65話 謎の声。獣人の暮らし。
先程まで見ていた光景を、食卓を囲みながらみんなに伝えた。
「すごいですね。麓で暮らしている人達は山が倒れないのか心配ではないのでしょうか?」
ミランが俺の説明を聞いて感想を述べた。
俺もなぜあの山が倒れないのか不思議でならなかった。
ちなみにエリーもいるのだがエリーは元々興味があることしか喋らない。
地球のお菓子以外に興味がないともいう。
「そこまで凄いなら今度連れて行ってね!」
「ああ。調査が終わったらな」
まだ安全かどうかがわからんからな。
安全といえば……エリーの一件以来この城の警備兵の数を倍増させた。
地球からもセ○ム仕様の防犯アラーム付きの機械を買って付けたり、それ以外にもナターリアから高価な防犯用の魔導具を買って使ったりもしている。
高価だけど…酒と物々交換だから俺の小遣いで事足りた。
基本城にはセーナがいて敷地内にエリーの職場がある。
ミランは昼間は商店にいるが商店の行き帰りにも必ず護衛をつけている。
みんなには気の休まらない生活を強いているがこれは譲れなかった。
ん?俺が国王の強権を発動したのはこれが初めてかもしれないな。
公私混同が過ぎるが俺の心の平穏はイコールこの国の平穏だからなっ!!
無問題!!
「さて。これからどうすればいいんだ?」
昨日の崖に転移した俺は何から手をつけようか迷っていた。
「森の住人の調査が先かな?」
一先ず森の中を彷徨くことにした。
あれは…獣人だ。ここにも居たんだな。
『魔力視魔力波』の魔力探知を使い、その反応に向かうと3人の獣人が連携して魔物と戦っていた。
勝てそうだな。
手を出す必要がない為、風上を避けて近づいてみた。
「よっしゃあっ!みんな怪我はないな?!」
「ああ」「大丈夫だ」
問題なく倒せたみたいだな。足元の死体は…オラウータン?
恐らくオラウータンの魔物なのだろう。動物園で見た記憶はあるがムツ○ロウさんじゃないから確信は持てない。
「よし、さっさと解体して帰るぞ」
「おう!腹ペコだぜ」「見張りは任せてくれ」
この3人は熊の獣人だ。
アーメッド共王国では色んな獣人が混ざって暮らしていたから疑問に思わなかったが、もしかしたらここでは種族別に暮らしているのかもしれないな。
まぁコイツらの里(?)に行けばわかることか。
俺は風向きだけ気をつけて3人の後を追った。
双眼鏡と魔法を使っての尾行だから匂い以外でバレる危険は少ないはずだ。
「うん。見事に熊の獣人しか住んでいないな」
木に身を隠しながら双眼鏡で集落を覗いている。
双眼鏡が映し出した集落は以外にもちゃんとしている。
いや、失礼だな。
普通の木の家に外にレンガで造られた大きな窯が見える。
近くに魔物はいるようだが、集落には壁も柵も堀もなかった。
「でも暮らせているって事は問題ないって事だな」
ここまで来るのに国境やそれに近いものはなかった。
これは獣人達の国にも連邦側にもないということなのか、それとも実はまだここは連邦の中という事なのか…
「わからんがここに人が見えない事は確かだな」
『お前がおるではないか』
「いや、こういう場合、自分は含まないもんなんだよ!……え?」
誰だっ!?
俺は辺りを見回すが側には誰もいない。
魔力視魔力波を使っているんだ。誰かいるはずがない。
「幻聴か…ついにぼっちに耐性がついてしまってアレルギー反応みたいに『阿呆』…気のせい…気のせい」
俺がこの心霊現象に対して現実逃避をする為に訳のわからん思考を始めたが、それを咎める声がハッキリと聞こえた。
「どこにいる?…誰だ?」
『モノを頼む態度ではないのぅ』
「いや、見えないから…そうだな。こちらにそちらを害する意思はない。姿を見せて欲しい」
どこにいるのかわからないが俺は頭を下げて頼んだ。
『はっはっはっ!』
なんで笑われているんだ?
まさか…顔か!?今更顔面偏差値で笑われるのかっ!?
「…何が面白いんだ?」
『すまぬな…人ごときが妾を害する事が出来ると思っているのがおかしくてな』
そう来たか…確かにこちらから姿が見えない上に魔力視魔力波でも捉えられないのなら向こうが格上か…
暫く自分より強い奴に出会っていなかったから忘れていたよ。
この世界には未だ見ぬ化け物がいるって事を。
「いや、こちらの思い違いだ。アンタからしたら俺なんか取るに足らない存在なんだろうな。
それでアンタの事を教えてくれないのか?」
『妾の事がそんなに気になるのかえ?で、あればあの山の頂を目指すがいい。
妾はそこで待っているぞえ。其方を心待ちになぁ』
えぇ…アレを登るんですか?
雲に隠れていない部分で既に地面に対して垂直なんですが…
「…じゃあ他の事を教えてくれ」
『じゃあの意味がわからぬが…何が知りたいのじゃ?』
「アノ山の麓に住んでいる獣人達についてだ」
『よかろうぞ。話し相手になってやるのじゃ』
アンタ実は寂しかったんじゃ?
得体の知れない奴が齎してくれた情報は有益なモノだった。
てっきりこちらが知りたい事は何もわからない系のポンコツキャラ2号かと思ったが、そうはならなくて良かった。
エリーは一人でお腹いっぱいです。
俺が聞いた情報はこんな感じだ。
ここに住む獣人は100以上の部族である。
同じ熊の獣人でも部族が違う事もあるが、部族内は同じ種類の獣人しかいない。
人は住んでいない。入ってくる事は稀にあるが魔物にやられたり、獣人に殺されたりしている。
別々の部族だが有事の際は団結してこの地を代々守ってきた。
部族間の争いは頻繁に起きているが独自のルール内での争いの為、死人は滅多に出ない。
集落に魔物除けがないのはコイツがいる山の麓には魔物が入って来れないかららしい。
「それじゃあここに脅威は迫っていないのか?」
連邦の件があったから近々攻め込まれるかもって聖奈が心配していたから態々来たのにな。
まぁ平和ならいいか。いいのか?
『脅威はお主じゃ。だから態々妾が接触したのじゃ』
俺は死神か何かかな?
「俺にここの獣人を害する気はないぞ?もちろん向こうがやる気なら黙ってやられる気は無いがな」
やられたらやり返す。倍返しだっ!!
東雲家奥義!100回土下座!!
誰が半沢覚えてんねん。
『それなら自由にするがええ。妾は山頂におるでな。会いにくるといい』
えぇ…やっぱり行かないといけない系イベント?
俺は主人公じゃなくてただ運良く強い系のモブだからイベント無視してもいいよね?
『後、山では神代魔法は使えぬからそのつもりでのう。待っておるぞえ』
「えっ?!どゆことっ!?」
その後はいくら話しかけても返事はなかった。
「つまりセイくんの持ってる魔導書に記載されている魔法は使えないってことだね」
不思議な体験を伝える為に俺は城に帰ってきた。
そこで偶々みんないたから緊急会議が開かれた。
緊急会議=3時のおやつタイムなんだけどな。
「そうだと思う。あれは神代文字で書かれているからな」
「セイには身体強化魔法やあまり使っていない魔法もあるから大丈夫だろ」
ライルさん。素で強い貴方にはわからんでしょうね!
俺は基本ビビリなんだからっ!!
「登らないってせんた『ないよ』はい…」
「私も…」
「ダメだよ。いくら銃火器や地球のモノが使えてもセイくんの能力が半減しているところに足手まといの私達が着いて行く事はできないよ」
ミランの提案は聖奈に一蹴された。
俺の事が心配でそう言ってくれるのはわかってるよ。けど、俺も聖奈と同じ意見だから我慢してくれ。
「聖奈も行きたいだろうが悪いな」
「うん。見逃せないイベントだけど、この世界は命懸けだもんね…」
俺は行きたくないけどなっ!!
後、イベントいうなっ!!俺の可愛い命が掛かっているんだぞ!
「兎に角、何が出るのか、何が起きるのかわかんないから準備は万全にしないとね!
私も協力するからセイくんは体調だけ整えておいてね」
「これが内助の功ですか……」
誰だよ。ミランに変な慣用句を教えた奴は…
からかいの達人しかいないな……




