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14話 プライバシー保護法を制定するっ!!






「きゃーーっ!?」「大丈夫ですかっ!?」


まるで巨大地震にでも襲われているかのようだ……


「聖奈!船外に出てくるなっ!ミランと一緒に船内で何かに捕まっていろっ!」


今日も今日とて、ルナ様に異世界転移してもらい、連れてきてもらったが……海は大時化だった。

波は三メートル以上はあり、雨も風も半端ない。

挿絵(By みてみん)


「ルナ様っ!大丈夫かっ!?」


「だ、だいじょ…ばない…」ぉえっ


人と同じ造りなら、三半規管がある。

有り体に言うと、船酔いをする。

船内では気持ち悪いのが治らなかったので、気晴らしと、何処でも吐けるという理由で、デッキまで出てきたところだ。

心配している二人まで出てきたが、ミランは兎も角、聖奈だと船から落ちてしまいそうな為、怒鳴ってしまった。


本当に危ないからな。

ああでも言わないと、ルナ様を盲信している二人は離れないだろうし。


「支えているから気にせず吐いてしまえ」


「え、えぇ…」


はぁ…

神様なのに月が出ていないと世界間転移が出来ないとはな……

ロサンゼルスは夜だが、こっちはまだ昼前だからな。後8時間も耐えられるのか?


「転移魔法は使えるんだよな?」


「え…それは使えるわ…」


「じゃあバーランド城に転移しろ。城の者に紹介状を書くから、少し待ってくれ」


流石に見てられないな。

ライル宛の手紙を持たせれば、どうにでもしてくれるだろう。


「で、でも…それだと…」


「気にするな。夜になったら昨日の家に世界間転移してくれ。そこでまた会おう」


「わ、わかったわ…あの綺麗なお城ね。楽しみだわ…」


軽口を叩くが、顔は真っ青を通り越して真っ白だ。


聖奈に手紙を頼み、それが出来上がるとルナ様は転移していった。




「大丈夫かな…」


命綱を装着した聖奈が、操縦席まで来て、そう呟いた。


「神様だし、あくまでも依代だから問題ないだろ。それよりも心配がある」


「えっ?なに?ライルくんなら直ぐに理解して対応してくれると思うよ?」


「そこは心配していない。心配なのはコンだ」


アイツも使徒だから、ルナ様の異様さにはすぐに気付くはずだ。

ルナ様が本当の神だと気付いたら何するかわかんないんだよな……

読めないって怖いね。


「コンちゃんかぁ…多分大丈夫じゃないかな?流石に自分の信仰していない神様だからって、危害を加えるタイプじゃないし」


「逆だ。ビビって城から逃げ出さないかが、心配なんだ。アイツ迷子になりそうだし、見せ物小屋にでも売られそうだしな……」


「そういう……あるかもね……」


転移魔法で船ごと運べたら、話が早かったんだがなぁ…

流石に既存の魔法でこれが運べるとは思えんし…

ここに捨てていくのはもっとあり得んしな。


後はルナ様がバーランドで騒ぎを起こさない事を祈ろう。

あれ?祈るのは神にだよな?

この場合はどこの神に祈ればいいんだ?


俺の悩みは大海原に溶けていった。













sideルナ


「ここは…確か聖奈の仕事部屋ね。執務室と言ったかしら?」


先程まで、嵐で濡れていたはずの髪や服は乾いており、ルナは何も気にした風でもなく、扉を開いた。


ガチャ


「お帰りな…っ!!誰だっ!!?」ジャキィンッ


部屋の主は普段から突如身を消し、突如戻ってくる事がしばしばあった。

見張りの兵は扉が開いた為いつものことかと挨拶をしようとするが、出てきたのは見たこともない人物。

そもそも人なのかも怪しい。

まるで著名な芸術家が造った彫像のような女が、目の前に現れたのだ。

すぐさま剣を抜き身に構える。


「あら?貴方は…聖奈の数多くいる部下ね?」


「ひっ…」ガチャ


美の化身のような顔。それだけでも人に威圧を与えるのに、その目からは生気が感じ取れなかった。

騎士は目を逸らすことも出来ず、小さく悲鳴を漏らして後ずさる。


「あら。どこへいくの?聖奈から手紙を預かっているのだけど。貴方に渡せばいいのよね?」


王妃の護衛。それは誉れ高き仕事。

そのような大役が任せられるのは、この騎士が偏に経験豊富で忠義に篤いから。

その豊富な経験から、普通の人では感じ取れないモノを感じ取ってしまったのだ。


しかし、流石はバーランド王国の精鋭騎士。

恐ろしくとも、その綺麗な口から紡がれる、美しくも無機質な声色をしっかりと聴いていた。


「せ、せいな…王妃殿下!?」


「そうよ。その王妃から手紙を預かっているの。貴方に任せても大丈夫かしら?」


手紙は一通しかない。

この世界での物の価値をしっかりと把握しているルナは、少し心配するものの、この騎士に任せてみることにしたようだ。

ルナからすれば、彼もまた一人の信徒である。

自分が信じられているのに信じないわけにはいかないのだった。







バンッ


扉を蹴破り、白い毛並みを靡かせて、それは飛び込んできた。


『き、危険なのじゃっ!!この城に、とんでもない気配を感じるのじゃっ!!』


飛び込んできたのはコン。

そしてその部屋の中には直立不動のライルと、優雅にお茶を飲んでいるルナの姿があった。


「あら?貴方は…獣神の使徒ね?お邪魔しているわ」


「こいつ…目を開けたまま気を失っていやがる…」


聖達の杞憂は、ここに終わりを告げた。









side聖


「お帰りなさい」


嵐の止み間、月が顔を出したタイミングで、俺達は漸く戻って来れた。

そんな俺達より先に帰っていたルナ様が、俺達を迎え入れてくれる。


「ただいま」「ただいま戻りました」「お待たせしました」


俺を筆頭に挨拶を返すのだが…

聖奈とミランはまだ堅いな……


「お腹空いただろう?今日は日本で出前でも取ろうか」


「この肉体は仮初だから食べなくても平気よ。でも、せっかくだし頂くわ」


食くらいしか楽しみはないだろうからな。

いくら船に慣れているとはいえ、聖奈もミランもグロッキー状態だ。そんな二人に食事の準備を頼むのは申し訳ないし、今日はうーばーにしよう。


話が纏まったところで、日本へと転移した。









「美味しいわね……スマホといったかしら?これほど素晴らしい食事が簡単に頼めるなんて、知っていたけど体験するとその凄さに驚きよ」


頼んだ食事は和洋中とバリエーション豊かだ。聖奈の料理の方が美味いけど、流石に和洋中は無理だ。時間的にな。


「喜んでもらえて何よりだ。それで?バーランド王国はどうだった?」


「お城にずっといたから王国がどうかまではわからないわ。でも、ありがとう」


ありがとう?

ああ…ルナ教が国教だから、城で出会すもの全てが信者だったお礼か。流石神様。見ただけで信者かどうかわかるんだな。


「流石に名乗ってはいないだろう?」


「ええ。ライルには手紙で聖奈が伝えたけど、私からは何も言っていないわ」


「コンは……獣神の使いは問題なかったか?」


ルナ様は神だ。誰かに害せる存在ではない。それに神というだけあって、俺以外の存在には物凄く寛容な心で接している。

だから…心配なのは、不敬だとかそんな事ではなく、コンがパニックを起こして、騒動を起こさなかったかに尽きる。


「あの可愛いフェンリルね。彼女は私を見て気を失ってしまったわ」


「そ、そうか…何もなかったのなら、良い」


コンがビビるのはいつもの事だから、何もないのと同じだしなっ!!


「貴方達はもうすぐ歪みね」


「見てたのか?」


「見えるのよ。特に使徒である聖の周りはね」


使徒って認めちゃったよ。

まぁ今更だけど。

それにしても使徒に何も求めないなんてあるのか?

どれだけ周りに気を使ってんだよ…


「っ!!?」


「?」


どうした?何で聖奈は驚いて顔を赤くしているんだ?

まさか…


「ルナ様。その…俺の周りがよく見えるって話だが、それって任意か?」


「意識すれば見れなく出来るけど、態々そんな事はしないわ」


「……夜も?」


あのぅ…一応俺達は新婚さんで、若くて健康体なんだ。


「ああ。気にしなくて良いわ。生物として二人とも正常よ」


「そこは気にしていないぞ……」


ルナ様はこんな(なり)だが、人でも人形でもない。不定形な存在だ。

でも見られて喜ぶ趣味は俺達にはないからなぁ…


暫く頭にハテナが浮かんでいたミランだったが、話の内容に気付き、聖奈と二人して顔を赤く染めていた。


随分と前に決定権も無くしたが、遂にプライバシーも無くしてしまった。そんな夜だった。

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