35話 第三の世界。
「魔石はもう充分だって」
あれから数日。
ダンジョンに潜り続けた結果、城の倉庫は魔石で埋まった。
どれもその辺の魔物からは採取出来ないレベルの立派な魔石ばかりだ。
聖奈はエリーから必要量に達したと聞いたみたいで、態々倉庫で俺達の帰りを待っていてくれていた。
「じゃあ、今夜からは…」
「うん。私は地球に行ってくるよ」
「寂しいわね」
ルナ様は聖奈大好き神だからな。後、ミランも。
「ご安心ください。夕食は月が出たタイミングでこちらへ持ってこさせて頂きますので」
「そ、そう?それは安心ね?」
うん。違う。違うけど、俺は何も言わない。
何度説明しても、聖奈から理解が得られなかったからだ。
『神様がそんなに単純なわけないでしょ?』『ルナ様は誰にでもお優しいのです』
二人からは決まってこのセリフが返ってくる。
ルナ様からは・・・『何とかしなさい』ばかりで、案などは微塵もない。
「俺に出来ることがあればいつでも言ってくれよ?」
「うん!頼りにしてるよ!」
ルナ様からの針を刺す視線を浴びながら、俺は最愛の妻とのイチャイチャを堪能した。
使徒に嫉妬するって……
聖奈が地球へと旅立った翌日。
ミランが用意してくれた朝食を摘みながら神と談笑なう。
「で?ルナ様は今日から何をするんだ?」
知りたくはないが、聞いておかないと後悔しそうだからな。
「今日はお茶会に行ってくるわ」
「茶会…?そんな催しがあるのか」
バーランドは貴族制だが、俺達をパーティに誘ってくる猛者なんてこの国にはいない。
貴族同士でパーティやお茶会を開いていることは把握しているが、誘われたことも俺達主催で行ったことも記憶にないので、ルナ様の言葉は寝耳に水だったのだ。
「ないわ。だから魔神にさせるのよ」
「……どういうことだ?」
聞きたくない。行きたくない。分かりたくない。
「神々の交流会があってもいいんじゃないかしら?」
「それは…否定しない」
出来ない。
「魔石集めは終わったようだから、それの報告ついでにお茶を出させるのよ」
「頼むから刺激しないでくれよ?」
「問題ないわ。争いになっても、現在勝つのは私よ」
違う、そうじゃない。
争いになるのが拙いんだ。
「じゃあ気をつけてな」
「何を言ってるのよ?貴方も行くに決まってるじゃない!」
「な、何で?神々の集いだろ?高々使徒でしかない俺は必要ないんじゃ……」
くそっ!お断りしたいっ!
「従者もいない寂しい神だって思われたら嫌じゃないっ!」
「見栄かよ……」
見栄のために俺は胃を痛めなきゃならんのか……
「何しにきたのっ!!?」
驚愕と怒りが混ざり合った悲鳴が響き渡る。
ダンジョンへと転移した俺達は、神に会う為の行動を起こした。
方法は単純なものだ。
ルナ様がこのダンジョンを破壊できる程の魔力を集めたのだ。
もちろんその魔力はすぐに霧散した。
目的は魔神に会うことだからな。
前回と同じくよくわからない空間に呼び出された俺達は、開口一番に悲痛な叫びを浴びせられたところだ。
「もう用は済んだから、その挨拶に来ただけよ」
「そう!じゃあ帰って!さよならっ!」
可哀想に……
俺の次に可哀想な人だ。人じゃなく神だけど。
「態々しなくてもいい報告に来てあげたのだから、お茶の一杯でも出したらどうなのよ?」
「そんなものあるわけないでしょっ!?」
ないよな。
だって神様には必要ないし、そもそも用意出来ないだろうし。
「はぁ…情けないわね。客人にお茶の一杯も出せないなんて」
「くぅぅっ!!じゃあ、アンタは出せるって言うの!?」
「出せるわよ。聖」
召使い聖くんの出番が来たか……
「ディーテは紅茶とコーヒーのどちらが良いんだ?ルナ様はミルクティーで良いよな?」
「ええ。ケーキも付けなさい」
「よ、呼び捨て……」
ルナ様はこの神がお茶を出せないことはわかっていた。
それもそうだろう。
自身が食べたいと幾度も夢想していた地球の食べ物だったんだ。
神が万能ではないことを、神であるルナ様はよく知っているのだ。
「私の使徒のモノだけど、特別に貴女にも与えてあげるわ」
対等なはずなのに上から……
友達作り下手すぎんか?
「こ、これがケーキ……」
東屋に備えられているテーブルの上には、可愛らしいお茶会セットが用意されている。
ケーキは小さめのクーラーボックスに冷やしておいたモノで、飲み物は保温効果の高い水筒に入れてきた。
これの用意と準備をしたのは全て俺だ。
ティーカップが置いてある場所なんて分からないから、ミランに聞いて教えてもらった。
『セイさん…禁酒ですか?』
なんて、病気を疑った顔で言われてしまったな……
ルナ様の為だと伝えると、無駄に張り切らせてしまうから何も伝えなかったが。
「俺の奥さんの手作りだから、美味いはずだ」
「聖奈のケーキは絶品よ。有り難く頂きなさい」
「誰よ、セーナって…まぁ、そこまで言うなら食べないこともないけど……」
神様って、変な方向にプライドが高いのか?
この二人だけなのか?
まぁどちらでもいいか。
この空間はディーテの領域らしく、ダンジョンとは別モノのようだ。
だから、肉体を持って存在することが出来るようだ。
自身が創り上げたダンジョンという自身の使徒が管理する場所だからこそ、この空間と繋ぎ合わせることが今の神力でも可能だと、ルナ様からのレクチャーがあったからこそわかったことだけれど。
「おいしい…」
呟かれたのはたった一言。
それだけで、この神様が如何に孤独で何も刺激のない時間を過ごしてきたのか、鮮明に伝わってきた。
「そうか。良かったら俺の分も食べるか?」
ケーキは基本的にエリーとミランの為に聖奈が作り置きしてくれているものだ。
勿論ルナ様の為でもある。
つまり、俺が食べなくても美味しく食べてくれるのであれば、他の人が食べても文句はないだろう。
聖奈にも、ケーキにも。
「い、いいの…?貴重なものじゃ…?」
「ふんっ。私の使徒よ?確かにこのケーキは唯一無二の美味しさよ。でも、私の使徒に掛かればいくらでも用意出来るわ」
「いや、いくらでもは無理だ。聖奈が過労で倒れてしまう」
ケーキ作りで倒れられたら困る。
国づくりでも倒れなかったのに。
それに、私のを強調しすぎだろ。
そんなに言わなくても、ルナ様の使徒を辞めたりはしないぞ?
「地球のケーキがあるじゃない」
「ああ。それならいくらでも用意出来るな」
何せケーキ屋なんて五万とあるからな。
「私が知ってるケーキとは違う…」
「ディーテが知っているのは、この世界のケーキだけだろ?それは別の世界のケーキだからな」
「また呼び捨て…」
良いだろ。俺の神じゃないんだから。
「別の世界って…貴方はソニーの人じゃないの?」
「ああ。ルナ様がいるもう一つの世界の出身だな」
「そうなのね。私の使徒である魔王も別の世界の出身よ」
え?まさか地球人?
というか、魔王設定は聖奈だったんじゃ?
それは俺だけが言っている設定か……
「へー。ちなみにどんな世界だ?」
「図々しい生き物ね…でも、ケーキに免じて教えてあげる。魔界と呼ばれている、この世界と対をなす世界のことよ」
下等な生き物から図々しい生き物にランクアップしたぜっ!
つーか。魔界か……
絶対行きたくないな。
「そうなのか。この世界は色んな世界と繋がっているんだな」
「それは違うわ」
俺の感想をルナ様が否定する。
「繋がっているのは地球とソニーだけよ。対をなすとは意味が違うわ」
「そうなのか。俺には理解出来そうにないな」
「そうね。分かりやすく世界は一つではない、と覚えておけば良いわ」
そうだな。もしかしたらあの世とかもあるかもしれないし、魔界とは地獄のことかもしれないしな。
ケーキも食べ終えて、ある程度情報を貰ったところでお茶会はお開きとなった。
「これを持っていって」
「これは?」
ディーテに渡されたのは角笛みたいな硬質で手のひらサイズの物体だ。
「私の抜け落ちた角よ」
バシッ
その発言後、ルナ様が凄い速さで俺の手から角をはたき落とした。
いててててっ……手が取れちゃう……
「私の使徒になんてもの渡すのよっ!」
「何するのよっ!」
「待て待て!争うな!」
俺の為に争わないでっ!!
違うか……
しかし、この二人が争うと世界がヤバい。
俺は落ちた角を拾うと、ディーテへと問いかける。
「これは何の為に?」
理由があるはずだ。
まさかケーキ代とか、求婚の証とかじゃないだろ?
「私へ連絡する為のモノよ。使い方は簡単。ダンジョンへ来たら、その魔導具の入れ物からそれを出せば、私を呼ぶ。その時に私に時間があればここへ連れて来てあげる」
「暇なくせに……」
ルナ様は自分の使徒に唾を付けられる形となりご機嫌斜めだ。
「なぜこれを?」
ケーキのお礼としては破格過ぎる。理由が気になるところだが、高くつきそうなら返却する所存です!
「ダンジョンへ来るたびにあんな風に呼び出されたら、私の使徒が過労死しちゃうからよっ!!」
「す、すまん…」「ふんっ…」
いや、そこはちゃんと謝れよ。
ルナ様は対等な友達が欲しくてここへ来たんだろ?
一応使徒だから何となくわかるんだよ。
ぼっち(重症)の神様を連れて、その日は寄り道せずに城へと直帰した。
この神様に友達は出来るのだろうか?
最近までぼっちだった俺が何故こんな心配を……
その日も悪酔いしたのだった。




