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40話 魔王と配達員。

 





「暇だな…」


 いつもの昼過ぎ、誰もいないリビングにて独り言を呟いていた。


「聖奈は…あれから忙しそうで、会えるのは夜だけだし。ミランも……エリーはおやつの時間に会うが…」


 聖奈は俺が盗んできたデータを駆使して何やら画策しているようだし、ミランはその聖奈の指示の元、人材育成をしているらしい。

 エリーも似たようなものだ。

 ライルは偶に顔を見せるが、赤ん坊も一緒だから冒険には行けない。


 爺さん達も子供達(孤児)との関係が良好で、ゆっくり話す時間もない。


 酒飲み国王は、いよいよ娘の婚期が近いので、あまり会いたくない。


 ガゼル達は何やら地方権力者の粛清に向かっているらしく不在だし。


「何しようかな…」


 いよいよ暇に殺されそうだ。

 何か良い時間潰しがないか考えていると、ふとルナ様に言われたことを思い出した。


「そういえば、あれ以来会ってなかったな。行ってみるか」


 俺は慣れた詠唱を唱え、城から転移した。








「確か…この角を取り出せば…おっ」


 転移したのはダンジョンの26階層。

 現在24階層より深くへと踏み込んでいる冒険者はいない。

 ここならいつでも気軽に転移することが出来るのだ。

 魔物とは出会すけど。


 転移した後、魔法の鞄からディーテの角を取り出すと、景色は一変した。




「何の用?ルナは帰ったんでしょ?」


 移動した先にいた神は、少し寂しそうに聞いてきた。


「ルナ様は帰ったよ。用は大したコトじゃないんだ。魔王とディーテにケーキの差し入れに来たんだよ」

「そう。着いてきなさい」


 ぶっきら棒だが、表情は少し緩んでいる。

 ルナ様と同じで甘いモノが好きなようだ。


 俺がここへ来たのは随分前が最後だ。

 その時に魔王を紹介してもらっていた。ディーテ曰く、顔を見せておかないとルナ様が間違えて殺してしまうかもしれないとの話。


 まぁ、言い訳だな。

 使徒に会えば俺でもわかるのに、神が見逃すはずがない。


 ルナ様に対抗して自分の使徒を見せたかったのか、若しくは使徒を使徒(おれ)に会わせたかったのか。

 理由はわからないけどな。


「呼ぶわ」


 いつもの東屋につくと、ディーテはそう告げた。

 その言葉のすぐ後、空いている椅子の一つへと光が集まり出した。


「いつもの事だが、急だな」


 現れたのはディーテと同じく角が額から飛び出している大柄な鬼。

 肌は青黒く、身長は190くらいの筋肉質な体つきをしている女性だ。


「よう。久しぶりだな、ティア」

「セイか。久しいか?人族からすればそうなのかもな」


 自分の神様を放って俺と会話するくらいには、この二人の関係も俺とルナ様に近い感じだ。


「早くケーキとミルクティーを出してよ!」

「わかってるって」

「俺は酒が欲しい」


 ミルクティーは一応持って来ている。ディーテのお気に入りだって、ルナ様から聞いていたからな。


「ティア…お酒はやめておきなさい」

「いいじゃねーか?ダンジョンは放っておいても問題ないさ」

「貴女…メチャクチャ酒癖悪いじゃない…弱いし…」


 ティアは体格に似合わず酒に弱い。

 前回初めて会った時に酒をせがまれて出したが、缶酎ハイ半分で前後不覚になっていた。


 どうも、ティアの種族である魔族(魔界の人族みたいなもので、ソニーの魔族とは無関係だ)内だと酒が飲めて一人前の扱いなので、弱いのに飲みたがるんだ。


 ティアがディーテに拾われてここで魔王をしているのも、そんな酒の弱さが起因しているらしいが、興味がないので詳しくは聞いていない。


「頼むから暴れるなよ?」

「わーってるよ!セイ、早く出してくれ」

「ホントかよ…」


 この女傑は本当に酒癖が悪い。

 普段から強さには拘りをみせているが、凶暴ではない。酒を飲むまでは……


「以前渡した分は?」

「気付いたら無くなっていたな」


 ……すぐに酔うくせにあの量を飲み干すとは……


「とりあえずこれを飲んでろ」

「うむ。頂く」


 ちなみに肉弾戦では勝てる気がしない。

 銃火器ももちろん効かないし、魔法を使ったところで勝てるとも思えないが、逃げることは出来る。


 ティアは出された酒を一息で飲み干した。









「やっと大人しくなったな……」


 東屋は吹き飛び地面は陥没しているが、俺は一命を取り留めていた。

 まぁ、無傷なんだけど。


「少ない▼■★を使って作ってるのに…」

「自分の使徒のしたことなんだから許してやれよ?」

「アンタのせいじゃないっ!!」


 俺のせいかよ…まぁそうか。


 この世界(空間)はディーテが過ごしやすいように自らの力を使って創り上げたものらしい。

 この東屋も地面も、神の不思議パワーですぐに元通りだ。


 ちなみに壊したのはもちろん酔っ払ったティアだ。

 酔うと戦いたがるティアは、逃げる俺を追いかけ回した。

 東屋はすぐに吹き飛ばされ、地面は芝生を吹き飛ばされて大きな穴を空けられていた。


「酒は俺が持って来たけど、ダメならちゃんと止めろよ」

「う…そんな可哀想なこと、出来るわけないでしょ!?」

「お前もかよ……」


 なんか言った?

 とディーテは泥酔中のティアを膝枕しながら聞いてきた。


 神様ってこんな奴らばかりなのか?

 人付き合いが苦手ってレベルじゃないぞ。

 嫌われるのを怖がりすぎて、コミュニケーション方法が崩壊している……


「なんでもない……こうなってしまっては世間話どころじゃないから、帰るよ。また時々ケーキを差し入れにくる」

「そ。簡単に死ぬんじゃないわよ。アイツが寂しがるから」

「そうならないように気をつける。じゃあな」


 アイツとはルナ様のことだろう。

 ぼっちの神様同士、仲良くなれたみたいだな。

 お互いにマウントを取りがちだが……









「それでケーキが減っていたんだね」


 夜になり地球から聖奈が戻ってきたところで報告会が開かれていた。


「ああ。危うく死にかけたよ…」

「私達も会ってみたいけど、それを聞いたらね?」

「普段は割と常識的な奴なんだがな…」


 ティアは元からの強者だ。

 そこに使徒として神から与えられた能力が加算されたわけだ。

 使徒になる前はただの呑んだくれだった俺が敵うはずもない。


「そうなんだね。あっ。そうそう、セイくんに頼みがあるんだ」

「ん?なんだ?」

「物資と人員を別大陸へ派遣して欲しいの」


 俺達の目標は、地球に安全な拠点を確保することと、別大陸に楽園を築くことだ。

 それを考えると、この頼み事は何ら不思議ではないのだが、気になる点が一つ。


「予定より早いな?」

「予定は本格的な進出だよね?その為の準備だから遅いくらいだよ」

「そうなのか。わかった。指示通りに運ぶよ」


 俺はイエスマンだ。別に意見があって聞いたわけじゃない。


 というか、これは先遣隊というやつなのでは?









「Bランク十人にCランク二十人か。よく集めたな」


 翌日、聖奈の指示した場所へ向かうと、そこには五十人の人がいた。

 物資も用意されていて、後は運ぶだけとなっている。流石の準備です。


「彼等は元冒険者です。今は立派なバーランド王国の臣民ですね」

「つまり、聖奈に騙された被害者達ってわけだな」

「……黙秘します」


 説明してくれたミランは肝心なところを濁した。

 これもいつものことだ。


 彼等は高い給金と、国に仕えるというステータスに騙されて、予想以上に危険な任務へと就かせられた犠牲者達だ。


 大人が大人の判断で決めたことだから可哀想だとは思わないが。


「他は記録員といったところか?」

「そうですね。地形や植生、魔物の分布など、記録しなくてはならないコトが山程ありますから」

「その護衛と開拓が主な任務か」


 元冒険者達は所謂ボディガードってわけだな。


「開拓は違います。エリーさんの造る重機やセイさんの魔法よりも遥かに効率が落ちるので。彼等の役目は護衛と拠点作りです。

 開拓との違いは、場所がアバウトで良い点にあります。

 海の近くに安全なポイントが確保出来れば、一先ず彼等の仕事は終わりです」

「そうか。兎に角俺は彼等と物資を運ぶだけで良いんだな?」

「はい。セイさんにしか出来ないので、よろしくお願いしますね」


 そう。別大陸への輸送は、俺にしか出来ない大切で重要な仕事なんだ!



 俺は張り切って『早まった…』という顔をした彼等と物資を運ぶのだった。

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