36話 実家で最期の集い。
「セイくんがしてきた事が凄すぎて、私がしてた事が霞んじゃうね…」
聖奈が地球で過ごし始めて暫くの時が経った。そこで漸く時間が空きこちらでゆっくり出来るようになったので、夕食を共にした後の会話がこれだ。
ちなみにルナ様は聖奈の作った夕食を持ってディーテの所へと行っている。
神様同士の交流なんてものは只人である俺にはよくわからないので、争わないのであれば好きにしてくれたらいいと思うばかりだ。
「それは語弊があるぞ。したのは俺じゃなくてルナ様だ」
「使徒なんだから同じだよ」
えっ…待って…使徒ってやっぱり神様の尻拭い係なの?
「セイくんは遂に別の神様にも気に入られちゃったかぁ。ホント、凄いよね」
ルナ様が気に入っているのは聖奈とミランであって、俺は偶々相性(?)か境遇(?)が良かっただけだぞ?
「別に気に入られてはいないぞ?ディーテから見てルナ様と俺だと俺の方がマシだからアイテムを渡しただけだと思うし」
「女神様なんだよね?ふーん。呼び捨てかぁ。私にはあれだけ時間が掛かったのに」
「ち、違うんだ!そもそも人ではないし、ルナ様の手前、他の神を敬って扱うのも憚られるし……」
俺の女神は聖奈だけだ!ミランは天使だし!
「ふふっ。冗談だよ。でも、凄いと思ったのは本当だよ。信仰していない神様とはいえ、呼び捨てでタメ口がきけるなんてセイくんくらいだよ」
「はぁ…そうか。何故だろうな?俺の出逢う神や使徒は、何故か素直に敬えない奴らばかりなんだよ」
「話は変わりますが、セーナさん。地球はどうなりましたか?」
俺と聖奈が取り留めない話へと脱線していると、心のリーダーであるミランが話を進めてくれた。
「向こうでの説明も終えたし、後は私とミランちゃんがエリーちゃんから講義を受けたらいつでも始められるよ」
「そうですか。……。」
「大丈夫だよ。セイくんのご両親はとても理解ある人達だから、ミランちゃんならすぐに気に入られるよ」
ミランが口を閉ざした理由に思い至った聖奈がフォローする。
うん。嫁同士の関係は良好だな!
元からだが。
「悪いな。自分の親なのに任せっきりで」
「ううん。いいの。それに、ミランちゃんのことは伝えてないから、そこはセイくんの役目だよ」
「…えっ?…え?」
えっ?何故…?
「異世界のこととか、それに伴い危険が訪れる可能性が高いって話は伝えたんだよな?」
「?そうだよ。正確には異世界ではなく、秘密組織として伝えたけど」
やっぱりアベ◯ジャーズじゃん……いや、それよりも。
「ミランの事は丸っ切り伝えていないのか?」
「当たり前でしょ?そんなの私から伝えたら、物凄く情けないって思われるだけだよ?」
「まぁ…そうだが……」
地球感覚では不倫だからな。
嫁が推し進めたとはいえ。
だけど、両親は割と問題なく思える。
問題は……
「お姉ちゃんに殺されないでね?」
「…はぁ」
溜め息しか出ない。
嫁と小姑との関係が良過ぎるのも考えものだな。
「代わりと言ってはなんだけど、お義兄様の方は任せてね」
「頼むよ」
兄貴は小言が多いけど、東雲家で一番一般常識があるはずだ。
そんな兄貴は大きな力や流れには逆らわない。
聖奈お得意の圧力外交であれば、難なく説得出来るだろう。
出来なくても唯さん(義姉)と晶(甥)だけはこちらでどうにかすればいいし。
「一日あれば覚えられるみたいだから、明後日の夜に地球へ行こうね」
「わかった」「はい」
こうして、俺の親族を守る作戦が始まった。
「折角友達が出来たんだ、こっちに残ってもいいんだぞ?」
時は過ぎ、地球へと移動する夜がやって来た。
三人で行くつもりだったが、ルナ様も転移室へとやって来ていた。
気を遣っているとは考えられないが、過保護が発動している可能性は高い。
俺達としては、長くないルナ様の残された時間を楽しく過ごして欲しいと願っている。
「友達…?まぁそれはいいわ。私がこうして顕現出来ているのも聖奈達のお陰。何か力になれるかもしれないなら、ついていくわ」
「そうか。ありがとう」
ルナ様にはルナ様の考えがある。
俺達には好きなように力を使わせてくれていたが、もしかしたら知らない何かの尻拭いがあるのかもしれないしな。
「あのアニメの続きが気になっていたのよね」
「……そうか」
いいんだ。幸せなら。
リアルタイムのアニメは聖奈が録り溜めているから、暫く放置していてもいいしな。
「地球へ帰りたい」
一人で世界間転移する機会が減り、どこか懐かしい言葉を紡いで、地球へと転移した。
「あら?こちらのお嬢さんは…?」
翌朝、日曜日ということもあり朝から実家を訪ねていた。
勝手知ったる実家なので、挨拶もそこそこに居間へと上がり込んだ。
そこで初めてミランを見たお袋は、言語の壁かただただ怖いのか、恐る恐る問いかけてきた。
「初めてお目に掛かります。セ…聖さんの第二夫人になります。ミランと申します。以後お見知り置きを」
「へー。第二夫人かぁ…え?」「えっ?」
ありがとう親父。大変分かりやすいリアクションだったよ。
両親はミランの言葉を脳内で咀嚼すると、聖奈の顔色を窺う為にミランの顔と交互に何度も見ていた。
ミランは目を離せない程の美少女だから仕方ない。
聖奈は怒らせたら恐いタイプだから仕方ない……
「寝耳に水で驚いているだろうから説明させてくれ。実はな・・・・・」
聖奈の台本に則り、俺は両親へと嘘の説明をした。
その内容は・・・
1、6年前に聖奈と訪れた旅行先で、孤児であるミランを引き取った。
1、当時は聖奈とも付き合ってはおらず、ミランは命の恩人である俺に対して猛アプローチしてきた。
1、年齢差もあり流していた俺だったが、6年も想い続けた気持ちを無碍にしてはいけないと聖奈から諭される。
1、そこで、二人の障害は重婚だけとなったが、それも重婚が認められている国の国籍を取得することでクリアした。
1、ミランは遠い国で別の仕事を任せているから会えるタイミングは少なく、又妊娠も出来ないと伝えた。
ミランが今後妊娠したら一年以上は会えないので、その為の予防線も張っておいたわけだ。
異世界にいる孫に会わせられないなら、知らない方が祖父母にとっては幸せだからな。
生活も、価値観も違う世界での出来事だし。
「せ、聖奈さん。ど、どうか、捨てないでやって欲しい…頼めた義理ではないですが…」
親父と共にお袋が土下座する。
両親にこのような姿をさせてしまうのは本意ではないが、地球の価値観であれば当然なのだろう。
「御義父様、御義母様、顔をあげて下さい」
両親は聖奈の言葉に従い顔をあげると……
「聖奈さんっ!?」「聖奈ちゃん!?」
聖奈が土下座していた。ちなみにミランも。
「要らない心労を掛けてしまい、不徳の致すところです。どうかこの通り、私の我儘を聞いてやって下さい」
「せ、聖奈さん…」
「ミランちゃんのことは、私の我儘なのです。いえ、私達の。聖くんはそんな私達の我儘を受け入れてくれた立派な男性です」
生物学的にみれば、ハーレム男は立派だよな。
倫理的に見るとダメ男だけど……
「私は聖くんのことも愛していますが、ミランちゃんのことも家族として愛しています。彼女も同じ気持ちです。私達は聖くんを中心として、掛け替えのない絆を育んでいます。
ご理解しづらいことと存じますが、どうか許して頂けませんか?」
「不束者ですが、聖さんを支える一員に加えて下さい。お願いします」
「聖奈…さん」「お父さん?」
凄い……大根役者だけど土下座なら顔が見えないから、セリフさえしっかりしていれば名役者になれるんだなぁ。
あまりにも現実離れした状況を見て、場違いな感想しか浮かんでこなかったのだった。
「本当に宜しいのですか?」
話し合いの後、両親に対して聖奈が最後の確認をしている。
これはミランの話ではない。
ミランの事は当人がそれで良いなら親として言うことはないと、割と呆気なく認められた。
恐らくミランが俺を第一に行動しているのが、所作の端々から汲み取れたからだと思う。
お茶一つとっても、俺が火傷しないか手で茶器の温度を確認してから渡してくるくらいだもんな。
俺が気付くくらいだ。他にも数々のそのようなことが見受けられたのだろう。
そして、そんなミランを聖奈は慈愛の視線で見つめていた。両親はそれを見て『これなら』と安心したのかもしれない。
それは嘘だぞ?
聖奈の視線は慈愛ではなく、趣味だ!!間違えんなよっ!
「ああ。聖が…というより、会社が有名になってからは、ここでは少し住みづらさを感じていたんだよ。
聖奈さんが教えてくれたように、確かに危険なことも増えるかもしれないしね」
「お母さんか弱いから誘拐されちゃうわ」
「では、出来るだけ不便がないように調整しますね」
お袋はか弱くない。
東雲家では一番コミュ力も高く、どこでも生きていけるだろう。
むしろ心配なのは親父の方だ。
長年勤めてきた会社を辞めなくてはならない。
人脈も交友関係も手放すことになれば、気が抜けてポックリ逝ってしまわないか心配ではある。
このままにするほうが心配だから、行動は止めないけど。
「本当に家政婦は必要ありませんか?もし、遠慮しているのであれば、気にしないで下さい。
私達は世界でみてもトップクラスの富豪ですから」
「ふふふっ。聖奈ちゃん。私がこの人の面倒をみたいの。分かるでしょう?」
「…わかります。では、決めた通りに進めさせてもらいます」
親父達の引っ越しが決まった。
「母さん!これからは孫に囲まれて暮らせるな!」
「そうですよ!今から楽しみね!お父さん!」
ネックは実の姉だけだ……




