102話 労力と成果が見合っていないのだが?
「外国船?さぁな。見た事も聞いた事もないな」
帝都から少し離れたところに海がある。俺達はそこで聞き込みを始めた。
「そうか…仕事の邪魔して悪かったな。ありがとう」
「いや、気にすんな。力になれなくて悪いな」
この国の人達は今のところ良い人にしか会っていない。
これは元々そういう国というわけではないだろう。戦争をやめて暮らしやすくなり、税も安くなり生活が楽になった事で、気持ちにゆとりが生まれたからなんだろうな。
「セイさん。どうでしたか?」
「こっちは収穫なしだ」
待ち合わせ場所に行くとすでにミランが待っていた。
「私もです。これはいよいよ手段を選んではいられそうもないですね」
「気は進まないが…そうも言っていられないか」
聖奈にはいつも我慢させている。いや、我慢だけじゃない。こうしている間にも仲間達のためにいつも動いてくれている。その聖奈のお願いは俺にとっては神のお告げに等しい。
それくらいは叶えてやりたい。
俺達は帝都へと再び向かうことにした。
深夜、あれだけ騒がしかった帝都が静けさに支配されている時間帯。俺とミランは黒装束に身を包んでいた。
「帝城にある書庫には以前入ったからすぐに行けるが、どうする?」
「そこの書物は全て記録したのですが?」
「いや、あの時は時間もなく、それっぽいのだけ写真に納めただけだな」
あの時は帝国兵から鎧を奪い、変装して侵入したな。
「では、残りの書物の記録をしましょう。それで戻って中身を確認して、私達が求めるモノがなければ次を考えましょう」
「そうだな。それしかなさそうだな」
結論付けた後、俺達は帝城内へと転移した。
転移するとそこは暗闇に包まれていた。
俺は手に持っていた懐中電灯のスイッチを入れる。
「近くに反応はないから喋っても大丈夫だぞ」
「はい。私は右の棚から記録していきますので、セイさんは反対側をお願いします」
ラジャー!!
最早以前の古書がどれかわからんから、全てを写そう。
俺とミランはカメラ片手に次々と本を捲っていった。
「ミラン。城内で動きがあった。恐らく使用人達が動き出したのだろう。今日はこの辺りでやめよう」
「はい。わかりました」
四時間ほど続けて作業していたが、今日はタイムリミットが来たようだ。
まだまだ残っているから何日かは夜型の生活になりそうだな。
あれから数日、俺達は遂にやり遂げた。
「これだけですか…」
「いや、仕方ないだろ。俺達はよく頑張ったさ。さあ、報告に行こう」
ミランは集められた情報の少なさに肩を落とす。元々わかればラッキーくらいにしか聖奈も思っていないさ。
落ち込むミランの肩を抱き、我が家へと転移する。
「うん。ありがとう。二人とも」
俺達が集めた情報を見て、聖奈は労いの言葉を掛けてきた。
莫大な量の古書ではあったが、聖奈が欲しがっていた情報は一握りもなかった。
「すみません。たったこれだけでは何もわかりませんよね」
「ううん。それは仕方ないことだから。それにわかることは沢山あるよ。
私が欲しかった別大陸の場所はわからなかったけど、これは間違いなく別大陸がある証拠だよ」
聖奈が携帯を見せながらミランに説明している。そこにはアルミの製造方法が記されていた。
確かにこの大陸にはないものだ。失伝したのだとしても、アルミ自体が残っていない理由にはならない。つまり本当にこの世界には別大陸があるということの裏付けになる。
まぁ魔族さんとかが嘘を吐いているとは思えないから、元々あるとは思っているけどな。
「私の方の準備も終わったから、もう少ししたら行くよ。新大陸へ」
「……本気で目指すのか?」
めちゃくちゃリスク高いんじゃ…いや、高いな。
「うん。だって最愛の人の病気を治せる可能性があるのはそこだもん」
「!!そ、そうです!セイさんの病気が治せる可能性が…私は何でそんな当たり前のことを……」
いや、聖奈のことだから趣味で冒険したかっただけだと思うだろう。ミラン、あまり気にするな。
俺は聞いていたから驚かないけど。
「前にも言ったが、魔力依存症はあれから発症していない。命をかけて目指すほどか?」
「セイさんの命より大切なモノはありませんっ!!」
「そうだよ。だから行くのは私とミランちゃんとセイくんの三人なんだよ」
いや、二人が来る意味…
死ぬなら一人でいいんだけど……
「もう一度言うけど、私は絶対行くから。だから止めても無駄だよ」
「…俺に聖奈が止められたことはないだろ?釘は刺しても止められるとは思ってないぞ」
「私も行きます!!」
「……ミラン。死ななくても帰って来られなくなるかもしれないぞ?」
別大陸がどこにあるのかは知らないけど、転移魔法が使える距離なのかは不明だ。
流石に異世界転移は出来るだろうけどな。それも出来なきゃ詰みだ。
「何処までも、何処へでもついて行きます。私の居場所は貴方の傍です」
「……わかった。もう言わない。だが、二人とも。俺は簡単に死ぬ気も、二人を死なせる気もないからな?しっかりと準備はしてくれよ?」
「うんっ!」「はいっ!」
俺のせいで命を賭けた冒険が始まるのは嫌だ。
だけど、二人の気持ちは十分理解出来る。立場が逆なら誰が止めても行くからな。
それに実際はワクワクしている…年甲斐もなく。
聖奈も俺の事を理由にはしているが、行きたいのは本心だろう。
ミランは死ぬなら一緒に死にたい。そう思ってくれている。情けないが、そんな人が側にいてくれたら土壇場で踏ん張れそうな気がするんだ。ありがとう。
俺が別大陸に想いを馳せていると、聖奈が徐に動き出した。
バサッ
「セイくん。これにサインしといてね!」
聖奈が執務机の引き出しから徐に取り出したのは、書類の山だった……またかよ…
「あっ!それと聖くん名義の口座から15億円程使ったからね!」
「おうっ!…えっ!?おく?」
軽く返事をしたが、万じゃなくて億だと……?
「い、いや。別にいいんだけど、何を買ったんだ?」
流石に使い込みとかじゃないだろ?恐らく買い物だろうが、凡人の俺には理解出来ない額だから気になる。
家か?でも、このタイミングで?
あっ!ギャンブルか!聖奈めちゃくちゃ弱いもんな!それなら納得だ。
「家を買ったよ」
「えっ?ポーカーで負けたんじゃなかったのか?」
「……セイくん。そんなバカな金額を掛けられるほど、私は強くもないしバカでもないよ?」
家かよ…いや、別にいいんだよ?金は使わないとな。でも散財するならスーパーカー2台目がほちかった…
「何でかはまだ内緒だよ!まずはバーランドを独り立ちさせないとね!」
「そうですね。セーナさんがいなくても大丈夫な様にしておきたいですね」
それが一番難しいよな。そしてまた秘密かよ。
実はそれが楽しみだったりするから嬉しいけど、内緒だ。調子に乗るからな。
「あの三人はどうしてる?」
「ああ。言うの忘れてたよ。部屋にいなかったでしょ?」
執務室を訪れる前に俺は三人の部屋に寄ったんだ。聖奈が言う通りいなかったけど…お見通しかよ……
「そうだな。どこいったんだ?」
「何と!もう働いているよ!」
「嘘だろ…ガゼルは兎も角、他の二人はガリガリだったんだぞ?」
「うん。私もびっくりしたよ。でも本当に大丈夫そうだったよ」
聖奈がちゃんと見ているなら大丈夫なんだろうな。
「ところでどこに?」
「軍の訓練所だよ。あの三人には軍の指導を頼んだの」
!!そうか…適材適所だな。
「彼等には軍略や戦略の知識はなかったけど、戦争の知識は凄いね!伊達に戦争屋って呼ばれているだけはあるねっ!」
「テントの貼り方から炊き出し、歩き方、心構え、実用的な戦術とかか」
「うん。経験者がいて助かるよ」
北西部は長い間平和だったから、戦争の知識はあっても経験は少ないからな。帝国戦はあったが、あれは一度きりだし。
テントの貼り方、野営の方法も時と場合により変化するみたいだしな。その知識としてそれを知っていても、どんな状況でそれが変化するのかは経験しないと掴めないもんだよな。
二人はしなくてはならないことに向かい、俺はサインマンと化した。
15億って、どんな家なんだ?空飛ぶかな?




