表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

235/356

71話 灰亜の城。

 




『嫌じゃあ!!妾も行くのじゃああああっ!!』


 城に帰り、睡眠を十分にとった夕方。今日は町に入って、国の事を少し調べてみる事になった。

 コンが騒いでいるのは、今日はコンを連れて行くことが出来ないからだ。


「仕方ないだろう?町の様子が分からない限り、もしかしたらコンは没収されてしまうかもしれないし」


 いや、ホントにそんなことになれば力で抵抗するよ?

 でもさぁ。折角ここまで穏便に来たのにそんな事(・・・・)で台無しに出来ないじゃん。


「そうだよ。もし没収されたら…私ならまず解体して生体を調べるかな?」


『ひぃぃっ…』


 いや、1匹しかいないのに解体なんてせんやろ…せめて見世物小屋や……

 呆れて母国語が出てしまったが、コンにはこの脅しで充分通用したようだ。


「じゃあ行ってくる」


「貴方。気をつけてね」


 ライルだ。今回はトラブルを起こさないように男の二人旅を装う。

 そんなライルは今マリンに見送られている。俺?聖奈がマリンみたいにしおらしい所を見せるとでも?


「次はワンちゃん希望だよ!」


「いや、コンはペットちゃうから…」


 これである。

 俺とライルはみんなに見送られながら、名前も知らない国へと転移した。









「あれか?」


 今回は町に入る為にちゃんとした道に出て、町の入り口を目指していた。

 そんな俺達の前には町の入り口がポッカリと口を開けている。


「そうだ。この国には商人組合も冒険者組合もないらしいからな。俺たちは武者修行中で旅をしている剣士って設定だからな?」


「わーってるよ」


 せやかて工藤。

 誰がこのネタわかんねん。


 商人組合も冒険者組合もないのは組合の人に聞けばわかる。

 もちろん普通の職員は知らないが、組合長クラスになると大陸中の組合支部の場所を把握している。

 といっても、大陸地図があるわけじゃなく、国名と町の名前が記録されているモノを持っているだけだが。


 俺達…いや、聖奈が組合長を城に呼んで尋も……ごほん。話し合いをして教えてもらっていた。

 連邦の先に国があるのか?と。


 答えはわからない。だった。


 そのせいもあり、この国ではかなり慎重に行動している。

 今も目の前の門番に平身低頭である。


「だから!修行の身だっていってんだろーがよ!」


 ら、ライルさん…?


「こ、この様な非常時に何を考えておるのだ!!」


「うっせーな!さっさと町に入れろよな!」


 誰だ?コイツを俺の見張りに推した奴らは?

 俺以外の全員だったか…

 みんな。見る目がないぞ?


「あの…すみません」


「なんだ!?今はこの馬鹿者と話している!後にしろ!」


「いえ、その事なのですが、私達は随分前に旅に出て山籠りの修行をしていました。それで現状を把握出来ていないのです。

 良ければ非常時についてご教授頂けないでしょうか?」


 馬鹿ライルっ!ちゃんと見ていたかっ!?

 これがお前に求められていることだぞ!?


「そうだったのか。実はな・・・・」


 門番から聞かされたこの国の事情は想像通りだった。

 他に攻める所のない連邦の手がこの国にいよいよ迫ってくるというもの。

 若い男子は予備兵に組み込まれてそれぞれがそれぞれの町で準備しているところらしい。


「そうでしたか。わかりました。故郷に帰ろうかと思います。ですが本日はすでに夕刻。今日のところは町で休む事を許しては頂けませんか?」


「…わかった。明日の朝には出ていくのだぞ?居たら追い出すからそのつもりでな」


「ありがとうございますっ!ほらっ!お前も頭を下げろ!」


「ありがとう…ございます…」


 何だろう…この、学校に子供の不祥事で呼び出された親子の図は……

 俺にこんな大きな子供はいませんっ!!

 小さいのもいないけど。


 兎に角、俺達は無事に町に入る事が出来た。

 宿を取ったら早速城に帰ろう……昨夜より疲れた。ロクに動いていないのに…

 宿あるよな?









「そんな感じだったんだ。ライルくんも見張りご苦労様」


 おいっ!コイツはなにもしてないぞ!?

 いや、トラブルを起こそうとはしていたな。


 城に帰った俺達は夕食をつつきながら報告をしている。丁度晩御飯の時間だったのは良かったな。


「何の見張りだよ。ライルは何の役にも立たないどころかお荷物だったぞ…」


「何って女の子を拾わないようにっていう見張りだよ?それ以外ないでしょ?」


「そうだぞ。あの門番の女にセイが誘惑されない様に俺が頑張っていたんだ。感謝しろよな?」


 そう。あの門番は女性だったのは確かだ。

 いや…確かに門番は『くっ殺』が似合いそうな騎士然とした女性だったよ?

 でも、それにしても喧嘩はダメだろうよ…


「やっぱり女の子がいたんだっ!!」


「セイさん!次は私を連れて行ってください!!守らないと…」


 ミランのヤンデレ化が止まらん…

 つーか。


「うっさいわっ!!こちとら下げなくてもいい頭まで下げてきとんじゃ!!労うとかないんかいっ!!」


 こういう時は亭主関白を出して混沌と化した食卓を平常に戻すのだ。


「セイくん…また暴力?ドメスティックなの?」


『セイ。これ食わないんじゃったら妾が食べるぞ?』


 ダメだこれは…

 俺は諦めて箸を進めた。

 もちろんコンに俺の豚カツを渡す事はなかった。










「ところでアテはあんのか?」


 朝早く町を出た俺とライルは、街道を歩いていた。


「二国の争いに介入するにはこの国の上層部と接触しないといけない。そのアテはないが、大きな街に行けば何とかなるだろう」

「つまりいつも通りか」


 おい。今馬鹿にしただろっ!?


 昨夜泊まった…(実際には泊まっていないけど)…町で聞いた話では、この道を真っ直ぐ行くと他の街を経由して王都につくみたいだ。

 この国は予想通り半島になっていて、200年ほど昔に半島統一が成され一つの国になった歴史がある。

 他の国は連邦に吸収されたけど、やはり立地からこの国は攻めづらく後回しになっていたようだな。


 そしてこの半島の主要産業は鉱山のようだ。連邦が出来る前は貿易相手が沢山いて大変潤っていたらしいが、隣国が敵国である連邦のみとなった今、掘れども掘れども赤字になっているらしい。

 取れる鉱物は銅、銀、金、鉄と多岐に渡る。他にも石英などもあるかもしれないが、この国の文明度では採れても持て余しそうだ。石英ガラスは水都でよくみかけたものだな。

 国名は『ニシノアカツキ王国』と言うらしいが、これは翻訳さんがした翻訳な訳で、別に日本語ではないと思う。

 国の広さは聞いた話から予想すると日本の本州より一回り以上小さいようだ。四国と九州を足したモノより大きいくらいかな?聞いた話だからアテにはならんけど。


「とりあえず人が少なくなったら街まで走るぞ」

「おう。いつも通りだな」


 やっぱり馬鹿にしてるよなっ!?










 街道を疾走すること2日。俺は王都に辿り着いていた。


「二人きりって久しぶりだねっ!」

「そうだな。悪いな。新婚なのに」

「良いの。私は酒癖の悪い暴力亭主を甲斐甲斐しく面倒見る大和撫子を目指してるから」


 うん。酒は飲むけど酒癖は悪くはない。そして暴力なんて怖くて振るえません。

 そもそも大和撫子ってそんなんだったっけ?


 アホな話をしているが、別に遊んでいる訳ではない。

 王都に辿り着いたのならば、しなくてはいけないことがあるからだ。そしてそれには聖奈に来てもらった方が話が早いから久しぶりのペアになったんだ。


「それにしても凄いね。転生者はいないのかもしれないけどこんなにも日本っぽいなんてね」

「そうだな」


 ここの建物は瓦のような屋根が葺かれている。半島ということで、恐らく台風のような災害が多いのだろう。それで屋根を重くする為にこうなったと思われる。

 ジャパーニアのあれは飾りだからな。こっちのは実用性を突き詰めてこうなったみたいに感じる。

 木を多く使った家に土の壁、そして形は少し違うが土を焼いて固めた物を使った屋根だ。


 街は切り出した岩を組み上げた壁に囲まれていて、石畳みもある。そこだけ見ると異世界っぽいのに建物で台無しにしている。

 そう思うのは俺に染みついたイメージがそうさせているのだろうが……もうちょっとどうにかならなかったのか?と思わずにはいられなかった。


「着物は無さそうだけど袴っていうのかな?羽織物を着ている人が多いね」

「恐らく半島という限られた資源しか得られない場所で、創意工夫を行い、そうなったのかもな。あれならサイズは気にしなくても着回せるし」

「セイくん…どうしちゃったの?拾い食いでもした?」


 俺も偶にはマトモな事を言うんだよっ!!

 ツッコんだら余計に揶揄うから無視するけど。

 覚えておけよ!ベッドの上で夜の聖が…おっと。ここは全年齢だったな。俺はモラルを守る漢だからな。安心してくれ!


「これだけ和のテイストが入っているけど、お城は味気ない要塞だね」

「質実剛健さにも程度があるよな?」


 街の中程に差し掛かった俺達の視線の先には、灰色の四角い建物が入っていた。

 恐らくアレが王城なのだろう。

 守りは堅そうだが牢獄みたいで住みたくはないな。窓には鉄格子が入っていそうだし。


 そうは思っても目的地はあそこだ。

 俺と聖奈は灰色の牢獄へ向けて足を動かした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ