表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

311/356

39話 怪盗ヒジリ、ここにあり!

 





「これで安全になったんだよな?」


 あれから一月後。

 バーランド城のいつものリビングにて、食後の報告会が開かれていた。

 俺はこれまでに地球で行ってきたモノの成果を確認する為に、聖奈へ答えを求めた。


「大っぴらにはね。大国は手を出さないけど、小さな国は一発逆転を狙ってくるかもね!」

「後進国には何もしてないぞ?」

「いいの。知らなければ私達を狙うこともないからね!一発逆転は、後進国が知った後の話だよ」


 なるほど。大国には隠し通せないからバラしたが、後進国や小さな国に手を打たなかった理由がちゃんとあったんだな。


 てっきり数が多いからやらないとばかり……


「でも、良かったのですか?魔力という大きな情報を渡してしまっても」

「魔力は隠しきれないよ。現時点でネットにも核心に近い情報が出回っているからね。それなら証拠付きで教えた方が『こっちはアンタ達よりも先を行っているんだぜ?』ってなるでしょ?」


 まさかとは思うが、それは俺の真似か?

 アンタが書いたセリフだぞ!!


「精神的優位性ですか。理解しました」


 待って。そんな難しい言葉を並べないで。

 今は食後の家族団欒の時間なんだよ?


「今日もケーキがおいしいですっ!」


 そうそう。これでいいんだ。

 俺の分も食うか?


 ちなみにエリーと結婚する予定はない。

 俺にとっては既に家族みたいなものだし、エリーも俺の事を彼氏や夫ではなく、甘えられる家族という認識みたいだからな。


 ただ、これ以上行き遅れて肩身が狭くなれば、結婚という形を取るかもしれないが。

 もしそうなっても今の関係は変わらないだろう。

 それこそ政略結婚のように。


 エリーは自分の興味ある研究が出来て、美味しいご飯とデザートが食べれる今の環境で満足なようだ。

 第三夫人とか何とか言っていたのは、今の環境を目指していたからだとも聞いたことがある。


 女性陣の中では本来の意味で一番苦労していたし、現実主義なのかもしれないな。


 ポンコツだけど……











「タイムリミットのようね」


 更に数ヶ月後。

 地球と異世界で忙しない時を過ごしていると、あっという間に時間は過ぎていった。

 地球では既に工事が進み、異世界では魔王とも知り合いになれた。

 そんな激動の現在(いま)を過ごしていると、満月の夜にルナ様が唐突に告げた。


「もう、か?」

「もう、よ」


 見た目上の変化は見られない。魔力視にも。


「楽しかったわ」

「…そう言ってもらえたなら、使徒冥利に尽きるよ」

「る、ルナ、様…」「……っ……」


 聖奈は何とか声を振り絞り、ミランは声にすらならなかった。


「二人とも。これは別れではないわ。姿形は見えなくとも、私はずっと二人のことを見ているわ」

「はぃ…」「は、はっい」


 ルナ様の依代に寿命が来てしまったのだ。

 神の力に耐えられる器を簡単に用意することは出来ない。


 聖奈はルナ様が長く依代を保つ方法はないかと、試行錯誤をしていた。

 アメリカに魔力の存在を教えたのもその一環ではある。


「何だか言いづらいけれど……これだけの信仰心があれば、数年もすればまた顕現することが出来るわ。その時に私がどうするかは分からないけれど」

「わ、わかりました!更に信仰心を集められるように『その必要はないわ』…っ!!」

「貴方達には自由に生きてほしいの。私に縛られないで」


 凄いお姉さんモードだな。

 これもルナ様の本来の姿の一つなのだろう。

 聖奈達のことは個人的に気に入っているが、他の人達に対しても時々このような反応を見せてきた。


『聖奈。殺さなくていいわ』

『ですが…この者は……』


 ある罪人がいた。

 その罪人の罪とは、ルナ教を否定したというもの。

 バーランドの法律に当て嵌めると、ルナ教に入る入らないは自由だが、それを陥れる行為は重罪となる。


 罪人の男は街中でルナ様を否定する言葉を吹聴していた。そこを衛兵に捕えられたのだ。


『彼はルナ教の信者に子供を殺されたの。怒りの矛先が私に向くのは人として当然の反応よ』

『ですが…ルナ様に非は……』

『私に無くとも私の信者にあれば、それは私の罪。聖奈が背負う必要はないの』


 子供が殺された親。

 聖奈の本心は罪人を助けたいと言っている。

 自身の信徒ではなくとも短命な人の子。その短命な人生を拾おうとルナ様は聖奈へと珍しく口を出した。


 出来れば両方救いたい。


 その想いは言葉にしなくとも十分伝わってきた。




「聖。間違ってもいいわ。楽しみなさい」

「間違ってばかりだからな、そうするよ。またな」

「ええ。偶にはディーテを構ってあげなさい」


 この神は……


「じゃあ、またね」


 ルナ様は微笑みを携えたまま、静かに消えていった。












 ルナ様の依代が消えてから一月程が経った。

 あれから初めての満月を迎えるのだが、聖奈とミランの表情は浮かばない。


「二人が考えているようなことにはなっていないはずだ」

「でも……私達のせいでルナ様が無理を…」「私が信心深くないばかりにご迷惑を……」


 二人が信心深くなければ誰を信者と呼べるんだ?


「大丈夫だ。ルナ様は変わらず月と共に在る。それよりも、そんな顔ばかりしていたら呆れられるぞ?」

「うぅ…」「そ、う、ですね」

「ほら。呼びかけるぞ」


 俺は満月に向けて語りかける。


「ルナ様。見ての通りだ。この二人を元気づける為にも、一言もらえないかな?」


『二人とも、しっかりしなさい』

「「は、はいっ!!」」

『ふふっ。冗談よ。少し■▼★を溜めないといけないから、長くは話せないわ。二人は私の事は気にせず、聖と共に人生を楽しみなさい。いいわね?』


「はいっ!」「わかりましたっ!」


『ふふっ』


 二人の元気な返事が聞けて満足したのか、止まっていた時間が動き出した。


「言った通りだっただろ?ルナ様に心配をかけないように、これからは以前のように笑って過ごしてほしい」

「うん。ごめんね」

「はい。またゲームしてくれますか?」


 聖奈は苦笑いを、ミランは最近一緒に遊ばなくなっていたのでその話を。


「勿論だ。聖奈も自分がしたいようにしてくれ」

「うん!いきなりだけど…頼んでもいいかな?」

「早速か。もちろん構わないぞ」


 最近は一人で考え事をしている姿ばかり見てきた。

 恐らくルナ様の事を考えていたのだろうが、今は吹っ切れた表情をしている。


 妻が喜ぶのであれば、愛妻家としては一肌脱がなくてはな!


「ありがとう!これから指定する物を盗んできてほしいんだ!よろしくねっ!」

「おうっ!…は?」


 えっ?いきなり泥棒ですか?


「先ずは・・・・」


 聖奈から指定されたモノはかなり特殊だった。

 確かに俺なら盗めそうだが……


「ル◯ンちゃうんやで……」

「ん?何か言った?」

「いえ…何も……」


 WSを興したときは力を秘匿していた。

 しかし、大国へ正面切って喧嘩を売ったことにより、その足枷が失くなったのだろう。


 ルナ様が楽しめなんていうから……


 元気を取り戻した聖奈は、これからの物事を急速に進めていくのであった。











「どうだ?中身は無事か?」


 あれから数日後。

 無事に(?)盗みは成功して、盗んできた物が壊れていないか聖奈が確認しているところだ。


「うん!大丈夫だよ」


 パソコンに向かったまま聖奈が答えた。


「この方法だと後でゆっくり解析出来て便利だね!」

「まぁ…その場で俺にデータを抜く技術はないからな」


 俺が盗んだのはパソコンそのもの。

 起動くらいは出来るが、その後がわからんからな。そのまま盗んできた。


 方法は簡単だ。


 聖奈に指定されたポイントへ移動すると、建物へと侵入する。

 扉はミスリル擬の剣で破壊し、置いてあるパソコンを纏めると、転移で持って帰ってきただけだ。


 なので、物的被害は出しても人的被害はほぼ出していない。


『続いてのニュースです。先日から頻発している盗難事件が昨夜も起こりました。場所はNASA。犯人は以前不明です。軍事施設に続き・・・』


 被害は出していないが、事件は大々的に放送されていた。



 俺は恥ずかしさから、静かにテレビを切るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ