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9話 強い奴いっぱいいるじゃん…

 





「アレはどうやったんだ?」


 涼しい顔をして戻ってきた爺さんに、早速種明かししてもらうことに。


「何じゃ?人の奥の手を簡単に聞くのかのぅ?」


「いいだろ?元弟子なんだから」


「わ、私も気になりますっ!」


 リリーも気になるってよ!

 最愛の奥様のお願いには弱いらしく、簡単に口を割ってくれた。


「砂塵じゃ」


「サジン…?」


「そうじゃ。舞台にある砂塵を、開始前に足で集めておいた。それを開始と同時に手で拾い、接近して放ったのじゃ」


 えっ?


「それって…卑怯じゃ?」


「何を言うておる。それを言うならあの体格も卑怯じゃろうて」


「つまり目潰しをしたと…」


「砂塵程度目潰しにはならぬよ。あくまでそこに意識を集める事が目的じゃった」


 リリーの解答は半分不正解だったようだな。あくまでも囮か。

 確かに爺さんの言う通り、意図しなくとも埃が目に入ることもあるだろうから、それを戦術に組み込む事は卑怯ではないな。


 体格が卑怯は、この国では人種差別になるから気をつけてね。ブタさんもいる事だし。


『これにて、本日の試合は終わります。明日は一回戦の続きからになります!乞うご期待下さい!!』


 実況の宣言により、今日の武闘会は終わった。

 俺は明日の最後の方だな。長い……











「一回戦突破おめでとうっ!!」


 聖奈の音頭により、晩餐会が始まった。

 聖奈は今、世界中で行動している。理由は声明文の出所を絞らせないためだ。

 そして今日はヨーロッパにいたから、俺が迎えに行ったんだ。

 向こうはまだ昼間だからな。


「俺はまだ試合していないがな」


「お主は放っておいてもどうせ勝つんじゃ。老い先短い儂の為の言葉じゃろうて」


「お爺ちゃんはまだまだ元気でしょ…?リリーさんとお爺ちゃんのお祝いだよ」


 殺しても死ななそうというか、爺さんは誰よりも長生きしそうなくらいだ。


「セーナありがとう。私はセイを倒すまで負けるわけにはいかないからな!」


「儂は…そうじゃな。嫁さんに負けない程度に頑張るわい」


「リリーさん。優勝したらルナ教の宣伝を…」


「問題ない」


「じゃあ、セイくんをコテンパンにしてもいいよっ!!」


「おいっ!?旦那なんですがっ!?」


 何だよそれっ!?俺の応援は無しかっ!?

 そうだっ!ミラン!ミランは俺の味方だよな?なっ?


「セイさんが負ける姿ですか…一度くらい見てみたいものですね」


 えっ!?


「…負けて落ち込んでいる所を慰めたら……ワンチャン…」


 おいっ!誰だよ!俺の天使にワンチャンなんて言葉を教えたのは!?


 結局俺は味方を見つけられず、次の日を迎えた。













『一回戦!第120試合を行いますっ!!そろそろ飽きてきましたが、仕事なので選手紹介をします!!』


 翌日、日没前に俺が出る試合が漸く始まる。この実況、ホントにダメ人間だな…心の声はしまっておけ。それだけで結婚出来るから。


『西は今回の主催者の一人!そして!なんと!嘘のようですが!北西部はバーランド王国の国王!セイ選手ですっ!!第七夫人でいいので、私の席はありますかぁっ!?』


 あるわけないだろ。何だよ第七って。第六までいるように言うなっ!!貴賓席からミランの殺気がここまで来ているだろうがっ!!


 俺の相手は大猩猩(ゴリラ)獣人で見た目はゴリマッチョって感じの人型だ。膨れ上がる上半身に目が行きがちだが、太ももも競輪選手真っ青なモノをお持ちです。


『では!開始っ!!』


 ドンッ


 実況の合図と共に、待っていましたとばかりにゴリマッチョが突っ込んできた。

 踏み込んだだけで石の床がひび割れたぞ…


 バンッ


「くっ!」


 バババババッ


 踏み込みも尋常じゃない速さだが、そこから繰り出される打撃も輪をかけて速いっ!

 音速を超えているのか、空気が弾ける音が後から聞こえてくる。

 もちろんそんな攻撃を受けるわけにはいかず、俺は全て躱した。


「ほう。噂通りの武王らしい。これは楽しめそうだな」


「いや、か弱い人族だから存分に手加減してくれ」


 ウホッとか言わないんだな。普通に喋ってら。


「ぬかせっ!!」ダッ


 一旦仕切り直しと距離を取ったが、バゴッと石の床に足をめり込ませて、爆発的な初速でこちらへと迫る。

 二回目だからな。もう驚かんよ。


 俺はゴリマッチョ氏の突進を半歩踏み込みながら躱し、残した右足で相手の足を掛けながら、慣性の法則に逆らわない様に投げた。


 ドンッドンッズザザーーッ

 ドサッ


 とんでもない速さで飛んでいったゴリマッチョ氏は、床に二度バウンドして、そのまま場外へと滑って行った。


『勝負あり!勝者セイ選手っ!!ここでは参加者は皆選手なので、敬称をお許し下さいっ!!まだ処刑しないで下さい!!せめて結婚まではお待ちくださいっ!!』


 しねーよ。俺はこう見えて、権限が一つもないんだよ!!

 とゆーか、結婚は来世まで無理だろ。


「参った参った。最後の動きは全く見えなんだわ。それに投げられた事にも気付けなかった」


「こっちも驚かされたよ。アンタみたいな強者がこの国にもいたんだな」


 まぁ殆どの強者を俺は知らんけど。

 でも、驚いたのは本当だ。

 身内以外の試合はマジマジと見ていないけど、こんなに強い奴らばかりなら、優勝が危うくなったな。

 いきなり身体強化全開だったから、もう奥の手とかないし。


「そうか。武王と名高いバーランド国王にそう言わせたのなら、出た甲斐があったというものだ」


「俺はそんな奴知らないな」


 誰だよ。武王とか覇王とか変な噂広めた奴は。

 バーランドの本当の王は魔王だからな?勘違いすんなよ?


 何はともあれ、俺は辛くも勝利を手に入れた。














 その後、大会は順調に進んでいったが、俺達の方は順調とは言えなかった。


「惜しかったな」


「惜しくはないさ。完敗だった。パワーもスピードも技術も相手が一枚上手だった」


 三回戦でリリーが敗退してしまった。

 リリーの言う通り俺の言葉は慰めでしかなく、相手が強すぎたんだ。


「順当に行けば爺さんと四回戦後に当たるな。勝てそうか?」


「どうじゃろうな?負ける気はないが、気持ちだけで勝てるほど甘くはなかろうて」


 そりゃそうだ。

 気持ちなんてものは全ての準備をした上でのことだ。気持ちで負けたとかよく聞くが、それは何で負けたのか分かっていない者の戯言に過ぎない。


 その点リリーは負けたのに清々しい顔をしている。

 自分に出来ることをしてきた上に、試合でそれを出せたのだろう。


「セイは順調そうだな?」


「まだこれからだからな。それに一回戦の相手が強すぎたせいか、二回戦の相手は物足りなく感じたしな」


 二回戦の相手は、パワーこそあれどスピードはなかった。俺は殺さないように身体強化の出力を調整して、殴り飛ばした。

 俺はここに布教の為にやってきている。別にルール違反じゃないとはいえ、殺人は印象が悪い。

 ある意味手加減がいらなかった一回戦の方が楽だったまであるな。




 その日に行われた三回戦も難なく突破した。ここからは一日置きで試合が行われる。理由は選手のダメージ管理のためだな。

 観客は全力の戦いが観たいようだから、当然の処置だと思う。











「お疲れ様!いよいよ明日は準決勝だねっ!!」


 これまでこちらに帰ってくることすら出来ていなかった聖奈が、漸く合流した。


「みんな強いから思っていた何倍も大変だったぞ…」


「いくら素手での戦いとはいえ、セイくんにそう言わせるなんて、流石獣人達だね!」


 ホントにな…

 身体強化の鍛錬をし続けていなかったら、一回戦も突破できていなかっただろうな。

 この世界はホント、楽をさせてくれない。


「ここまで無傷なのは爺さんだけか。流石だな」


 他の参加者は血だらけの殴り合いを制して上がってきている。

 俺もそこまでダメージはないが、一度取っ組み合いに持ち込まれて、右腕の靱帯を痛めてしまっている。


「ふぉっふぉっ!儂のような年寄りは、一撃貰うだけであの世じゃからのう。勝っている内は無傷じゃ」


 好好爺のように話すが、この爺さんはゴリマッチョだ。全然口調と見た目が一致しない……

 アンタ鉄アレイで殴っても死なないだろ。


「ふふっ。兎に角!二人とも明日と明明後日は頑張ってね!!私も応援に行くから!」


 ふぁい。

 聖奈の激励に、気のない返事を返した俺は、身体を癒す為に早々に寝室に向かった。

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