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74話 持ちつ持たれつ。

 





「以上の三つの倉庫に頼む」


 翌日、早速城へと報告に走った軍務卿さんが戻ってくるなり案内したのは、王都内にある軍施設の倉庫だった。


「わかりました。これから回って手榴弾で埋めて来ますので、終わり次第確認の程、よろしくお願いします」


「頼んだ」


 王都はそこそこ広く、倉庫は東西北の三ヶ所に点在するが、自重する必要がない為、転移魔法で移動してさっさと終わらせる事になった。

一つ『作業が終わるまで倉庫とその周辺を無人にする事』を条件として付け加えたのだった。






「じゃあ取ってきてね」


 一つ目の倉庫に転移した俺は、バーランド王国の保管庫へと転移する事になった。


「聖奈が銃を乱射する前に帰ってくるよ」


「えぇ…久しぶりだから撃ちたかったなぁ…」


 この倉庫には作業が終わるまで立ち入らないように厳命してある。もし入ったり覗いたりしたら生死は保証しないと。

 いや、待つ聖奈の安全の為に伝えただけだから…やめてね?後々面倒だから。


 どこか壊れた愉快殺人鬼をその場に残して俺は転移魔法を発動した。

早く戻らねばこの国がヤバい…




 転移した先は王城の一角。どうして保管庫に直接移動しないのかというと…


「つーわけで頼むな」


「了解。行こうか」「はい」


 大量の手榴弾を転移だけで運ぶのは骨が折れる。

 その為、ライルとミランにもお願いして、マジックバッグに詰める事にした。


「改めて見ると凄い量ですね。セーナさんは世界征服でもなさるおつもりでしょうか?」


「そうじゃない事を祈るばかりだよ…」


 保管庫には地球の小国が保有するくらいの武器が所狭しと置かれている。あくまでも安全な小国程度で、軍事国家や危険地帯周囲の小国はこんなもんじゃきかないけどな。

 この武器・兵器などは一度に買った訳じゃないけど、それでも向こうで目をつけられているんじゃなかろうか。

まぁ転移で移動しているから、俺達だとは誰もわからないだろうがな。


「あの木箱か?」


「そうだ。アレの中身をマジックバッグに入れてくれ」


 体育館よりも広い保管庫の天井近くまで積み上げられている木箱の中身は全て手榴弾だ。

 木箱ごと運べたらいいが、それは難しい為、ニシノアカツキ王国に入れ物は用意させている。


 二つのマジックバッグの中身を空にして、その中に手榴弾を入れる作業が始まった。

 砂糖の瓶詰め以来の内職だな。少し懐かしいけど、扱っているモノは全く平和的ではないな…




「お帰りなさい。みんな心配していなかったでしょ?」


 マジックバッグ二つを一杯にした後、完全武装の聖奈が待つニシノアカツキ王国の軍倉庫へと転移魔法で戻ってきたらこのセリフだ。

 俺は外泊するかもしれないとは伝えたけど、その後転移で戻らなかったから、みんな心配しているんじゃないかって聖奈に言っていた。

『心配…ですか?セーナさんがいて何かあるとは考えづらいので、大丈夫だと思っていましたよ』

 ミランですらこれだ。

 俺一人の時とは全然違うくないか?どっちが保護者だ?


「…ああ。それよりもこれどうすればいい?」


「この木箱を順番に一杯にしてくれるかな?」


了解(りょ)


 俺たちがせっせと手榴弾を詰めている間に、聖奈は聖奈で積んであった木箱の空き箱を蓋を開けて一列に並べてくれていた。

 俺はその木箱に優しく手榴弾を取り出して行った。

 誤爆したら流石にやばいからな…

 ビビリだから身体強化全開だぜっ!!




 こうして向こうで詰めてこっちで取り出す作業を繰り返す事暫く。

 昼過ぎには三つの倉庫に手榴弾を運び終える事が出来た。


「お疲れ様」


「聖奈もな。この後はどうする?」


 もう武器は渡したからトンズラこいてもいいんだけど?


「もちろん取引の続きだよ。これは慈善活動じゃないんだからね」


「じゃあ城に戻るのか?」


 我が家が恋しいからそろそろ帰りたいんだが…

 厳密には酒が恋しい……


「ううん。セイくんが国に帰ってる間に、表の兵に軍務卿を呼んでくる様に伝えたから、そろそろ来る頃だと思うよ」


 流石の手回しです…

 そんなやり取りをしていると魔力波がここへ近づいてくる魔力を捉えた。


「ワトソン。私だ。入ってもいいか?」


 ワトソンって誰?ホームズの博士かな?


「どうぞ」


 ああ…偽名だったな…

 クルーズって呼ばれても無視する自信しかないぞ。


「終わったのか?」


「はい。全ての木箱に武器を入れてあります。ご確認下さい」


「わかった。おいっ。木箱を調べろ!」


「「「はっ!」」」


 軍務卿が連れてきた兵達が手分けして木箱を開けるようだ。


「それで?交換の品はどの様にすればいい?」


「街の東西北に倉庫があるという事は南にもあると考えても?」


「そうだ」


「では、そちらに運んで頂けるとありがたいです」


 うん。俺は貝だ。物言わぬ貝なんだ。


「では王都にある反物と工芸品を全て運び込ませておく。夜までには済ませるから、それまでは…」


「散策でもして時間を潰しております」


「わかった。良い取引だった」


 聖奈と軍務卿が固く握手している。


 あれ…?次の取引の約束はしなくてもいいのか?

 よくわからんけど、聖奈に着いて行こう。迷子になったら困るからな!






 王都にあった軽食屋にて。


「向こうはもう俺たちのことは用済みなのか?」


「ん?ああ、向こうが次の約束や連絡の方法を聞かなかった事かな?」


「そう。それ」


 いくら大量に未知の兵器を手に入れたからといっても、それは有限だ。

 連邦があの程度の兵器では滅ぼせない事くらい、軍務卿もこの国の人達もわかっているはずだ。それとも連邦の巨大さを知らないのか?


「軍務卿ないし王国は恐れているんだよ」


「連邦が恐いなら尚更武器が欲しいだろ?」


「違うよ。私達を、だよ」


「俺達…?」


 確かに城門前では無双したけど、人外レベルの無双ではなかったはずだ。


「そう。だって素性もわからなくて、持ち込んだ武器も意味がわからなくて、普通の見た目のセイくんは強くて、私なんて王都に入った情報すら掴めていないんだよ。

 人は勝手に想像して恐怖を膨らませるの。特に恐怖の材料が多かったからそう思うのも仕方ないよ」


「……つまり、聖奈が恐ろしくて、もう関わりたくないと?」


 わかる。わかるぞ!!


「セイくん?」


 …わかる。わかるぞ…ひえっ


「はあ…今回は連邦の脅威が差し迫っていたから藁をも掴んだけど、知っている連邦よりも全く掴めない…見えない私達の方を脅威に感じたんだよ。

 まあ、アレだけ手榴弾があれば簡単には負けないどころか、下手をしたら南西部地域の半分くらい王国が獲るかもね?私達の目的はまだ達成するかわかんないけど、それは見守るしか出来ないからこれ以上は関わらなくていいよ」


「そうか。簡単に言えば全ては聖奈の手のひらの上ってことだな。後は放っておけば良いなら、俺からは何にもない」


「人聞きの悪い!私が手のひらの上で転がすのはセイくんだけだよっ!!」


 いや…怒るとこ違くない?

 まぁ、否定はせんが……エリーもよく転がしてますよ?俺より派手に……


「あ!あと、これで終わりじゃないよ」


「えっ?まだなんかあんのか?」


「セイくんには時々連邦王国戦を見守って欲しいの」


 えっ?何その苦行…


「武器は与えたけど、運用次第では無用の長物になっちゃうから、もし王国が劣勢になればバレない様に加勢してあげてね」


「そこまでするのか?」


「むしろそれをしないのであればここまでしないよ」


 卵が先か鶏が先か問題みたいだな……


「わかった。確かに目的は連邦に王国が勝つことでも連邦に負けさせないでもないからな」


「おっ!わかってるねっ!そうだよ。私達の目的は北西部に戦火が飛んでこない様にする事。別に王国がどうなってもいいの」


 俺達は聖人ちゃうもんな。為政者はそこからかけ離れた位置に存在するモノだ。ここまで聖奈を見てきたから流石の俺でもわかる。

 それに俺の偽善で仲間を失いそうになるのはもう懲り懲りだし。


「力関係に差が出過ぎない様に見守るよ」


「うん。ごめんね?」


 これは俺がそういうのが嫌だというのを知っているからか…

 だが、俺にはもっと嫌な事があるからそうならないように謝ってもさせるんだよな。不甲斐ない…


「いや、こちらこそありがとう。心配ばかりかけるな」


「夫婦だもん。持ちつ持たれつだよ」


 ん〜。持たせてばかりな気がするな……

 まっ、いっか!

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