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61話 吾輩は黒幕である。名前はまだ無い。

 




「ついに目的地へと着きました」


 ミランが少し疲れた声で告げた。

 この国は生活こそしているが街に活気がなくおやつは少ない。少なからずはあるが少量の甘味が入ったクッキーでさえバカみたいな金額で売っていた。

 作った人には悪いが、大して美味くもないのに。


 ミランが疲れているのはそれもあるが、変わり映えしない街にも兵士にも飽きていたからだ。

 斯くいう俺も大分前から飽きている。


「そうだな…結局最高評議会がある街に来てしまったな……」


 他の街で証拠や黒幕に会える予定だったのに…

 まさかここから動いていないとは……


「自分は賢いと思っている人って動かないよね。雑用をしないというか。

 何だかバブルが弾けて潰れた会社の社長みたいなイメージだよ」


「そうだな…本当に賢い人は本人が一番動くもんな。悪く言えば人に任せれないっていうか、聖奈だな」


 聖奈は俺じゃなくても自分で出来る事は決して頼まない。

 もちろん側にいれば頼る時もあるんだけど、ごく稀だな。


「私は賢くないよ?賢い人ならセイくんを傀儡にしてるもん」


「……じゃあ聖奈だな」


「なんでよっ!?」


 冗談はこれくらいにしておこう。

 これ以上黒幕のいないところで文句を言っても仕方ないしな。


「ここには忍び込むでいいんだよな?」


 そう。本丸には一切証拠を残さない。











 夜になり、ライルと共に街を守る壁を越えて、侵入に成功した。

 人気のない路地に入って、ライルに見張りを任せて仲間を転移で連れてきたところだ。


「ここも廃れていますね…夜といえど巡回の兵以外街を歩いていないのは…牢獄でしょうか?」


「似たようなモノだな。様子を確認したし、予定通り明日の明け方にもう一度来ようか」


 みんなが頷いたため、転移魔法を発動した。





 そして明け方。


 まだ薄暗い連邦首都に俺達は着ていた。

 朝は早いがすでに活動している街の人が多かったので情報集めに別れる。

 女性陣はトラブルになる為、顔に布のようなものを巻いてもらった。


 ここはかなり赤道に近そうだ。その為かなり日差しがきつい。

 街の人達も男女関係なく日焼け防止の為の布を顔に巻いて肌の露出は少ない。


「俺たちもか?」


「うん。顔を見られなくて済むし一石二鳥でしょ?」


 そういう事なら仕方ない…

 俺は身体強化を使っているから余り暑さも日差しの強さも感じないんだがな。




「わかったよ!家も所在も確かだから夜まで戻ろう?」


 昼過ぎには聖奈達が合流してきて俺達の下準備は終わった。

 後は怒りをぶつけるだけだ。


 転移して戻った俺達は兵士の声を聞く為に演習場に顔を出した。


「そうか。すでにこの国に住みたいと言っていたか」


「はっ!奴等も陛下の威光の前ではなす術もなく。流石陛下です!」


 半分…いや8割はおべっかの報告を聞いた。恥ずかしいからホントにやめて…

 見てみろよ?

 聖奈とライルがこれ見よがしに笑いを堪えているだろ!?


 ミラン…そんな憐れむように見るのはやめて…

 一番堪えるから……












「準備はいいか?」


 ここからはあまり喋れない。最後の確認のつもりでみんなに声を掛けた。


「いこう。天罰の時間だ」


「月に変わってお仕置きよ!」


「聖奈。確かにそうかもしれないが…やめよ?」


 俺は色んな所に気がつかえる男なんだ!


『テレポート』


 その言葉を残して俺達は城から消えた。




 俺の視線の先には豪邸がある。この国では珍しくガラス窓が使ってある立派な屋敷だ。

 水都の屋敷の何倍もありそうな屋敷には、私兵と思わしき兵が屋敷を守るように巡回している。


 俺は無言で指を指して合図を送った。

 俺の合図に頷いたライルが消えるように音もなく加速した。


 俺も身体強化を少し強めに掛けて反対の兵に向かう。

 兵は街中のためか、単純に重たくてか、うるさくてかはわからないが、金属鎧ではなく革の鎧を装備している。


 音を立てたくない俺達の為の装備みたいだな。

 俺は自分の日頃の行いのお陰だとほくそ笑みながら、接近した兵の後頭部を拳で殴打した。


「ぐっ」


 倒れる兵士を抱えて音を最小限に留める。

 ふとライルの方を見ると…


 首を後ろから締めて兵を落としていた。

 音を出さないのはあの方法がベストだな…


 俺は聖奈達をハンドサインで呼んで先を急いだ。


 屋敷に音もなく忍び込んだ後は、一階をこれまた音もなく制圧した。


「やっぱりセイくんはチートだよ。ズルい」


「待て待て。ライルも同じだけ倒したぞ?」


「俺のはちげーよ。セイが相手の居場所を教えてくれたからバレずに行動出来たんだ」


「…流石セイさんです」


 ミラン。褒めづらいなら言わなくていいよ?

 コイツらも素直には褒めないよな…誰だよこんなにコイツらを歪めたのは!

 ぼっちだったせいか……


「兎に角、後は二階だけだな。地下室とかあれば別だが、当主が理由もなくそんな所にいかないよな」


「そうだね。フィナーレだよ」


 聖奈の言葉に俺達は頷き合い、二階を目指した。


 二階でも同じように音もなく殲滅していった。

 二階にいた使用人の男を気絶させる前に、当主の居場所を聞いていたからその部屋以外の人達を無力化した。


「全員口を塞いで縛ったな?」


「うん。結束バンドで親指を縛ったから抜けれないよ」


 結束バンドを態々持ってきたのは時間短縮の為だ。これなら聖奈達女性陣でも間違いもなく、簡単に縛ることが出来るからな。


「じゃあ行くかっ!」


 残すは一部屋のみ。

 俺を先頭に一際重厚な造りの扉に向かった。




「たのもぉーーっ!」


 ドガーンッ

 パラパラパラッ


 俺が掛け声と共に蹴破った扉は木っ端微塵になった。


「だ、誰だっ!?」


 悪人って同じセリフばかりだね。

 まぁバリエーションは求めてないけど。


「お前が喧嘩売った相手だ」


「け、喧嘩…?…侵入者だっ!!誰か!!」


 部屋にあった反応は三つ。すでにライルが二つの反応を制圧している。


「起きているのはお前だけだ」


「なっ…何者なんだ!?…か、金か!?わかった!女でも金でもいくらでも用意しよう!!ひっ!?」


 馬鹿な奴だな…聖奈とミランの前で他の女を俺にあてがうなんて言うから……

 そういうのはこっそり言ってくれっ!!


 聖奈とミランの不穏な気配を感じた黒幕は、えもしれぬ不安が襲ったようで黙ってしまった。


「まだわからんのか?」


 男は首を振る。


「バーランドの王と言えばわかるな?」


「!!…そ、そうか。ふははっ!!成功したようだな!!」


 凄い……ここまで小者感があるセリフは中々言えないぞ?

 俺が感心していると男は言葉を続けた。


「お前の仲間は私の手の中にある!!私に指い『ボキッ』ひぎゃあ!?」


「うるさいな。指って言ったから指を折ってやったんだ。…だが泣いて感謝までしなくていいぞ?」


 鼻水飛ばすなよ…きたねーな。


「がぁぁ…き、ぎざまぁ…仲間が死んでもいいのかっ!?今なら許してやらんことも『私です』な…い…えっ?」


「貴方が誘拐しようとしたのは私ですっ!」


 エリー…そんな偉そうにいうことじゃないぞ?

 ない胸を張るな!

 聖奈は写真を撮るな!!気が抜けるだろうがっ!


「ば、ばかな…完璧な作戦だったはずだ…」


「仲間が暴いたからその話にも興味ねーな。とりあえずお前は終わりだ」


「ま、待ってく」ザシュッ


 ゴトッゴロゴロ


 驚愕の表情を貼り付けたまま、名も知らない男はその生涯を終えた。


「そんなにアッサリと…良かったの?」


「構わない。別に拷問は趣味じゃないしな」


 嘘だ。本当はありとあらゆる苦痛を与えて、必ず『殺してください』と言わせてやるつもりだった。

 だが、そんな事をすればまた魔力に心が支配されそうだし、大切なモノは取り返せたからな。


「じゃあ盛大に行こうか!」


 俺は聖奈のその言葉を聞いて、みんなを連れて転移した。





 ドガーーーンッ


 連邦首都の夜空に破片が散らばる。

 黒幕の屋敷が一階を残して吹き飛んだんだ。


「ホントに見逃してよかったの?」


「条件の一つだったんだろ?なら仕方ない。約束は守らなきゃな」


「セイさん…」


 俺が聖奈と話しているとエリーが元気なく俺の名を呼んだ。


「怖い思いをさせたな。済まなかった。家に帰ろう」


「はいです…」

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