せない物でもないのだろう。

 そして、悪意を持った自爆テロ行為はいつ起こるかわからない。


 任せる人材は精査しなくてはならない。

 そんな都合の良い人材がいるのか?


 何年…何十年、何百年と見張らないといけないんだぞ?


「聖くん。誰か…ううん。個人じゃ無理だね。何処かに信頼できるいい人材はいないかな?それも大量に」

「そんな事を言われてもな…」

「ルナ教の信徒では如何でしょうか?御神木としてその木を祀らせるのです」


 凄いアイデアだ。


 放っておいたら人間の知的好奇心からいずれ良からぬことになるのは間違いない。

 じゃあ、初めからそこをルナ教の聖地にでもすればいいと。


「いい案だけど、それが失敗に終わった時、一番損をするのがルナ様だからダメだね」

「あっ……」


 確かに……

 もしいつか爆発でもしたら、生き残った人々はルナ様…ルナ教の所為にするだろう。

 何も知らなければ、俺でもそう考えてしまう。


「いい案だと思ったが、俺達の死後そうなっていれば確かに拙いな。

 いっそのこと、今何も無い状況で爆発させるか?」

「それをしても問題ないのなら、ルナ様が提案してるんじゃないかな?それは最終手段で、やっぱり管理人を探すのが最善かな」


 うーーん。誰かいい人が……


「聖くんが旅をしてる時に、迫害を受けてる村とかなかった?あれば私が説得にいくけど?」

「身重なんだからやめてくれ…もう少し考えさ……待てよ。世界樹にはアイツらが付きものだよな?」

「聖さん。アレは世界樹ではないですよ?」


 俺が空想上の設定の話をすると、すかさずミランがダメ出しして来たが……


「聖くん。それってエルフのことだよね?エルフに知り合いはいないでしょ?そもそも見たこともないよね?」

「いや、実は…ある。エルフの村に泊まったこともあるんだ」

「えっ…そ、そんな……私を騙してたの…?」


 ミランだけにはその存在を伝えていたが、聖奈には暴走するからと内緒にしたままだった。

 ミランは忘れていたのか『ああ…』と一言呟き、聖奈は絶望の演技をしていた。

 そう。演技だ。


「熱演しているところ悪いが、騙してはいない。エルフ達の穏やかな生活を守るため、秘密にしていただけだ」

「何よっ!それだと私が壊すみたいに聞こえるよっ!」


 ツンか?今更ツン要素か?


「そうだ。聖奈は黙って引き下がるタイプじゃないからな。知れば絶対に接触を図ったはずだ」

「うっ…行動が読まれてる…あの聖くんに……」

「そういうわけで、アテは出来たが……どうする?」


 正解なんてないのだろうが、それでもなるべくなら長く壊さずにいきたい。

 物である限りいずれ壊れるし、人である限りいつか間違いを犯す。

 だが、あの自然に生きているエルフ達なら或いは……


「うーん。どんなタイプのエルフさん達なの?」

「古き良きタイプのエルフ達だったな。人の社会では生きていけないし、物欲もなく争いごとにも向かない。後、精霊を信仰しているな。精霊を見ることができるエルフ達からすると、俺は光り輝く精霊と同じように見えるみたいだ。そのお陰で仲良くなれたな」

「ツッコミどころは満載だけど、今はそれどころじゃないね。わかったよ。一度会わせてくれないかな?」


 聖奈は俺の人を見る目を信頼している。

 それでも今回ばかりは即死案件だからか、自分の目で見て判断したいようだ。


 ただエルフに会いたいだけじゃないよな?


 一抹の不安を覚えたが、他に良い案もないのでとりあえずエルフと話すことになった。










「森だね」


 翌日。

 満月が出ている内に異世界へと転移した俺達は、エルフの森近くに来ていた。

 時刻は昼前。

 身重の聖奈をあまり連れ出したくはないが、エルフにバーランドへと来てもらうわけにもいかず、森へと転移したところだ。


「ここからすぐ近くに村がある。俺一人で向かって話を通してから連れて行ってもいいけど、どうせ聖奈が話すなら初めから居た方がいいもんな」

「そうだよ。態々転移で往復する必要もないし、妊婦にも運動は必要だからね!」


 聖奈のお腹は依然として目立っていない。

 まだ五ヶ月だからなのか、聖奈が細いからか。うーん。健康ならそれでよしっ!


「それは知っているが転んだら事だ。俺は右手を持つから左側は頼んだぞ」

「はいっ!セーナさんの子供は我が子も同然ですから!」

「ふふっ。ありがとう、ミランちゃん」


 聖奈を囲む形で森を進むと、すぐに開けた場所へ出た。




「おーい!俺だ!セイだ!」


 相変わらず何もない村だが、俺の爪痕はしっかりと残っていた。

 掘立て小屋が並ぶ村に異物が見られたのだ。

 それは俺が残した露天風呂と、それを囲む脱衣所の建物。

 そして、Tシャツを着ているエルフ達。中には髑髏マークが入ったイカつい柄物を着ている者も。


「セイっ!」「精霊様!」「セイ殿」


 俺の名を呼ぶのは見た目20代、中身10歳のアニータだ。そしてエルフのみんなは精霊様と。

 もう一人、俺の名を呼ぶのは里長だ。


「本当に精霊なんだ…ビックリだよ…」


 俺も未だにビックリだよ。


「後、Tシャツはないよね。もう少しバランスを考えなきゃ」

「その話は後でな?今は話し合いを頼む」


 改めて見ると、渡す服を選べば良かったと俺も思ったよっ!

 流石に異世界ファンタジーを壊しすぎてしまったな。




 聖奈とミランを紹介して、エルフの村にお邪魔させてもらうことが出来た。


 ここで一つわかったことが。

 聖奈もミランもルナ様から力を与えてもらっているが、俺とは違い精霊には見えないようだ。


 俺と二人の違いはなんなのだろうか?


 そんな考え事をしていると、聖奈の査定は終わったのか、いきなり本題をぶっこんでいた。


「移住…ですか」


 濁さず伝えると、里長の反応は悪かった。

 当たり前だ。

 別にこの村自体が危機的状況にあるわけでもないのに、いきなり引っ越しをOKするはずがない。


「セイくんの頼みでも難しいですか?」

「セイ殿…はい。我らは自然に生きることを何よりも大切にしています。もちろん精霊様にはかえられませんが、セイ殿は精霊様ではなくヒトですので」

「では、もう一つ情報を補足させて下さい」


 里長の言っていることが、エルフにとっての全てだ。

 精霊を崇め、自然と共に生きる。

 俺が齎した物を使ってはいるが、そこから創意工夫をしたりはしていない。


 あくまでも大切に使っているだけ。


 それをひっくり返すことが……


「我々は神の使いです」


 そう来たか。


「セイくんが光輝いて見えるのも、我々の神が彼に力を与えているからです」

「そうでしたか。聞いたことがあります。超常の力を操る者がいる。その者は神の使徒を名乗ったと」


 流石エルフさん。長生きなだけはあってしっかりと伝承が残ってるね!


「はい。その通りです。力の一端は?」

「以前拝見しました」

「では、我々が使徒であることはわかって頂けましたね」


 ここはエルフの村にある広場。

 そこで車座になり、みんなで二人の話を聞いている。

 聖奈の最後の言葉は周りのエルフへの確認だ。


「それは分かりましたが、やはり我々は…」


 俺達の神であって、エルフの神じゃないもんな。当然の反応だ。


「この世界は、近々滅ぶ可能性が高いです」

「…え」


 普段反応の薄いエルフ達が騒つく。


「私達は別の大陸に移り住みますが、そこに巨大な大木があります。その木は山よりも高く、大岩よりも太いです」

「まさか…終焉の大木?」


 え?なにそれ?

 聖奈と目を合わすが、向こうも知らないようだ。当たり前か。


「終焉の大木?」

「え、ええ。ご存知なかったですかな?」

「はい。我々は神からその木を守る術を探すように頼まれているだけなのです」


 うん。それは嘘だね。


「終焉の大木は、その名の通りこの世の最期に現れる大木になりますな。

 我々の先祖にそれを目撃した者がおりましてな。

 今は精霊の元へと旅立った前里長から引き継いだ話によりますと、通常では考えられない大きさの大木は、この世の力を蓄えた物である。その力が解放された時、この世界は滅びる。我々の祖先はその滅びを運良く免れた生き残りであるとも」


 うん。こちらの情報とも一致するな。

 やはり過去にもあったんだな。ルナ様はその滅びを一度目撃していたんだ。

 だから俺に手を出すなと。


「このまま放っておくと、人か魔物か分かりませんが、いずれその木を壊してしまいます。

 我々人の寿命は短く、人の伝承はあやふやなものになりやすいのです。

 私達が守っても、それを約束できるのはほんの40年ほどです。

 ですので、人よりも寿命が長く、自然と共に生きている皆様のお力をお借りしたいのです。

 もちろん移住に関してご不便をかけることはありません。セイくんの力で一瞬で引っ越しも終えられますし、向こうでの住むところも用意します。

 この世界を守る助けとなっては頂けませんか?」


 あの大木が昔からあったとは考えづらい。

 大木が造られた原因は、恐らく大陸を滅ぼした超文明の兵器なんじゃないかなと考えている。


 エルフの先祖が大木を目撃した時も、この大陸にそれに近い戦争か兵器、もしくは魔法が使われて、終焉の大木が芽を出したのではないのだろうか?


 俺が持っている神代文字で書かれた魔導書。

 これが書かれた時代の滅びた理由が戦争や極大魔法によるものだとしたら、その後にこの大陸にもその大木が出現して、それをエルフの先祖が目撃して生き残った。


 そう考えると辻褄は合うな。

 時代は繰り返す…か。大陸は違えど。


 あれ?

 それだと…大木が壊れて爆発しても、こっちの大陸には影響ないのでは?

 だから大陸別に文明の差があったんじゃ……


 まあいいや。


「セーナ殿。少し、時間を下さらんか?皆と話したい」

「勿論です」


 自分達の生き死にも掛かれば話は別だろう。

 あの大木を知っていたのは驚いたが、話の進め方に変更はなかった。


 脅しというか、あの大木が爆発するとどこまで被害が出るのかについては見当もつかないからな。

 大陸が滅ぶ規模だから、別大陸にも少なくない影響はあるはずだし。


 もしかしたら氷河期がやってくるかも?レベルの。


 エルフの少しがわからないため、俺達は一度帰還することになった。



 これで返事がノーだと…仕方ないか。

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