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77話 王国の覚悟、武者震い。

 





『人が沢山いるのじゃ〜!』


 いつの間にか戦争は始まっていたが、俺のすることは変わらない。

 あの後すぐにコンを連れて転移魔法で国境へと戻ったところだ。


「バーランドの王都でも見てただろ?」


 あそこは俺が行った事のある街でトップクラスに人が多い。もちろん地球は入れずにだ。


『確かに多かったが、ここは比べものにならないのじゃ!』


「まぁ密集してるからな。おっ。連邦から使者が出たぞ」


 俺達は戦場から離れた山の上で観察している。俺は双眼鏡を覗き込んでいるが、コンは裸眼だ。流石神獣。数キロは離れているのにな。


『何じゃ?これだけ数を揃えて話し合いなのじゃ?』


「形式だよ。人は獣とは違うって意味合いが強いやり取りだな。もちろん話し合いで済むのならこんな事になっていないから、意味はないだろうが」


『ほーん。人とは不合理な生き物なんじゃな。妾が見てきた獣人なぞ、口より先に手が出る者達ばかりじゃったわ』


 その不合理が良いんだよ。

 まぁ狸にはわからんか。あれ?イタチだったっけ?


「早いな…」


『うん?形式なら早くて当たり前じゃろう?』


 そうなんだが…


「王国はどう見ても準備できていない。時間を稼ぐ意味で、話し合いを延ばすと思っていたんだけどな…」


『時間稼ぎのぅ…弱みを見せたくなかったのではないじゃろうか?』


「うーーん。そんな余裕が王国には無いと思うんだが…こりゃ俺たちが介入するのも早いかもな」


 連邦軍は数え切れないくらいいるが、ここにいる兵が全滅したところで国力に影響は少ない。

 逆に王国はここにいる兵が全滅するとまだ戦えても国力が大幅に下がってしまう。


 何が言いたいのかというと、王国が押された時点ですぐに介入しないと取り返しがつかなくなるということ。




 戦地は連邦軍が布陣しているところが荒野で、王国側に砦があり、その奥には深い森が広がっている。

 砦の左右は例の岩場が広がっている為、連邦の戦力が砦一点に集中するはずだ。


 俺たちがいるのはその岩場の先にあるそこそこ大きな岩山だ。向こうからこちらを確認する手段は少なく、俺達は堂々と見物している。

 連邦も王国もこんなとこ確認したって仕方ないしな。


 うぉぉおおっ!!

 カンカンカンカンッ


 遠く離れた戦地から連邦軍の雄叫びと鐘の音が聞こえる。遮るものがない為か、俺達の所まで届いていた。


「始まったな。すぐにやられるなよ?」


 出来れば出番はない方がいい。


 強くなったからわかった事が一つある。俺が争いに介入するのは子供の喧嘩に親が介入するのとなんら変わらないということ。

 それがただの喧嘩であれ、戦争であれな。


 人道的には明らかに連邦が悪いが、戦争はその一面のみでは計れない。

 もし、北西部と南西部の間に聳え立つ山脈がなければ連邦は間違いなく北西部に攻め込んでいた。戦勝のメリットが段違いだからな。その場合だとニシノアカツキ王国は対岸の火事を決め込み何もしないだろう。

 結局国を守る大義名分で戦うか、国を維持する為に戦うかの違いしかない。

 俺は立場は王だが、戦争をしなければ維持できないのであれば国なんかいらないと今でも思っている。その甘い考えだと守れる時にも守れないとわかっていてもな…だから為政者にはなれんのよな……


 まぁ流石にエリーの件で、やらなければならない事は気が進まなくてもしようと思えたからこうしてこの場にいるんだけど。


「どちらの国の兵にも恨みはないが、バーランドの平穏のためにこの地で争い続けてくれ」


 俺は最低だと罵られてもいい。月の神様に見限られて能力を取り上げられてもいい。

 その覚悟を持って戦場を見つめていた。



『んあっ?!何じゃ!?砦から逃げ出しておるのじゃ!』


「なに!?」


 俺が物思いに耽っているとコンが驚きの事実を口にする。

 俺は急いで双眼鏡を構えて砦を観察すると…


「ホントだ。防衛もせずに逃げ出している……」


『どうするのじゃ?やるかえ?』


 いや、脚をプルプルさせんなよ…言葉と真反対やんけ……


「気は進まないが、指を咥えて見ているわけにはいかんな。だが安心しろ」


『な、なんじゃ?』


 この駄狐、めちゃくちゃビビってんな…


「ここは見通しがいいから魔法で方がつく」


『しょ、しょうにゃのか…』


 ふとした疑問が頭を過ぎる。…コイツを転移魔法で戦地ど真ん中に放り込んだらどうなるんだろう?


『にゃ、にゃんだ!?何か悪い顔をしておるのじゃっ!?』


「人聞きの悪い。俺は聖人のセイさんだぞ?」


 言われた事ないけど。

 おっと。そんな事より。


「遂に砦に踏み込んだな」


『い、いつ、攻撃するのじゃ!?』


 焦んなよ。砦に入るだけ入ったら砦ごと吹き飛ばす。


 ちなみに砦は岩と木で造られている。魔力増し増しのフレアボムを叩き込めば、あの造りなら倒壊するだろう。

 そしたら進軍の為に砦を撤去するまで時間が稼げるし、一石二鳥だ。


 そうこうしている間にも、連邦軍は砦へと集まっていた。

 それを見た俺はそろそろかと魔法の準備に取り掛かるが……


 ドガーーンッ


 土煙をあげて砦が倒壊した。遅れて爆発音が届く。


『や、やったのかえっ!?』


「いや、俺は何もしていない…まさか…時限装置?」


 いや、そんな高度な文明は王国には存在していなかった…つまり…


『お主がしていないということは、あれは罠ということじゃな?』


「そうだな。みくびっていたが、どうやら王国は本気で連邦と戦う気らしい」


『?当たり前じゃろう?』


 いや、その当たり前より遥かに本気だ。


「あれは自爆だ」


『じばく?』


「ああ。爆発の感じから俺たちが渡した手榴弾が使われたのは間違いない。だが、手榴弾の爆発時間を調整出来るような技術は王国にはない。

 あれがあのタイミングであの場所で爆発したということは、中に王国兵が隠れていて、自分の死と引き換えに起爆させたんだよ」


 初手でいきなり自軍の兵士に自爆させるとは……王国はしっかりと連邦との力の差を把握しているということか。

 いや、そうだとしても部下に死ねと命令するのは簡単なことじゃない。


『不合理じゃと思っておったが…天晴れじゃ』


 神獣的には何か感じ取るものがあったのか。俺にはよくわからん。唯一わかるのは、死んだ兵士には自身の命よりも守りたいものがあるということだけだな。


『あのしゅりゅうだん?には砦を破壊する威力があったのかえ?』


「いや、それはない。恐らく主要な柱に取り付けた複数の手榴弾を紐か何かで同時に爆発させたんだろう。

 もしくは砦の強度を予め意図的に落としていたかだな」


 俺が渡した手榴弾は、爆発により金属片を吹き飛ばして殺傷する兵器だ。ダイナマイトと違い、物を壊すには向いていない。

 恐らく砦の破壊にはかなりの数の手榴弾を使ったはずだ。発動させるのも兵士一人では無理だろう。


 俺はてっきり砦の上から手榴弾を投げて抗戦するモノだと思っていた。

 軍事作戦的にはそれも間違いじゃないだろうが、砦を倒壊させた方が戦果が大きいのも事実。

 王国は百や二百の連邦兵を未知の攻撃で仕留めた所で、連邦軍の足を止められないと知っていたんだろうな。


「結果として、この方法が王国の損耗が一番少なかったようだな」


 俺の方法だと、数の波に呑み込まれて多くの王国兵がその命を散らしていただろう。

 やっぱり戦争は嫌いだ。









 何が起こったのかわからない連邦は足踏みをしている。

 倒壊した砦を遠巻きに見ているだけで未だ救助には向かっていない。


『ふむ。奴らはどうするつもりじゃ?まさかずっとこのままではあるまい?』


「砦に飛び込んだ連邦兵は凡そ2,000。連邦軍からすればいてもいなくてもいい数のはずだ。

 それでも中々動かないのは、誰があの元砦に最初に向かうのか、議論しているのだろう」


『なんじゃそれは…王国兵と気概があまりにも違うではないか…』


 そりゃ誰も勝ち戦で死にたくはないだろうからな。王国の勝機はそこにある。いや、そこにしか無いとも言えるか。


 コンはビビリの癖に、勇敢に戦うことが美学だと思ってそうだな……

 まずはその震えている脚をどうにかしてからのたまえよ。


「おっ。漸く決まったようだな。どちらにしても元砦の撤去には一日潰れるだろう。今日はここまでだな。帰るぞ」


『わかったのじゃ!』


 急に元気になったな…








「ふーん。申し訳ない気持ちも多少はあるけど、コンちゃんの言う通り天晴れって感じだね」


 城に戻り夕食という名の報告会での聖奈のセリフだ。


「まぁ私達が行かなかったら王国は抵抗虚しく滅ぼされていただろうからあまり気にしてないけどね。セイくんも気にしたらダメだよ?」


「そうですっ!セイさんはいつも気にしすぎて、そこが残念ポイントですっ!第三夫人の私が癒すですっ!」


「エリーさん。私ですらまだ第二夫人になれていないのに、よく言えましたね?」


 かおす…混沌と書いてカオスと読む。何言ってんだ。


「ありがとう。こんなくだらない話で気を紛らわせなくても大丈夫だ。

 それとエリー。ミランは冗談だから怯えるな」


 ミランの氷の視線を受けてエリーは震えている。なら言うなよ…


「二人は冗談じゃないと思うなぁ…」


 聖奈が何か独り言を言っているが、俺は難聴系主人公だからスルーだっ!!


「まぁ明日からどうなるかしっかりと確認してくるよ」


「そうだね。でも王国がそこまで覚悟を決めて取り組んでいるのなら、いらない心配だったかもね」


 備えあれば憂いなし。仮に問題なかったとしてもどうせする事もないならしておくべきだ。

 それよりも……


「コンさん…可哀想です…」


「コンちゃん…そんなに怖いなら明日から行くのやめとく?」


 実は戦地にビデオカメラを設置して撮影していたのだ。

 遠すぎて写らなかったから暇つぶしにコンにカメラを向けていて、それを今上映している。


『な、何じゃこれは……』


「カメラって言ってな、景色を記録出来る機械だ」


 恐らくその事を言っているのではないだろうが、可哀想なのでそういうことにしておいてやろう。


「コンさん。無理は行けません。明日は私と変わりましょう」


 ミラン。それはついて行きたいだけなんじゃなかろうか?でもダメだ。もし何かあっては後悔してもしきれないからな。

 コンはビビリだけど一応丈夫だから連れて行っているだけだし。


『む、む』


「む?」


『武者震いじゃっ!!』


 ……随分と激しく長い武者震いだこと。


 何だかんだ俺と行動したがるコンは、明日も付いてくることになった。

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