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8話 二人の実力。

 





「立派な席を用意して頂き、感謝申し上げる」


 普段オークション会場として使われている建物に、俺と爺さんとリリーは出場者として、ミラン、エリーは応援者としてやってきていた。

 大会の運営資金を出したパトロンでもあり国賓でもある俺達に用意された席は、警備も万全でアーメッド共王とも同席だ。

 簡単に言うと、気が休まらない席だな…


「友好国の王なのだ、当然であろう。済まないが、この機会にと貴族達が挨拶をせがんでな。良いか?」


「もちろんだとも」


 そう。共王だけなら楽なんだが、貴族達がキラキラした視線で見つめてきていたからな…

 恐らく共王が俺の強さを喧伝したのだろう。獣人しか見かけない。


 爺さんとリリーは仲良く二人の世界を作っているし、ミランとエリーはこちらもポップコーン(キャラメル味)を抱えて二人で取り合っている。


 はぁ…早く終わってくれ……


 俺は試合する前に、疲れ果てていた。








「以上だ!皆の者!大いにその武勇を示してくれ!!」


 共王の開催の挨拶が終わった。もちろん態々ステージまで降りて挨拶したわけもなく、隣に俺を立たせて、貴賓席で開催の挨拶をした。

 挨拶の内容は終始俺を持ち上げたもので、参加者達から鋭い視線の集中砲火を浴びていた。


 気を遣って、俺に注目が集まる様にしてくれたのだろうが、やり過ぎな気がする……

 聖くんのメンタルはもう限界よ?


「セイさんがまるで主人公のようですっ!!おかしいですっ!セイさんはただの酔っ払いなのですっ!!」


「エリーさん。セイさんはただの酔っ払いではありません。立派な酔っ払いなのですよ」


「いや…うん…」


 ミランはフォローしたつもりなのだろう……

 最近お酒を飲み出して、俺の酒の強さに気付き、感激していたからな。

 俺への尊敬イコール肝臓ってヤバいだろ。

 もっと他に…なんか……もしかしたら…あるかもしれんだろう?諦めずに探してくれ…


「セイ。私の出場は次らしい。よーく見ておけよ」


「ん?もうか。わかった。目に焼き付けておくよ」


「セイさん…人妻を見つめすぎるのはどうかと…」


 いや、これはノーカンだろ?


「ごほんっ。まぁ頑張ってくれ」


「ああ!ビクトール様!行って参ります!」


「うむ。楽しんできなさい」


 リリー張り切っているな。爺さんは相変わらずブレない精神をしている。

 俺もああなれたら魔力依存症にならないのかも。まぁどちらにしろ一朝一夕では無理だけどな。




『それでは、一回戦第三試合を始めます!西はリリー選手!北西部はナターリア王国から遠路はるばるやって来られました!皆さんが盛り上がっているのはリリー選手の美貌にかっ!?私はまだ独身ですよ!?』


 この実況は真面目にする気あるのか…?いや、真面目に婚活しているのかもしれないな。確かに愛嬌のある顔立ちで独身なのは不思議だ。

 このガツガツ行く性格のせいでは?


『対するは!東はガッチャ選手!本人談によると餓狼族の末裔で、この日まで三日絶食中とのこと!!体調は大丈夫なのかっ!!?』


 餓狼族。共王の説明によると、今は絶滅したとされる種族で、なんでも腹が減るほど強くなるが、やり過ぎると飢え死にするそうで、そのせいで絶滅したのでは?とのこと。


 なんじゃそりゃ……馬鹿かな?馬鹿なのかな?


『では、始めっ!!』


 舞台は12×12mの石畳み。簡単にいうと天◯一武道会のアレを狭くした感じだな。

 高さは50cm程あり、舞台から落ちても負けは同じルールだな。

 倒れた場合は、審判の呼びかけに応えられなければ負け。何度倒れても起き上がれれば問題なし。関節も打撃も噛みつきも何でもアリだ。


 ちなみに死んでも負け。


 審判が止めたのに追撃し殺したら反則負けだが、それ以外では勝敗に生死は問わない。

 意識不明になるか、場外か、審判ストップか、リタイアか、死で決まる。


 俺が呑気にルールをおさらい出来ているのは、試合が膠着しているからだ。


『おおっと!まさかの手と手を合わせてぴくりとも動きませんっ!!

 リリー選手はあの細腕のどこにそんな力が!?

 対する自称餓狼族選手は焦りの色を隠しきれていません!』


 リリーに欠点はないからな。

 …いや、あったわ。酒に弱い。


「はあっ!!」


 気合い一閃!リリーが対戦者を上に投げ飛ばした。

 空中に投げ出されたら空でも飛べない限り、どんな達人も出来ることは少ない。


「でやぁっ!!」


 対戦相手が上手く身体を捻り着地しようとするも、ガードごと中段蹴りで吹き飛ばした。


 ドサッ


「くっ!!」


『勝負ありっ!!勝者リリー選手!!』


 相手は場外まで吹き飛ばされ、難なく決着となった。

 ガードした手にもダメージは少ないようで、あれでは不完全燃焼だろうな。

 まぁ油断したのか、リリーの力比べを受け入れた相手が悪いが。


「ど、どうでしたかっ!?」ぜぇはぁ


 リリーが息を切らせて貴賓席に飛び込んできた。

 試合では疲れていないだろうに、よっぽど爺さんに褒められたいらしい。

 どんだけだよ……


「うむ。相手の機動力を奪った上で、見事な一撃だったのぅ」


「俺も真似したくなる戦い方だったな」


「ありがとうございますっ!セイも頑張れよ」


 いや、言われなくともよ?

 ちなみに決勝トーナメントのブロックは上手く散らしてもらえた。まぁただのくじ運なんだが。

 リリーと爺さんが同じブロックで、俺は反対のブロックだから決勝まで二人と当たることはない。

 リリーと爺さんは順調にいけば準決勝で当たる予定だ。


 決勝トーナメントには合わせて256名の予選通過者と推薦者が出場する。8回勝てば優勝する計算だ。

 ちなみに決勝の前に3位決定戦も行われる。


「どうやら儂の番らしいのぅ。行ってくるわい」


「怪我すんなよ?」


「しかと目に焼き付けますっ!!」


 爺さんが負けるビジョンは一切浮かばないが、一応年寄りらしいので、心配している風を装っておいた。




『これより!一回戦第52試合を行います!西からは、第3試合と同じくナターリア王国からの刺客!!ビクトール選手の入場っ!!なんと驚き桃の木、こちらのビクトール選手ですが、第3試合のリリー選手の夫との情報が入りましたっ!!

 これは参加者と観客から反感を買うこと間違いなしっ!!歳の差はなんと40歳とのこと!!このロリコンジジイがっ!!』


 …めちゃくちゃな紹介だな。言っている事は何一つ間違っていないのが凄いところだ。

 この実況はこんな性格だから彼氏も旦那もいないんだろうな。


 対戦相手は熊のような体格の……人だよな?

 紹介によると熊獣人らしいが、体格以外は人と何ら違いは見当たらない。

 流石の爺さんでもアレと力比べをするのは分が悪いだろう。どんな戦いになるのか楽しみだな。


『ほほっ。でかいのぅ。3メートル近くあるのではないか?』


『爺さん。降参するなら今だぞ?人族のことは知らんが、俺たちは女子供にも全力で戦うからな』


 男女平等パンチが日常的に起こるのか…

 二人の会話は魔導具により、会場中に響き渡っている。地球でも中々難しい技術だが、魔法はそれを可能にするみたいだ。やはり夢があるな!


「これはエリーさんが貸した魔導具ですよね?」


「はいですっ!天才魔導具師のエリー様の発明品なのですっ!!レンタル料は王都のカフェ『ラ・デュール』のスイーツ半年分なのですっ!!」


 この魔導具はエリー作だったのか…

 やはりコイツは天才ポンコツだな。何だよスイーツ半年分って。絶対ミランかライルに足元見られてるだろうが……


『では、参るとするかのぅ』タッ


 その言葉と共に、爺さんは軽い足取りで対戦者の後ろへと回り込む。

 対戦相手はキョロキョロしていることから、爺さんの姿を見失ったのだろう。


「何が起きているのでしょうか?」


「恐らくだが、爺さんは相手に対して数えきれないくらいのフェイントを仕掛けたんだと思う。俺たちは舞台を俯瞰して見られるが、出場者の視点は違うからな」


「つまり、相手からはお爺さんが消えてしまったということですね」


 視線は外さずに、ミランの質問に答えた。

 あっているかどうかは知らないけど、大きくは違っていないだろう。


 後ろを取ってからは常に相手の死角へ移動し続けている。あの技術は一朝一夕では得られないし、いくら強くなろうとも出来る気はしないな。


 いくら探しても姿の見えない敵。


 爺さんは相手の集中力が切れるのを見計らい、分厚い背中ではなく、脇に抜き手を差し込んだ。


『がっ!?』

 ・

 ・

 ・

 ズンッ


『勝負あり!勝者ビクトール選手!!』


 脇は人体の急所だ。それは熊獣人も同じだったようだな。

 意識を喪失した相手は、その場に崩れ落ちた。

 何だよズンッて。人が倒れた音ちゃうやろ!!


 それだけ相手が重たいんだろうが……これって普通の人には勝ち目ないよね?

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