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27話 聖介入。





小国を放置していた理由も、今もなお放置しなくてはならない理由もわかった。

理由はグリズリー帝国がこちらに攻めてくる隙を与えたくないんだ。


まともに戦えばこの世界の文明レベルでは守る方が有利だからな。


じゃあこのままでええやん?

ともいかないのが匂わせかもしれないけど転生者の存在だ。誰が匂わせているのかは置いておいてくれ。


もし転生者かまだ俺たち以外の存在が確認されていない転移者が向こうサイドにいて、それが野心家だった場合は必ずジャパーニアを攻めてくるだろう。

その時にはこちらの文明では不可能な発明品をぶら下げて。




「はぁ…ナタリーさんとイチャイチャしたい…」


いや、したことないんだけどね。誰とも……


ここは天守閣にある一室だ。最上階ではないんだが結構な高さがあり、エドを一望出来る。


あの後、話が終わると魔族と皇族を含めた人達と食事を共にした。そのままここに泊まることになり、この部屋に泊めてもらうことになったんだ。

そして翌朝、20畳ほどの広い部屋の真ん中で一人目覚めた寂しさからナタリーさんの事が……


「お呼びですか?」


「ひっ!?」


心臓が口から出そうになるとはこの事かっ!?

俺の独り言にまさか本人から返事があるとは…

窓から街の景色を見ながら呟いたその言葉に、襖を開けながらナタリーさんが応えた。


「い、いえ。またナタリーさんに会えたらなぁっと」


俺としてはかなり頑張った発言だ!頼む!この年齢イコールに笑顔を向けてくれっ!!


「ふふっ。こんなおばさんにありがとうございます」


そこには最上の笑顔が…


「おばさんだなんて…ナタリーさんはとても美しく…」


おっ!何だか恥ずかしい独り言を聞かれたせいか、いつもより言葉がすらすらと…


「ふふっ。ありがとうございます。夫以外にそう言われたのは久しぶりです」


えっ………





その後の記憶はない。





「セイ?聞いておるのか?」


ん?誰だ?今の俺はキレたら怖いぜ?


「あぁ。聞いている。で?なんだったかな?」


「聞いておらぬではないか…今日はこれから余と次代の皇帝候補である娘に始皇帝…いや、セイの元いた世界の話を聞かせてくれるのだろう?」


ああ。カイゼル皇帝だったか。

そういえば昨日酔っ払った勢いでそんな事を言った様な…


「もちろんだ。これを頂いたらな」


今は昼食中だ。あれ?朝飯って食べたっけ?何でここにいるんだ?

記憶がないが…何故だかわからんが思い出さない方が良さそうだな。





食事を頂いた後、ティータイムの時に話をすることになった。

食後のティータイムを行う部屋は皇族の私室の為、限られた人達しか入る事は出来ない。

ここまで来ると茶室でもあるのかと思ったが部屋は洋室でよくある異世界風貴族の豪華な部屋だった。


「改めましてご挨拶致しますわ。ジャパーニア皇国皇太子のユーナ・オダ・ジャパーニアにございます」


お茶を淹れた侍女が退室したのを確認した後、20歳くらいの欧風美女が挨拶をした。

身長は170くらいで、テニスのマリア・シャ○ポアさんから筋肉を取り除いたすらっとした皇女様だ。


「初代以来の女性皇帝候補として国民からの支持が高い。皇太子に任命した時に名を初代に頂きユーナ2世としたのだ」


「ああ。三上由奈さんから取ったのか。あれ?でも三上由奈さんは転生者だからこっちの名前があったんじゃ?」


「始皇帝は魔族と出会った時にこちらでの名を捨てている。以前の名は誰も知らない」


相続問題とかの対策のためかな?

確かに『私は皇帝の弟の息子だ!』とかいって親戚が増えそうだもんな。

宝くじと一緒か。


「ああ、済まない。ユーナ皇太子。俺はセイ・バーランドだ。よろしく頼む」


沢山名前があるから間違えそうになる……普段は家名なんて名乗らないし。


「北西部にはミドルネームは無いのでしょうか?例えば王を現すものなども」


「普通はあるみたいだな。俺は長い名前は面倒だからこれだけにしている。政務も仲間に任せているから名乗る事も少ないしな」


ぶっちゃけるとサインが仕事みたいなモノだから、長いと面倒なんだよな。


「ふふふっ。剛毅な方なのですね」


いや、ちゃうねん。何も出来ない、させてくれないだけやねん。

いかん。母国語でツッコミかけた。


「…俺の事よりも地球の事だろ?何が聞きたい?」


豪華なドレスも相まって、高級キャバクラみたいになっちゃうだろっ!!早く本題に移らねば!!

年齢イコールは惚れやすいんだ!!


「そうであったな。まず聞きたいのは……」


カイゼル皇帝が聞いてきたのは俺からすれば当たり障りない事ばかりだった。

資料に残っていた始皇帝が実現したかったモノが何だったのかが本題だったようだ。


銃火器、鉄筋コンクリートなどの物から民主制などの体制などの事であった。

どうやら始皇帝はあまりそういった知識は多くなかったようだ。

代わりに医療技術やそれに付随する学問を後世に残していた。


銃火器の仕組みを説明したところで再現するにはまだまだ技術力が足りないから問題はないと判断した。


「次は私の番ですね!」


皇太子が聞いてきたのは文化の事だった。

簡単に言うとファッションや恋愛、食べ物など。陰の者である俺に聞くのはやめて欲しかった。





「有意義な時間であった。感謝する」


ティータイムの終わりにカイゼル皇帝がそう締めた。

次は別室に移動しての会議だ。ちなみに俺も参加することになった。


三人と護衛で移動した後、合図を待って入室した。

俺たちが円卓に腰を下ろすとカイゼル皇帝が声を上げた。


「ではこれより対グリズリー帝国戦の軍議を始める」


今回俺が簡単な説明だけでこの国に入れたのは転移、転生者である事とこの国に時間があまり残されていなかった為だ。

時間がないのはもちろん転生者がいると思われるグリズリー帝国のせいだ。


皇帝の合図で軍議が始まったのだが…


「向こうが攻めてきたら戦えばいいのだ!!」


という受け気味な勢力と


「いくら魔法に分があるとはいえもしもがあってはならない。防衛線を張り、守りを堅めるべきだ」


人に追い出された歴史を重んじて動く前に行動しようという勢力に分かれた。


いつまでも平行線を辿る軍議に皇帝は


「せっかく始皇帝の同郷であるセイがいるのだ。意見を聞いてみようではないか」


巻き込まないでぇ…

とはいえ、一宿一飯の恩義があるからな。素人の意見でいいなら伝えよう。


「ごほん。これは俺の勝手なイメージだが、魔族は人族と比べて搦手に弱いイメージがある。

これは馬鹿にしているわけじゃない。向き不向きの話だ。

人は弱い。だからこそ他よりも臆病であれこれと画策する。

逆に魔族は強い。そのせいで過去に弱いはずの人族に追い出されたんだ。

それは人には負けないと心の奥で根拠もなく信じていたからだ。

争いは必ずしも強いから勝つ、弱いから負ける訳じゃない。

みんなにも守りたいモノがあるだろう?

それなら勝たなくていい。けど負けないように準備しないか?」


なんか戦争ありきの話になってるけど、そもそもまだ始まっていない。それなら開戦させなくても勝ち(・・)だ。


俺が片側の意見に賛成のような事を言った為、話はよりヒートアップしてしまったが、そこで皇帝が聞いてきた。


「しかし…それであれば我が国は常にグリズリー帝国の脅威に晒されないか?」


「そうだな。しかし国を運営していく上ではどこもそうだ。もし仮想敵国すらない国があるとすればそれは攻め込まれている事に気付いていないだけだ」


戦いは何も殺し合いだけじゃない。経済戦争もあれば開戦する事もなく内部に入り込み気付いたら国が無くなる事もあるだろう。


「だが、脅威を排除しておくのは大切だ。グリズリー帝国がこちらに向けて挙兵してくるのはいつになってもなくならない脅威だ。仮に同盟を結んだとしてもな。

だからこの場合は挙兵し辛くする事が大事だと俺は思う」


「破壊工作か?」


「それも一つの手ではあるな」


ロープウェイを破壊する。それが単純な手であり、相手からすると嫌な手ではあるな。

一番いいのは……


「他に手が?」


「ロープウェイを完成させなければいい」


壊しても作り直されたり、ロープウェイの防衛を強化されたり、ロープウェイの建設目的が戦争じゃないと言い皇国を周りの国から悪者にする事もあるだろう。


しかし、完成させなければ問題はない。

グリズリー帝国が如何に軍事に予算を割いていてもキリはある。追いかけっこの始まりだ。

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