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93話 誘拐は異世界の専売特許じゃないぜ?

 





「ひ、聖!逃げるんだっ!」「そうよっ!お父さんとお母さんの事は忘れなさいっ!」


 よし。ゴミみたいな魔力の反応は消えたな。

 二人が似合わない事を言っているが、こんなのでもやはり親らしい。子供が可愛いんだろう。


「大丈夫だ。さっ。帰るぞ」


「「えっ?」」


 説明は聖奈に一任しよう。恐らくもう迎えにきている。

 俺は両親を伴い、暗い倉庫を後にした。


 やはり魔力波で感じた魔力は聖奈のモノだったか。まぁこの世界ではかなり大きいから間違えようもないけど。


「聖奈。二人には何も話していない。俺は片付けがあるから先に帰って説明をしてやってくれ」


「うん。気をつけてね」


「な、何が何やら…」「助かったのよね…?」


 両親は理解が及ばないようだ。

 まぁ当然か。後は聖奈にお任せだぜっ!!


 俺は後片付けのため、暗い倉庫内へと再び入っていった。










 聖奈から遅れること二時間と少し、片付けを終えた俺はレンタカーを返してホテルへと戻ってきていた。

 親父達の反応が怖く、暫し扉の前で入るか迷っていると、部屋の中から笑い声が…なんで?


 ガチャ


 俺は意を決して、ドアを開けた。


「あっ!おかえりなさい!」「いつまで待たせんのよ」「聖!聞いたぞ!」「もうっ!お母さんまで騙す事ないじゃないっ!死んじゃうかと思ったわよ」


 う、うるせぇ…

 俺は聖徳太子じゃないんだ。そんな一度に話しかけるな!


「ただいま。あれ?なんか雰囲気が…ん?騙した?」


 なんだ?何がどうなっているんだ?


「あっ。聖くんが、外国を甘く見ているお義父様達に危険を知らせる為の今回の催しはもうバラしちゃったからね!だからもう演技をしなくていいよ」


「そうよ。ちゃんと犯人役の人達にギャラ払いなさいよ。後、私にも」


 ん?…まさか、ドッキリで押し通すのか?

 いや、待てよ…確か以前親父達に英語も碌に話せないからガイドさんくらいつけろって注意したな……

 なるほど…聖奈はそれを覚えていて、今回の出来事は事件ではないと親父達に説明したんだな。

 姉貴には――こっちを見ているという事は、知っているってことか。

 まぁ、黙らせる為に力の一端を見せたから言い訳できないわな。


「なんだよ…俺がバラしたかったのにな。まぁそういう事だ。これに懲りたら次からはガイドを付けることだな」


「ああ。母さんとも話したが、そうするつもりだ」


「ええ。でもあの役者さん達…縛るのがキツすぎだってちゃんと言っておいてね。母さんの手を見てよ。青くなってるのよ」


 奴らは本気で縛っていただろうからな。

 それくらいで済んで本当に良かったよ。

 姉貴も口調はいつも通りだけど、俺を見る目がいつもと違う。どう違うのか説明は出来ないけど、演技は俺と同じく下手くそってことだな。


「と、いう事で、これからみんなで観光する事になったよ!」


「やっと家族旅行らしくなったな…」


「何を言っているのよ。初めから家族旅行だったわよ。ね?お父さん」


 いや、あんた達はそうだろう。

 俺だけぼっちの放置だったんだぞ!!なんかラップみたいだな…韻踏んじゃったよ……





「どこに行くんだ?」


「みんな大聖堂が観たいんだって」


 先頭を行く姉貴に親父達がついて行き、最後尾に俺と聖奈が並んでいる。

 昨日までなら姉貴の鶴の一声で俺が先頭だっただろうが、昨日の事があったからか、進んで先頭を買って出てくれた。


「姉貴は親父達を見て、大丈夫だったのか?」


「ふふ。いきなり会わせるわけないでしょ?ちゃんとお義父様達を別の部屋に案内してからお姉ちゃんに説明しに行ったよ」


 流石聖奈。

 いきなり会わせたら号泣してしまい、後から実は演技だったなんて誤魔化せなかっただろう。

 まぁそこは姉貴ごと騙したと伝えても良いけど、姉貴を騙す理由はないからなぁ。


「お姉ちゃんにはある程度伝えたよ。もちろん異世界の事は伝えていないけど、アレは後から聞いてくる感じだね」


「…はぁ。覚悟はしていたけど、実際バレると説明がめんどくさいな…」


 どこまで話せばいいんだ?


「大丈夫。またストーリーを作ったから!」


 うん。また嘘に嘘を重ねるんだね。

 その内、ボロが出るよ。


「流石に転移の事は魔法であれ異世界であれ拙いからね。後、魔法も秘密にするね。あくまでも教えるのは、聖くんが人外の力を持っているってことだけだよ」


「お、おう。任せた」


 俺が考えても穴があるからな。


 この時の事を俺はすぐに後悔する。

 聖奈の作り話はめちゃくちゃ長く、覚えるのに手間取った俺は、一人だけ観光どころではなかった……













「今回も楽しかったわぁ」「ありがとうな。聖奈ちゃんも色々と準備してくれてありがとう」


 日本へと帰ってきた俺達は、親父達を実家に送り届けたところだ。

 さて…長いようで短かった海外旅行が終わった。帰ろう…ミラン達が待つ、俺達の家へ。


「聖。聖奈。ちゃんと話しなさい」


 ……もう一人いた。忘れたくて、本当に忘れていた奴が。


「ゆっくり話せるところに行こっか」


「ええ。任せるわ」


 俺は帰ってもいいかな?


 もちろんそんな訳にもいかず、人気のない所まで車で走り、そこで姉貴に説明することになった。




挿絵(By みてみん)


「そう…何だか納得出来たような出来ないような……」


 夜の海が見える高台へと車を停めた後、聖奈の話が始まった。もちろん俺は頷きマンへとジョブチェンジしたよ。


「それはお姉ちゃんが医療従事者だからだよ。でも医学でもわからない事が世の中にはたくさんあるよね?聖くんは現代医学では計れない希少な存在って事だよ」


「…そうね。普通成人男性の筋繊維の密度では出来ない事をやってのけたもの。もし同じ事をやろうと思えば、聖の腕の太さは五倍じゃきかないわね」


 あれは身体強化レベルでは三倍程度でも出来るからな。

 単純に筋肉だけ三倍という訳にはいかない。骨密度が同じなら骨の太さも倍以上はいるだろうし、その他の俺が知らないモノも増える。となれば五倍じゃきかないんだろうな。


「聖が人外なのはわかったわ。…貴方達は一体何をしているの?」


 姉貴が聞きたいのはこれなんだろうな。

 確かに、弟が大学を中退したと思えばいきなり社長になって、しかもそれが瞬く間にグローバルな会社へと急成長した。

 家族でなくとも、おかしいと思うよな。


「会社はそうだね…私が隠れ蓑として運営してるの。もちろん隠しているのは聖くんのことだよ」


「依頼者はアメリカ?」


 ん?何の話だ?


「うん。大口はそうだね。後は日本もだし、顧客は世界中にいるよ」


「そう。それなら納得だわ。家具を売ったりしているだけであんなに急に会社が大きくなるはずないものね」


「ふふ。バレちゃったね」


「財源がその依頼料なら納得よ。所謂マネーロンダリングに近い事業だったとは思わなかったわ」


 ……そういうことか。

 聖奈の説明では、ア○ンジャーズみたいに目的はないけど、各国の政府に雇われている。その為、この秘密を口外すると姉貴にも危害が……とかなんとかだったが。

 今はその雇われた金で起業して、さらにその後の依頼料を資金洗浄しているって話か。

 アメリカ政府に知り合いなんていないんだがな。


「じゃあピストルとかも持っているの?」


「勿論だよ!武器は色々とあるよ。保管が大変だけどね」


「それはそうよ。この国では何一つ武器の所持は許されていないもの」


 なんで和気藹々としだしたんだよ…


「聖くん。…ひ・じ・りくんっ!!」


「んあ?なんだ?」


 あまりにも二人が盛り上がっていたからぼーっとしていたぞ…


「お姉ちゃんにもアレ見せてあげてって話だよ!」


「あれ?」


 いや、拳銃は暴発が怖いんだが?


「剣だよ。剣」コソコソ


 俺がどうすればいいのかと考えていると、聖奈がこっそりと告げてきた。

 あー。なるほど。


「ちょっと待ってろ」


 俺はそういうと、車へと戻り、魔法の鞄から異世界の剣を取り出して、二人の元へと戻る。


「これがそうだよ!聖くん。見せてあげて」


 チャキィンッ


 鯉口を切り、刀身を剥き出しにしたそれは妖しく紅く輝いた。


「え?光ってる…まさかオモチャじゃないでしょうね?」


「そう思うなら持ってみろよ」


 俺が手渡したそれは光を失い、姉貴のバランスも失わせた。


「お、おもっ!?」ザッ


 姉貴は俺があまりにも軽く持っていたから油断したのだろう。剣先が地面にめり込んでしまった。


「えっ!?アスファルトよ!?」


「そうなの。聖くんが使うには普通の剣だと斬れ味も重さも耐久力も足りないの。光っていたのはちゃんとした持ち主じゃないと本来の力を発揮しないようにしているからだよ。だからお姉ちゃんが持っても光らず、普通の剣より重たくて斬れ味が少しだけいい剣になるの」


 …魔力を説明しなくて済むにはこの説明が限界か…。

 まぁ姉貴には不思議武器を見せて、話に説得力を持たせられたらなんでも良かったんだろう。


 エリーに異世界産の名剣を改造してもらっておいて良かったよ。次は『力が欲しいか?』って喋る機能だなっ!!


 納得した姉貴を送り、漸く俺達は帰路についた。

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