80話 報酬の分配。
「何だあれは……」
コンがいる方へと向かい俺が目撃したのは、沢山の連邦兵に囲まれて、その中心でソワソワしているコンだった。
最早説明されても理解できそうにない状況に、暫し固まっていた。
「あっ。連邦兵が動いた」
「ゥオーーンッ」
「あっ。止まった」
「あっ。動いた」
「ガルルルルッ」
「あっ。止まった」
…何だこれ?
いや、何でもいい。アイツらのコントに俺まで付き合う必要は無いな。
「『フレアボム』」
俺は使い慣れた上級魔法をコンに当たらない所に放った。
ドゴーーンッ
「ギャーッ!?顔がぁぁあ!?」「ひぃい!?腕がぁ…」『ぐ、グロいのじゃ…』「な、なんだ!?何が起こった!?」
魔法の直撃地点は阿鼻叫喚を呼ぶこととなり、何故かコンまで動揺していた。
「……。コン!!何をしている!!お前は最強の神獣なんだろ!?さっさと倒さないと置いて帰るぞっ!!」
『ひぃぃっ!?置いて行かないでぇぇ…』
獅子は我が子を谷底に突き落とすらしい。
俺も心を鬼にして駄狐を戦場に放置しよう。
このお話はスポコンだからなっ!!
「じゃあさっさとヤレっ!!」
『わ、わかったのじゃ!!覚悟せぃっ!愚かな人の子よ!』
……何で無駄にセリフがカッコいいんだよ。行動で示せ。行動で。
コンが戦闘モードに入ったが、連邦兵達は先ほどの魔法でそれどころではないようだ。仲間の腕や足が吹き飛び、死んだ仲間の臓物を浴びている。いくら戦場慣れしている連邦兵といえども、すぐには冷静になれないだろう。
無防備な兵士の背にコンのへっぴり腰の情けない攻撃が襲う。
ザシュッ
まるで紙切れを引き裂くかのような軽い抵抗を見せ、連邦製の鎧が引き裂かれた。
「ぐがぁぁっ!?」
背骨ごと鎧を断ち切ったのか、断末魔の悲鳴を残してその兵士は力なくその場に倒れる。
「ひ、ひぃっ!?俺は逃げるぞっ!!」
その光景を目撃した兵士から逃走の声が上がる。喋る前に足を動かせよ。
『ゥオーーンッ!!』
コンが雄叫びを上げると空気がビリビリと震えた。
なるほど…魔法的な効果がある叫びか。俺は魔力が高いから然程効果はないが、逃げ出そうとしていた兵達の足が止まっている。
これのせいでさっきまで膠着状態だったんだな。
足が止まった只の人なぞ、通常サイズのコンの敵では無い。コンはへっぴり腰ながらその馬鹿でかい両前足を縦横無尽に振るい、連邦兵達を細切れにしていった。
「お疲れ」
百ほどの死体の山の中で、コンが息を荒げて立ちすくんでいる。
「これがお前が安全なところから眺めていた殺し合いだ」
コンはビビリなくせに獣人同士の争いや魔物との戦いを山の上から眺めて楽しんでいた。
現場はそんなに愉快なモノではないのにな。これで身をもって戦いを知った。獣神のお告げと自身の身を守れるかは後はコン次第だ。
『わ、妾が…やったのかえ?』
「そうだ。コンが殺した。だが奴等も殺す気で来ていたから…」
こんな時、なんて言えばいいの?
『わ』
「わ?」
『妾は最強じゃっ!!みたかえ!?妾の鋭い攻撃を!!?』
「お、おう…」
えっ?そっちタイプ?
『ふふふっ…妾に掛かればこの様な雑魚、取るに足らんわ!』
「………」
『びでおには撮ったかえ?!セーナ達に自慢せねばならんからなっ!!』
「いや…そんな暇はなかったな…」
『なんじゃ。使えんのう』
誰この人?
可愛くてビビリなコンを返してっ!!…やっぱいらんわ。
「良いのか?そんな大口を叩いても?デザートが食べられるかどうかは俺に掛かっているんだぞ?」
『!!…ま、まぁ、また戦えばいいし、びでおは次の機会でもいいじゃろうな…』
食いしん坊さんめっ!
「とりあえず元のサイズに戻ってフードの中に入れ」
『あのぅ…妾は一応これが元のサイズなんじゃが…?』
面倒くさく口答えして来たコンを鋭く睨んだ。
『ひっ!?戻るのじゃ!』
「さっさとしろよ」
ペットの躾は大事だからな!
こういう奴は調子に乗らすと碌な事をしないから、これからも厳しく躾けよう。
トイレはちゃんと猫の砂の上でするんだぞ!!
そう!コンは物を食べるとちゃんと消化して糞尿を出すようになったのだっ!!……全くいらない情報だな。
コンをフードに戻した俺は、未だ戦いが続いているであろう戦地へと向かっていく。
「終わっているな」
元来た道を戻った俺の視界に映るのは、街道に倒れた連邦軍を片付けている王国軍の姿だった。
「王国軍に目立った損害はなさそうだな」
『そうじゃな。あの様な雑魚に負けてもらっては困るのじゃ』
…コイツやっぱり調子に乗ってるな。帰ったら聖奈に躾を頼もう。
王国は捕虜を取る余裕もないのか、恐らく連邦軍を全滅させたのだろう。それだけの死体が街道の隅に山積みになっているからな。
「コンの戦いは王国軍の斥候に覗かれていたからその内報告されるだろう。見つかると面倒だ。帰るぞ」
『妾の勇姿を目に焼き付けた者がおるのか!?その者は幸運じゃったのぅ』
何言ってんだ?俺が行くまでビビって震えてただろうが。
自慢話がうるさいコンを無視して、俺は転移魔法を発動した。
「はい。わかりました。ですので、落ち着いてください」
城に戻ってからもコンの誇張を加えた自慢話が続いていた。誰の話でもちゃんと聞く、いい子のミランがその被害を全身に浴びている。
『まだまだあるのじゃ!!妾が吠えると・・「いい加減にしてやれ」…何じゃ、いいところじゃったのに』
見ていられなくなった俺は、コンの話を遮った。
「コン、お前は元々強いんだ。ライオンがウサギを狩ってそれを誇るか?よく考えてみろ。今のお前はダサいぞ?」
『はぅっ!?そ、そうじゃな…妾は強いのじゃ…獣人達も弱者に勝って誇る様なマネはしなかったのじゃ……強者と戦って死んだ時くらいじゃ。仲間を誇るのは』
いや、それは重たすぎる。
俺達に戦闘狂はいないから、死んでも誰も褒めてはくれないから死ぬなよ?
コンの思考が極端にブレたが、落ち込んだ気持ちはすぐに取り戻すことになる。
なぜなら……
「はーい。出来たよぉ。コンちゃんの初陣と、連邦の敗戦祝いのデコレーションケーキだよっ!」
城内のいつものリビングに併設されているキッチンから、聖奈が馬鹿でかいケーキとともにやってきた。
ウェディングケーキかな?
「きゃーーっ!!凄いですっ!コンさんのお陰ですぅっ!!」
コンが自慢話している時は我関せず、無視を決め込んでいたエリーが歓声を上げる。
一方ミランは地球でスイーツに慣れたのか、普段通りの……いや、貧乏ゆすりして我慢してるのか……
まぁ、聖奈のデザートは店のモノとは違った良さがあるからな。俺も店のモノより、聖奈の手作りの方が好みだ。
『エリー待つのじゃっ!!それは妾が恐怖を乗り越えて得た報酬じゃっ!!』
恐怖っていっちゃったよ…みんな触れないであげていたのに……
「はいはい。コンちゃんの分は一番大きく切ってあげるから、みんなにも分けてあげてね?群れのボスはみんなそうしているでしょ?」
聖奈が一匹増えた園児を上手く言いくるめて、しっかりと保育士さんしてくれている。
あれ?俺の嫁さん、なんでも出来ちゃう系じゃん。
男選びの才能はないけども。
俺の分は小さめに切ってくれて、その分エリーとミランのケーキを大きく切り分けてくれた。
いくら美味くても、俺が酒を飲みたいのもしっかりと把握してくれている。
「じゃあ飲み物も行き渡ったかな?かんぱーいっ!」
聖奈の音頭で食後の会がスタートした。
ミランとエリーはシャンメリー、聖奈と俺はシャンパン、コンは雪○のミルクだ。
「セイくん」
「どうした?」
「連邦は恐らく手を引くよ」
「えっ?」
連邦が半島攻めをやめたらまずいよね?
やっと酔えると思っていたところに、急に冷や水を浴びて眠気まで吹き飛んでしまった。




