44話 頼む!!仕事をくれっ!!
「冗談だよ」
いえ。冗談に聞こえませんでした。
須藤が逃げた後、俺は社長室へと連れて行かれ尋問されていた。
そこではサキちゃんについて洗いざらい吐かされた後、この言葉だ。
絶対怒っている。
「ホントに覚えてないんだ。確かに須藤とあの時キャバクラにはいったんだけど…」
「もういいよ。本当に怒ってないから」
これはまずい。ひじょーに拙い…
「はぁ。確かにヤキモキしたけどよく考えたら聖くんだしね?
異世界でどうかはわかんないけど、こっちで他の女性に靡いている姿は…想像できないよね」
くっ…ここは男として馬鹿にしていると怒るべきか…
男としてどうかと思うけど今はありがたいと受け入れるべきか…
答えは後者だ!!
「これからはそういう店は行かないようにする」
実際キャバクラなんて何が楽しいのかわかんねーしな。
異世界で言っていた事と違う?
当たり前だろ!!向こうは俺にとっての楽園なんだよっ!!
「それは立場的にも難しいから行ったらいいよ。私は理解ある奥様目指してるからねっ!!」
俺が最低な考えをしている時にこの子は…健気や…
「でも行く前に一言あれば嬉しいかな!」
それ忘れてたらどうなるんだろう?気になるけど試す勇気はないから一生謎のままだろうが…
「お婆さんに挨拶した手前聖奈を泣かせられないからそうするよ。
それよりも……」
「どうしたの?何か悩み事?それとも言えない事?」
「いや…そうじゃないんだが…ミランの事だ」
あれよあれよという間に結婚することになったんだが、それは向こうでも同じ。しかし今回はそれに気持ちがついてきてしまった。
いや、こんな言い方は聖奈に失礼だな。
ミランが大人になるまでは待つ…というか、こんな俺と結婚したい相手が出来るなんて思いもよらなかったんだ。
「?ミランちゃんがどうしたの?」
「いや…言いづらいけど…。ミランが大人になっても気持ちが変わらなかったらその時は受け入れるって約束しちゃったんだよ…」
「?知ってるよ?だから?」
……
「もしそこまでミランの気持ちが変わらなかったら…どうやって断ろうかと…」
「はい?なんで?」
「いや、だってミランに約束した時はまさか自分に両想いの相手が出来るとは思わなかったんだ。
でも流石に待たせるのは変だよな…キープしてるみたいで俺も嫌だし。
やっぱり今日にでも伝えに行かないとな」
「ちょっと待って」
俺がミランにどう伝えようか考えているといつの間にか聖奈を置いてけぼりにしていた。
その聖奈から待ったが掛かったが…何か妙案があるなら教えてくれ!聖奈えもん!!
「聖くん。ミランちゃんと結婚しない気なの?」
「?当たり前だろ?俺は聖奈と結婚するんだから。向こうではすでにしてるけど偽装だったしな…」
「えっ?ちょっと待って。聖くんって何かある度にハーレムがどうとか言ってたよね?」
やめてくれよ…人には触れて欲しくない黒歴史の一つや二つあるものだろ?
自他共に認めるオタクなら理解してくれ!
「まぁ…な」
「なんでそれでミランちゃんはダメなの?」
「いや、だから!それはお前がイヤが『嫌じゃないよ?』る……は?」
何言っているんだこいつは…
「いやいやいや!嫌じゃないにしてもおかしいだろ!?俺達は両想いなんだよな?」
自信がなくなってきた…
「そうだよ。でもミランちゃんのことは?」
「いや…好きだぞ?でもそれは…」
「私もミランちゃんが好きだよ。それと同じだって言いたいんだよね?」
そう!それ!
「最初はそれでもいいんじゃないかな?向こうの価値観ではそんな気持ちがなくても家が近所だから結婚したなんてザラにあるんだし。
でもミランちゃんの気持ちは私が聖くんを想う気持ちと同じだよ。大きさでは負けたくないけどね」
「なんだよそれ……俺は都合いい系異世界主人公じゃないんだぞ…」
俺は行き当たりばったり系脳筋酒呑み主人公なんだ!
「ふふっ。確かに女性関係は聖くんには縁がないのが似合うよね!」
「いや、自分の夫になる人にいうことじゃねーよな?!」
「私はミランちゃんなら大歓迎だよ。もちろん聖くんの気持ちが一番大切だから無理強いはしないし、私も沢山妬きもち妬くと思う。
でも私を彼女を受け入れない理由にしないで欲しいの。
彼女への答えはその時に聖くんの気持ちだけで答えてあげて欲しい」
「俺は………ははっ。時間が必要なのはミランじゃなくて俺の方だったのか…」
ミランに答えを出すのは大人になってからと言ったけど…ミランの答えじゃなく無意識に自分が答えを出すのに時間が欲しかっただけだったのかもな。
「それは相談に乗れないから頑張って自分で考えてあげてね。
私はさっきも言ったけどミランちゃんなら平気…どころか嫉妬するけど嬉しいくらいだから」
その嫉妬が怖いのですが?
この後就業時間まで聖奈の仕事を見守って過ごした。
お前何もしてねーじゃんって思うだろ?
何もさせてくれねーんだわ……泣いていいですか?
「えっ?」
今日も今日とてマンションで目を覚ました。
いつも通り美味しい匂いが漂うリビングに行くと聖奈から衝撃の話を聞かされた。
「だから。新居を建てるんだよ。いつまでも賃貸マンション住まいは流石に無理だよ?」
「俺はここでも充分なんだけど…」
衝撃っていうほどじゃないけど朝から聞かされた寝耳に水の話は充分刺激的だった。
「社員にも…ううん。内だけじゃなく外に対してももうここに住めれるレベルじゃないの」
「逆の意味で追い出されるんだな……まぁ家賃が払えず追い出される事に比べるべくもないな。
それで・・任せていいのか?」
何だかもはや自分の下着も選べなくなりそうだけど……聖奈えもんが便利すぎるのが悪いっ!!
「うん。可愛いお家にするねっ!」
「聖奈がいいなら任せるわ。内装や間取りは一切口出さないが……外観だけは常識の範囲内で頼む…」
近所の人に噂されるような恥ずかしいのだけは勘弁してくれ!
「…もしかして私のセンスを疑っているのかな?」
「滅相もございません」
名付けのセンス以外は信用してるから。
ただオタクは火がつくと限度を知らんからな…
朝食を頂いた後、一緒に出掛けようとした俺を聖奈が止めた。
「待って。聖くんは遊んでてくれないかな?」
「えっ?なんで?」
「だってこっちに長くいるなんてあんまりないよね?お金もあるんだし国内でも海外でも遊んできて欲しいな」
「…俺も働けるぞ」
「わかってるよ。でも私は聖くんに仕事よりも楽しんで貰いたいの!
可愛い未来の奥様のお願い、聞いてくれないかな?」
いや、実際可愛いからって何言っても許されると思うなよ?
「そこまで言うなら未来の夫として期待に応えないとな!」
ヤッホーい!遊んでくるぜーー!!
「じゃあ私はこっちと向こうで仕事があるから1週間は遊んでてね?」
「1週間か…わかった。お土産を楽しみにしててくれ」
「うん」(これで気兼ねなく仕事ができるよ…)
何だか邪険にされた感はあるが…結婚前のラブラブな俺達にそんな事はありえないよな!!
俺は旅行の為の準備を終えると転移魔法を唱えた。
「久しぶりに来てしまったな…」
時差のせいでここではネオンがすでに輝いていた。




