39話 交易路を作ろう!
「じゃあお願いするです!!」
エリーの号令に従い俺は魔法を行使した。
『フレアボム』
直径3メートルくらいの火の玉が木々を薙ぎ倒し山の斜面に直撃して轟音を立てる。
「完璧です!流石セイさん!魔法だけは凄いです!」
「……今日のおやつはミランだけにあげよう」
「なんですと!?」
こいつは一言多いんだよな…
「それで?ここからはエリー博士がやってくれるんだよな?」
「当たり前です!任せてください!」
俺のフレアボムにより真っ直ぐに引かれた道が出来て山に少し窪みが出来ている。
そこに向かいエリー博士作のマシンが静かに移動している。
「行くです!おやつがっぽり三号!」
「その名前はやめような。恥ずかしいから」
名づけのヘンテコさとは違い優秀な魔導具であってくれよ?
魔導具のサイズは今までで最大だ。
横10m以上高さ6m程。車2台分以上の幅があり前方が回転している。
そう。この魔道具は掘削機だ。
俺達はこの世界でトンネルを掘ろうとしている。
壁に先端が当たったおやつがっぽり三号は轟音をあげながら徐々に進んで……
「進んでいるのか?」
「です!ちゃんと動いてますです!!」
どうやらこれが平常のようだ。見るからに進んでなく見えたが時間が経つとちゃんと進んでいるのがわかる。
「かなり時間がかかりそうだな…」
「それは仕方ないです。ここはいいのでセイさんはこの先で準備頑張ってくださいです!」
はぁ…ホントに扱き使われる…
ま、特に大変でもないからいいけどな。他のメンバーは責任ある仕事をして大変だが、俺に任されるのは確かに俺しか出来ない事だったり俺じゃなくても出来るけど早いからって理由だったりする事ばかりで失敗はほぼない事なので精神的には楽だ。
エリーと魔導具製作の助手と護衛20人程を残して俺は転移した。
「準備できていますよ」
転移した先で待っていたのはミランだ。
ミランはこの先の責任者を任命されている。
地球ではヨーロッパ支社の責任者だしホント大変だねぇ…おじちゃん楽な仕事ばかりでごめんね?
「これ全部か?」
「はい。全部です。後作業員三百名の輸送と護衛100人の輸送があります」
くっ…荷運び人の血が騒ぐぜ…
大量の物資・資材と人員を転移させた俺はその場での仕事を始める。
「あちらがトンネル開通予定地です。なので反対方向のあちらにある目印に向かってお願いします」
「わかった」
ミランに指示されたポイントに立ち目印に向かい…
『フレアボム』
訓練によりさらに精度を増している俺の魔法は寸分違わず目標に着だ…んせずにさらに先まで破壊の限りを尽くして爆発した。
「久しぶりに見ましたが予想より凄かったです…」
うん。ミランに感心されたから良しとしよう。
「問題ないなら良かったよ」
「では、どんどん行きましょう。皆さんはこの跡を中心に交易路の整備を始めてください。魔物と怪我には十分に気を付けてくださいね」
「「「「おおおおっ!!!」」」」
今回の交易路を作るという公共事業に参加した国民達の指揮は高い。
まぁ、ミランが可愛いからだろうな。俺が声かけた時はみんなビビってるだけだったし。イジメかな?
みんなのアイドルミランちゃんを伴い魔法の跡を辿って先へと向かった。
それを繰り返す事丸二日、漸く終わりを迎えた。
作業が丸二日かかったということは日にち的には四日くらいかかったわけで…
俺は飽きていた。
「お疲れ様でした。後はこちらで出来ます。セイさんのお陰で日程が驚くほど短縮出来ました」
「ミランの為なら容易い事だ。ミランも怪我と疲れを出さないようにな?」
「はいっ!!」
弾ける笑顔を見せるミランを作業員達の所へ送ると俺は城へと帰るのだった。
「じゃあ道の下準備は出来たんだ?」
城へと戻り、執務室にて聖奈さんへと報告しているところだ。
俺の魔法で道のない山と山の間は魔法で木々や雑草を薙ぎ払って下準備とした。
あんな場所で魔物を警戒しながら山や森を切り拓くのは至難の業だ。それを普通の人でも可能にしたのが上に説明した事だ。
「ああ。トンネル以外の全ての部分で終わったよ。後は公共事業に応募してきた人達が頑張ってくれる予定だ」
この公共事業というものも国の運営の中では割と大切だったりする。
聖奈さん曰く、バーランドを興した時は色々と公共事業がありお金はあるが人手が足りなかったという状況で、落ち着いた今は国民の収入が減ってしまっていた。
収入が減るという事はお金を使わない。いや、使えない。つまり国内でお金の巡りが悪くなり経済が停滞してしまうのだ。
もちろん今回の公共事業では延べ10,000人ほどしか募集していないからそこまでお金は回らない。しかし公共事業とはそれらの積み重ねだと聖奈さんは考えている。
他にも俺達はお金をかなり稼ぐ事ができているが私財を溜め込んでいても何もならない。そのお金の使い道として公共事業はかなり良い給料を出しているので出稼ぎ候補最有力として募集はすぐに埋まるのだ。
今回募集した多くの人達はトンネル工事に従事してもらっている。そこまでは歩いていけるから俺が転移で運ばなくてもいいっていうのが良い所だ!
仕事内容は掘削機が出した石や砂を運び出す事とトンネルの補強だ。
懸念していた事はこの時に落盤事故が発生すれば死人が大勢出てしまう事。
しかし掘削機が遠隔操作で動かせる事で掘削場所から離れた所での作業で済み、もし落盤が発生しても被害は少なくなる予定だ。
命に差はないとはいうが、特に操作しているエリーに何かあれば…俺はどうにかなってしまうだろう。
「じゃあ交易路の整備の人員を追加で送るね。って言っても実際に送るのはセイくんだけど」
かまへんかまへん。俺に出来るのはそのくらいだけだからな。
「それはいいがライルは?」
「ライルくんは現場周辺の魔物狩りに出掛けたままだよ。まぁマリンちゃんも一緒だから放っておこうね」
ちっ!これだからリア充はダメなんだ!!公私混同はいかんぞ!!
「俺が貸したバイクでタンデムデートとか許せんな…」
ライルには以前使っていたバイクを貸していた。ここから交易路予定地まではバイクなら半日だから恐らくバイクで向かったのだろう。
バイクはライルが乗ってみたいということもあっただろうが…どうやらデートという幻のイベントに使っていたようだな……死刑だ!!
「ふふっ。じゃあ今度後ろに乗せてもらおっと!」
「何でだ?」
「デートだよっ!!」
これくらいのスルースキルはすでに習得済みだ!!
いつまでも同じ年齢イコールだと思わない事だな!!
年齢は積み重なるのだ!!
言ってて虚しくなるからこの話題もうやめよ…?
「まぁ抜け駆けはミランちゃんに怒られるからいいとして…交易路と並行して宿場町も整備しないとね」
「確かに…道だけ出来てもこの世界の移動手段だといくつか必要だろうな」
「うん。後、開通したら冒険者組合に依頼を出して定期的に交易路付近の魔物討伐もお願いしないとね」
「何だかお金が出て行くばかりの気がするな…」
これで貿易が赤字なら破産するんじゃ?
「それでいいんだよ。ウチは個人的な資産は置いておいても国としてもかなり儲っちゃっているからね。周りの国からの嫉妬や恨みを買う前にどこかでばら撒かないとね。
それにアーメッドとの交易もどうしても儲かっちゃうし」
「それは儲からないようにすれば…」
「それはダメ。あくまで余裕があるから出来ることも増えるの。余裕がなくなれば全ての歯車が狂っちゃうし私達はこっちでもむこうでも商人だからそこはしっかりとね?」
全部任せてるよ。私生活以外はなっ!!
「まぁほどほどにな?ところで工期の予定は?」
「トンネルの全てが開通するのが半年後の予定だよ」
「それは早い…のか?」
「早いよ?ちなみに掘削機は24時間稼働だよ?これ以上はない早さだよ」
とんでもねぇブラック国家じゃねーかっ!
「…エリーは大丈夫なのか?」
「うん。助手の人達がいたでしょ?一人一人が操作できるから充分な休みはあるよ」
それならいいか。炊き出しの職員もいるし問題はないかな?まともな寝床はないけど。
「あっ!そうだ。もう使っていないコンテナハウスを運んで欲しいんだけど、いい?エリーちゃんとミランちゃんに頼まれてたの忘れてたよ」
「忘れるなよ…まぁ死活問題ではないけど…」
その後すぐにエリーとミランの所へそれぞれにコンテナハウスを運んだ。まともな寝床もあるなら大丈夫だろうな。
「お酒臭いですっ!!?」
すまん。それはガゼルが酒をこぼしたコンテナだわ。
挿絵に地球儀がありますが…気のせいだと思ってください……




