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35話 帝国の爺さん。

次回で間話と第一部を含めると記念すべき200話です。

拙い文章で皆様にも小説に出てくる登場人物にも申し訳ない思いですが、私なりに精一杯書きますので今後とも宜しくお願いします。







夜の帝城。

そこではもう陽が落ちて少なくない時間が経つと言うのに慌ただしく人が動いていた。

普段であればこの時間帯には護衛の騎士や兵士が見回りに歩いているくらいなのだろう。


城に入る門は堅く閉ざされており、周りを篝火が煌々と照らしている。

兵の数も1000ではきかない。

俺は城の屋根に隠れながらそれを確認して、城内へと転移した。





「ば、ばかな…急に現れおった…」


「陛下!お下がりを!!」


予告状に記してあった通り、玉座の間に皇帝と思わしき人物と貴族達が集まっていた。

少し離れた位置に急に転移したもんだから、皇帝は動けなくなり周りの貴族や兵士に促されて俺から距離を取った。


「無礼者めっ!皇帝陛下の御前である!面を取り跪き名を名乗れ!」


兵士の中でも煌びやかな鎧を纏ったゴリマッチョが俺に命じてくる。

流石軍人。こんな時でも冷静なんだな。状況は理解できていないけど。


「良いのか?皇帝よ。お前達の先祖の祖国からやってきた来賓に対してこのような無礼な物言いを許しても」


「…騎士団長。下がるのだ」


俺は予定通り(・・・・)時の皇帝に脅し文句を決めてこの場をやり過ごす事にした。



『初めましてグリズリー帝国皇帝殿。私は貴方の先祖がやってきた別の大陸からの使者。もちろんその事を証明することは難しい。その為不本意ながら其方(そちら)の技術力では不可能な事をして、それを証拠としてほしく思う。■■の〇〇(どき)に帝都外南の地点を一般の人がいない時に爆破します。魔法ではないので魔力を感知する方法があればそれを使ってもらえると尚証拠として信頼性が高くなると思う。次に帝都を守る外壁の北地点を爆破する。その次は城の一角を……』


同じような連続爆弾テロ予告を続けた。日本なら実行しなくても捕まるな。

そして爆発した後に最後の手紙を送った。手紙の送り場所は玉座だ。

城の内部に転移した俺は玉座の間に誰もいない事を魔力波で確認すると忍び込んで椅子の上に手紙を置いて転移した。

その時に今回の転移スポットを確認したんだ。


最後の手紙の内容は…

『手紙を見つけてくれたようで安心したよ。三度の爆発でこちらの技術力は確認出来たかな?そこで本題だ。今夜この場所に私は現れる。その時に皇帝とこの国にお願いがあるのだ。無駄な争いをせずに話を聞いてくれればこの国がある事を許そうと思う。

別の場所からの使者より』


こっちはいつでもお前達を殺せるんだぞ?

っていう脅しだよね…

手紙は聖奈さんがニヤニヤしながら書いてたよ。

『別の大陸って書いただけで貴方の先祖の同郷ですよとは書いてないから嘘じゃないよね!!』


いえ。嘘ですね。日本は大陸じゃないから。定義知らんけど。

それに俺はこの場で先祖と同じ大陸から来たって嘘ついてるし。これも聖奈(あなた)の決めたセリフですよ?


実際に会わずに手紙だけでいいのでは?と聞いたけどどうやらダメらしい。

俺的には十分脅しになると思うんだけどなぁ…


騎士団長を下がらせて玉座のある他より少し高い位置の床には俺と皇帝のみ。

貴族達は低い床に、兵達は壁際に寄った。


「どうやら信じてもらえたようだな?」


「……一つ聞きたい。何故このような方法を取った?その技術力を持ってすれば時間を掛ければ他にもいくらでもやりようはあったのではないのか?」


「時間がなかったのだ」


「それは…なぜ?」


皇帝を近くでよく見れば皺とシミだらけの肌で身体は痩せていた。

60歳と聞いていたが見た目は80くらいに見える。

まぁそちらの事情は俺には関係ないな。

基本俺の大切なモノは仲間だが、今回は少し違う。今回は同郷の三上さんの想いに応えるという事だ。

俺は地球ではうだつの上がらないただの呑んだくれ。

三上さんは地球では苦しむ人を救う為に看護師として世界の戦地や途上国に赴いていた聖人のような人だ。そしてこの世界でも迫害に苦しむ魔族を助ける為に頑張っていた。同郷でさらに力と余裕があるのならその手助けくらいしなきゃバチが当たるよな。


「皇国との戦争を起こさせるわけにはいかないからだ」


「何故だ!?そもそも我らがここで足掻いていたのはそちらの望みを叶える為であるぞ!?」


うーん。また聖奈さんの読み通りか?


「言いたい事を言うんだ。しっかり聞こう」


洗いざらいぜーーんぶ話してちょ。


「わ、我等の先祖がこの大陸にやって来たのはそちらの指示であるぞ!?将来的にこの大陸を手に入れる為の足掛かりとして……」


そういうと皇帝は膝をついて震え出した。


「よ、余は何の為にここまで…」


うーん。やっぱり聖奈さんの読み通りやんけ…

大陸南東部に突然現れたグリズリー帝国。瞬く間に国々を呑み込み一大勢力となる。その後は時間を掛けて南東部をほぼ手中に治める。現在の国力や情勢を加味すれば大陸北東部のジャパーニア皇国を攻め落とす好機。

『これを考えると最初と今では何だか勢いがチグハグだよね?グリズリー帝国を興した人達はここより文明が上位の大陸から来た。でも後世には文献で技術力を残す事しか出来ず、別大陸からの新たな情報はやってきていない。

彼等は何の為にこっちに来たのか。考えられるのは二つ。一つは魔族さん達と同じ様な理由。この場合は迫害じゃなく戦争に負けたとかかな?

でもそんな人達が新たな大陸までやって来れるかな?書物に記されていたのは来たことだけ。技術的に帰れないのもあるのかもしれないけど帰る必要がないとも取れるよね。

じゃあもう一つ、最後の可能性はこの大陸で覇権を握る為。向こうに住めなくなったから移住のためとか、秀吉みたいに与える土地がなくなったから海を渡って攻めたとかどんな理由かまではわからないけど…この大陸で帝国がしてきた事を考えると後者の可能性が高いよね』


「済まないと思う。別の大陸の事は忘れて余生を穏やかに過ごしてほしい」


さっ。帰るべ。

俺が帰ろうかと思った時、皇帝が顔を上げた。


「その方はどうするのだ?」


「私は帰る」


おうちにかえるっ!


「あの大陸に帰る方法があるのか…!?」


「…今日一日見てきたであろう?新たな技術を。もはや皇帝の先祖が残した時の技術力ではないのだ」


「余…ワシも連れて行ってくれいっ!!?」


膝を落とした皇帝は顔を上げて会話を始めると俺の足に縋り付いてきた。

うーーん。ミランに甘いと言われるかもしれないけど爺さんを蹴飛ばすのはちょっとな…


「悪いがそれは出来ないな。さっきも言ったけど忘れてくれ。これからはここに生きる人達と幸せに暮らしてほしい」


皇帝も言葉を取り繕わないのだから俺ももう良いだろう。

それにしてもこれはアレだな…

一種の呪いといってもよさそうだな。可哀想に。


帝国を興して100年以上…この一族と貴族の一部はこの呪いに苦しめられてきたんだろうな。

別大陸の元の国が未だにあるかどうかもわからないまま、いつか同胞がこの地に無事にやって来ることと、その時までにこの大陸で膨大な数の同胞を養えるだけの国にする事だけを願い、後世に託して。


俺がそう告げると皇帝は足を掴んでいた手を力なく離し、再び項垂れて動かなくなった。


「事情を知っている貴族もいいな?もう大陸の事は忘れてくれ。他の国を手に入れてももう何も得られない(・・・・・)。これからは自分と家族、そして周りの人達と国民が幸せになれる政策に切り替えてくれる事を願っているよ」


こちらを恐れながらも見てくる人達は恐らく何も知らないんだろうな。

立ち位置から高位の貴族と思わしき人達はみんな項垂れている。

これから帝国がどう動くのかはしらん。元の国に見捨てられたと思ってやけを起こすのか、今いる人達を見つめ直して国を作り直すのか。


まぁこれでも皇国を攻めるのであれば打ち倒すのみ。

国境のあの山をどうやって軍事的に越えるのかは見ものだけどな。


地球の装備と知識があってもエベレストの山頂付近では人が多すぎて渋滞が起こり凍死する人が後を絶たないんだ。もちろんそこまで辿り着けず死ぬ人も多いし地球の天気予報の技術により諦める事を選択できる場合もある。

いくらエベレストより遥かに低いとはいえこの世界の知識でロクな装備もなくさらには魔物が出る決して低くはない山を軍隊で越えるのは至難の業だろうな。


鉄の鎧で山頂付近を通ったら寒さで皮膚が鎧にくっついて皮が……こわっ!!!


まぁ…その時は頑張ってくれ。国境越えで軍隊が弱ってる時に潰すから。

補足:最後の手紙を置いた時に玉座の間に人がいなかったのは、爆発により安全なところへ皇族を避難させていたからです。



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