間話 月の神様のお告げ。
サブタイトルを外してみました。なんとなく…
初秋、月見酒に絶好の夜。
俺は聖奈、ミランと共に月見酒を行っていた。
満月の日には普段から欠かす事なく行ってきたバーランド王家の一大イベントだ。そんな特別な日が今回さらに特別になっている。
「ミランちゃんは初めての参加だね!」
「はい。恐る恐る飲んだのですが、これほど美味しいとは思いませんでした」
特別な事とはミランがお酒を飲めるようになった事だ。
聖奈は少量しか飲めない。ビビるくらい弱いからな。だが、ミランは聖奈とは違いかなり飲める。聖奈と同じく割とすぐに酔っ払うが、ミランは酔ってからが長く、聖奈と違い飲む量は多いんだ。酔ってからがミランの本領って感じだな。
「このお団子は年に一回だけですよね?」
「うん。私達の母国では秋の月見に白玉団子を神様に奉納するの」
普通の白玉は大して美味くないが、聖奈謹製の白玉は美味いんだよな。
これもミランエリーの為に創意工夫しているからだろう。
「準備もできたし始めるか」
「うん!久しぶりに月の神様とお喋りできるといいなぁ」
「お願いします」
聖奈はミランが力を授かった時に話をしているから、久しぶりに話したそうにしている。逆にミランは話したことがないから緊張しているな。
ただ、ルナ様は聖奈やミランには見栄を張るだろうな…
以前聖奈と話した時も可愛らしい女の子みたいな喋り方から、しっかり者のお姉さんみたいな口調になっていたし…
俺が不敬な事を思い浮かべていると、脳内に直接話しかけてくる声が聞こえた。
『違うわよっ!!あ、アレはそうっ!本来の私の姿なのっ!』
「………」
威厳が微塵も感じられない台詞に、俺の思考は白く染まる。
「うん。そうなんですね…」
「何の話?あっ!ルナ様!お久しぶりです!」
「こ、これが…神…の、声」
ミラン。そんな畏れ多いものじゃないと思うぞ?
『ごほんっ。初めましての子もいるようね。私が聖に力を与えた月の神、ルナよ』
「は、初めまして。ミランと申します!この身はセイさんに捧げるので、ルナ様には命を捧げます!!」
「いや、重たいから…ルナ様も困るぞ?」
『…………』
実際黙っちゃったし…
『そ、そう。貴女の信仰心はしかと受け取ったわ。話は変わるけど、三人に伝えたい事があって今日は語りかけたの』
「話…ですか?」
基本俺たちが自分達の願いを伝える時にしか、これまで話は繋がらなかった。
もちろん余裕が出来てからは、何かできる事はないかと語りかけはしたが、答えは得られなかった。まぁ神様に叶えられない事を、ただの人が叶えられると思うことが傲慢なのかもしれないな。
そのルナ様から言いたい事とは…
俺たち三人は同様に身を硬くした。
『ええ。貴方達はなぜ、地球の月と、異世界の月の神が、同じ私だと思う?』
「それは…ルナ様が衛星の神様だからではないのでしょうか?」
考えた事はあったが、気にしても仕方ないと思い、それっきりだったな…
確かに聖奈が言うように、全ての衛星の神であれば納得だな。
『違うわ。私は地球の月と異世界の月の神でしかないの。では、異世界とはどんなところだと思うの?』
「パラレルワールドのような、別の次元の世界だと考えています」
うーーん。口を挟む余地なし。
パラレルワールドか…原始の地球くらいから別れた世界とかならここまで違っても違和感ないかな?
『ええ。それに近いわ。ほぼ正解だけど正確には、地球から見たらこの世界は裏の世界ということ。もちろんどちらも表の世界だから、どちらが裏表ってことではないのよ』
つまりソニーは地球でもある…?
ワケワカメ…
『別にそれを深く認識する必要はないわ。それはこれから告げる事の基礎知識のようなものだから』
「基礎知識…ですか」
『ええ』
すでにこんがらがっているからこれ以上聞いても俺にはわからんっ!!
あっ!だから聖奈とミランがいる時に話しかけたのかっ!!
流石神様!!……ぶっ飛ばしていいかな?
『貴方の身体だと勝負にもならないからやめておきなさい?』
「心を読むのはずるいと思う…」
くそっ!こうなったらひたすらエロい事ばかり考えてセクハラするっきゃないなっ!!
『……。このままいくと、地球はこの世界に飲み込まれるわ』
「えっ!?」
えっ!?びっくりしてるの俺だけっ!?それにビックリだわ…
『驚かないようね』
「はい。事前情報から覚悟をしていたので。表と裏であるのなら一つになる事はないですが、この世界と地球はどちらも表であり裏でもある…酷く似ていても別のモノという事であれば、それもあるかと」
そういう事…
「あの…それはいつのことでしょうか?」
そうだ!明日とかならマジどうしようもないぞ!?
恐る恐るミランが聞くと、ルナ様はすぐに答える。
『大丈夫よ。急激な変化で、この世界にベクトルが傾いたけど、遅らせる方法もあるから』
「それは信仰心でしょうか?」
『流石ね。そうよ。私への信仰心がこの世界へ大きな力をもたらしているのよ。といっても、人が扱える力ではないけどね』
信仰心か…
俺や仲間達がルナ様を信奉して、バーランド王国の国教をルナ教にした事が原因だろう…
『この世界に巨大な力が傾き、それにより世界のエネルギーが器を超えたの。地球には前兆として、この世界から零れ落ちた魔力が入り込んでいるのだけど…心当たりはあるかしら?』
「ある…人から魔力を感じるようになったな。僅かにだが」
「えっ?初耳なんだけど?そうなの?」
そういえば誰にもいっていなかったな…地球では使い道が少ないからいいと思い、言っていなかった。
『そうね。すでに影響が出ていることからも、この流れは止めることは出来ないわ。でも遅らせる事はできるから、それを伝える為に今日は話しかけたのよ』
「本来であればルナ様には関係のない事なのでしょうが、私共に目をかけて頂き、ありがとうございます」
『ふふっ。確かに世界が一つになっても私には影響はないわ。でもね、貴方達のお陰で私は以前の力を取り戻しつつあるの。その感謝のしるしだと思ってもらったらいいわ』
いや、お礼のお礼って…無限ループやないかいっ!!
『じゃあね。またお喋りしましょう』
ルナ様がそう告げると、世界に時が戻る。
「初めてお話しできました…」
「話の内容はとんでもなかったけどね…」
「どうするんだ?」
いや、する事なんて一つなんだけどな。
俺たちは酒を空け、気付いたら寝ていた。
「というわけだよ」
昨夜聞いた話を聖奈がみんなに伝えたところだ。
「じゃあこっちの宗教を潰すのか?」
「ライルくん。それはしないよ。ルナ教のお陰でルナ様は力を取り戻しつつあるって言っていたからね」
「じゃあどうするです?」
「こっちでルナ教を伝えた分、地球でも布教するんだよ」
それしかないよな。
しかし、地球ではすでに様々な宗教団体が乱立している。
新興宗教への世間の風当たりは厳しいが……出来るのだろうか。
「というわけで、旅の出発は来春まで延期するけど、私達はこっちにいられないからよろしくね」
「おう。それは元々準備していたから問題ねーよ。頑張ってくれ」
ライル…逞しくなったな…
いや、元々こんな奴だったけど。
かくして俺達は、旅の前に地球で過ごすことになった。




