22話 どこまでも童貞。
「と、いうわけだ」
何がだ!!この嘘つき!!
……いやガゼルよりは100万倍ましか。
朝食後与えられた部屋に戻った俺達にバックスが詳細を説明した。
その内容は、この村は王都に程近い場所にあるにも関わらず、山という立地から人があまり来ない。
その為魔物の被害が時々出るのでそれを解決して欲しいという陳情を国に出していたのだが、戦争中の為余分な戦力を小さな村には中々割かれなかった。
簡単に言うと傭兵を雇うお金もない村だから精一杯の歓待のみでそれをしてくれる傭兵を募集していたのだ。
「まぁ確かに美女だったから俺は構わんが。ガゼル達は?」
バックスは約束を守ったのだから俺は問題ない。
「いいぜ。酒もタラほど飲んだしな!」
コクコクコクコク
どうやら全員受け入れた様だな。
バックスに連れてこられたのは村があるところよりもさらに山を登った地点だ。
村から立ち昇る炊事などの煙が薄らと確認出来るくらいの距離だ。
「それで?どんな魔物が出るんだ?」
「どうやら狼型の魔物らしい。規模は30から」
30か…それだけの食糧を賄うには流石に野生動物だけでは無理になってきたんだな。
小国家郡ではそこらじゅうに兵士や傭兵がいて魔物は殆ど見かけない。
しかし何処かに必ずいるのがGと魔物だ。
この山は軍事的にも商業的にも利用価値は少なく人の手が入っていない。
人がいないと言うことは魔物達にとっては外敵のいない楽園って事だな。
それで数が増えすぎた魔物は食糧不足になってしまい縄張り…活動範囲を広げたと。
それで村に被害が出たから殲滅しろってことの様だな。
「とりあえず20程の魔石かそれに準じる証拠を集めたらいいようだからそれを目指そう」
「魔物ならセイは専門家だからな!任せたぜっ!」
うん…やめて。私右も左もわからないアルよ。
「とりあえずあっちに気配が固まっているから向かうぞ」
こんな時は『魔力視+魔力波』コンボに限るな。
俺の探知に引っ掛かった気配に向かう事になった。
「こっちが風下で良かったな」
茂みに隠れた俺達の視線の先には狼型の魔物がウヨウヨといる。恐らく20体以上はいるだろう。
個体差はあれどみんな大体体長150cm程だ。
「向こうはまだこっちに気付いていないから先ずは俺が魔法を当てる。そこからは個人で対処してくれ」
「雑な作戦だな…」
風下のお陰で奴らはまだこちらに気付いていない。
俺達と魔物の距離は凡そ200m程。奴らのど真ん中に魔法を放つくらいは問題ない距離だ。
ここは山の中腹の為、平らな地面ではなく傾斜がついている。魔物はある程度固まってはいるが寄り添うほどではない。岩の上や木の下で各々寛いでいた。
「個々はそれほど脅威ではなさそうだからな。それなら各個撃破していくほうが効率がいいからだが…自信がないか?」
俺の『行き当たりばったり作戦』に文句を言ってきたバックスに挑発気味に返した。
じゃあてめぇで考えろよ!あぁん!?
「ふっ。犬コロなど道端の小石に過ぎん!」
うん。挑発に弱過ぎないかい?
アイツら結構大きいから異世界に来る前の俺なら裸足で逃げ出すくらいには怖いよ?
「二人もいいか?」
「いいぜ!」「うん」
ガゼルとナードからも返事がもらえた為、魔法の詠唱に入った。
『フレアボム』
魔力モリモリの特大の火球が魔物達に視認できない程の速さで向かった。
着弾と共に爆風がこちらまでやって来た。
木々が薙ぎ倒される音や魔法自体の音により魔物の悲鳴は聞こえなかったが何体かは始末出来ただろう。
「よし!こっからは何体倒せるか競争だ!一位には俺の酒を振る舞うぞ!」
「な、なに!?」
「やってやるぜっ!!」
コクコクコクコクコクコクコクコクコク
ナードさんや…その内首が取れるぞ……
俺の提案にこちら側の戦意は爆上がりだ。これで早く終われるだろう。
俺、帰ってまた歓待を受けるんだ…
そこで今日の勇姿を自慢するんだ……
待っててくれ…アーニャ、シータ、イルゼ、メータ……
3人が我先にと駆け出した後、俺は悠々と魔物達に向かうのであった。
「これが魔石だ」
あの後問題なく狼を殲滅した俺達は村長宅に帰ってきていた。
昨日のリビングに通された後、報告として魔石を証拠に説明をした。
「こ、こんなにも…いやはや流石は傭兵様方。宴の用意が出来ておりますので集会所へ参りましょう」
どうやら今日はここではないようだ。
村にとって良い報告ができる為、大々的に俺達をもてなしたいとの事。うむ。良きに計らえ。
むふふっ。という事は、昨日の四人に加えて更なる美女が…じゅる。おっと。紳士に振る舞わないとな!
村長の案内でこれまた普通の一軒家程度の建物に入った。
中は部屋が一つしかないからか、かなり広く感じた。
テーブルも口のような形に配置されていて多くの人が同時に飲み食い出来そうだ。
先ず初めに村人達への報告を村長が行った。
その後は腹ごしらえだ。
多くの村人達は挨拶もそこそこに集会所を退室していって、代わりにおばさま達が忙しなく食事の準備をしてくれた。
アーニャ達は酒の時間かな?
まずは食事を楽しもう。紳士は待てるのだ。
「ではそろそろ酒をいかれますかな?」
食事がある程度片付くと村長がそう提案してきた。
俺達はそっちがメインの為、一二もなく賛成の意を示した。
「お待たせしました」
ドキドキして待っていた俺の所に酒を注ぎに来たのは昨日とは別の女性だった。
まぁ美人さんだから嬉しいけど、どう見ても結婚してるよね?
「お、お姉さんは独身ですか?」
キョドり過ぎて敬語になってしまった。
「うふふ。こんなおばさんをつかまえてお上手ですね。子供ももうすぐ成人ですよ」
「そ、そうですか。いえ。美人なのでお若く見えました」
子供が15って事は30は軽く超えてるよね?それよりも既婚者ってほうが拙いな…
俺は村長を手招きして呼んだ。
「なんでしょう?」
「昨日の四人は?」
コイツは馬鹿かよ!!ウブな年齢イコールの好青年に人妻をあてがうなよ!!
「四人は今日はいません。ここにいる者と交代しました」
「交代?」
「はい。村の若い女性は多くはなく、交代で歓待させて頂いております」
いや…そうじゃない。交代させる意味…
「その…昨日の四人に代わってもらう事は出来ないか?」
チェンジだ!
いや、今日の女性達も綺麗だよ?でもみんな年上の既婚者なんだわ。
イルゼ、メータはもしかしたら既婚者かもしれないけどアーニャとシータはまだ未婚だろう。
俺は村長に期待の眼差しを向けた。
「うーん。彼女らも子供の世話がありますからなぁ。その点ここにいる女性達は子供も大きく手は掛かりませんので時間の許す限り飲んで頂いて構いません」
は?
「えっ?アーニャやシータも子持ち…?」
「ええ。二人とも去年産みましてな!これでこの村もまだまだ大丈夫ですわい!」
いや、そんな饒舌に言われても…
だってアーニャはザ・異世界美少女って感じで子供どころか結婚もまだだと……
それにシータは見た目は中学生だぞ!!背も低いし。
一部分は大人の女性でも羨む感じだったけど……
あの二人にも旦那が…
よし。呪い殺そう。
その後も村の自慢話を村長が饒舌に語っていたけど……もちろん俺には何の記憶にも残らなかった。
「くそ。ガゼルが馬鹿なのは分かってたけどバックスもかよっ!!」
翌日、村を出立した俺は愚痴を溢しながら歩いた。
「待て。俺は変な事にはならなかっただろう?」
ガゼルと同じなど聞き捨てならないとばかりにバックスが噛み付いてきた。
「変な事にはならなかったが変な事にもなりようもなかっただろうがっ!!」
お酒の力を借りて変な事になれなかっただろうが!!
年齢イコールなめんなよ!?
酒の力でも借りないとずっと年齢イコールのままなんだぞ!!
俺の嘆きは見知らぬ国の見知らぬ空へと吸い込まれていった。




