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22話 久しぶりの環境破壊。

 





「臭かったな」

「うん…ガッカリファンタジーだったよ……」

「そうですか?ですが、確かに地球では嗅がなかった臭いでしたね」


 あの原始的な集落を後にした俺達は、別荘へと戻ってきていた。


「何なの…アレは…」

「アレが糞尿の臭いだな。人の」

「うぷっ」


 孤独な神様に俺が現実を教えてやると、女神様にはあるまじき音が出てしまった。


「日本は昔から糞尿の始末は良かったが、ヨーロッパなどでは近世まで人糞が道端に転がっていたみたいだからな。あれがこの大陸の集落での、デフォルト(デフォ)なのかもな」


 確かハイヒールが出来たのって、道端のウンコを踏んでも直ぐ洗えるからだったっけ?


 日本の場合は資源に乏しく肥溜めが昔からあったから、糞尿の始末が良かったのかもな。


「まさか…バーランドも…!?」

「安心しろ。バーランド王国には、聖奈がちゃんと上下水を通しているから糞尿の臭いなどしないぞ。他の国も汲み取り式のトイレや魔導具のトイレなどがあるから、地球と変わらないレベルで清潔だし、公害が無い分空気は綺麗なはずだ」


 とんでもない事実に気付いたと言わんばかりにルナ様が慄いていたが、そんな事実はない。


 ミランが割と平気そうなのは、リゴルドーの街は汲み取り式のトイレで、恐らく家のトイレの汲み取りをしたことがあるからなのだろう。

 人が嫌がる仕事をしていたなんて、さすミラ。後でたくさん褒めておこう。


 糞尿の臭いに負けた俺たちだが、立ち止まってはいられない。

 気を取り直して、早速次の旅の話に移った。


「近くには他の集落がないって話だったが、どうする?」

「確か、遥か東にあったって話だったよね?」


 そう。彼らから聞けた話は遠い昔の話。

 ここ数十年は他との交流が断絶しているらしいから、話の全てが過去形になっていた。


「そうだな。目標もないし、とりあえず次は東か?」

「そうですね。それで良いかと。それよりも…セーナさん」

「ん?何かな?」

「セーナさんは何か心当たりがあるのですよね?」


 ん?何の話だ?

 またか!?また、俺だけ除け者かっ!?


「心当たり…あ。ああ…あの人達の魔力が高い件についてだね。うん。予想だけど、前提が正しければ、そう間違ってはいないはずだよ」


 何をどう考えたら、そんなことがわかるんだよっ!!

 お前チーターだろ!!俺よりすげぇチート持ってんじゃんっ!


「教えてもらえますか?」

「うん。間違っていたら…」

「安心なさい。その時は違うとだけ教えてあげるわ」


 女三人が何やら話しているが、この中で無能を探すゲームがあれば、絶対俺だぞ。

 これは俺が卑屈なんじゃない。

 この二人がおかしいんだ。


 唯一の救いは…崇める神が俺と同じくらいポンコツだってことくらいか……


「ルナ様、ありがとうございます。じゃあ話すね。先ず前提の話から。

 この大陸には魔族の人達が言っていたことから、巨大で先進的な文明が築き上げられていた。でも、これだけ探してもそんな文明はカケラも見つけられないし、痕跡もない。

 つまり、痕跡すら残さない何かが、この大陸を襲ったということ」


 聖奈は紅茶を一口飲むと話を続けた。


「その何かは、残念ながらわからない。それは天変地異なのか、はたまた現在の地球で危惧されているような終末戦争が起こって、大陸を吹き飛ばすほどの兵器がしようされたのか。

 その何かが起こり、大陸にあったものは全て土に還ったの」

「ん?それなら今、人がいたのはおかしくないか?何もない大地に森が復活したのはわかるが、人が人として進化するには時間が足りないのでは?」


 夕方に会った彼らが、魔力が高いのは新人類だから。

 そういう話なら、進化の速度がおかしなことになる。

 そう思い、口を挟んだが、これが間違いなのはもう既定路線。

 わかっていても口を挟むのが、俺に許させた数少ない役割だからなっ!!

 情けねーぜっ!!


「森はそうだね。残された種子や、大地の中で守られた芽が芽吹いたんだと思うよ。それで、彼らは進化したんだ」

「え?合ってるの?それ?」


 マジで?進化なの?ルナ様も何も言わないし。


「ただ、セイくんが思っているような、人の進化じゃないよ。彼らは適応したの。この大陸の終焉から生き残って、そこで生きる為に」

「生き残ったのか?大陸が消し飛ぶような何かを?」


 俺でも死ぬぞ?


「うん。自然が起こす天変地異でも、先進的な文明が創り上げた魔導兵器でも、壊せないモノがあるよね?」

「なぞなぞ?」

「ぷっ。まさか。あるでしょ?この世界には、人が作ったモノでも、ましてや自然が作ったモノでもないものが」


 えっと……あっ!わかった!(わかってない)


「ダンジョンですか?」

「あっ!それだっ!」


 さすミラ!


「うん。そうだよ。神々が創り上げた神域。それがこの大陸にもあったはずだよ」

「あった?何故過去形なんだ?」

「だって、神域を創った神様達は、信仰を集める為につくったんだよ?人が殆ど居なくなったこの大陸に、態々遺し続けると思う?」


 それもそうか……


「つまり、その何かが起こった時に、偶々ダンジョンないし神域にいた人達が生き残ったというわけか」

「そ。それで何も無い大地では生きていけないから、ダンジョンで暮らす内に魔力が高まるように進化したって話だよ」

「なるほどなぁ…それにしてもよく、そんな想像を膨らませられるな…俺には逆立ちしても出来ないぞ」


 辻褄は全て合っているように思う。

 それよりも、この想像力の豊かさに驚愕だぜ……


「何も言わないって事は、そういう事なんだな?」

「そうね。流石聖奈とだけ言っておくわ」


 それは肯定と同じなんだよな。

 流石生き字引……

 口に出したら殺されそうだから言わんが。


「ありがとうございます。でも、それがわかったところで、他のことは何も分からないんだよねぇ。残念ながら」

「いや、焦ることはない。それに一つずつでも、謎が解明されるのは良いことだ。それを反面教師にして国を運営すれば、この大陸と同じ轍は踏まんからな」

「わぁお。まるで為政者のようなセリフだよっ!よっ!悪代官っ!」


 一応…国王なのですが?

 何だよ悪代官って。あーれーって言わせるぞ!


 初めての大陸人との邂逅では、俺たちの求めるモノは得られなかった。

 だが、それも旅の醍醐味。

 翌日から俺達は、一路東へと向かうことになった。






「森しかないね〜」


 聖奈の間延びした声が、森に吸い込まれる。

 一路東へと向かった俺たちだが、未だ森の中を彷徨い歩いていた。

 行けども行けども景色は森で、とっくに緊張感は無くなっており、流石に俺も飽きてきていた。


「聖。何とかしなさい」


 可愛い聖奈と可愛いミランが退屈している。

 それをぼっち歴の長さで敏感に感じ取った我が女神様が、使徒に無理難題を吹っかけてきた。


「何とかって……まぁしてみるか」

「えっ?何とか出来るの?流石愛しの旦那様だねっ!」

「流石セイさんですっ!」


 まて。まだ何もしていないのに持ち上げるな。


「さっさとなさい」


 まて。一番何もしていない奴が威張るな!

 神だから仕方ないか……


「わかった。景色が森ばかりだからダメなんだ」


 俺はそう言うと、近くにあった大岩へと駆け上っていく。


「よし。かなり先まで見渡せるな」


 見渡せるが、景色は緑一色だ。

 緑一色と書いて、リューイーソーと読む。

 どうでもいいな……


「よし。森林破壊するか」


 俺は久しぶりの魔法を唱えた。


「『融合爆裂』」


 遥か遠くの場所に作ったトルネードに向かい、フレアボムが飛んで行った。

 そして、それが吸い込まれるように融合すると……


 ドンッ

挿絵(By みてみん)


 腹に響く爆発音と共に、凄まじい強風がここまで到達した。


 聖奈達はそんな俺よりも爆心地から離れている為、台風程度の風を感じているだけだろう。


「よし。綺麗になったな」


 俺の視線の先には、緑の大地にポッカリと穴が空いていた。

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