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63話 得たモノ。注:盗んだともいう。

 




 時に山の中腹から探したり、時に麓に降りて探したりしていた俺達の視界の中には遂に標的が…


「疲れたな…」


「そうだな…」


 俺達は満身創痍の為、一度帰還した。




「見つかったんだ。これで後は騙すだけだね!」


 俺の事を詐欺師みたいに言っているが詐欺師は聖奈だからな?


「明日になったら朝方に行ってくる」


「うん。こっちもそれまでに準備させとくね!」


「若い奴等は喜んでいたけど階級が高い奴等はゲンナリしているぞ」


「ライルくん。大丈夫。慣れてるから!」


 うん…帝国の時は駒として使われるだけで失敗すれば責任(死)を取らされてきたけど…

 今は今で心労が大変な事になっているんだろうな…


 若い奴等は部下が出来ると喜んでいるのだろうが、聖奈はそんなに甘くはないぞ?

 ウチは中身が悪くなければ後は実力主義だからな。











「あれですか…」


 連邦の鎧を着た兵士が俺に聞いてくる。

 ここは俺とライルがやっとの思いで見つけた連邦軍の野営地の一つ。

 俺達の探しモノは連邦軍だったんだ。


「そうだ。手筈通りにな」


「はっ!必ずや成し遂げてきます!」


 俺は馬に乗り最敬礼をしてきた兵を見送った。

 済まない…聖奈(あく)の片棒を担がせて……


「さっ。俺達は所定の位置まで行くぞ」


「おうよ」


 ライルに声を掛けて俺達は移動を始めた。





『アイスバーン』


 俺達が潜んでいた連邦軍の野営地に程近い荒野で魔法を発動させた。

 そう。聖奈が下院議員であるマクロスと交わした取引は『ライバルを消してやる代わりに少なくない連邦兵を貰う』というものだ。


 俺達が連邦首都に向かう時にせっせと集めた兵の数では聖奈の目標には程遠かった。

 しかし、集めた兵は簡単に言うことを聞いてきた為、それに味をしめた聖奈はもっと連邦兵を引き抜け(・・・・)ないかと考えたのだ。


 それは引き抜きじゃなくてただの誘拐だと何度説明しても理解は得られなかった。

『こっちの方が絶対幸せだから!ねっ?セイくんもわかるでしょ?』

 だとしてもっ!


 先程いた連邦軍の鎧を纏った兵はバーランド王国軍の将官だ。

 奴にはマクロスが偽造した軍の命令書を持たせて嘘の作戦を連邦兵に伝えさせた。


『〓〓将軍が命じる。伝令に従い二千の兵の移動を命じる。この作戦は極秘である。千人長二名のみに伝達されたし』


 といった感じの内容だった。

 何枚かあったからいい加減にしか覚えていない。


 あの野営地は今回の作戦で連邦が用意した軍の一部に過ぎない。

 それも一人の下院議員の独断に近い作戦だった為、連邦軍の全てを動かしたわけではないようだ。


 それでもあの野営地には一万の兵がいて、マクロスが言うにはこの作戦には20万以上の兵が投入されているらしい。


 そんなわけで俺達はまだまだ忙しくなる。

 だからこんな所でのんびりは出来ないんだよ。


「な、なんだこれは!?」「動けん!!」


 騒がしい連邦兵に俺達は近寄った。









 side聖奈

「こんな事をして、連邦軍が黙っていないぞ!!」


 うん。元気があって非常に宜しいっ!


「鎮まれっ!!王妃陛下の御成である!」


「お、王妃!?ど、どういうことだ!?」


 連邦は君主制じゃないもんね。

 それにしても私の敬称が『殿下』じゃなくて『陛下』で定着しちゃったなぁ…

 殿下の方が可愛くて好きなのに……


 私はこれまでの連邦兵にしてきたように新たにやってきた二千の連邦兵を洗脳(説得)した。


 うん?なんだか『それは洗脳というんだっ!』っていう聖くんの声が聞こえた気がするけど…気のせいだよね?










「終わったな…」「ああ…もう縛るのはいやだ…」


 城に帰ってきた俺とライルは愚痴をこぼし合った。

 だってあれから5日だぜ?

 その間、騙して呼び出した連邦兵をひたすら足止めをして縛り続けたんだ。


「あの将兵も最後の方は慣れてたな…」


「アイツが詐欺師になったら聖奈のせいだな」


 アイツ、最後は考えずに嘘の言い訳が口から勝手に出てきたと言っていたが……


「おかえりなさい!ライルくんも!」


 俺達がぐちぐち言っていると最後の説得が終わった聖奈がやって来た。

 お腹が少し目立ち始めたマリンを伴って。


「動いても良いのか?」


「はい。お医者様からもこれからは適度に動くように言われています」


 俺の言葉にマリンが返してくるが…この口調は変わりそうもないな。少し寂しい。


「ライルももう少しで父親か。楽しみだな?」


「楽しみよりも不安の方がでけーよ。俺なんかが親になっても良いのかってな…」


 また始まった。マリンが身籠った事がわかってからライルはずっとこれだ。

 だから今回の連邦兵徴収作戦にライルを連れて行ってほしいとマリンに頼まれたんだ。傍にいるとすぐに悩むからって。


 ホントはエリーの件が片付いたら、ライルには身重のマリンの側に居させるつもりだったのに。


「ライル。男なんて何も出来ないぞ?特に子供のことなんてな。

 出来ないとしないのはまた別の話だが、子供のことはマリンに任せて、ライルはマリンのサポートに徹すればいい。

 難しく考えるな」


 俺の言葉に『それもそうだなっ!』とライルは空元気かわからない笑顔を向けてきた。


「セイくんって、自分の事以外は冷静に俯瞰出来るのにね……」


 悪かったなっ!ウジウジマンで!!


 だがこれ以上子供の話をすると矛先がこっちに向くのはわかっているから無視だ!!


「セイさん達にはコウノトリはまだこないです?」


「エリー。これやるから黙っててくれ」


 もぐもぐ。


 うん。エリーは大人しく食べてる時が一番だな。

 頼むから巻き込み事故はやめてくれ。一人で事故って聖奈に怒られるのはどうでもいいけど。


「何人くらいになったんだ?」


 俺は話を変えるためにも聖奈に聞いた。


「自分で連れ去ったのにわからないの?」


「そんな余裕はなかったな。数が多過ぎだ。ちゃんと統制はとれるのか?」


 反乱軍になったらめんどくさ過ぎるぞ…

 そうなれば全く嬉しくないマッチポンプの出来上がりだな。


「大丈夫。最初に連れてきた人達と凡そは同じ反応だったよ!」


「うん…その凡そから漏れた人達の事は聞かないでおくよ……」


 知らない方が幸せなんだ…

 俺はこれからも聞きたくない事からは耳を塞いで生きると決意を新たにした。


「ふーん。まぁいいよ。連れてきた連邦兵の総数は21,574人だね。これで人材不足は解消されるから一先ずホッとしたよ」


 えらく半端だな…

 俺は確かに数を数えていなかったが、1000人単位だった筈だ。多少の前後はあっても500人も前後するのは……


 いかん。考えてはダメだっ!!

 感じるんだっ!…なにを?


「セーナ。その人達は何に使うの?」


「今回の人員はとりあえずそのまま国軍に配属だよ。人手が欲しかったのはインフラ工事にだね。もちろん国中から人は募集するんだけど、絶対足りないから軍も投入するんだよ。

 その時にどうしても軍内の人手が足りなくなるからその穴埋めだね」


 穴埋めの穴埋め要員だな。


 バーランド王国のインフラは他国と変わらないどころかかなり上の品質だ。

 それでも聖奈がそこに力を入れるのは自分に上がってくる仕事の殆どが最終的にインフラに通じる事ばかりだったからだ。


 街道一つとっても国民、軍部、商人、冒険者など色々な所から色々な理由で陳情が上がってくる。

 聖奈曰く、土を踏み固めた街道の景色が異世界っぽくて好きなんだとか。


 だが、いくら好きでも時間に追われてそれを楽しむ事が出来なければ本末転倒である。

 よって街道を含めたインフラの全面魔改造計画を密かに進めていたようだ。


「あんまり根を詰めるなよ?聖奈が倒れたらこの国はおしまいだからな」


「ふふ。バーランド王国のその段階はもう越えたよ。でも心配してくれてありがとう。

 その心配している愛しの奥様からお願いがあるんだけど……」


 ひぃぃ…聞きたくないよぉぉ……

 俺の悪夢に終わりはないようだ…

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