41話 間話 ホントに間話。
恋愛小説注意。
「いい結婚式だったね」
聖奈さんは写真を眺めながら俺に聞いて来た。
「何回目だよ…」
「もう!乙女心がわからないんだからっ!ねっ?ミランちゃん」
「そうです。私もあの様な結婚式が出来れば死んでもいいですね」
いや。これから幸せになるのに死んだらダメだろ…
ミランと聖奈さんが言っているのはもちろんライルとマリンの結婚式の事だ。
この国にも二人の故郷にも派手な結婚式を挙げる風習はない。
しかし地球…日本の常識を持ち出した聖奈さんの話にマリンが食い付き、晴れて結婚式を挙げることになったんだ。
その結婚式も五日前のこと。その間に何度同じくだりを繰り返したことか……
聖奈さんはギャグで『チラッ。チラッ』をしていたんだろうけどミランのはマジなんだろうな。
最近隠すことが無くなったミランはかなり積極的だ。
俺達はまだ24歳だが、誕生日の早いミランは既に17歳になっていた。
初めて会ったのは13歳だったのに大きくなったものだ。
初めて会った時は160センチ無いくらいの身長が今では聖奈さんと同じかそれ以上だ。
確か聖奈さんが165cmって言っていたな。
はぁ。俺は歳をとっただけなのにミランはすげぇな。
かくいう俺も少しだけ背が伸びたのはこの前の健康診断で驚いたことの一つだ。
実は会社の健康診断で驚いた事はそれだけではなかった。
『えっ!?針が入らないっ!?』
なんと注射針が筋肉に阻まれて入らなかったのだ。
何度も力を抜いてくださいと言われたけど…もちろん力なんて入れていない。
聖奈さん曰く、身体強化の使い過ぎで普通の人の筋繊維より密度が高くなったんじゃ?とのこと。
確かに何かある度どころか何もなくても無意識に使っていたからな。
肉体が変質してもおかしくないか…
ちなみに普通に注射はできず、医者がメスの様なモノで切開してそこに注射針を刺すというかなり変な採血を行った。
「セイくん。聞いてる?」
「んあ?…悪いボーッとしてた」
全然聞いていませんでした!廊下に立ってきます!!
ミランはどうやら先に休んだようだ。リビングには俺と聖奈さんしか見当たらない。
城の中にはエリーとミランの自室も用意してあるからそこに帰ったのだろう。
ライルは店(仕事)が気になるからといって街中に住んでいる。悔しいがマリンも…
俺と聖奈さん?もちろん別室だ。毎日着替えで追い出されるだけだし、それを許可するとミランも来てしまうしな。
「いい加減結婚しなさいって」
「あぁ…結婚な…!?って、既にしてるだろ?」
何の話かと思えば…またギャグかよ。何回貴女と結婚すればいいんだよ…
「違うよ。地球でだよ!」
「…それについては保りゅ…『お母様から言われてるの』…すまん」
これはまずいな…
「ウチは妹がいるし、私の事は死んだことの様に思ってるだろうからいいんだけど…セイくんのご両親は…」
「かなりうるさいんだよな…悪いな?」
ウチが田舎なのは知っているだろう。
田舎のネットワークはそれはそれは恐ろしい。町内会の会合でご近所さんと顔を合わせるたびにウチの親は聞かれているのだろう。
『聖くんはいい人いないのか?ウチの娘を…』
なんてのも沢山あるってお袋が言っていたな。
殆どは若くして成功?している身近な玉の輿目的だろうけど。
「私は緊急の連絡に対応出来る様に毎日地球に行くんだけどお母様からの催促のメールが…1日二件は着てるよ…」
「…しかし前にも言ったが俺だけのことじゃなく聖奈の人生だからな。ミランに待つと言った手前もあるし…」
ミランの事は聖奈さんも知っている。
俺が言ったんじゃないぞ?ミランが何故か聖奈さんに宣戦布告したからだ。
「いいって」
「だからミラ…なんだと?」
ば、ばかな…まさかミランが俺のことを嫌いに!?
「ミランちゃんは結婚するならご両親がいるこっちでしたいって。地球での結婚もしたいけどセイくんを困らせたいわけじゃないから交換条件で私に譲ってくれるんだって」
「そ、そうか…ん?交換条件?」
「そ。『私とセイさんが結婚するまで子供は作らないこと』が条件だったよ」
ぶーーーっ!!?!!
「向こうでの結婚を譲ってくれたから私としてはこっちの正妃の座をあげるって伝えたんだけど、それは断られちゃった。って、聞いてるの?」
「…聞いているが俺の理解の及ばない話で…」
結婚とか子供とか…
俺も一応当事者なのに…何故蚊帳の外……
「セイくん…ううん。聖くん。明日1日空けておいてね。おやすみ」
「えっ…おいっ!」
バタンッ
「何なんだよ…」
考えてもわからんから飲んで寝るべ…
「起きろーっ!」
ぐえっ!?
「ま、待て!?起きた!起きたから!!」
お腹の上で飛び跳ねるのはやめろよ…
「おはよう!さっ!行くよ」
「行くって……まだ真っ暗やんけ…」
俺は窓に視線を向けると外の暗さにため息が出た。
と思えば視界が一変した。
「急に転移するのはやめろよな。俺じゃなきゃ怪我するぞ」
まさか地球に強制転移させられるとは…
腹の上に立っていた聖奈さんからは沈む月が窓越しに見えていたんだな…
「聖くんだからだよ。ちゃんと受け止めてくれるって信じてたよ」
「………」
転移した瞬間俺は床から少し浮いていた。ということは聖奈さんはさらに床から離れていたということ。
お姫様抱っこをしていた聖奈さんをベッドにポイする。
「くぅーーー。ツンデレかな?」
「…はぁ。朝から元気だな…それでどうするんだ?」
まさかこんな事をする為だけに起きたんじゃないよな?
聖奈さんならあり得るか…
「今日は一日デートだからおしゃれして出掛けるんだよ」
「……わかった」
聖奈さんのする事に一々反応しない。これがこの四年で俺が身につけた防衛術だ。
何か意味があるんだろうがいつも考えてもわからないからもう考えもしない。
俺は言われた服に着替えて準備をしてマンションを二人で出た。
何故か腕を組んでくるがこれはいつも通りの為もう慣れた。
雪はまだ降っていないがコートが手放せない季節が日本にはやってきていた。
バーランドは比較的温暖な気候の為余計に寒く感じるな。
まるで恋人のようにドライブをしてショッピングの合間にランチを頂く…って、これは…
「まさかデートか…?」
「ふふっ。何を言ってるの?デート以外の何者でもないよ」
今日も今日とて街行く男どもが聖奈さんを凝視する。
慣れてはいるんだけど……やっぱり気持ちのいいものではないな。
「また謎かけか?」
「違うよ。今日は聖くんと二人きりでデートする日に決めたの」
…いや可愛いよ?言ってる事も外見も。でもなぁ…
「揶揄ってももう面白くもないだろう?」
「揶揄ってないよ?揶揄ったこともないし」
えぇ…
ランチを食べた後、聖奈さんに言われた場所に向かった。
またここか…
「もう知ってる人はいないかな?」
聖奈さんは終始楽しそうだ。俺とのデート擬きで楽しいのか?
「院に行った人ならいるだろうな。俺はそもそも知り合いが少ないからいないと思うけど」
そう。ここは大学だ。退学してから来たのは何度目だ?こんなに来る奴は他にいないだろうな…用はないはずだし…
「ここで待ってて」
「えっ?」
聖奈さんはそう言うと俺を置いてどこかに行ってしまった。
中身が謎の荷物も持って何処に行ったんだ?
「懐かしいな…」
聖奈さんと別れた場所は俺が大学入学前に勇気を出した場所だ。
今となっては簡単に解決できる事なんだけどな。
あの時の俺にとっては一世一代の勇気が必要だったのは事実だし。
「確かあの辺りで……は?」
俺は目を疑った。
俺の記憶と全く同じ光景が目の前に有ったからだ。
「いいじゃん!俺達と楽しもうぜ?」
「そうそう!助けを呼んでもこの騒ぎだと聞こえないよぉ〜?」
10人くらいの男子学生の集団が中心を気にしながら円になり歩いていた。
彼らの足元を見れば中心にいるのはスカートを履いた女の子。
「抵抗しても無駄だよ」
「さっ。こっちに『たすけて』行こうか」
!!
当時と違い周りは静かで人も歩いていない。あの時はハッキリとは聞こえなかった声が今ハッキリと聞こえた。
あの時とは違いその集団に近寄り、直接声を掛けた。
「悪いな。もうそこまででいいよ」
「あっ。はい」
俺が声を掛けるとその集団は中心に隠していた女の子を残してその場を去っていった。
「バレちゃった」
そこにはあの時と同じ格好をした女の子がいた。当時と同じく暴れたせいか髪が乱れていて顔がよく見えない。
「そうだったんだな」
「うん」
「あの時は急いでいたからすぐにどっかに行っていたな」
「…うん」
「その手拭い……持っていてくれたんだな」
「…うっ…ん」
「鈍感で馬鹿な奴でゴメンな」
「ぅうぅんん…」
何故だろう。あの時より勇気がいるな。
どうやってなけなしの勇気を振り絞ったのだったか…
あの時は無我夢中だったからかな?
もしあの子に助けが必要で、俺が何もしなかったせいで取り返しのつかない事になれば、後悔してもしきれないと。
いや…
今もそれは同じだな。
「こんな俺だけどずっと側にいて欲しい」
ホントは聞きたい事も言いたい事も沢山あった。
だけどそんな事は些細なことで……
ずっと気付いてあげられなかった事に比べたら……
本当の想いを冗談だと流される事に比べたら……
全部些細な事だ。
「はいぃぃ…」
涙や鼻水で顔はぐちゃぐちゃだし、ボサボサ髪で服装は24歳が着るには微妙な学生服。その上、返事も情け無い声だ。
だけど今までで一番抱きしめたくなったのは何でだろう?
注意:この小説は恋愛小説ではありません。
よって間話扱いです。
もちろん本編にモロに影響しますが……




