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86話 ミランの暴言(妄想)。

 






「えっ?連れて行くのってコイツか?」


 昼前に目覚めた俺は、準備を終えて聖奈が待つ執務室へとやって来ていた。


挿絵(By みてみん)


 名目上は俺の執務室なんだが、城で働く者達含めて皆が聖奈の部屋だと知っている。

 そんな自分の執務室に久しぶり足を踏み入れると、中には護衛の近衛騎士と聖奈、それと知らない兵士がいた。

 聖奈曰く、連れて行くのはコイツらしいが…誰?


「あー。その顔はこの人が誰か知らないって顔だよねっ?臣民の名前も知らないなんて…」


「いや、1000万もいるんだぞ?覚えられるわけないだろう?」


「うん。全員は無理だよね。でもこの人は見覚えあるんじゃない?」


 …何だよ。寝起きでクイズなんて出されても頭が回らんぞ?

 えっ?普段から回っていない?

 回っているのは酔いだけ?

 誰が上手いこと言ってんだよっ!!


「うーーん。わからんなぁ…」


 俺の凝視を受け、その兵は固まっている。可哀想だから視線を外してあげよう。


「覚えてないかぁ…この人はね。元連邦の兵で、セイくんが誘拐してきた人達の内の一人だよ」


「そんなんわかるわけねーだろっ!!何人運んだと思ってんだっ!?」


 真剣に悩んだ時間を返せっ!!


「ふふっ。でもこの人からすると、セイくんの顔は忘れられないんだよ?」


「そりゃまぁ…そうだろうな。人生を狂わせた張本人なんだから」


 俺が聖奈にまたもや言いくるめられそうになっている時、聖奈がその兵を促した。


「お、お目にかかれて光栄にございますっ!国王陛下に連れられてここへと来られたのは望外の喜びでした!!ですので狂わされたなどと言わないでくださいっ!!」


 まだ20そこそこの若い兵は、震える口でそう伝えてきた。


「そうか。そう思われているのなら、肩の荷が少し降りたよ」


 まさかこれを聞かせるために態々?

 なんて優しい奥様なんだよ…


「うん。それでね?この人を連邦に連れて行って欲しいの」


「ああ。それはさっき聞いたけど…」


 あれ?俺の為に連れてきたんちゃうんか?


「前にしたのと同じ事なんだけど、今度は本当の情報を連邦軍に伝えるの」


「前に…ああ!!コイツらを捕える時に連邦軍についた嘘の情報のことか!」


「そうそれだよ。でも今回は本当の事を伝えるの」


 なるほどな…功を焦った連邦軍の一部が、勇足で山越えをしない為の情報の伝達か。


「理解した。じゃあ行ってくるよ」


「うん。気をつけてね。貴方」ギュッ


 何だか最近、仲間(みんな)が見ていない所ではこうして本物の新婚さんみたいな行動をしてくる。

 まぁ、周りが魔王と呼ぼうが、俺にとっては可愛い奥さんなんだよな。

 …あれ?まさか聖奈のことを魔王って言ってるの俺だけ?


 聖奈を抱きしめ返した後、置物と化していた元連邦兵を伴い、連邦に転移した。











「あそこの部隊が一番先行しているようだ。行けるか?」


 俺と元連邦兵は山脈に一番近い部隊の側までやってきている。

 兎にも角にも北西部に近い軍から早めに撤退してもらおう。

 場所は山脈に程近い山の中。少し離れているが、見つかっても面白くはない為、少し離れて観察している。


「はっ。問題ありません。連邦で兵役に就いていた期間の方が長いので、勝手知ったるというやつです」


「それは頼もしいな。頼んだ」


 元連邦兵は俺に敬礼すると、持ってきた馬に乗り、その部隊へと向かって行った。

 流石聖奈の人選だ。あれだけ堂々としていれば、嘘だとは見抜けまい。

 届ける命令は嘘だが、中身に嘘はないため、後々も問題はないだろう。


『どうじゃ?上手くいきそうかぇ?』


 いつの間にかフードに入っていたコンも付いてきていた。

 最近入れっぱなしな事が多いから入っていても気付かないんだよなぁ…

 聖奈とのハグも見られて『交尾は妾のいない所でしてくれ』なんて、わけのわからん事を言われたし…

 とりあえずミランには言わないように、餌付け(くちどめ)をしておいたのは言うまでもないよな?


「さあな?見てのお楽しみだな」


『ほぉん?』


 いや、お前、興味ないだろ?

 俺達がふざけている間に、元連邦兵は部隊に接触したようだ。


「どうやら問題なかったようだな」


『あの手紙にはなんて書いてあったんじゃ?』


「ああ。あれか…あれはな・・・・・・・」


 手紙には以前聖奈に使われていた下院議員の名前が書かれてある。最早なんて名前か思い出せん…ま、マクロス…レバーナだったかな?

 まぁ、奴の名前なんてどうでもいい。

 今はこちらへと向かって来ている功労者を労う時間だ。





 あれから半日、山脈付近まで来ていた部隊には全て接触出来た。

 接触した部隊の数は五つ。後は勝手に嘘の命令を広めてくれる事だろう。情報に嘘はないのがこの作戦の肝だな。

 これでマクロス・レバーナ下院議員は大手柄だ。

 聖奈曰く奴は出世欲はあるが、支配者には向いていなく、また戦争にも興味が薄いそうな。


 まぁ大手柄だとはいえ、それが間に合う事は無いだろうがな。功績は連邦首都やそれより北にある街の防衛を迅速に固められるくらいか。


「良くやった。聖奈にはしっかりとその功績を伝えておく。帰ったらこれでも呑んでゆっくりと休んだらいい」


「はっ!ありがたき幸せっ!」


 連邦軍の鎧を纏った元連邦兵に、俺は労いの言葉と酒を贈った。

 ちゃんとした褒美は聖奈がちゃんと出すことだろう。


 俺は兵とオマケを連れてバーランドへと転移した。










「問題はなさそうだね」


 いつもの報告会にて、魔王様(せいな)からお墨付きをもらった。


「じゃあ明日からは…」


「うん。王国がちゃんと連邦の街を落とせるか見届けてね」


 相手も同じ国なんだが、まるで初めてのおつかいの様に見守らなきゃならない。

 何せニシノアカツキ王国は国として攻め込んだ事が無いからな。

 もちろん半島統一での戦争は行っていたのだろうが、その時に戦争を経験したものは今生きていない。


「俺が手を貸さなくても良いことを祈っておいてくれ」


「そんなのは祈らないよ」


 えっ?


「そうです。私達が祈るのはいつもセイさんの無事だけです」


 ミランさん…ここぞとばかりにアピらないで…貴女の気持ちはこれでも知っていますから…


 身の安全は祈られているが、精神的には追い詰めてくる…

 いや、まぁ、俺が男らしく無いだけなんだけどな。すまんな。甲斐性なしで。


「手を貸すかどうかは現場のセイくんに任せるよ。いよいよ王国が街一つ落とせなければ、もう諦めちゃってもいいしね」


 以前にも考えていたが、俺が手を出すと全てが終わってしまう。

 聖奈は俺の魔力依存症と周りの成長の為にそう言ってくれているのだろう。

 脱聖って事なんだろうが、俺の事は気にしないで欲しい。それを言ったところで無駄な事くらい付き合いが長いからわかっているが。


「…まぁわかった。その時に判断する」


「セイさん…無理はなされないで下さいね?」


「ミラン。俺は大丈夫だ」


 心配ばかりかけているからな。せめて自信を持って告げよう。


「ふふっ!倒れたばっかりだから説得力ないねっ!」


「なぜ……」


 基本は可愛い奥様なのに…何故息を吐くように毒を…

 俺は魔王の毒牙にやられ、その日は酒を飲み静かに休んだ。

 結局酒は飲むのかって?

 当たり前だろっ!酒は社会人が嫌なことを忘れる為のマストアイテムなんだよっ!!






 ????????????????????????


「セイくんはまた倒れちゃうから城でお留守番でもしてて」


「い、いや、大丈夫だ」


 いつものリビングで、聖奈達に留守番を強制されそうになっている。

 何故だ?俺が行くって話じゃ…


「セイさん?そう言う人ほど大丈夫ではないのですよ。はぁ…使えない上にホント面倒な人ですね…」


「ミ、ミラン…?」


 う、嘘だろ!?そんな…

 はっ!!これは…ゆ、夢だ…夢なんだぁぁあっ!!




「夢ダァァァッ!!?!!」ガバッ


「えっ!?何何!?」


 え?あれ?寝室だ…それに聖奈も…まさか…


「セイくん。変な夢でも見たの?」


「………すまん」


「もう。飲みながら寝るからだよっ!明日から寝酒は禁止ねっ!」


 くっ…


「…はぃ」


 ぐうの音もでないとはこのことか…

 まだ夜明け前。明日も忙しいから寝よ……

以前書いていた後書きのサイドストーリーみたいなものが遂に本編にも…

ね、ネタ切れではないですよ?

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