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18話 大量殺人の報酬。






「やっと着いたぜ…」


ガゼルがそういうのもわかる。

二日酔いの後出発したんだけど、三人が毎日野宿をしたがった。

もちろん目当ては俺の秘蔵の酒だ。


俺としては旅を楽しみたいのもあるけど、酒飲み友達に美味い酒を飲ませるのも同じくらいにしたかった事だ。


つまりは…連日の二日酔いで動けなくなるループのせいで一度目の停戦日を過ぎてしまったんだ。

つまり今回はもう一回後の停戦日の前日であった。


「流石に毎日飲みすぎたな……ところで次の国はどんな国なんだ?」


飲んでばかりでロクに情報を聞いていなかったからな…


「この向こう側にある国が俺達の目的地だぜ!」


「そうだったのか…知らんかった…」


あれ?俺達ずっと一緒だったよね?

2ヶ月近く一緒にいたはず…


「話してなかったか?次の国はバルキメデス王国ってとこだぜ。一年中戦争してる国だから俺達傭兵は食いっぱぐれないぜ!」


「大分金を使ったからな。この辺りで大きく稼いでまた飲むのだ」


「セイの酒買う」


二人の言ってる事はわかるが……ナードは喋らなすぎて片言になってるやないかいっ!!


「セイはどうすんだ?」


「俺かぁ…金はあるから働かなくても良いんだよなぁ」


聖騎士達の金が丸々残っているし、いざとなれば売るものなんて沢山あるしな。

『働いたら負け!』この有名な言葉を家訓にしようかな?


「セイぐらい強ければ大金稼げるのによお。勿体無いぜ…」


「酒場の女にもモテるだろうにな」


「美女を侍らせるのも簡単」


「傭兵の成り方を教えてくれ。友よ」


しまった!!条件反射で応えてしまった……

女はもういいと心に決めたばかりなのに…


「よし!そうと決まれば向こうに着いたら早速登録だな!」


ふむ。登録とな?組合と同じシステムかな?






停戦日の宣言と共にバルキメデス王国に入った俺達は反対側の国境を目指した。

どうやらその辺りが一番争いが激しいらしい。

歩いた感じだと、この辺の国は一つが四国程度のサイズの様だ。

そこに10万〜の人が暮らしている。


今のところ人が一番多かったのは聖十字連合神聖国の60万人だ。

50年以上戦争が起こっていない国だけあって人口が伸びている様だな。

このバルキメデス王国は35万人と聞いたけど、長らく調査も出来ていないみたいだしかなり違うのかもしれない。


俺が一番疑問に思っているのは金はどこから出ているのか?だ。


戦争は国民から搾取すればある程度出来るのはわかる。

それはあくまでも自国内だけで物事を完結した場合だ。

傭兵を雇ったり、長期間…それも何十年と戦争を続けるなんて可能なのか?


なーーーんて、歩いている暇な時間に考えてたけど答えなんてわかるわけなーーーい。


俺は気楽に旅を楽しむんだ!!世直しや陰謀なんて知るかばかぁーー!!


「あそこだ」


バルキメデス王国に入った俺達は順調に旅を続けて王都を越えたあたりにある町へと着いていた。

その町の中にある木造校舎みたいな建物をガゼルが指差した。


「あれが傭兵を募集している所か」


「ああ。俺達も登録しなくちゃいけないから行くぜ」


ああいう建物がどの国にもいくつかあるらしい。

治安や食糧の問題から首都にはないところが多いらしくここも例に漏れず王都とは違う町にあった。


その建物の中に足を踏み入れた。



ガヤガヤ


「凄い人だな…」


建物の中は通勤通学時の駅くらい混み合っていた。


「みんな俺達と目的は同じだからな。ここで登録待ちしてるんだぜ」


「気が滅入りそうだが仕方ないな…」


ディ◯ニーでも並びたくない俺は乗り物にはあまり乗らなかったからな。

しかし、ここは待つしかなさそうだ……


暫くすると俺達の順番になった。

人混みで全く見えなかった受付の様子がやっとハッキリした。


木のカウンターを挟んだ反対側に兵士のおっさん達が並んでいる。

どうやら受付嬢なるものもいない様だ。


「四人か?」


「ああ」


そう言って三人は懐から紙を出して渡した。

持ってないんだけど?


「受付た。その黒髪の兄さんは?」


「セイ。冒険者カードを見せろ」


「あ、ああ…はい。これでいいか?」


何処でも身分証!!(ドラ◯もんの秘密道具風)


「Aランク……得物はその剣か?」


イカツイおっさんがカードに書かれたAランクの文字に息を呑んだ。

俺としてはお姉さんにそういうリアクションをして欲しいんだよな……


「剣と魔法両方だ」


魔法は言うか一瞬迷ったけど伝えていなくて後で文句を言われたら嫌だから一応。


「魔法だと?どれくらい使える?剣もだ」


「どれくらいって言われてもな…」


俺が言い淀んでいるとガゼルとバックスが丁寧に説明してくれた。

『剣は目で追えない』『大地に穴が開く様な威力の魔法だ』

使った本人よりわかりやすい。さんくす。


「そ、それは凄いな……しかし、両方か…」


何やら悩む事があるみたいだな。

おっさんが悩んでいる所にガゼルが提案する。


「魔法部隊に配属してくれ。必ず度肝抜かすからよ。ボーナスも頼むぜ?」


「魔法部隊か……ボーナスは俺の管轄外だ。健闘を祈る」


どうやら話は纏まったみたいだな。ガゼルがおっさんから何か木片みたいな物を受け取って、ここでの用事は終わった。





「それで?どうなんだ?」


俺は右も左もわからんからな。


「セイのお陰で楽な仕事になったぜ!サンキューな!」


「?よくわからん」


ガゼルの説明によると普通傭兵部隊は戦地の激戦区送りになるみたいだ。

死ぬ可能性はそれなりに高く、怪我は当たり前。欠損することもままあるとの事。


しかし今回は魔法が使える俺がいる事で四人とも傭兵部隊と比べるとかなり安全な魔法部隊送りになったと言う。

どうも傭兵はある程度チームで動けるみたいだ。


「え?ガゼル達は魔法使えないのに?」


「そそ。俺達は魔法使いの護衛扱いだな」


「俺には必要ないぞ?」


その答えは三人のニタニタ顔を見ればわかる。

どうやら楽が出来た上に安全でさらに俺が活躍すれば全員にボーナスが出るのでそれ目当てで一生懸命おっさんに説明してたんだな……


「……綺麗なお姉さんがいる店で奢れよ?」


「よっしゃあ!決まりだな!」


「もちろんですぜ!旦那!」


「肩揉む?」


いや、バックス…キャラ崩壊してんじゃねーよ。ナードは肩揉むのやめろ!お前意外に怪力なんだよ!肩がとれるわ!


四人でワイワイいいながら指定された戦場へと向かった。

何だかいいな…これが俺が出来なかった青春か?


後は綺麗で可愛くて優しいお姉さんがいれば……







「撃てぇっ!!」


上官の指示に従い発動直前だった魔法を解き放つ。


『フレアボム』


俺の放った魔法は敵軍に直撃した。

かれこれ10発くらい撃ったところで敵軍が撤退した。

後には……


「俺達必要あるのか…?」

「あれ1発で私の魔法の10発分以上の威力が……」

「な、何発撃てるんだ?」


勝ったどころか敵は何も出来ずに被害を無駄に増やして終わったのに…何故かバルキメデス王国(こちら)の士気も下がっている……解せん。


「素晴らしいぞ!!こちらに被害は一切なしだ!傭兵部隊は出撃してもいないから費用も浮いた。こいつが居れば我が国が覇権を…」


俺の肩を叩きながら喜ぶ上官達の士気は最高潮の様だ。労いの言葉だけにしとけよ。最後に本音が漏れてるぞ。


俺を迎えに来たガゼル達と合流して、予定より何日も早く戦争が終わった戦場を後にした。

次は報酬の受け取りだな。いくらになるんだ?






「すげぇぜ…こんな大金は初めて見たぜ」


ガゼルが息を呑むのもわかる。俺は大口の取引で見慣れてはいるが、テーブルに堆く積まれた金貨はその異様を遠慮なく放っていた。


「それでセイ。我が軍に入ってくれるな?」


目の前には戦場にいた上官より立派な鎧を身に纏った人がいる。そして俺を勧誘してきた。


そう。この木のテーブルが壊れそうな程の金貨は俺の契約金だ。

事は一時間前に遡る。






「いやー。今回は何もしてない上にたったの半日だぜ?ボーナスも期待出来るしセイ様々だぜ!」


調子に乗るんじゃない!お前達は俺に奢らなきゃいけないんだぞ!お前たちの報酬は俺とお姉さんで飲み干してやる!!


「あそこだ」


すでにウキウキが隠せないガゼルとナードとは違い、やや冷静なバックスが建物を指し示した。

バックスの指の先を追うと、登録したところとは違い石造りの堅牢そうな建物が目に入った。


「あそこで報酬が貰えるのか?」


「そうだ。見てみろ。ガゼルみたいに嬉しそうでだらしない顔をして皆入っていっているだろう?」


確かに……まぁガゼルの顔については今日に限らんけど。

あれ?


「出てくる奴は肩を落としてないか?」


そうなのだ。出てきた奴らは皆空気が重そうな顔をしている。まるで親に怒られた後の子供みたいに。


「今回の戦争で俺達傭兵は仕事をしていないからな。命懸けの仕事だから最低保証はあるが、それは戦争で生き残った時に比べると雲泥の差だ。

そもそも戦争の後は生きていないと受け取れない。自軍の死人が多いほど割が良くなるのも傭兵ならではだな」


「なるほどな……勝っても負けてもある程度報酬に予算が決められているから、分母が減ると報酬が増えるのか…

あれ?もしかしなくても俺のせい?」


戦争で活躍したら恨まれるなんて嫌なんだけど……


「そうだ。しかし傭兵は誰かの活躍を羨む事はあれど恨む事は少ないから別にセイのせいにはされないはずだ」


「そうか。良かったよ。でも中には?」


「空気の読めない奴は何処にでもいる」


ごもっともで…

そんな会話をしていたらその建物に到着した。


着いてすぐにガゼルが先導して受け取り窓口に並んだ。待つ事30分程で俺達の番がやってきた。


「ねぇちゃん。これだ」


ガゼルは木片を受付嬢に渡した。

ここは事務的な事しかしない為か女性ばかりが窓口業務についていた。

もしかしたら女性相手だと報酬の面でイチャモンが少ないのかもな。


…男は綺麗な女性の前だとカッコつけたいからな。


「はい。お預かりしますね。……少々お待ちを」


あれ?これまでの人達は木片を渡したらすぐに報酬を払って終わりだったのに?なぜ?


「こりゃセイのお陰でボーナスが付いてるからだぜ?」


ガゼルは満面の笑みで女性を待った。

ガゼル。その表情は女性がお近づきになりたくないヤツだぞ。


「それでか…」


大金でも持ってやってくるかと思っていたが、女性は何も持たずにすぐに戻ってきた。

分かりやすく落ち込んでいるガゼルを尻目に女性が話し出した。


「別室にてご対応致します。こちらへ」


その対応にガゼルがまたゲスイ顔をして女性の後に続いた。

理由を知らなきゃ衛兵に通報されてるぞ……


女性に案内されたのはカウンター内にある別室だった。


「少々お待ちください」


そう言い女性は退室した。


「とりあえず座るぞ。ガゼルお座りっ!」


六人掛けのテーブルセットに座る。

ガゼルは興奮のあまりウロウロし始めたので座らせた。

犬かよ……


次に入ってきたのは別の女性でこちらはただお茶を出してくれただけだ。

暫し待つと男が数名の人を伴い入室してきた。

その男は俺達とは対面に腰を掛けながら話しかけてきた。


「待たせたな。俺は将軍から傭兵達を任せられているヘデン中佐だ。お前がセイだな?」


ガゼル達は黒髪ではない。だからわかったんだろうな。他の人達はヘデンの後ろに並んだ。護衛か?


「そうだ。それで報酬は?」


「ああ、そうだったな。渡せ」


「はっ」


ヘデンがそういうと立っていた人達が俺達の前にそれぞれ袋を置いた。


「あ、開けて良いのか?」


ガゼルが目を血走らせながら聞いている。怖い…


「お前達のモノだ。構わん」


いうが早いかガゼルは直ぐに狂喜乱舞した。

うるさいのですぐにバックスがゲンコツを落として椅子に座らせた。


「俺のが多い様だが?」


「当たり前だろう。あれだけの活躍をしたんだ。お前のお陰で俺も出世できるかもしれんな!おいっ!」


「はっ!」


ヘデンがそう言うと今度は共の者たちが全員で動き出した。

瞬く間にテーブルには金貨が堆く積まれた。

ガゼルは痙攣しだした。


…死ぬなよ?


「これは?」


使い物にならないガゼルに代わりバックスがヘデンに聞く。


「これは契約金だ。喜べ。お前たちを破格の待遇で迎え入れてやる」


いえ。結構です。

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