18話 山頂とは、修行をするところなり。
あれから一月の時が流れていた。
「ふっ!」ヒュンッ
『グギョッ!?』
『アイスランス』シュッ
『ピギャッ…』
ミランは短剣で、聖奈は魔法で魔物達を駆逐していた。
「お疲れ。二人ともどこに出しても恥ずかしくない、熟練の冒険者になったな」
「はいっ!セイさんとルナ様の教えのお陰ですっ!」
ミランは笑顔を咲かせ、俺に駆け寄ってくる。
「セイくんっ!私も二倍までなら身体強化出来るようになったんだよっ!!」
聖奈も褒めて褒めてと、幼児のような表情で駆け寄ってきた。
俺はそんな二人を一人ずつしっかりと褒めた。
ミランの短剣術は、ライル仕込みだ。時々ライルのような鋭さを見せるが、安定感はないからまだまだなんだが、可愛いからOKだ。
聖奈は運動音痴のため、魔法でカバーしている。逆に魔力操作の腕は大したもので、俺の半年分くらいの成果を、一月の内に上げていた。
しかし、聖奈の魔力は少ない。これは一般人の基準ではなく、魔法使い基準での話だ。
俺と同じくらい魔力があったのなら、とっくに三倍、四倍の身体強化は使いこなせていたことだろう。
そして……
「いつまでイチャイチャしているのよっ!先に進むわよっ!」
「お、おう。悪いな」
ルナ様はめちゃくちゃ嫉妬している。
もちろん俺にである。
聖奈とミラン、二人とルナ様の距離感は、特に縮められてはいない。その二人が、俺には全てを曝け出すのが気に入らないんだ。
『聖奈とミランが遠慮している?』
『ええ。そうよ』
(それは知っているが、今更かよ)
『何とか仲良くなれないかしら?』
(……俺に聞くなよ)
『時間が必要なんじゃないか?』
こんな感じで相談されたこともあり、最近では嫉妬も隠さず曝け出すようになっていた。
なんか…凄く認めたくないんだが……俺が使徒になれた理由がわかったような気がする……
聖奈の事を異性として好きになる前の話だが、俺もシュバルツさんに嫉妬した事があった。俺のペットを好き勝手しやがって、と。
もちろん自力で解決することは出来なかったし、なんなら本人にその悩みを打ち明けたしな。
ルナ様、その時の俺と同じやん……
「やはりもう、人は住んでいないのでは…」
補給も必要がない為、今日は地球へと帰らず、船で夜を過ごしていた。
夕食の時間も終わり、食後の時間をゆっくりと過ごしていた時に、ミランがふとそう呟いた。
「もうというか、人が住んでいた形跡すらないな…本当に人がいるのか、いたのかすら見えない」
「そうだね…上陸してから一度も発見がないよね。過去に人が住んでいたのなら、それらしいものでもあるはずなのにね」
でも、確かにここから魔族達は中央大陸に移動したはずなんだ。
探す場所が悪いのか、それとも俺たちには見つけられない何かが……
「…いるわ」
俺たちが雰囲気を暗くしていると、居心地が悪くなったのか、ルナ様がポツリと呟いた。
そしてバツが悪そうに続ける。
「貴方達は自分達で見つけたいようだから黙っていたけど、この大陸にも人は存在しているわ」
「そうなのか…いや。ありがとう。確かに俺達は自分達の力で冒険したいけど、ルナ様に口を出して欲しくないなんて思っていないからな?
お陰でやる気は出てきたな。みんな!明日からも頑張って探そうなっ!」
「はいっ!」「うんっ!」「「ルナ様。ありがとうございます」」
「いいのよ。でも、どこにいるのかは、自分達で探しなさい」
はいっ!二人の元気な返事を聞いて、ルナ様は満足そうに頷いていた。
「これまでは避けてきたけど、山に登ってみないかな?」
翌日、いつも通りに続きから探索を始めた。暫く進むと聖奈から提案が。
「いいんじゃないか?ミランはどう思う?」
「はい。私も賛成です。これまでは進む事を重視していましたが、それはこの大陸に大きな文明があると思っていたからです。
ですが…これまでの探索の結果から、その可能性は低く、小さなコミュニティを探した方がいいと、私もそう思います」
「決まりだねっ!私もミランちゃんと同じ考えだよ」
街があるならその為の街道もある。適当に探し歩いた方が手っ取り早く人の軌跡を辿れると思っていたが、どうやらそれは難しそうだ。
聖奈の提案は、元々中央大陸よりも発展している文明があると考えていた俺達の前提を覆すものだが、最早それは否定されたと考えてもいいだろう。
この大陸を支配しているのは人ではない。
では、俺達が探している『人』を見つけるならば、見渡せる場所に向かうのが手っ取り早いということだ。
「聖。山に登るのなら…『わかっている」…そう」
この怠惰な神様のことだ。
俺はルナ様を抱えると、山へと進路を切った。
「どう?何か見えるかな?」
3時間かけて、俺達は山の頂にたどり着いた。
聖奈が身体強化魔法を覚えていなければ、三倍くらい時間はかかったかもしれないな。
「見渡す限りの…森だな」
眼下には森が広がっていた。時々森の裂け目からは川がその姿を覗かせている。
やはりここは未開のジャングルなのか……
「今は昼過ぎです。もし、人が…コミュニティがあるのであれば、夕刻辺りに炊事用の煙が昇るのではないのでしょうか?」
「だな。ここからでは木が邪魔をして、人がいたとしてもわからんからな。少し様子見をしよう」
そもそも、ここに辿り着くのも一苦労だったからな。
何度も魔物と争って、漸く辿り着いている。休憩の意味合いも込めて、ここで待つとしよう。
降りるのは転移魔法で一瞬だしな。
「そうだね。じゃあ時間もあることだし、特訓に付き合ってね!」
「お、おう」
身体強化魔法を覚えてからというもの、聖奈は強くなる事に貪欲になっている。
俺tueeeをしたいのだろうが…どこで見せるんだよ……
まぁ聖奈が強くなるのは賛成だから、いくらでも付き合うけど。
「じゃあ、いくねっ!」
「よし。こいっ!」
聖奈は日本刀を構え、俺に斬りかかった。
見た目重視の武器って……それはもう俺がやったやつやん……
「はぁっはぁっ…はぁっはぁ…当たらないよぉ…」
山頂ということもあり、足場も悪く空気も薄い。そんな所で全力で刀を振るっていた聖奈は、全身で呼吸をしている。
「いや…当たったら怪我するからな?」
「セイくんなら何ともないんじゃないかな?」
「確かに身体強化は皮膚も硬化するけど、ベースが人の皮膚だからな。五倍硬くなった所で、聖奈の振るった刀だと切れると思うんだが…」
ただの人が振るった刃物なら流石に問題ないと思うが、聖奈も身体強化魔法を使っているから、防げないと思うんだわ。
試す気すらないけどな。
「それよりも。刀を振るのが様になってきたな。ウチの近衛と戦っても、いい勝負になるんじゃないか?」
「ホントッ!?よーーしっ!旅から帰ったら模擬戦してもらおっとっ!」
「……それはやめてあげて?」
仮にも王妃だからな……
自身が仕えているものに、武器など向けられないだろ。
「聖。次は私とヤるわよ」
「いや。聖奈とミランに模擬戦を断られたからって、俺に来るなよ…」
ルナ様は暇だったのか、ミランに俺達と同じ事をしようと言い、断られていた。
そしてそれでも諦めきれずに聖奈にも頼んだが、結果は同じ。
これは聖奈と近衛達との関係と、近しいものがあるからだ。
身分どころか存在の格が違うから、こっちはどうしようもないのだろうがな。
指導されるのは大丈夫でも、模擬戦は嫌だよな。俺も嫌だ。
だが……
強気な言葉とは裏腹に、捨てられた猫や犬みたいな表情でこちらを窺う神様を、俺には無碍にすることは出来なかった。
「手加減しろよ?俺の身体は一つしかないんだからな?」
流石にわかってはいると思うが、念には念をの精神だ。
「わかってるわよっ!さっ!どこからでもかかって来なさい」
俺は、俺にだけ当たりの強い神様に向かい、全力で斬りかかるのであった。




