12話 顕現。
「えっ!?誰だ!?」
俺の背後に立つのは、見たことのない女性だった。
もの凄い美人さんだが、聖奈やミランという二人の美人な妻を持つ俺を動揺させる事は出来んぞっ!
「初めまして。聖」
「は、は、初めまして?」
めっちゃ動揺するーー!!
いや、美人なんだが、それ以外になんかこう…神々しいというか・・・・
「…あれ?その声は……ひょっとして、ルナ様?」
「やっと気付いたわね。千年ぶりくらいかしら?顕現したのは」
「えっ!?ホンモノッ!?」
マジかよ…どうした急に?
「ル、ルナ様!初めまして!聖奈です!」「ミランです!」
「ふふっ。二人とも緊張しているようね」
「当然だろうよ…アンタ神様だって自覚ないのか?」
初めて会ったが、この人は間違いなくルナ様だ。
魔力的な繋がりがあるからなのか、俺は疑うことなくこの事実を受け入れることが出来た。
「ないわよっ!もう何百年も祈られてないんだからっ!」
「そ、そうか…それは済まない…」
…地雷踏んだ?
「でも!聖達のお陰で、こうして力を取り戻せたわ。信者ももの凄い数ね!ありがとう」
「もしかして、態々お礼を言う為に?」
「うん!もちろん!それと美味しいデザートを食べたかったからよ」
いや、そっちが本命なんじゃ?
なんで俺の周りの女性は食いしん坊多めなんだ?
「ルナ様!良ければケーキを焼くので、お待ち頂けますか!?」
「まあ!本当!?いいわ!待っているからお願いするわねっ!」
「はい!直ちに!ミランちゃん!行くよっ!」
はいっ!ミランの元気な返事の後、この部屋には俺とルナ様が取り残された。
いや〜。神様と二人きりとか、何話せばいいんだ?
「何か考えているわね?残念ながら顕現すると心を読めないのよね。でも、わかるわ。どうせ『美人な女性との会話なんてわからん』とかでしょ?」
「…当たらずも遠からず……」
ずっと心を読まれていたんだから、丸わかりか。
「それで?二人を遠ざけてまで俺に話したい事とはなんだ?」
神様が態々その力を使ったんだ。どんな制約があるのか知らんが、顕現をしなくては伝えられない事とは……
胃がキリキリする…
「え?何もないわよ?」
「えっ?」
「「・・・・・えっ?」」
驚きまでシンクロさすなっ!!
流石神とその使徒ですねっ!って、ツッコミ入れる人達がこの場にはおらんのじゃっ!!
「マジかよ…この駄女神」
「ちょっとっ!!信仰する神に向かって駄女神はないでしょ!!」
「聖奈とミランがいないと取り繕うともしない駄女神が」
もういい。俺の胃のキリキリを返せとは言わん。
しかし、取り繕う事は俺もしないぞっ!
いくら恩があっても、こんな駄女神を敬えるかよ!
俺とルナ様が暫くワイワイとしていると、扉がノックされた。
「ルナ様!お待たせしました!!」
もうケーキが出来るくらい時間が経っていたのか…
「きゃーーっ!!凄いわっ!!これがあの見るだけで食べられなかったケーキねっ!!」
おい。素が出ているぞ。取り繕えよ。
「お口に合えばいいのですが…」
ミラン。そんな心配は必要ないぞ。
ミランが頑張って作ったケーキを残すなんて、神であっても許さんから。
「こちらを」
聖奈がルナ様にフォークを手渡した。
その姿はまるで聖剣を神に捧げるかの様な……
いらんいらん!そんな畏まった演出!
パクッ
「!!」
「…どうでしょうか?」
「………美味しいぃ…」
ガクッ…
こけそうになったぞ…
何だよその大袈裟なタメは…
「良かったです!さあっ!食べてください!」
「えっと…」
「聖奈。流石にワンホールはやめろ。切り分けてあげなさい」
聖奈とミランがワクワクした視線をルナ様にぶつけていた。
ルナ様としては食べられない事もないだろうが、じっと見られているのは居心地が悪い事だろう。
同じ元ぼっちだからわかるぞ。その気持ち。
聖奈が紅茶を淹れてくれて、俺たちはケーキをいただく事にした。
席に着くと早速食べながら話をする事に。
もちろん聖奈とミランは畏れ多く感じ、床に座りそうになったから俺が止めた。
ルナ様はそういうのは嫌なはずだ。何となくそう思う。
「二人とも、過剰に敬うのはやめとけ。ルナ様は寂しがりやだからなるべくフランクに接して欲しいはずだ。な?」
「…コイツみたいに不敬なのはどうかと思うけど、二人ともそんなに固くならず、もう少し楽にしてちょうだい」
「「は、はぁ」」
二人はまだ理解できていない様子だな。
神の気持ちを理解できている俺がおかしいだけなんだけど。
「あぁそれで、さっき聖には言ったのだけれど、私が顕現した理由は特にないわ。でも、強いて言うなら助言を与える為に。かしらね」
「助言…ですか?」
「ええ。このまま進んだところで、貴方達は別大陸に行くことは出来ない。ってね」
!!!
「そ、そうなのですね。ではどうすれば?」
無理だったのか。このまま行けたらめっちゃ楽だったのにな…
「無理ね」
「えっ!?無理なのか?」
流石にこの一言には口を挟まずにはいられなかった。
「ええ。貴方達の魔法の腕では異世界の歪みを突破する事は出来ないわ」
「…歪み、ですか?」
「ええ。ソニーには魔力が満ちているのは知っているわね?その満ちた魔力は、地球の天気図の様に、高気圧、低気圧といった感じで区分出来るの。
実際は高気圧とか低気圧といった概念ではなく、混じり合わない魔力の衝突ポイントと、言った感じだけどね」
つまり普通では混じり合う大気中の魔力だけど、実際は混ざらないモノもあり、その境界線にもう少しで辿り着けると?
「このまま行くと…?」
「何もないわよ。歪んだ魔力により、貴方達は歪みのない位置まで押し戻されるわ。それも気付かないうちにね」
えっ…それって無理ゲーじゃね?
「じゃあ諦めるしかないのか…?」
「そう。さっきまでならそう告げていたわ」
「さっきまで?じゃあ…」
今なら?
なんか変わったことがあったか?
「ええ。特別に私が通してあげる」
「えっ?いいのか?過干渉過ぎないのか?」
良くある話では、神は下界に干渉し過ぎてはいけないってきくもんな。
バランスが悪くなったり、それこそ世界に歪みが生じるとか、漫画やゲームでよくある設定だ。
「大丈夫よ。船に乗っているだけだから」
「そうか。それなら……え?一緒に旅をするのか?ずっと?」
神様同伴ってどんなチートだよ。修学旅行に保護者同伴みたいで恥ずかしいぞっ!
「まさか!流石にずっとは無理よ。暫くの間、船旅に付き合ってあげるだけよ」
「そうか。こっちとしては有難い。が、何が対価だ?」
「相変わらず失礼ねっ!私は神よ?下々の者達に何かを強請るような端ない事はしないわ!」
ふーーん。
「じゃあケーキとか、デザートも要らないんだな?」
「ギクッ!!?」
いや、声に出すなよ。何だよギクッて…
長過ぎるぼっち期間の弊害が出てるぞ。
「はぁ…聖奈。悪いが二、三日はお菓子作りに注力してくれ」
「勿論だよっ!!ルナ様!必ずやその神々しい舌に適う物を作ってみせますっ!!」
「い、いいのよ?気を使わなくて」
そう言いながらも、めっちゃ目が泳いでるじゃん……
「話が纏まったところで、そろそろ旅の続きをしないか?」
「はい。ルナ様。狭い船室ですが、精一杯おもてなしを致します。至らない点があれば何なりとお申し付けください」
「……いいのよ?」
素直に『友達みたいに接して』って言えばいいのにな。これだからぼっちを拗らせた奴は……
俺もか……
「じゃあ準備はいいな?」
船に乗り、少し沖に出したところで、最終確認をした。
「うん!」「ルナ様。少々揺れますのでお気をつけください」
「え、ええ。でも待ちなさい」
いざ出発ってところで、ルナ様から待ったが掛かる。なんだ?やっぱり拙いからやめるなんていうなよ?
「私が転移させるわ。聖と違い、私なら転移先の状況がわかるから、衝撃などなく転移できるもの」
「流石神様だな。頼むよ」
俺達とは違い、月に祈る事もなく、異世界転移が発動した。
「流石ルナ様ですっ!」「神のお力添え、感謝の言葉もありません」
二人がめちゃくちゃ持ち上げる。あんまり言うと、恥ずかしくなるぞ?ルナ様が。
本人からしたら呼吸をするよりも簡単な事だろうからな。
「いいのよ。さっ!ミラン。案内なさい」
「はいっ!こちらです!」
強気な姿勢を見せるが、足が震えているぞ?
それよりも……
「なぁ。一ついいか?」
「何よ」
…俺には当たり強く出来るのに………
「ルナ様なら、態々ここじゃなく別大陸に転移できたんじゃないのか?」
「!?」
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「か、過干渉になるからここにしたのよっ!」
何の間だよ…絶対忘れてたろ……
「ぶ、分体だから思考能力も格段に下がっているのよ!分体だからっ!!」
「いや、強調しなくても嘘だなんて思ってないから。そもそも本当か嘘かなんてわからんし」
「嘘だって思っているって事じゃないっ!!」
ぼっちの神様は、プリプリしながらミランの後を追って行った。
デレがないツンとか需要ないぞ?




