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17話 上陸。

 






「本当に何もないね」


 砂浜に転移したところ、聖奈の第一声がこれだ。

 ここは九十九里浜か?と言いたくなるほど、砂浜が広がっている。遠くに林が見えなかったら、まるで砂漠だ。


「何で砂浜に転移するのよっ!」


「林の中だと、魔物か何かに襲われる危険があるからな。それくらい砂浜近くは反応が多かった」


「私がいるのだから何の問題もないでしょっ!!馬鹿なの!?」


「…いや、この旅でルナ様の力はなるべくなら借りたくないんだ。歪みを突破してもらっておいて、言える事じゃないけどな」


 というか、そんなに砂浜を歩くのが嫌なのかよ!!この駄女神がっ!!

 そもそもヒールなんてカッコつけて履くなっ!!


「そ、そう…なのね…」


 ……はぁ(クソデカ溜め息)


「別にルナ様を蔑ろにするつもりはないからな?むしろ、もっと我儘を言ってくれないと割に合わん。そうだろ?二人とも」


「はいっ!ルナ様!夕食は何をご所望でしょうか?」


「ルナ様!もっと私に色々と命じてください!!ルナ様とセイさんに仕えるのが、私の幸せなのですっ!!」


 うん…約一名重い…が、それもよし。

 大体敬われるのに慣れていない神様って、本当に神か怪しいぞ?


「っ!!わかったわっ!!そうね…じゃあ、聖!あの林まで、私を連れて行きなさい!!」


「…やっぱ面倒だったんじゃん」ボソッ


 ヒールじゃ歩きづらいんだろうなと、足元を見ると、ルナ様のヒールは砂に埋もれていなかった。

 どうなってんだ???


「まぁいいか」


「なによ?」


「なんでも。ほらっ。さっさとおぶされよ」


 俺はルナ様の前にしゃがんでそう言った。


「違うわ。あの聖奈に時々する持ち上げ方を所望するわっ!!」


「聖奈に…ああ。お姫様抱っこか…」


 何だよそのリクエストは……

 俺達を覗いた時に、いつかは…と、思っていたのか?


「ほらっ。これでいいか?」ギュッ


「何だか不思議な感覚ね。でも、悪くないわ」


「……」


 悪いって言ったら、放り投げていたところだぞ。

 というか、流石にルナ様だと二人も何も言ってこないし、変な目で見てこないな。

 むしろ、羨ましいとかではなく、尊敬の眼差しを感じるが…なぜ?


「よし。行くぞ」


「うん!」「はい!」「揺らさないでよね」


 …締まらん。








「凄いですね…」「見事になにもないねっ!!」


 砂浜を歩き、林へと辿り着いた俺達は、さらに奥へと進んでいた。

 道中魔物とは遭遇したが、他の生き物には未だ出会えていなかった。


「砂浜の近くは木の密度が低かったが、この辺はもう森だな」


「そうだね。それにしても魔物が多いね……これだと人がいなくても当然だね」


「はい。ここの魔物の強さは、D〜Cランク程度の強さですが、この数は人の生活限界を遥かに超えています」


 冒険者になった直後の俺たちだと苦戦したか、もしくはやられていただろう。

 それほどの数の魔物が生息している場所に、普通の人は暮らせない。仮に暮らしていたとしても、俺は住みたくはないな。


「この感じだと、近くに人は住んでいないという意見は一致したが、どこまで進むんだ?」


「ごちゃごちゃ言っていないで、先に進みなさいよ。貴方、それでも私の使徒なのかしら?」


「…アンタの使徒だからだよ」ボソッ


「なんか言った?」


 なにも……

 俺はそれだけ言い返して、先頭を歩いていく。

 人と話すのも怖がっていた神様の使徒なんだから、ビビりでも仕方ないだろっ!!

 まぁ、俺が恐れているのは、俺がやられるとかいうよりも、ミランや聖奈に何かあればと、思うあまりなんだがな。


 ここまでに出てきた魔物は、聖奈とミランが率先して狩っていたから、俺の出る幕はなかった。

 ここからは俺も踏み込んでいない領域だから、俺もぼちぼち身体を動かそうかな。











「セイくん。面白くない」


 マイスイートハニー1号が、とんでもない事を告げる。


「面白くないって言われてもな…」


「セイさん。私達にも任せてください」


「いや…見つけた端から、始末していっているだけだからな?二人も見つけたら、頼むな?」


 別に魔物の独り占めなどはしていない。ただ、見つけたら魔法でチョチョイと倒しているだけなのである。


 ここは砂浜近くの林から2時間の距離にある、()の中だ。

 そう…未だに森を抜け出せていないんだ。

 別に起伏も激しくなければ、山や谷でもない。平地に森が延々と続いているのだ。

 亜熱帯地域であればジャングルだが、ここはそこまで蒸し暑くもない。過ごしやすくはあるのだが、ただそれだけの場所。


「見つけた端からって!セイくん魔法ですぐに見つけるじゃんっ!!私達にも、冒険させてよっ!!」


「聖。譲りなさい。男らしくないわよ」


「男なら妻を守るのが普通なのでは…?」


 俺の声は、三人には届かなかった。

 まぁいいけど。


 これは余談で、ただの自慢だが。

 ここ最近の俺は、さらに魔力操作のスキルが上昇しており、魔力波を使いその範囲内であれば、魔法を好きなところに放つ事が出来るようになっていた。


 この森でもそれを使い、ほぼ無限のような魔力を惜しみなくばら撒いていたのだ。


「右から二体くるぞ」


「りょーかいっ!」「わかりましたっ!」


 張り切っているから、案外これで良かったのかも。











「そろそろ戻るぞ」


 森は元々薄暗く、ライトの生活魔法(初級魔法)をずっと使っていたから探索は問題ないが、とっくに月が見える時間だ。

 休まないと俺も疲れるからな。


「うん。半日以上歩いたけど、結局人っ子一人見つけられなかったね」


「森はまだまだ終わりそうにありません」


「そうだな。まぁ時間はあるんだ。じっくりと探索しよう。それよりも、船に転移でいいよな?」


 何せ船は無人の沖合いに放置してあるからな。流石に捨てるようなものでもないし、俺達なら多少の手間で維持することが出来るからな。


「そうだね。月が出ていたら地球で休んで、出ていなかったら船で休んで、探索を続けよう」


「賛成だ」「それが良さそうですね」「夕食はなにかしら?」


 ……締まらん。

 コンもそうだが、長い時を本当のぼっちで過ごすとこうなるのか?


『テレポート』


 最早、森の異物でしかない俺たちは、船へと転移する。











「凄いわ。初めは変わった色のお米だと思ったけど、こんなにも美味しかったのね」


 今日のご飯はいつもの白米ではなく、炊き込みご飯だった。おかずは卵焼きに焼き魚、漬物と豆腐サラダだ。

 ここはいつものアメリカにある別荘のリビングだ。そこで晩飯を食べながら、今日の出来事を話し合っていた。


「それは良かったです。ルナ様にとっては、今日は退屈だった事かと思います。せめて食事くらいはと。楽しんでもらえたのであれば幸いです」


 堅い……


「いいのよ。二人とも気にしなくて。私もそれなりに楽しませてもらっているわ。だから、私の事は聖に任せて、二人は思い思いに行動なさい」


「「ありがとうございますっ!」」


「俺が見るのかよ…」


「何かいった?」


 ………。


「明日に備えて、俺はもう寝るよ」


 元々二対一なんだ。それがさらに増えて、なんで敵しかいないリビングにいなくてはならんのだっ!

 そう気付いた俺は、寝室で一人晩酌をすることにした。


 ちなみに神不在の月への祈りは欠かしていない。

 喋る神より、物言わぬ神(月)の方が敬えるな……










「さっ!今日もじゃんじゃん魔物を倒そうねっ!」


「はいっ!!昨日はセーナさんの方が多かったので、今日は負けませんよっ!」


 あのぉ…ゲームじゃないんですが?

 翌日は朝から昨日の続きをする事になった。もちろんルナ様も一緒だ。


「二人とも。その気持ちを忘れないことね」


「「?」」


 はあ。

 ルナ様の言葉に、二人は気のない返事をする。

 もしかして…ずっとこれか?


 俺は気付きたくなかった事実に気付くも、やはり気のせいだと思うことにして、知らないフリを決め込んだ。

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