2話 役に立たない王その2。
『続いてのニュースです。ヨーロッパとアフリカを中心として、新たに巻き起こったブーム『ルナ教』の特集です。
新興宗教に詳しい山田さんに話を聞いてみました』
しゅ、しゅごい…れす。
あれから二ヶ月、無心で布教活動に取り組んでいたせいで、俺は何も知らなかった。
来る日も来る日もアフリカを車で暴走し、時にヨーロッパで綺麗なお姉さん達に実演して見せたりしていたからだ。
「ねっ?凄いでしょ?」
そう得意気に言うのは、ネットに上がっていた日本のニュースを見せてきた聖奈だ。
これを見せてきたのには理由がある。それは俺が『こんなことで布教出来ているのか?』と愚痴をこぼしたからだ。
「ああ。凄いな。布教活動用のDVDの種類をもっと増やすなんて言われた時は、必要性を感じなかったが…これなら仕方ないな」
疑う奴の方がもちろん多い。逆に言えばルナ様を信じている人が割を食っている世の中になってしまっていた。
それは社会問題にもなっている。
例えば信じた少年が学校でルナ様の話をしたら虐められたとかだ。
「もっと派手にやればみんな信じるんじゃないか?」
「そりゃそうでしょ。でもダメだよ。まずパニックになるし、私達も危険になる。それに信者があまりにも急激に増えると、何が起こるかわかんないもん」
そうか…
俺には力があるのに、虐められている子供も救えないのか……
「聖くん。どうせネガティブな事を考えているんでしょう?でもそれは聖くんのせいじゃないよ」
「そうだけど…でも信者が虐められたり、世間からおかしな奴扱いされているのは俺たちのせいだろ?」
「そういう行き過ぎた事をする人達は、私達が布教しなくても、別の誰かを傷つけているよ。
それにちゃんと見た?
虐められた子が言っていたよ。
『僕は虐めには屈しません。ルナ様はいつも見ているのですから。アフリカの生活に困っている人達の助けになるように毎晩のお祈りを欠かすことはありえません』
ってね」
もうその子を使徒にしろよ……
ルナ様…なんで俺なんだ?
「頑張らないとな…」
「えっ?もしかして泣いてる?」
「泣いてねーよっ!」
嘘です。ちょっと感動して泣きました。
「もし誰かの為に頑張ろうとしているのならやめてね?」
「…なんでだよ」
「魔力依存症は感情に左右されるからね。聖くんは聖くんだけの為に頑張って。
私達仲間はそれを望んでいるよ」
そこまで自己中にはなれねーよ。
でも、確かに会ったこともない少年のために頑張るのはやり過ぎだな。普通の人はそれでもいいが、俺は普通じゃないからな。
影響力と出来ることが違いすぎるもんな。
よし!
俺は自分と仲間の為にだけ頑張るとしよう。
「うん!良い顔つきになったね!じゃあ次に行こっか!」
「ああ。どこにいくんだ?」
「異世界だよ」
えっ?どうちて?
「お待ちしていました。準備は出来ていますよ」
俺達を城で出迎えたのはミランだった。
あれ?いつの間に異世界へ……
「ありがとう!いこっか!」
「はい」
俺は何も聞かされず、二人の後をついて行った。
もう慣れたもんだぜっ!!
着いたのはライトアップされた軍の訓練所。
遠くに柵はあるが他には何もない広場ともいう。
「で?こんな場所で何をするんだ?」
「新しい動画の撮影だよ!」
そう言いながら聖奈は覆面を手渡してきた。
「はぁ…次は何をすればいいんだ?」
「今回はアクション多めでお願いします!」
監督の要望は絶対だ!俺はアクトレスだからなっ!ちゃうけど。
「お疲れ様!」
労いの言葉と共に、聖奈からスポーツドリンクというこの世界に似合わない物を渡された。
「私はこれを編集したりしなきゃいけないから戻るけど、後はよろしくね!」
「はい。お任せください」
うん…例によって何も知らない…
でも良いんだ。
これが理想のトップの姿なんだから。多分…
城に戻り、聖奈を見送った後、いつもの様に酒を飲み、就寝した。
「おはようございます」
朝起きると、すぐにミランが寝室に入ってきた。
え?監視されてる?まさかな…
「おはよう。早いな?」
「はい。この後の予定が詰まっていますので、準備をお願いします」
そんな畏まらなくても…
いや、敏腕美少女秘書みたいでこれはこれでありか……なにが?
「予定?そう言えば聞いてなかったが、これから何をするんだ?」
「私達は中央大陸で布教活動します」
「えっ?大丈夫なのか?それは」
折角地球の信者が増えたところなのに、これだとこれまでの努力が水の泡では?
「はい。一人一人の信仰度は目に見えません。ですが、凡その信者の数は把握できます。
このままですと地球の信者の数がこの世界の信者の数を大きく上回ります。
セーナさんの考えでは、ルナ様はこの流れは止められないと仰っていたので、地球にいくら信仰の力が増えたとて、恐らくこちらが呑み込まれることはないと。
ですが、バランスは大切です」
ルナ教を国教としているバーランドの人口は1,000万超。地球ではそれ以上に信者が増えるということか?
「信者の数が一億を超えるのにそう時間は掛からないというのが聖奈さんの見立てです。
他の宗教と違いお布施など、お金や時間が取られることがないというのがその要因だとか。
そして、過激派がいる宗教国家は別として、ネット社会である地球では爆発的に情報が広まり、信者が増える傾向にあると。
そうなるのは時間の問題らしく、それまでにこの中央大陸にもルナ教を布教しなくてはなりません」
「なるほどなぁ…わかりやすい説明で助かったぞ」
聖奈は言葉足らずだからなぁ。まぁ俺が理解する必要はないんだけど。
「はい!私達に与えてくださった以上の力をルナ様に戻すことが出来れば、とセーナさんと二人で考えていました」
「うん。俺もルナ様に出来ることがあればしたいからな。それに力が戻ればもっと話したり出来るだろうし」
この前の会話は長かった。
これまでの事を思うと、劇的に伸びていたんだ。たった1,000万人の信仰の力だけで。
これが二つの世界で同時に増えれば、もしかしたら月が地球や異世界から離れていく事を阻止できるかもしれないしな。
何億年も先の事だけど、元々ぼっちの神様が本当にこの広い宇宙でぼっちになるのは可哀想だし。
『失礼ねっ!』
「…気のせい…だよな?」
「どうかしましたか?」
俺の耳に幻聴が聞こえたせいでミランに訝しまれる。
俺はその声に『何でもない』と答え、朝の支度をした。
「力にはなりたいが、余にそれほどの事を認める決定権はないのだ…」
支度を終えた俺たちがまず始めに向かったのは、水都セイレーンに城を構えるナターリア王国だった。
なぜならここの王様は暇人だからなっ!
予定通り暇そうなカイザー王には会えたのだが、色良い返事は聞けなかった。
「そうですか…仕方ありませんね」
「娘を貰ってくれるなら……」
「このお城は爆発させると気持ちよく崩れそうですね」
ミランさん。脅しに聞こえませんよ?
「じょ、冗談だ!なぁっ?バーランド王よ?」
「そだね」
俺に振るなよ…この話題は極力スルーしたいんだ!
「そうだ!あの北東部にあると言う神聖国はどうだ?あそこの国教をルナ教に変えれば良いではないか?」
「ダメだ。あそこはお布施で成り立っているからな。ルナ教は金品を受け取ることはしない」
大体祈る神様が別のものなのに横取りは出来んよ。
実際に存在する神かもしれないしな。
「では次に向かうのはアーメッド共王国かジャパーニア皇国か?」
「そうだなぁ…ジャパーニア皇国も別の神を信奉しているみたいだからアーメッド共王国かな?」
「そうですね。アーメッド共王国であれば人口も多いので第一候補になります」
まぁここへは簡単にトップに会えるから手始めに来ただけだもんな。
人口から言えば、アーメッド共王国が第一候補で間違いない。
カイザー王からの酒の誘いを断り、俺とミランはアーメッド共王国へと向かうのだった。




