99話 ドキドキッ!大脱走計画っ!
ガゼルの話を纏めるとこんな感じだ。
1.金払いが良く、嫌いな神聖国と戦える方を選んで傭兵稼業を続けていた。
1.負け戦ばかりだったが、ナードの嗅覚により死ぬ事は避けられてきた。
1.負け戦で前金以外の収入がなかったが、それでも男だけの生活だから普通に暮らせていた。
1.小国家群統一戦争もいよいよ大詰め。残された国は二つで、ガゼル達三人はこの国にやってきた。
1.戦は至る所で開戦した。ガゼル達も戦ったが、とある戦場でそれは起きた。
「つまり、ナードの嗅覚で戦場放棄したことにより、二人は捕まったのか…」
「そうだ。俺は何とか兵士共から逃げられたが、二人は捕まっちまった」
つまり、それによりガゼルは傭兵稼業が出来なくなり、無一文になったと。
「わかった。助けに行くぞ」
「え…いや、セイまで捕まったら…二人もいい顔はしないぜ?」
「ごちゃごちゃ言うなよ。処刑される前に行かないとな」
「いや、それなら俺一人で…」
俺達二人がごちゃごちゃ言っている間、ミランは静かに酒を飲んでいる。
頼むから脱がないでね?
「俺達は友達だろ?なら困った時は助け合うもんだ。それとも俺はもう友達じゃないのか?」
俺の言葉にガゼルは目を見開き、ミランはコップの酒を飲み干した。
「流石セイさんですっ!!」
「うん。黙ってて」
酔っ払いは無視だ。
「そうだぜ…連れはずっと連れだ。セイ。力を貸してくれ」
「勿論だ。三人には美味い酒をご馳走してもらおう」
俺達の貸し借りは酒で相殺されるからなっ!!
「ここだぜ。多分地下牢にいると思うけど…」
ガゼルの案内で訪れた…いや、忍び込んだのは罪人が送られる牢獄。上は衛兵の本部になっているみたいで、地下に牢屋があると思われる場所だ。
そんな灰色の無機質な建物を、俺達は見上げている。
明日は雨かもな。夜空に星が出ていない。俺達にとってはおあつらえ向きな暗闇だ。
「どうやって入るんだ?入り口は兵士が見張ってるぞ?」
「建物に窓はないな。じゃあ非常口を開けて入ろう」
「?」
パンが無ければケーキを食べればいいじゃない!
入り口がないのなら作ればいいじゃないっ!
ちなみに酔っ払いのミランはバーランド王城に送り届けた。
「おりゃ!」
ポイっ
カンッカンッ…
ドンッ
「いっ!?」
俺が投げた手榴弾は少し高価なやつ。
丸い安物ではなく、持ち手付きの爆発力が高い手榴弾だ。
煙が晴れるとその向こうにある壁が崩れていた。
「すげぇ…あそこから入るのか?」
「違う。アレだとあそこだけに兵士が集まりすぎるからな。まだまだ入り口を開けるぞ」
入り口はなんぼあってもいいですからねっ!
俺はその後も手榴弾を投げ続けた。
小学校ほどの大きさの建物に十以上の入り口を量産した俺は、遂に侵入することにした。
兵達は穴に群がっていたが、数が増えるにつれ、一つ一つの穴にはそれほど多くはいなくなった。
「これ以上は建物が崩れる危険がある。行くぞ」
「下敷きは勘弁だぜ…」
俺もだよ。
兵の少ない穴に向けて、俺は足を踏み出した。
「何者だ!?」
そう聞かれて答えると思ってんのかな…
テンプレを告げた兵士は俺の拳により沈められた。
「剣は使わない。コイツらに罪はないからな」
武器を取り出さない俺を不審に見つめるガゼルに告げた。
「そ…う、だな。悪いのは俺たちの方だ。わかった。俺も自衛以外では使わねーぜ」
「ああ。まぁ兵士は任せろ。とりあえず地下牢に続く階段を探すぞ」
俺達は混乱に乗じて、建物の探索を始めた。
「あったぞ」
俺が部屋の入り口に立ち、兵達が来ないか見張っていると部屋に入ったガゼルから報告がきた。
部屋の奥の扉をガゼルが蹴り破るとその先は階段になっている。
「よし。俺が先に降りる」
もし下に兵達が沢山いるとまずいからな。魔力波の反応では罪人か兵かは見分けがつかないんだよな。
階段を降りると下は薄暗い程度に灯りがある。
降りた先の廊下は左右に檻があり、中に一人づつ入っているようだ。
廊下の先は40m程で曲がり角になっているようだが、看守などは見当たらなかった。
「大丈夫だ!」
上に声を掛けるとガゼルがすぐに降りてきた。
「くせぇな…」
「水浴びがないどころか、トイレもあの桶にしているのだろう。仕方ないっちゃ仕方ないな…」
降りてきたガゼルはすぐに鼻を押さえて顔を顰めた。
俺も我慢してんだ!オーガの丸焼き程じゃないしな!
「とにかく早く探すぞ」
「おうっ!」
俺は右の牢屋を、ガゼルは左の牢屋を見て進む。
「バックス!!ナード!!無事かっ!?」
この地下牢は突き当たりを曲がると右にいくつもの通りがあり、その通り全ての左右に牢屋があった。
バックスとナードの二人はそんな通りの一つの丁度半分辺りの牢屋に別々に入れられていた。
「ガゼル…か?どうして…」「………」
バックスはガゼルの顔を見るが、現実として受け入れられていない。
ナードは相変わらず無言だが、生きてはいるようだ。
「セイが協力してくれてここまで来れたんだぜ!さあ!脱出するぜっ!!」
「セイ…セイ!?」「………」
「驚いているところ悪いが、兵達が集まる前に脱獄するぞ」
俺たちがぶっ壊した地下階段の入り口に少しずつではあるが、魔力が集まってきている。
もういつ突入されるかわからん。
「セイ…逃げてくれ。最後に顔が見れただけで十分だ」
「…そう。ここからは流石に逃げ出せない。みんな死ぬ」
この地下牢の入り口は二つしかないらしい。そこを抑えられると脱獄は不可能。二人は時間がない事を理解し、俺とガゼルだけでも生きて欲しいとお願いしてきた。
「悪いが俺は友達を見捨てられない性分でな。ガゼルもだろ?」
「あたりめーよっ!!死ぬなら連れと死ぬぜっ!!」
「…バカヤロウが・・・」「アホゼル……」
うん。ナードのはただの悪口だろ。
「で?どうすんだ?どうせセイの事だから策があるんだろ?」
「策なんてない。ただ、魔法があるだけだ。忘れたか?俺は転移出来るんだぜ?」
捕まっている二人は、その言葉を聞いて思い出したのか歓喜に震えだした。
「と、その前に」
このままだと、目撃者が多すぎる。他の罪人には悪いが、目隠しになってもらおう。
「少し待っていてくれ」
俺は三人にそういうと、剣を取り出しその場を離れた。
俺が向かったのは廊下の突き当たり。そこで剣を構え、鉄格子を…
「はっ!!」キィンッ!
斬った。
「さあ!兵士が来る前に逃げるんだ!ここで待てば死刑になるだけだぞ?」
「えっ…」「マジか…」
俺は次々と鉄格子を斬り、脱獄犯を量産した。
そして二人が捕えられている通りの牢を全て破ると、三人と合流する。
「よし!じゃあ俺達は消えるとするか!みんな、俺を掴め」
「おうっ!」「頼む」「……」
三人が肩に手を乗せた事を確認すると、慣れた詠唱を紡いだ。
「『テレポート』」
脱獄犯達と兵達の戦闘音が木霊する地下牢から、俺達は消えた。
「ここはどこだ?」
月明かりが差し込む部屋でそう声を出したのはバックス。
「ここは俺の家だな」
「セイの家?」
「そうだ。バーランド王国の王城の一室だな」
「「「えっ!?」」」
三人の声がハモる。
「バーランドって…前に聞いた山脈を超えた先にある大国だろ?一瞬だぜ?」
「それが転移魔法の凄いところだからな。ここは客室だから、三人には暫くここで暮らしてもらうことになる。いいか?」
「いいもなにも…サンキューな」
「感謝する」「…ありがと」
良かった。この三人の事だから、なんて言うか予想出来なかったからな。
「じゃあ少し待っていてくれ。とりあえず風呂と飯と酒を用意させるから」
「酒!?流石心の友っ!!」「セイは神」
話によると二人は二ヶ月以上酒を飲んでないらしいからな…
それよりも臭いが…風呂の方を喜べよ……
三人を部屋に残し、部屋の前に待機させていた侍女に後を任せた。
俺は魔王様に報告せにゃならんからな…




