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101話 終着駅。

 






「セイ様。困ります…」


 美女の困った顔って何でこんなに……ええやないか、ええやないか!

 ごほんっ。

 国境の守備隊長が魔族の人だったからすぐに身バレして、今はナタリーさんに迎えに来てもらい、馬車で移動中なう。


「悪かった。バレないと思ったんだが…甘かったな」


「いえ、バレなきゃ良いみたいに言われても困ります」


 でしょうね…すまそ。


「それにしても、ナタリーさんは来られるのが早かったですね?」


「はい。偶々近くに来ていたものですから…万がいいのか悪いのか…」


 城にカイゼル皇帝お墨付きの転移部屋があるから、転移で城に行っても良かったけど、そこは国に関する事や、緊急事態にしか使わない約束だからな。

 多分気にしないと思うけど。


 ナタリーさんには悪いと思うが、偶には馬車に揺られるのも悪くないな。

 ミランもナタリーさんの事は知っているから機嫌を悪くしないし。むしろ馬車の旅で少し浮かれている感がある。

 昔は俺達も馬車で移動してたもんな。懐かしいぜ…


 そんな久しぶりの馬車旅はあっという間に終わった。











「バーランド国王が城門から入ったのはあれ以来だな」


 ここはジャパーニアの城内の一室。そこで歓待を受けていた俺たちのところへ、カイゼル皇帝がやってきた。


「息災なようで。今は旅の冒険者だからな。悪いな、忙しいだろうに」


「いや、構わん。始皇帝の同郷を歓待するのはジャパーニア皇国の本懐とも言えるからな」


「お久しぶりにございます。この度はこの様な場を設けていただき、感謝の言葉もありません」


 ミランがミランさんしてる…

 背伸びはすぐに疲れるぞ?

 まぁミランに限ってそれはないか。


「おお。ミラン嬢ではないか。そろそろ婚姻の時か?」


「私もそろそろ行き遅れになります。国王陛下に早く貰って欲しいとは思いますが…」


「なんだ…この様な才色兼備の女性を遊ばせているとは…彼の魔王は奪われても良いと思っているのか?」


 ダメに決まってんだろっ!!ぶっ飛ばすぞ?!


「それとも我が娘を……いや、冗談だ…」


 ミランの前でよく言えたな?

 まぁ睨まれて途中までしか言えなかったけど。


 俺には嬉しい(?)ことに他国から婚姻の打診が数多く来ている。その中でも一番しつこいのは水都があるカイザー王…いや、娘のアメリア王女だ。

 …この話は忘れよう。


「話は変わるが、この後はまさか…?」


「ああ。南東部に行く予定だ」


「やはりか。最近は大人しいと聞くが、気をつけてくれ。バーランド国王はこの大陸にまだまだ必要な人材だからな」


 ジャパーニアは良くも悪くも見て回るところがないんだよな。

 国自体は良心的な転生者の意向がふんだんに盛り込まれていて、大変素晴らしいのだが、俺からしたらつまらないとも言える。

 聖奈が頑張っているバーランドの方はザッ異世界の見た目で楽しいけど、ここには遊び心はないからなぁ。

 日本でいうと、廃れた田舎町って感じだ。


 よって、素通りして南東部を目指そうと思ったが、見つかってここに至るってわけだ。


「俺は自国の利益になることしかしていないぞ?」


「それでもだ。過ぎた力を持っているものが、セイで本当に良かったと思っている」


 それは同感だ。もし聖奈が持っていたら、この世界の美少女は皆誘拐されていたことだろう。南無阿弥陀仏…


「では、好きなだけ滞在してくれ。また会おう」


 そう告げるとカイゼル皇帝は部屋を出て行った。

 普通の王様は忙しいんだろうな…

 例外は水都の呑んだくれ王と俺くらいだな……


 その日はお言葉に甘え、城に留まった。














挿絵(By みてみん)


「いつ見ても凄いですね」


 俺達は今、山の頂にいる。

 ジャパーニアで見るところはなく、朝起きて準備を整えたら大陸横断山脈の山頂へと転移したのだ。


「この光景は中々見れないもんな」


 眼下には低い山々が見え、左右を見渡せば尾根が延々と延びている。

 まるで壁の様に見える山脈は、まず地球ではお目にかかれないだろう。


「じゃあおんぶで『お姫様抱っこで』…わかった」


 山脈を駆け降りるには、ミランの身体能力では心許ない。おぶって降りようかと提案したが、姫はお姫様抱っこをご所望である。


「大丈夫か?」


 抱き上げて、確認を取ると


「はいっ!お願いしますね!」


 満面の笑みで答えてくれた。

 こんな事で喜ぶなら偶にするのもアリだな。帰ったら聖奈にもしてやろう。

 それで王都を走り回るんだ。絶対恥ずかしがるぞ!


 俺はほぼ崖になっている山肌を駆け降りた。












「何だこれは…」


 俺達は山脈を降り、グリズリー帝国へと入った。そして近くの町へとやって来たのだが、そこは想像していた町とは違った。


「安いよ安いよっ!今日だけ!今日だけお肉が半額だよっ!」「お兄さんっ!今日は可愛い子が入っているよ!ご新規様は半額だから是非来てよっ!」

「順番は守ってくださーい。ちゃんと在庫はありますから〜!」


 めちゃくちゃ賑わっていた。

 ここが帝都ならわかる。あそこは物も人も集まる一大都市だからな。

 だがここは地方の…それも国境近くの町だぞ!?


「すごい活気です…バーランド王国の王都に負けない…いえ。人口比率からすればこの盛り上がりはバーランドが負けていますね」


「そうだろうな…こりゃ地球でも祭りくらいの盛り上がりだぞ……」


 トマトとか投げられないよな?牛に追いかけられたり…


「こんにちは。すごい盛り上がりですね。何かのお祭りですか?」


 俺とはぼっちになった理由が違うミランが、その社交性を遺憾無く発揮している。流石だぜべいびー。


「まぁめんこいお嬢ちゃんだこと。ウチでは毎日こんな感じさぁ。少し前にお上から沙汰があったみたいでなぁ。税金が軒並み半分になったもんだから、みんな財布の紐が緩んどるのさぁ。

 後、息子達が徴兵から帰って来てくれただぁ。これからは母ちゃん孝行してくれるいうもんで、わしゃこうしてぶらぶらできるんだぁ」


「そうだったのですね。それは良かったです。これからは息子さん達にたくさん甘えてくださいね。教えて頂きありがとうございました」


 天使ミランは訛りが強い御婦人にそう伝えると、すぐにこちらへと戻って来た。


「だそうですよ」


「あの皇帝達はいい道を選んでくれた様だな。連邦も同じ様になれば楽なんだがなぁ…」


「国も人もそれぞれでいいのではないでしょうか。皆同じでは新しいモノが生まれません」


 俺は酒が飲めたらいいから別に新しいモノはいらないんだがなぁ…

 でも多様性を重んじる風潮は地球でも始まったばかりだ。この世界ではまだまだ受け入れられないだろう。前に倣えの精神がまだまだ根付いている。

 だから王制が横行しているんだよ。多様性が受け入れられたら、聖くんが最初に断頭の露に……


「ま。国民が困ってないならそれが一番だな」


「ですね。この調子だと他の街も盛り上がっていそうですね」


 俺はパリピじゃないから静かな方が好きだけど。

 でも、この盛り上がりに水を差すほど無粋でもないから楽しむけどな。


「よし!折角だし色々見て回ろうか」


「はいっ!デートですねっ!」


 うん…デートの安売りはやめよ?















 様々な街を渡り歩き、俺達はついに南東部を支配するグリズリー帝国の帝都へと辿り着いていた。


「ここがゴールですか。何だかあっという間でしたね」


 寂しそうにミランは言うが、ゴールは別の場所にある。


「いや、それはまだ早い。俺達の旅の目的は聖奈の求める情報を手に入れる事だ。それにはまだまだかかるだろう。一緒に頑張ろうな?」


「勿論です!この街で見つかるといいですね。あ…見つからない方が一緒にいられるので、やっぱり…」


 うん。そんな可愛いことを声を出して言うのはやめよ?おいちゃん飴ちゃんくらいしか出せないよ?


「とりあえず宿だな。高級宿に泊まろうな」


「良いですね!今日は明日に備えて英気を養いましょう!」


 とか何とか言って、酒が飲みたいだけなんでしょう?

 賛成ですっ!!

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