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78話 定石と常識と不条理な聖。

 






『まるで蟻の行列じゃな』


 翌朝、俺とコンは日の出と共に進軍を始めた連邦軍を、例の山から眺めている。その連邦軍は元砦を越えて森の中へと吸い込まれていっている。

 聖奈は大丈夫だと言っていたが、俺もそう思う。


「蟻よりタチが悪いけどな」


『例によって王国兵は森に隠れておるのかのぅ?』


 そう。王国の斥候部隊は中々の練度なんだ。恐らくそれを使い、森でのゲリラ戦に持ち込むつもりなんだろう。それを念頭に作戦を立てたから砦を簡単に放棄する事が出来たのだろう。

 何の為の砦だったのか、今となってはわからんが……まぁ時代が変われば戦法も変わるか。


「恐らく王国にとっての本当の砦は森なのだろう。連邦軍が余計な作戦を取らないとも限らない。爆発に巻き込まれない程度に距離を取って監視するぞ」


『ひぇぇ〜あの中にいくは嫌じゃぁ…』


 空耳かな?

 何かごちゃごちゃと言っているコンをフードに仕舞い、俺は森へと転移した。






「全然見えんな…」


 森の中はやはり森だった。何言ってんだ。


挿絵(By みてみん)


 王国軍は森を切り拓いた街道沿いにその多くを布陣させているようだが、それ以外の場所にもしっかりと兵を配備していた。

 それらの兵と出会さない場所に俺達は移動したのだが…戦場となる予定の街道からかなり離れてしまい、王国軍どころか連邦軍すら全く視認出来ないところまでしか近づけなかった。


『妾達は何しに来たのじゃ?』


「そんなに気になるなら魔物のフリして確認してこいよ」


『…森林浴とはこうも良いものなのじゃなぁ…』


 ダメだコイツは…使えん奴め…


「後一時間もすれば、元砦付近に残した本隊以外はみんな森へと入る。恐らくその辺りが開戦の合図になるだろうよ」


『なるほどのぅ…王国は勝てるのかえ?』


「それはわからんな。聖奈曰く攻めるより守る方が単純らしいから簡単には負けないとは言っていたけど」


『お主は攻める方が得意そうじゃがな』


 そりゃそうだ。

 俺は定石も常識も持ち合わせていないからな。単純に武力行使するほうが性に合っているし、わかりやすいからな。

 だが…今回は守る為にここまで来たんだ。

 ここまでしてきた事は単純ではなかったけど、後は俺得意の力を奮うだけで良い。


「恐らく王国は手榴弾を連邦軍の伸び切った隊列の至るところに投げ込むはずだ。

 俺達は逃げてくる連邦軍を始末するぞ」


『にゃにっ!?』


 えっ?コイツまさか本気で何もしないつもりだったのか?


「逃げ出したらそいつらがまた王国に攻め込む駒になるだろ?王国にいくら大量の手榴弾を渡したからといって、それは無限ではなく有限だ。そもそも一つ一つの破壊力は大した事ないし」


 魔法の方が何倍も威力がある。もちろん俺やエリーが使うようなモノではなくともな。

 まぁ魔法使いなんて希少だから、戦況を大きく左右するほどはいないだろうが。


 その点、地球産の兵器は誰にでも簡単に扱える。


 初めて受ける手榴弾を見て、連邦軍は大騒ぎするだろうな。

『王国には数千の魔法使いがいるぞ』

 とか

『爆発の魔導具の量産に王国が成功した』

 とかの勘違いが起こるだろう。


 その勘違いで対王国戦の戦争をやめられるとこっちが困るが、聖奈の予想はそうではないと聞いた。


『連邦が簡単に下がれば、王国は連邦に攻め込むと思うよ。大義名分は王国にあるから民意は纏められるだろうし、落ちてるお金は誰でも拾うよね?交番(隣国)なんてないから届ける(気にする)必要もないしね』



 もうすぐやってくるであろう自分達の出番を前に、コンはその白い顔を青くさせて震えていた。

 いや、お前…そんなんじゃいざとなった時にどうするつもりだったんだ?

 まぁ一生引きこもっていたんだろうが。

 これを機会に、俺が死んだ後でもビビらず戦えるように教育するか。


 獣神には何の思いもないが、こんな奴を使徒にするくらいだから悪い奴じゃないだろう。人の寿命は短いが、少しくらい他所の神様の手助けをしてやるか。


 そんな思いを巡らせているとその時はやってきた。








「始まったぞ」


 森に響き渡る手榴弾の破裂音を聞いて、開戦を知った。


『ひゅーひゅーひゅー…』


「おいっ!しっかりしろっ!」バシッ


『キャインッ』


 戦う恐怖で過呼吸になりかけていたコンの背を叩いた。

 何がキャインッだよ…やっぱり犬じゃねーか。あれ?狼も犬も変わらんか?


「移動するぞ」


『わ、わかった』


『のじゃ』はどこにいった…口癖まで変わる程か?

 いや、俺の初陣もそんなもんだったかもな…スライムに殺虫剤をかけただけだったが…


 今考えると情けない限りの初陣だったが、致し方ない。なんせ俺は只の人だったんだからな。いや、只の呑んだくれだった。

 だがコンは生まれながらの強者だ。甘えは許さんっ!


 スパルタ精神を宿した俺は、コンを背に、森の中を駆け抜けて行く。






「『フレアボム』」


 走りながら詠唱をしていた上級魔法を街道に向けて放った。


「コン!通常サイズになれっ!そして戦うんだ!」


『ひぃっ!?』


 ドゴーーーンッ


 フレアボムが着弾すると轟音と共に爆風がここまで届いた。

 爆風を斜め上に飛び越えた俺は空中でフードに手を突っ込み、コンを掴んで魔法を逃れた連邦兵達に向けて投擲した。


『ひぎゃぁぁあっ!?覚えておれぇぇっ!!』


「覚えておくからちゃんと全滅させろよっ!それが出来たら今日はデザート山盛りにしてやるからなっ!」


 信じられない速さで遠ざかるコンに向けて、ご褒美をチラつかせておいた。

 コンも立派なエンゲル係数爆上げ隊の内の一人だから、これで少しはやる気になるだろう。


 シュタッ


「さて。俺はこちらへと逃げてくる奴らを掃除するかな」


 街道に着地した俺だが、王国兵には少数だが顔が割れている。その為、俺は覆面を被り、王国方面を向いて街道のど真ん中に仁王立ちした。


 コンは連邦側に投げたが、あっちは百人程しかいないから問題ないだろう。

 問題は逃げる敵にもしっかりとトドメを刺せるかどうか、か。


「やって来たな…しかし、やけに行動が早いな。それだけ連邦軍の統制が取れているのか、逆に弱すぎて逃げ出したか…」


 魔力波が伝えてくる魔力は、一定の速度と間隔でこちらへと後退して来ている。


「前者だったか。流石周囲の国を呑み込んで出来た軍事国家だな。個々の練度はそうでもないが、指揮官はちゃんとしているんだろう」


 駒が強くてもそれを動かす者が無能ではその力は発揮されない。

 逆に駒が弱くても動かすものが優秀であれば、数で勝る戦場では負けないだろう。勝てるかは別として。

 今回も勝てなくとも負けないようにと切り替えたんだろうが……残念。


「開戦した時点でお前達は詰んでいる」


 俺は魔力波から感じられる敵との距離を逆算して、長い詠唱を始めた。







 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


「後方で爆発を確認!」


 連邦軍10万の指揮官であるウェザード大佐は部下の報告を受けていた。


「魔導具か魔法だろう。この程度の威力であれば撤退は可能。このまま荒野まで下がれ」


「し、しかし!後方の爆発はこれまでとは規模の違うモノだったようです!」


 その報告にウェザード大佐は顔を顰めるが…


「だとしても、これ以上未知の攻撃に部隊を晒すわけにはいかんっ!最早我らの使命は戻って部隊を立て直す事と、王国のこの攻撃の原因を判明させることだ!」


「は、はっ!全軍撤退します!」


 聖の放った魔法は気になるが、ここにいても手榴弾の的になるだけ。大佐も王国兵達が森の中にいるのはわかっていても、不慣れな森での掃討作戦を実行するよりも撤退を選んだ。


 敵は自軍からすれば少数。後でいくらでも優位な状況は築ける。

 そう自身に言い聞かせ、祖国へ向けて足を動かした。


 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽





「『永久凍土(パーマフロスト)』」


 2分以上にも及ぶ長い詠唱を終えて、漸く魔力が魔法へと変換された。

 パーマフロストは魔導書に記載されていた超級魔法の一つ。

 それを魔力波の訓練で魔力に指向性を持たせる事が出来るようになっていた俺は、連邦軍が列をなす街道だけに発動した。


「……使ってなんだけど、これって俺に使われたらどうすればいいんだ?」


 自分がしたことだけど……理不尽すぎんか…?

何だかんだと、戦わない、戦わせない理由を探しますが、そうは問屋が卸さないということです。

何せ彼は呑んだくれだとしても主人公なのですから。

一応……

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