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72話 お任せっ!

 





「何用か?」


 城の門まで辿り着いた俺達は、守衛に声を掛けた。

 門は灰色の味気ない岩が組み上げられて造られた塀に付いていて、大きな鉄の扉が侵入者を拒むように閉ざされている。


 守衛がいたのはそんな門の横に建てられている小さな建物。地球でいう駐車場や料金所で見かけるアレに似ている。お金を受け取る人が入っているアレだ。


「突然の訪問失礼します。我々は旅の行商人。戦の気配を感じ取り、遠路はるばる東の端からやって参りました。連邦が支配を広めるこの南西部は、我々の祖国と比べると失礼ながら文明が遥かに劣っております。

 数に負けないだけの武器があるのですが、お買いになりませんか?」


 よく噛まずに言えたな……

 東の端ってどこだよ。日出る国ジャパーンか?


「貴様ら!ふざけるのも大概にしろっ!」


 カンカンカンッ


 聖奈の話を聞いた守衛がそう言うと、人一人がやっと入れそうな小さな建物に備え付けられている鐘を鳴らした。


 さあ。お出ましだ。






 ものの三十秒程で俺と聖奈はかなりの数のニシノアカツキ王国兵に囲まれた。

 そう。囲まれただけだ。


「貴様ら!もう助からんぞ!!?」


「貴方達では話になりません。軍関係の高官の方を呼んできてください」


 俺と聖奈を取り押さえようとしてきた兵達は俺に『千切っては投げ』をされて、少し離れたところでお休み中だ。

 いや、千切ってはいないよ?


 誰も近づけなくなったところで聖奈がこちらの要望を伝え、兵達が顔を見合わせて暫く。


「何事か!?」


 綺麗な軍服を見に纏った壮年男性が割って入ってきた。


「こ、この者達が・・・・」


 俺たちを取り囲んでいた一人の兵がその男に説明を始めた。


「…其の方ら。真か?」


「ここで嘘をついて、私共の得になりますでしょうか?」


「………」


 聖奈の言葉に男は黙って思考を巡らせているようだ。

 俺は話さなくてもいいのかって?良いんだよ。

 漢は黙って立っているだけで良いのさっ!!話す事がわからないとも言う。


「流石に私の判断で城内に入れる訳にはいかん。ここで暫し待て」


「賢明な判断を期待しています」


 煽るねぇ…

 聖奈に煽られた男は、苦虫を噛んだように顔を顰めてその場を去っていった。

 暇だ……






 体感で30分程待つと先程の男が先導して、何人かの貴族っぽい人達を連れてきた。

 貴族っぽいのは服装からだ。和装ではなく、いかにもな西洋貴族の服装だな。


「遥か東の国から来たと聞いたが、証明する物は?」


 うん。そんなモノがあればこんな事してないぞ。


「それはありません。ですが、それ以外であれば証明出来ます。むしろ私達の出自よりもそちらの方がこの国にとっては重要でしょう?」


「……連邦に対抗出来る手段と言ったか。ではそれを見せてみろ。それが証明出来れば話し合いの席を設けよう」


 中々肝が据わっていそうだな。聖奈の煽り文句に眉一つ動かさないとは。俺なんて直ぐに不貞腐れるぞ?


「わかりました。ここでそれを使えば少なからず被害が出ますが良いでしょうか?壊して良いモノなどがあればそれを的にしますが」


 モノって…それは人も含まれますか?


「待て。使う前にどんなモノか教えてくれ」


「はい。簡単に言いますと、誰でも使える爆破魔法のようなモノですね。規模は一発で一個小隊を全滅ないし戦闘不能にする程度です」


 俺の強さを体感した兵達と俺達との距離は五メートル以上離れている。それでも聖奈の話を聞いてまた一歩後ずさった。


「誰ぞ!使わなくなった荷車でも何でもいい。持って参れ!」


「「はっ!」」


 貴族っぽい人達の中からそんな声が上がり、理由を理解した兵達が何人か動き出し、準備が整った。





「アレを壊せということですね?」


 俺達の後方…街側に積み上げられた廃荷車などのゴミを指して、聖奈が貴族っぽい人達に聞く。


「そうだ。其の方らが使えるか使えないかはそれを見て判断する。やってみせろ」


「わかりました」


 聖奈(じょうし)(ぶか)に視線で合図をしてきた。漸く出番のようだ。


「これは手榴弾というモノだ」


 俺はマジックバックから地球産の安物の手榴弾を取り出して貴族達に見せつける。

 言葉使い?良いんだよ。俺に演技力を求める方が間違っているんだ!!


「これの使い方は簡単だ。手順は三つ。一つ、このレバーを握る。二つ、ピンを外す」


 俺が見せている掌サイズの金属の塊を周りの者達が凝視する。


「そして…最後に標的に投げつける」


 俺は身体強化を解除して、生身の強さで標的に向かい、軽く放った。


 カンッ

 コロコロ…


 ドガンッ


 パラパラパラッ…


 手榴弾は積み上げられた廃材の隙間に見事入り、中で爆発して残骸を辺りに撒き散らした。

 よし。俺の任務は完了したぜっ!!


「どうですか?これを誰でも使用する事が出来れば、連邦に対抗出来ると思いませんか?」


 たったアレだけの事で、アレだけの効力を発揮した手榴弾の威力に、周りの兵達を含めて貴族達も見入っていた。

 頭が堅い奴らばかりなら『どうせ魔法で誤魔化している』とか言ってくるんだろうが……どうだ?


「…証明はされた。誰でも使えるかは使ってみなければわからないが、それはすぐにわかる事。先程の言葉にあったようにそんな事を態々する理由もなし。

 皆さんも宜しいかな?」


 貴族を代表して一人の男が周りの貴族っぽい人達に語りかける。

 こうやって進んで纏めてくれる人がいるのって、俺達もこの人達も助かるんだよな。

 バーランドの決定権は聖奈しか持ってないからそんな人いないけど……

 俺?俺は…言われた事しかしないマンだからな…



 こうして俺達は漸く門を通過する事が許された。

 持ち物はどうなったかって?

『私達の安全のためにそれは出来ません』

『取り上げたいのであれば国が滅ぶ覚悟をもって行動してください』

『信用できない?では滅びますか?』

 ……いつでもいつの世でも強者の声がでかいものなのだよ。

 向こうからすれば俺達は得体の知れない商人であり、未知のモノだから怖いんだろうな。

 俺でも朝起きてこんな奴が城にやってきたら嫌だよ。



 そんな事がありながらも門を潜った俺達の視界の中には一杯に灰色の味気ない建物がその存在を強く主張していた。

 塀と城の間は50m程空いていて、そこには程々に兵達が徘徊している。


「こっちだ」


 貴族達はそのまま真っ直ぐ城へと向かうが、俺達は兵に先導されて塀と城の間にある東屋のような場所に案内された。


挿絵(By みてみん)


 流石に有益だとしても不審人物を城内には入れられないよな。


「ここで暫し待て」


 案内した兵はそう告げると、輪のように俺たちを囲む兵達の群れの中へと溶け込んだ。

 まぁ俺に見分けがつかないだけだけど。


「聖奈。上手くいきそうか?」


 兵達は相変わらず俺達からそこそこ距離を取っている。そのお陰でこうして聖奈と内緒のお喋り出来るから良いけど。


「うん。問題ないんじゃないかな?いざとなれば守ってくれるんでしょ?」


「そりゃあな。出来ればその『いざ』が来ない事を祈るよ」


 俺としても喧嘩を売りにきた訳じゃないから出来れば穏便に済ませたい。ここで争って喜ぶのは連邦だから、何しにきたのかわからんくなるしな。


「話し相手が私達の意図している事を理解するほど優秀であれば身分を明かしてもいいけど、恐らく謎の商人のままだろうからそこのところはよろしくね?」


「まぁ理解出来ても納得はしないだろうからな。それに後々面倒な事になりそうだし、俺はお口チャックを貫き通すつもりだ」


 自分達の国がある地域に攻め込まれそうだからそっちでよろしく、なんていっても仕方ないしな。協力はするけど、それもずっとではないのは向こうもわかるだろうし。

 手助けし過ぎて、この国が強くなり過ぎると、連邦ではなくこの王国が脅威になるというマッチポンプが……

 まぁその辺の匙加減は聖奈に任せれば問題ないな。


 そんな風に考えていると、俺達を囲んでいた兵の海が割れ、そこから先程の貴族達を連れて見知らぬおっさんがやって来た。


 俺の出番は来ない……

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