95話 オークション再び。
「もう少しでトンネルですね」
コンの背に揺られること数時間。無事に北西部と北東部を繋ぐトンネルまで来られたようだ。
「ミランは疲れていないか?」
「はい!まだまだ元気です!」
「ははっ!そうか。じゃあトンネルを越えたところにある宿泊施設まで頑張ろうか」
『頑張るのは妾じゃ!』と聞こえた気はしたが、気のせいだろう。
この街道は国の威信を掛けたもの。その為、警邏の兵士も数多くいて、すれ違うたびに身構えられたが、コンの背に乗っているのが俺とミランだという事に気づくと、道の端により、敬礼をして見送ってくれた。
流石聖奈。教育が行き届いている。
本日はトンネルを越えた先にある、新しく作った宿場町で一泊する事にした。
「漸くアーメッド共王国に入ったな」
自国では一泊のみで、今や隣国であるアーメッド共王国との国境を跨いだところだ。
もちろんアーメッド共王には連絡なしでの入国なので、身分は冒険者としてのものだ。
共王国では以前商人としての身分で暴れてしまったので、今回は使いづらかったのだ。
「はい!この辺りまでなら来たことはありますが、王都へは伺った事がないので楽しみです!」
「そうか。ここはそこまでではないが、共王国はいろんな文化が混ざっていて、見ているだけでも楽しいぞ」
ここは国境付近。北西部の獣人を見慣れない人達も多く訪れている。人種も違えば価値観も違う。
トラブル減少の目的から、この国境付近には人族に慣れた獣人や共王国の人族が多い。
『懐かしい匂いがするのじゃ』
「獣人の国だからな。ただ、コンが知っている獣人とは少し違うぞ」
『にゃ?どう違うのじゃ?』
「コンの知っている獣人は野生に近いんだ。こっちの獣人は文化人だな。一番の違いは喧嘩を我慢できる事だと思うぞ?」
コンの山の麓に住んでる獣人をよく知らないが、コンから聞く話では喧嘩は日常茶飯事らしい。それに狩猟が殆どで、農業はあまりしないと聞いた。
この国の獣人とは大違いだろう。
もちろんどちらが良いとか悪いとかは全く思わないがな。
「とりあえず王都ターミナルを目指そう」
「はいっ!」『わかったのじゃっ!!』
タクシーからも良い返事が出たな!頑張ってくれっ!
『ひぃっ!?なんでおってくるのじゃぁ!?』
乗り心地の良かったタクシーは見る影もない。
追っ手から逃れるために全力で駆けるものだから、前に乗るミランが飛んでいってしまいそうだ…あぶねーな。
「魔物と勘違いされているのだろうな」
「っ!!」
この国の獣人は文化人だが、根が戦闘狂なことには変わりない。
コンを見かける度に新たな獣人に追いかけ回されているんだ。流石は神獣、すぐに置き去りにするんだけど、向けられた殺気でプチパニック状態だ。
ミランはコンの乱暴な速さに、目を瞑って口を一文字に引き締めている。
『妾は魔物ではなく、神獣じゃあぁああっ!!』
「そのまま真っ直ぐでいいぞぉ」
コンはパニック、ミランは可愛くびびっていて、俺はのんびり指示を出す。
この調子なら早く着きそうだな。
王都までは、後二日。(聖調べ)
「わぁ…城壁がありませんね…」
俺がいつぞや来た、王都ターミナルを見下ろせる丘に俺たち3人はやって来ていた。
眼下に広がるのは、河沿いに放射状に広がる街並み。遠くには相変わらず海が見える。
「敵がいないからな。魔物すらすぐに駆逐されてしまう国だし」
「平和なのか乱暴なのかわかりませんね」
「良くも悪くもわかりやすい国民性だな。中には豚みたいな貴族もいるから気をつけるんだぞ?」
いや、豚獣人だったか…
「ブータメン殿のことでしょうか?今ではバーランドの食肉の5%をブータメン殿から輸入していますね」
「豚さん…頑張ってたんだな…」
ウチの食肉の5%ってかなりの量だぞ。態度は悪いが仕事の出来る豚さんだったのか…
『ここで眺めていてもつまらないのじゃ』
「そうだな。行こうか」
「はいっ!!」
俺は久しぶりのターミナルへと足を踏み出した。
ターミナルを軽く散策した後、以前泊まっていた宿にまた泊まることになった。
「綺麗ですね」
「この辺りでも高級な宿だからな。…それよりもやっぱり同室なのか?」
コンはペットだからどこでもいいんだが、ミランは旅の間は同じ部屋で寝ると譲らなかった。
目的は定かではないが『離れている間に何かあれば、仲間達に顔向けできません』なんて言われたら断れないよ…
「…私と一緒は嫌…ですか?」
「嬉しいなぁっ!!久しぶりの2人きりだぜっ!!」
そんな悲しそうな顔をしないでっ!!
『妾もいるのじゃっ!』
うるせえっ!!今は黙ってろ駄狐!!
急に始まったこの旅だが、目的がないわけではない。
聖奈のやりたい事に繋がる情報を集める事が目的なのだが、基本は旅を楽しむ事だ。
ミランとの旅は楽しいのだが、時折異性をアピールしてくるので気は休まらない。せめて寝る時くらいはと、交渉したのだが…そんな潤んだ瞳で見つめられたらおじさん何も言えないよ……
「よ、よし。じゃあ寝ようか」
「はいっ!」
ミランは元気に答えると俺のベッドに潜って来た。
同室はわかる。俺が依存症を発症したら困るもんな。でもな、何故ツインではなくダブルなんだ……
俺の睡眠不足の旅は幕を開けたばかりだ。
「すごい熱気です」
今日はオークション会場にミランを連れてやって来た。
宿の目の前だから迷わないしな!
「何でも競売にかけられるからな。人生をかけている奴、道楽で来ている奴、みんなそれぞれの想いで参加している。共通点は皆が大金を持って来ているということくらいだ」
販売物はそれこそ奴隷から魔導具と多岐に渡る。今日は魔導具の日だから奴隷は売られていないがな。
どれも最低落札価格はバーランド国民の平均年収ほど。そりゃあ熱気も凄かろうて。
「ミランは何か欲しい物があるのか?」
「いえ。…婚約指輪が…」
俺は難聴系主人公だからな。何言ってんのか聞こえねーぜ!
ちなみに俺は今回で十回目の参加だ。何故こんなにも多いのかと言うと、聖奈命令で一時期、魔法の鞄を落札する為に通っていたからだ。
お陰様で今では五つの魔法の鞄を俺たちは所持している。
ミランの腰にも容量は少な目だが、魔法の鞄がぶら下がっている。
「おっ。アレはまさか…」
俺は次の競売品に目を奪われていた。
「はい。あれはエリーさんの発明品ですね」
「やっぱりか…凄いな、エリーは。こんな異国でも価値が認められて、みんなに欲しがられているのだから」
「はい。同じ仲間として誇らしいです」
こういう時、ミランは決して卑屈にならない。今回も悔しさ嫉み羨望などは感じられない。優しい笑みで誇らしく思っているのがありありと感じられた。
ホント、良い子だよ。ミランは。
俺なら仲間が頑張っているのに俺は…って卑屈に思いそうだもんな。
まぁエリーには嫉妬なんかしないけど…
『それでは!本日の目玉の紹介になります!』
そろそろ帰ろうかと思えば、司会者のそんな声が聞こえた。
『この金属球は炸裂の魔導具です!その殺傷・・・・』
その競売品に目を向けると、司会者の声は耳に入らなくなった。
「あ、あれは…」
「はい…手榴弾ですね」
そう。その競売品とは俺が地球から持ち込んだ手榴弾だった。
どうしてあれがこの街に流れているのか、その理由はすぐにわかることとなる。
はぁ…聖奈の指示以外はただ楽しく旅をするつもりだったのに…
俺は苛立ちを込めて、手榴弾を落札した。




