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75話 乙女心とハムスター。

 





「それでこれを売るのか?」


 夜の内に全ての品を運び終えた俺たちはすぐに寝た。

 そして翌朝、朝食の席で一部の品を披露している所だ。


「うん。所謂絹…シルクってモノだけど、肌触りいいでしょ?」


「ああ。セイが持ち込んで来た地球(いせかい)の物と変わんねーな」


 地球産のモノは殆ど化学繊維だけどな。

 商売大好きライルくんは絹に夢中だな。ジャパーニアにもあったんだが、向こうでは見たりする暇がなかったもんな。


「これは向こうでも売るのか?」


「こっちで売れなかったら向こうで売るつもりだけど、どう?」


「あるだけ売れると思うぜ?色は染めたらバリエーションが増えるしな。とりあえず知り合いの服飾店に持ち込んでみるか」


 すっかり商人だな…冒険に着いてきてなんてもう言えないじゃん……


「そう。じゃあ絹はライルくんに任せるね。他は大した事ない工芸品だから向こうで売っちゃうね」


「おう!他の国でも売りたいから、後でリスト作ってセイに渡しとくぜ」


 あれ?俺一応国王なんだが?

 パシリかな?


「セーナさん。工芸品ですが、それはヨーロッパ支店で売りませんか?日本より北欧の方がそういった品に関心が高いので…どうでしょう?」


「うん。私も同じ事を言おうと思ってたよ。じゃあ工芸品はミランちゃんに任せるねっ!」


「はい!向こうで受け入れ体制が整えばセイさんにお願いしますね」


 あれ…?

 おかしい…

 仲間内でパシリ扱いされているような気がする……


「セイさんはパシリさんなのですっ!」


「エリーはおやつ抜きだ」


「なんですとっ!?」


 おかしい……エリーにまでバカにされている…


『もぐもぐもぐ』


 コンは置いて行かれた腹いせに、ずっと無視して飯を食っているし……

 これはマズいのでは?俺の威厳が…

 ん?元々無かったような気がせんでもない…


「まぁ、わかった。聖奈は戦地になりそうな場所を洗い出しておいてくれ。

 それが出来たらコンと転移ポイントを増やしに行ってくる」


 どうだ!!これぞ指揮官(リーダー)って感じだろ!!


「…セイくん。残念だけどそれは無理かな。だって戦端が開かれるのは国境付近しかないもん。後はそれに沿って王国側や連邦側に向かうだけだよ」


「………はぃ」


 くそっ!!俺には発言権もないのかっ!!

 いや、権利はあっても上手く使えないだけか……


『…プリン半分食べるかえ?』


 くっ…不貞ていたコンにまで気を遣われる始末だ…


「いや、いらな……あれ?コン。お前…太ってないか?」


『にゃ、にゃに!?』


 猫かよ…

 初めての食事が気に入ったのか、食べ過ぎていたコンはこの数日の間に豚狐になっていた。

 そんなふざけたやり取りがありながらも今後の予定を決めて、各々行動を始めることに。











「ふぅ。隠れながらの移動は神経使うな…」


 俺はみんなからの荷運び(いらい)を終えると、コンを連れて王国と連邦の国境沿いを直走っていた。


『なんじゃ?シャキッとせい。我等は神の使いであるぞ』


「いや、お前、俺のフードの中で寝てただけじゃねーかっ!」


『ひゅ、ひゅー…』


 狐に口笛は無理だろ…馬鹿かよ…馬鹿だったわ。


「それに食べ過ぎで重たいんだよ。首が取れるかと思ったわ」


『ば、バカモン!!れ、レディーに失礼な事を言うでないっ!』


「ん?お前メスなのか?」


 確かに声色や口調は女性と言われれば女性だけど。

 見た目でわかんねーからどっちでもいいけど。


『いや、知らぬ』


「知らねーのかよっ!?自分の事だぞ!?」


 コイツ俺より頓着ないんじゃないか?


『妾は神獣。性別などないのじゃ』


「へー。そんなもんなんか」


『多分…』


 やっぱ、知らねーんじゃねーかよっ!

 はぁ…コンと話していたら無駄に疲れた……だが・・・


「漸く走り切ったんだ。帰って酒飲むぞ」


『わ、妾は酒は好かん!スイーツを所望するのじゃ!』


「コンはデブいから当分甘味は禁止だ」


『ば、ばか、な……』


 いや、この世の終わりみたいな顔すんなよ…狐でもわかりやす過ぎるぞ…あれ?狸だったっけ?

 まぁなんでも良いや。


 コンを連れて、無事に半島と連邦の間を完走した俺は、最愛(?)の妻と家族が待つ城へと漸く帰れることになった。









「お疲れ様でした」


 夕方、城に戻った俺に甲斐甲斐しく酒を注ぎながら労いの言葉を贈ってくれたのは、最愛(?)の妻ではなく、ミランだった。


挿絵(By みてみん)


 カラカラカラカラ……


「ありがとう。ミランも一緒に呑むか?」


「いえ、お酒は二十歳になってからですので」


 カラカラカラカラ……


 そうか。向こうの風習に合わせてくれているんだな。

 それよりも…


 カラカラカラカラ……


「カラカラうるせーなっ!」


『ぜぇはぁ…お主がさせとるのじゃろーがっ!!』


 あっ!そうだったな。

 コンは最近太り気味の為、聖奈に相談した所、ハムスターの小屋に置いてある中に入ってクルクル回る例のアレのビッグバージョンを用意してくれていた。


 甘味が食べたいならその前にこれで運動する事を義務付けたのだ。

 権利主張は義務を遂行している者にのみ与えられるモノなのだ。

 俺?俺は王様だからいいんだよ!


「後少し頑張れ」


『くっ…覚えておれ…今に神罰が「飯も抜くか?」……』カラカラカラカラ…


 何が神罰だよ。それが出来るなら獣神もコンをあんな所で見張らせる必要ないだろうが。


「聖奈はまだ仕事か?」


「はい。セーナさんは外交部門の立ち上げを頑張られています。エリーさんは防犯の魔導具作りです」


 そうか。

 この国にも一応外務大臣の様なポストはある。但しそれは名前だけのカカシだ。

 外交も内政も全て聖奈が考えているから、他の者達は何一つ権限を持たない。


 国が軌道に乗ってきた為、聖奈も漸く仕事離れができる様にマニュアルの作成に躍起になっているらしい。その一つが大陸中に送り出す予定の外交官達の選定と教育だ。

 これが出来ると、有事の際以外で聖奈は外交から離れられるみたいだ。


 エリーの魔導具は言わずもがな…責任を感じているからだ。

 俺の所為なんだけどなぁ……


「そっか。じゃあミラン。久しぶりにゲームでもするか?」


 ミランはテレビゲームにハマっていたからな。


「…私はもう子供ではありません。肩をお揉みしますね」


「あ、ありがとう」


 いや、最近までしてたじゃん?何なら昨日もしてたって聖奈が言っていたぞ?

 俺の小さな悩みは、漸く甘えてくれるようになったミランが、また甘えてくれなくなったことだ。


 大人びた対応が多くて、おじさんドギマギしちゃうよ……










「それはどう考えても好きな人だからだよ」


 夜、聖奈の仕事が終わり夜食に寝酒で付き合っている時に夕方の話をしていた。


「好きな人とはゲームしないのか?」


「…はぁ。子供だと思われたくないのっ!ミランちゃんは異性として見て欲しいんだよ」


「いや…充分ドギマギしてたんだが…」


 最近のミランは化粧こそあまりしないが、香水などを付けていたり、服装もこう…なんというか…男の琴線に触れるモノをよく着ている。

 てっきり、地球にかぶれたのかと思っていたけど、どうやら自惚れじゃなく、俺にアピールしているようだ。


「本当に後二年も待たせるの?」


「……聖奈も何年も待たせたし?」


「私はミランちゃんみたいにアピールしていなかったから仕方ないよ。でも、可哀想だよ?」


 確かにミランは世界一可愛いし、誰かと付き合うとかになれば相手を破滅させる自信しかない。

 だけど……聖奈一人持て余している俺が一夫多妻なんて……


「セイくん。何もいきなり結婚しろなんて言わないよ。でも、私たちはみんなで家族だよね?今更離れる気がないなら、少しくらい前に進んだらどうかな?」


「……具体的には?」


 基本ビビリな俺には今の関係を壊す行動を自主的に取ることが出来ない。

 教えて!聖奈えもん!!


「デートだよ。まずは恋人になればいいんじゃない?」


「こ、恋人って…聖奈ともその期間が短くて何したら良いのか知らないんだぞ!」


「そんなに自信満々にいわなくても……」


 陰キャでぼっち歴の長い俺を舐めんなっ!!

 恋愛なんて姉貴の少女漫画を盗み見た情報しか知らないんだぞ!!


「兎に角、デートに誘ってあげてね」


「…わかった。ところで対価は?」


「私もデートに連れて行ってね」


 なるほどな…確かに最近は仕事以外で共に行動してなかったもんな。


 一夫多妻制ミランとエリーのみを推し進めている聖奈だが、何も無条件で提案しているわけではない。

 地球の価値観に囚われている俺は二股とかそういったことに当然負い目を感じる。

 その負い目を無くす為に誰か(ミランエリー)に何かした時は、聖奈にも何かするという独自のルールを提案してきた。

 もちろん自主的に何かする俺じゃないから、このルールは本当に俺の負い目を無くす為にしか存在しない。


『恋人(妻)は平等に接する』

 これだけ守ってくれたら後は好きにして良い。


 そんなカッコいい男前なセリフを何度も聞いた。自他共に認める嫉妬深い俺には口が裂けても言えないセリフである。


「喜んで」


 そんな聖奈にだから、出来ることはしてあげたいと素直に言葉が出る。


「〜っ!!もうっ!セイくんって偶にキュンとする事を平気で言うよねっ!?」


「……俺、何で怒られてんの?」


 やっぱりわからん。

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