20話 魔族との交渉。
「ゼクス!?馬鹿を言うな!!この様な情けない面をした男が、我等の神である魔王様であるはずなど無い!」
ちょっと……情けない顔は仕方ないじゃん?パパママに貰った大事なフェイスだよ?
ゼクスと呼ばれた右側の男の会話を真ん中の男が止めた。
「エゼル。この魔力は伝承の通りだ」
どうやら真ん中の感情表現豊かな人はエゼルさんと言うみたいだ。明らかに年上だからさん付けな?これ社会人の基本。
「しかし…」
「エゼル。話を聞いてからにしないか?」
何をでしょうか?やっぱり襲われる系?
「パレスもか…仕方ない」
左の人はパレスさんか。この人も年上っぽいな。
左から20後半、30くらい、同い年くらいだな。
「…何の話だ?」
「ああ。済まない。まずは話をさせてくれ」
やっぱり話如何には戦うって事じゃん…
勝手に語られた内容はこんな感じだ。
大昔別大陸にいた魔族と呼ばれる魔力が高い人種はその特異性から危険視されて大陸を追われた。
こちらの大陸で同じ事を繰り返さないように静かに暮らしていた魔族だが、人里離れた少数での生活は厳しいものだった
その魔族を助けたのがジャパーニア皇国の建国者である(おそらく)転生者だった。
魔族を纏めて、国(多民族国家)を興した転生者はジャパーニア皇国だけではなく、様々な所に魔族を潜り込ませた。
彼らはその中の一つである聖十字連合神聖国の幹部だった。
彼らがここにいた理由はもちろん俺だ。
小国同士の争いを終わらせる可能性がある俺を危険視したのだ。
ジャパーニアにとっては小国同士が争ってもらった方が都合がいいのは前に説明した通りだと思われる。
その都合が悪くなるのを防ぐ為に彼らは派遣された。
ちなみに聖十字連合神聖国のトップも魔族との事。
「それでなんで俺が魔王なんだ?」
「魔力だ」
やっぱりか……どうやら彼らも魔力視かそれに近い事が出来るようだな。
だが……
「残念だが俺は魔王じゃない。強いていうなら俺はジャパーニア建国王と近いはずだ」
件の魔王だが、どうやら魔族が信仰している魔神が受肉した存在の事を魔王というらしい。
伝承では俺みたいな魔力があるって話だからあながち神話だと馬鹿にできない。
だって俺も神様に能力の一端を分け与えられてる身だからな。
同じような事を別の神様がしている可能性はあるよな。
まぁ俺の何ちゃって推測は置いておいて。
魔王じゃなかったら争う事になっちゃうよな?
嫌だなぁ……
コイツらと争うと必然的にジャパーニアを敵にするって事だもんな……
「き、貴様ぁあ!?!魔王様を偽るのが不可能だとわかると今度は我等の祖王をっ!?」
エゼルさんが額に青筋を浮かばせているけど、多分事実なんだよなぁ。
エゼルさんとは対照的に冷静にゼクスが問いかけてきた。
「どうしてそう思う?同じ王だからか?」
「まさか。それなら沢山いるだろ?多分アンタらのところの建国王さんは地球とかアースとかよく分からない事を伝承で遺しているんじゃないか?他には転移・転生とか」
俺の言葉に三者三様の驚きを露わにした。
男より女性のそういう顔をみたい。僕はそんなお年頃なんです。
「な、なぜそれを?」
ゼクスがいち早く立ち直り聞いてきた。
「恐らく俺とその建国王は同郷だからだ」
地球って意味だよ?大体建国王が生きてたのって何年前の話?日本昔ばなしなら知ってるけど世界史とか論外なんだが……
「……キリストの母親の名前は?」
「マリア」
小学生でもわかる問題で助かるよ。
魔族の二人は俺の即答を聞いて建国王と同郷だと納得したようだが、エゼルさんだけはまだ色々と腑に落ちないようだ。
俺もだよ。
「これが何かわかるか!?」
エゼルさんが懐から紙を取り出して見せてきた。
なになに〜?
えっ…
「ドラ○もん…」
俺はその紙に描かれた絵心のない俺でも雰囲気は描ける国民的アニメキャラ名を呟いた。
「くっ…魔族の中でも我等の国の上層部の限られた者しか知らない答えを知っているとは…間違いないようだな」
「いや、ちょっと待て。アンタらは納得したかもしれんが俺はパニクってるぞ」
「ぱにく?」
翻訳さんが翻訳しきれない言葉をエゼルは繰り返すがそんな事をしてる場合じゃない。
「それはどうでもいい。アンタらの国は…ジャパーニア皇国はいつ出来たんだ?」
俺の想像や予想は随分前だ。まさか生きてるのか?
いや、ドラ○もんを知っている上に転移じゃなく転生したのなら生きている可能性の方が高い。
「凡そ200年前だが、それがどうかしたのか?」
「…建国王は存命なのか?」
「建国王は亡くなられている。我等魔族も建国王の種族である人族も寿命は変わらない。質問に答えてくれ。何故それを聞いた?」
どういう事だ?200年前の人物が何で現代のアニメを知っているんだ?
考えたくないけど考えちゃう…考えてもわからんけど。
「時間軸が合わない。今はそれしか答えられない」
「なんだと!?」
俺の淡白な答えが気に入らなかったエゼルさんはこちらに身を乗り出すが二人が羽交い締めにして止めた。
「やめるんだ。この魔力だ。この男がその気になればこの一帯が無くなってしまう」
「そうだ。それに建国王様と同郷であるなら彼は我等の客人だ」
あのー…客になりたくないんだけど?
「腹減ったぜ…」
ずっと置いてけぼりだったガゼルのアホな言葉により話し合いは終わりを告げた。
「うめぇっ!!」
ガツガツ
3人の魔族に案内された俺たちは王国軍の仮設の建物で食事を頂いている。
ガゼル達が舌鼓を打っているのは煮物料理だ。
俺は聖奈さんのお陰で食べ慣れてるけど……ここでも和食を食べる事になるとはなぁ。
仮設と言えどテントとかではなく、木造の割としっかりした建物の中だ。そして和食が提供された事からも給仕は恐らく魔族の息のかかった神聖国人かジャパーニアの人なんだろう。
「悪いな。ご馳走になってしまって」
俺としては聖奈さんの料理の方が美味いし調味料も懐かしくもないから感動はないが、もし転移転生して和食を食べられない状況なら涙を流す場面なんだろうな。
「客人をもてなすのは我が国の基本だからな」
お・も・て・な・し…
「そ、そうか。話の続きだけど、俺はこの争いを止めるつもりはないぞ。
もちろん俺の仲間や身内に危害を及ぼしたり不利益を被る恐れがあるなら話は別だが…それはないだろ?」
俺はキリスト教徒でも聖人君子でもないからな。
確かに誰かが傷ついたり、子供達が路頭に迷っていたりするんだろう。
残念だけど俺が知る限りではどんな世界でもそれは発生するからな。
戦争がない世界でも虐待やイジメはなくならないし、貧富の差も無くならない。わかりやすい戦争がなくとも人は良くも悪くも争い続ける生き物だからな。
良い言い方をすれば競争とも言う…モノは言いようだな。
バーランド王子ならともかく俺みたいな普通くらいの奴には世界の平和なんてわからないしわかったとしてもどうにも出来ないし。
つまるところ、この北東部地域がそれで成り立っているのなら、俺は無理に変える気はないって事だな。
「それは助かる。バルキメデス王国にはセイ達に手を出さないように伝えておこう」
俺達四人のテーブルを挟んで向かいに座っているパレスとゼクスはそう言ってくれたが……
「…これから何をするつもりだ?」
最年長のエゼルさんはまだ疑っているな…
ホントに何もしないよ?
それでも僕はやってない……
いや、戦争に参加したし性騎士も殺してしまったからそれは無理か…あれ?聖騎士だったかな?
「特に…かな?」
「……」
そんな怪しいモノを見る目をされても私は無実です……
話が進まない俺達を見かねてゼクスが割り込んでくれた。
「良ければセイをジャパーニアに招待したいがどうだろう?
エゼルも国で確かめればハッキリするから良いだろう?」
「そうだな。我等では判断出来んからそれが最善か」
いや、アンタ以外は友好的だよ?
ゼクスの提案により俺の次の目的地はジャパーニアになりそうだったが…
「いや、セイは俺達と隣の国に行くぞ」
「そうだ。まだ約束を果たしていない」
コクコクコクコク
3人が魔族達の提案を拒んだ。
ナードは相変わらず首が取れそうなくらい激しく振っている…
「貴様らは我等の話を聞いていたのか!?この男を小国家で野放しにする気はないのだ!!」
「それはアンタらの都合だろ?こっちは先約なんだ」
なんだと?!このやろう!?
ガゼルとエゼルの名前が似た二人が喧嘩腰になったところで止めに入る。
「待て待て。二人が争ってどうなる。3人には悪いが俺はガゼル達と行くぞ」
「なんだとっ!?やはり貴様何か企んでっ!?」
「それはない。ジャパーニアにも行くからそれまで待っててくれ」
別に急ぎの用でもないんだからいいだろ?
俺は旅がしたいのであって仕事がしたいんじゃないんだよ!!
ジャパーニアは聖奈さんにバレた以上いつかは調査の為に行かないといけなかったけど、それは今じゃないんだ!
「それはいつなんだ?」
尚も言い募ろうとしていたエゼルを止めてゼクスが聞いてきた。
「その内だな。気に入らないのはわかるし不審に思ったり不安材料に思うのもわかる。
だけど俺は変えるつもりはない。
それでもこれ以上どうにかしようとするなら実力行使に出るだけだ」
容赦なくな。
初めからそっちの都合に合わせる気はないんだよな。
実力行使やむなしだ。
もちろん話し合いでこっちが納得できる理由があるなら従うけど、そうじゃないし。
こっちは戦争にはこれ以上参加しないって譲歩したんだから今度はそっちの番だろ?




