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33話 ビールの苦味。なのか?

 





「へー。そんなのがあったんだね」


 散歩が終わり家に帰ると、リビングにはミランが一人きりで佇んでいた。

 どうも聖奈とエリーはこの時間(いつもの夕食時)でもまだまだ手が離せないみたいで、月が出るのを待って、俺は地球へと食料の買い出しに向かっていた。


 買い出しを終えて戻ってくると、丁度聖奈達が顔を出したところで遅めの夕食となったのだ。


「ああ。古代遺跡ってヤツなのだろう。ダンジョンの20階層の神殿のような建物が、潮風に晒されながらもまだ完全に風化してはいなかったぞ」

「時間が出来たら連れて行ってね!」

「勿論だ」


 次は転移魔法で一瞬だからな。いつでもどうぞ。

 エリーは興味ないようで、普段聖奈が作らない中華料理に夢中だ。

 ミランはチラチラ見てくるが、もちろん連れて行くつもりだ。


 といっても……


「本当にただの遺跡なんだけどな」

「もしかしたら、地下に秘密の通路があるかもねっ!」

「あまり期待するなよ?見た感じは何もなさそうだったからな」


 ファフニールの背に揺られ辿り着いた南端には遺跡と海があった。

 海は予定通りだったが、遺跡は予想外だったな。


 一応降りてみたが、人っ子一人いなかった。


「そっちはどうだ?なんとかなりそうか?」

「うん!馬鹿みたいに魔石が必要だけど、それ以外は割とどうにでもなるみたいだよ!」

「そ、そうか」


 馬鹿みたいって、どんな量なのだろうか?

 まさか財政破綻しないよな?


「エリーさんに以前お聞きしたところ、魔導具とは効率を無視すればある程度自由に作れるそうです。もちろん基礎が出来ていればの話ですが」

「つまり、馬鹿みたいに効率が悪い物であれば、目処は立つと?」

「そういうこと。私が頼んだ物に必要な魔石の数は莫大だから、溜め込んだお金を使うことになるね」


 それは好きにしてくれたらいい。

 安全は何物にも変えられないからな。


 聖奈が何を頼んだのか知らないが、話し合いはそこで終わった。

 魔導具の話なのに、専門家はずっとエビチリに夢中だったな……










「という訳で、お前は俺達の糧になってもらう」


 翌日。いつも通りする事が見当たらない俺は、みんなの役に立つ為にとある所へと訪れていた。

 そして、目の前の存在へと最後通牒を告げた。


「『アイスバーン』」


 指向性を持たせた魔法は、従来のモノよりも範囲は狭くとも威力は高くなって、この世界へと働いた。


 キィィィンッ


 甲高い音を鳴らし凍り付いたのは20階層のゴーレムの魔物。


「シッ」


 キンキンッ


 凍り付いたのを確認するや否や、俺は魔物へと飛び掛かり、剣を二閃した。









「これ。少ないけど」


 夕方になり城へと戻った俺は、聖奈へと魔法の鞄(マジックバッグ)を手渡した。

 執務室で机に向かって作業していた手を止めて、聖奈は鞄を受け取る。


「何かな?もしかして、金策してきてくれたの?」

「少し違うな」


 俺の言葉に怪訝な表情を見せつつも、聖奈は鞄に手を入れた。


「あっ。この魔石…」

「そうだ。俺が知っている中で、エリーが使いやすい魔石を調達してきたんだ」

「ありがとう!これなら売っても高いし、使えると思うし、流石セイくんだねっ!」


 よかった。

 隠れて何かすると、いつも余計なお世話になる事が多かったからな。


 今回はどうやら正解だったようだ。


「明日も行ってこようと思うんだが…」

「ん?セイくんはしたいようにしてくれたら良いよ。この魔石は有難いけどね!」

「そうか。こんなモノで嫁が喜ぶならいくらでも取ってくるよ」


 数を揃えるだけなら12階層とかの方が効率はいいが、質も求めているのなら妥協は出来んからな。


 聖奈やミランには時々贈り物をしているが、宝石を贈った時よりも嬉しそうだった。

 やはり聖奈は自分のことよりも別の何かが大切なんだな。


 ミランは…食べ物が今でも一番嬉しそうだった。








「私も行くわ」


 翌朝。朝食の席で普段は喋らないルナ様が喋ったと思えば、まさかの仕事に着いてくる発言だった。


「構わないが…来ても暇だぞ?」

「それを判断するのは私よ。それにこの国は一通り見て回れたから」

「そうか。流石ルナ様」


 たったの数日で国を見て回るとは……あれ?俺も出来そうだな……


 まぁそれは転移ポイントが国中にあるからだけれど。


「ルナ様。ありがとうございます」「セイさんをよろしくお願いします」

「いいのよ。勝手にすることだから」


 ……なるほど。

 この二人に喜んで貰いたいから、着いてくるって判断になったのか。

 情けない神様だな……










「雑魚ね」


 この世のモノとは思えない美女の足元には、魔物だった残骸が散らばっている。


「そりゃそうだろ。アンタ神様なんだぜ?」

「それにしても脆すぎるわ。神の試練っていうくらいだから、もう少し手応えを期待したのよ」

「………」


 ルナ様は手を翳しただけだった。

 次の瞬間にはゴーレムは細切れになり、その場に崩れ去った。


「それで?魔石まで粉々に砕いた言い訳は済んだか?」

「ちょっ……聖奈達に言ったら殺すわよ」

「脅しかよ……子供かっ!」


 本当に神なのか?

 俺の神はポンコツなのか?

 俺の神だからか……


「とりあえず次を待とう。30分くらいで復活するから」

「何を言っているのよ。次にいくわよ」

「えっ?ちょっ!待てってっ!!」


 ルナ様はゴーレムが護っていた扉の先へと消えていった。








「おいっ!ここからは罠があるんだぞ!」


 歩いていたルナ様に追いつくと、早速注意した。

 何故神のお守りをしなくちゃならないのだ……


「問題ないわ。有っても私をどうこうすることは不可能よ」

「いや。俺の方に問題が大有りなんだが?」

「だから私が先を歩いているんじゃない。馬鹿なの?」


 おい。おい……


「魔石が必要なのは知っているわ。深い階層の方が効率も良いの。わかったかしら?」

「そんなことは知っている。俺が死んだらどうすんねんっ!!」


 俺は無敵じゃないんだ!依代でもないから、死んだらそれまで!

 わかったか!このポンコツ神!!


「貴方は死なないわ。私が守るもの」

「…その台詞はやめてくれ。着いて行くから…」

「そう?遅れるんじゃないわよ」


 はい……

 綾波さん。ごめんなさい。

 俺は某エヴァンのゲリオンさんに向け、心の中で土下座をかまし、ルナ様の後をついて行った。


 実は少し嬉しかったりもする。

 20階層より深くは、一人では潜らせてもらえなかったからな!










「ここから先は初めて訪れるな…」


 ルナ様の後をついて行くと、あれよあれよと言う間に23階層までたどり着くことが出来た。

 出会った魔物はルナ様が悉く倒し、俺は落ちている魔石を拾っていただけだ。


 罠は解除せず、そのまま発動させ、そこを普通に通ってきた。


 毒ガスのようなモノや、物理に特化したモノ、爆発の魔法など、罠の種類は多岐に渡ったが、どれもルナ様に傷一つつけることは叶わなかった。


 少し…ほんの少しだけ、期待したのは秘密だ。


 そんな罠のないただ魔石が落ちているだけの普通の洞窟に変わったダンジョンを、迷うことなく最短ルートでここまで歩いて来た。


「どこも同じよ。さっさと行くわよ」

「あ、ああ。とりあえず今日は次の階層に着いたら一旦帰るぞ?」

「なんでよっ!」


 最短ルートで苦もなく来られたが、時刻は既に夕方だ。


「聖奈達に心配かけてもいいのか?」


 魔法の言葉は、神をも従わせた。











「こんなモノ、いくらでも調達出来るわ」


 夕食の席。

 満を持して今日の成果を披露するポンコツ神。

 聖奈からは過剰なまでの感謝を。

 ミランからは畏れ多いと受け取り拒否を。


 ダメだこりゃ……


 そして、困った時の都合の良い使徒である俺へ向けて、ルナ様は視線を送ってきた。


「ごほんっ。聖奈。ご近所さんからの頂き物くらいの感謝にしておけ。

 ミラン。ルナ様も散歩を楽しんでいた。道中摘んだ花くらいだと思って、受け取ってやれ」


「そうは言っても……」「神様からの贈り物は既に頂いて…私達ばかり…」


 ルナ様の世話はいいが、この三人の関係性を発展させることなんて俺には出来ないんじゃないか?



 未だ睨んでくる神の視線を無視し、ビールを一息で飲み干したのだった。

 心に沁みるぜ……

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