22話 輸入開始。
工房に戻った俺は、未だに抱きしめてくる聖奈さんに文句を言う為、振り返る。
「え?なんで泣いてるんだよ?」
「だって…お化けが出そうで怖かったんだもん…」
それで抱きついてきたのか……
「もう大丈夫だ。泣いてたらミランに心配させるから、落ち着いてから出よう」
「ううん。もう大丈夫だよ。いこっ?」
「いや、聖奈だけで行ってきてくれ。
どうせ転移するだけだから、家具の輸送は俺一人でも同じだ。
終わったら戻るから、ミランと一緒に待ってろ」
また行ってもビビるだけだからな。
「うん。ごめんね」
「謝るようなことじゃない。ほら、あんまり目を擦るなよ」
背中を支えて入り口まで送った。
俺は目についた家具の前にきていた。
「持ち上げれば一緒に転移する。後は聖奈さんと同じで接触が多ければ一緒に転移してくれるかどうかだな」
もし、接触多めで転移しなかったらベッドや大型家具を持ち上げなきゃいけない……
「とにかく試すか」
俺は目の前にあるダイニングテーブルに抱きつき、転移を願った。
全部の家具を地球の倉庫兼会社に転移させた俺は、二人の元に向かった。
接触はある程度で大丈夫だったな。
俺が意識して触っていれば持っていける事がわかった。
それだけでも今回は収穫があったな。
合流した俺達は、満天の星空の異世界を堪能しながら街へと帰った。
「夜空凄かったね」
聖奈さんの言葉に同意出来なかった者が一人いる。
「セーナさん達の世界では、星が見えないのですか?」
「ううん。そんな事はないんだけど、私の住んでいる所では夜も灯りが多すぎて星が見えにくいんだよ」
「そんな事もあるんですね」
「俺の生まれ育った場所は田舎だったから、そんな事はなかったけどな」
満天の星空を見ると実家を思い出すな。
あれだけ田舎は嫌だったのに、さらに田舎?の異世界は好きなんだから、自分でも自分が変だと思う。
まぁ魔法も魔物も異世界人もいないから、それは違うか。
宿へと帰った後、ミランをまた待たせる事になるけど、俺と聖奈さんは再び転移した。
今回は初めからビビるのが分かっていたから、目をつぶって後ろに張り付いていた。
「もう、いいぞ」
外に出た後、聖奈さんに離れてもらって鍵を閉めた。
「タクシー呼ぶね」
聖奈さんにタクシーを呼んでもらって暫く待つ。
田舎で主要駅から離れた場所のため、中々タクシーが来なかった。
マンションに帰って少し話をする事に。
「私は残念だけど、こっちでする事があるから残るね。
聖くんはミランちゃんと向こうで活動しててね」
「いいのか?俺にもこっちで手伝える事があれば言ってくれたらいいぞ?」
「大丈夫だよ。それに冒険者としての準備にも動きたいから、最長で5日くらいは行けないの。
その間、ミランちゃんの事はよろしくね」
「わかった。あまり無理はするなよ?会社も異世界も逃げないんだから」
「ダメだよ。今頑張ったら後が楽なんだから!
バイトの子が入ったら白砂糖の瓶詰めとこっちでの販売は任せられるから、仕事を覚えて貰ったら私も異世界に行くね」
どうやら決意は固いようなので、俺は白砂糖を持って異世界へと帰還する事にした。
ミランへのお土産に甘いスイーツを持って。
「そうですか。セーナさんは頑張っていますね。私ももっと頑張らなきゃ」
戻った俺はミランに声を掛けて部屋へと呼んだ。
最後の方は声が小さくて聞き取れなかった。
「気にしなくていいぞ。聖奈はしたいようにしているだけだからな。
後、これはお土産だ。俺の世界でのお菓子だ」
俺が渡したのはコンビニで売っているカップケーキだ。
「綺麗ですね。入れ物はガラスでもないのに透き通っています。
どうやって頂くものですか?」
そうだった。蓋の開け方も食べ方もわからないのだったな。
「貸してくれ。これはこうやって蓋を開けてこの透明なスプーンですくって食べるものだ。
ほら。あーんして」
受け取って食べ方をレクチャーした俺は、掬ったケーキを俺が食べるわけにもいかない為、ミランに食べさせた。
「お、美味しいです・・・」
あーん。に照れていたミランだったが、ケーキを口に入れたところ元々大きな目をさらに見開き驚いていた。
ケーキかと思ったけど、上のクリームが多いプリンアラモードだったか。
スプーンで掬った後には下にプリンが出てきていた。
「食べ方はわかったか?後は好きに食べてくれ」
「いえ。もう一度お願いします」
何故かあーんが気に入ったようだった。
真面目な奴は何を考えているのかわからんな。
「美味しかったです。ありがとうございました。
食べてしまってから言うのも何ですが……
高かったのではないですか?」
たしかに何の知識もなかったら、色々なフルーツが乗っていてふんわりした甘い生クリームにプリンだからな。
値段が想像出来ないよな。
「向こうの世界では、ミランくらいの年頃からなら誰でも気軽に買える値段だ。
同一じゃないけど、向こうで400円しないくらいで、こっちでは400ギルくらいの物だな」
初めて一緒に食べたところのクッキーと変わらない値段だと知って、さらに驚いていた。
「あの!私がお金を出すので、また買ってきては頂けないでしょうか!?」
ここまで女性を夢中にさせるものなのか……
スイーツ恐るべし……
「毎日でも買ってやるよ。そうだ。お世話になっているミランの実家にもお土産に持って行こう」
今の俺には大した金額でもないしな。
一度言ってみたかったぜ!2,000円くらいだけど……
「ありがとうございます!一生ついて行きますので、見捨てないでくださいね!」
いや……そこまで言われると重い……
「弟や妹も喜びます!一番喜びそうなのは母ですけど……」
どうやらミランは、父と母それぞれに似ているようだ。
「今日はもう寝よう。俺は朝に弱いから寝過ごしていたら叩き起こしてくれ」
そう言って退室を促したが…
「では、私もここで寝ますね!開けたままだと不用心ですから」
そう言って部屋の鍵を閉めた。
まあベッドは二つあるからいいか。
それに聖奈さんとよりは、色々とマシだし。
「俺は日課の月見酒をしてから寝るから、先に寝といていいぞ」
どうやら眠かったらしく、素直にベッドに潜った。
「起きてください」
「んーあと少し……」
「起きないとセーナさんに私と一緒に寝たっていいますよ?」
えっ?
俺はロリコン疑惑が生まれる恐怖には勝てず飛び起きた。
「おはよう。もし聖奈にない事を告げたら、罰としてスイーツ1ヶ月抜きな」
13歳を脅すのはどうかと思うが、ロリコン疑惑はダメだ。
「うっ。それは…でもセーナさんはそんな事でセイさんの事を嫌いにはならないと思います」
「いや、嫌われるとか聖奈だからとかじゃない。俺の世界の掟で、18歳未満と同衾するような奴は、世界中の紳士から敵対されるんだ」
合ってはいないが決して間違っていないだろう。
「そうだったのですね。良かった」
良かった?
それよりも聖奈さんはいつ付き合っていないとミランに伝えるんだろう。
俺よりも深く考えているから勝手な事は出来ないし。
朝食を食べた俺達は、食後の日課の商人組合にきていた。
ちなみに馬車は昨日戻している。
高い駐車料金だ……
良心的だけど月極で考えたら3万ギルだからな。
商人組合では聖奈さんがいないのを見て、捨てられたのかと心配された。
待ってくれ。誰も俺が捨てたとは思わないのか?
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いや、ホントは俺も気付いている。もし捨てられるとしたら、俺だと。
今日も納品の後、売り上げの280万ギルと、新しい預り証を受け取り組合を出た。
その後は特にする事も思いつかない為、街のあちこちを二人で歩いた。
地球なら13歳と21歳が仲良く歩いていたら鋭い視線に晒されそうだが、ここではそんな事はない。
「そう言えば魔導書があれば魔法を覚えられるかもって言ってたよな?
どこに売ってあるんだ?」
「確かにそうお伝えしました。ですが魔導書は古代文字で書かれていて、教養がないと読めませんよ?」
まさか、俺には教養がないとディスりたいだけじゃないよね!?
21ちゃいだけど泣くよ!?
「多分読めると思う。この街には売っていないのか?」
「そう言えば能力の事も言っていましたね。
今現在あるかどうかは分かりませんが売っている場所はわかります。
付いてきてください」
俺達は街を行く。
ここにはロリコンを取り締まる人はいない。
残金
円、ギル共に高額の為、節目でのみ公開。




