11話 枕を濡らす夜。
俺は今泣いている。
声を押し殺し、枕を濡らしているのだ。
〜数時間前〜
「いやぁ。大変な目にあったな……」
城を出た俺は王都を宿に向かって歩いていた。
「まさかあの豚の飼い主があんなに出来た人だったとは…」
ここの王は多種族を束ねねばならず大変だと聞いていたが…あの王様ならこの国は悪い方には向かわないだろう。
豚はどこまでいっても豚だけど……
「あっ。そうだ!宿に帰る前にオークション会場に顔を出してみよう!」
もしかしたら…ぐへへっ
「セイ様。本日はどの様なご用件でしょうか?」
オークション会場に着くと昨日の片付けが行われていた。
初めにここで出会ったモーニングを着ていた人がいたので話しかけるとすぐに応えてくれた。
「まさか魔法の鞄に不具合でも…?」
どうやら俺がVIP席で大金を使って落札したのを知っていた様だ。
「いえ。実はお聞きしたい事がありまして…」
俺は恥ずかしいが何もしない訳にもいかず、思い切って彼女のことを聞いた。
これまで何もしなかったから彼女いない歴=年齢だったんだ。これからは自信を持って行動するぜっ!
「ああ。彼女ですか。彼女は人気ですからな。お客様に」
「いや、客としてというか…」
何て言えばいいのか分からず口籠もっていると、爆弾が落ちた。
「彼女は昨日辞められましたよ。何でも田舎に残してきた婚約者との結婚資金が貯まったとかで急に」
「は…?間違いでは…?」
「いえ。その特徴は彼女だけですので」
「彼女は奴隷では?」
「オークションの運営組織に奴隷はいませんよ?片付けですらいません。
何分セイ様のような高貴な方とお話しする機会が多いですのでね。トラブル防止の為です」
「そ、そ、そうですか…」
「それにしても驚きましたよ!セイ様が魔法の鞄を落札………」
その後、その人が何を言っていたのかはっきり思い出せない。
宿に戻った俺は泣き疲れて寝てしまっていたのだから。
「わあ!魔法の鞄だ!凄いね!これで楽が出来るよ!」
翌日、何とか1日で喋れるくらいには回復した俺は、夜に魔法の鞄を渡しにみんながいるコンテナハウスにきていた。
「あぁ。頼むょ…」
「…じーーっ」
「なんだよ」
「分かりやすく落ち込んでるけど何かあったの?」
ヤバい!狐耳のお姉さんの事もだけど、向こうでやらかしたトラブルも隠さねばならないのに…
「ああ…実はその魔法の鞄を落札する為に所持金の殆どを使い果たしてしまってな。それで頭を悩ませていたんだよ」
ふぅ。我ながらナイスな切り返しだ!
「ふーん。まぁそういうことならそういう事にしておいてあげるよ」
やっぱバレてんじゃん。
「それで?他には何かわかったの?」
「他って…あぁジャパーニアの事か…わからんな」
「やっぱり何か隠してるんだね。まぁいいよ」
くっ。全てはバレていないが嘘をついている事はバレてしまった……
「オークションは面白かったぞ。魔導具は軒並み高かったけど、その中でも魔法の鞄はやはり群を抜いて高いな。まぁそもそも数が少ないから高いんだが、今回の魔法の鞄は理由は知らないがある貴族家が無くなった為、私財整理の一部としてオークションに出品されたんだと」
「話すり替えるの下手すぎない…?」
どーすりゃええねんっ!
「でもオークションは一度参加してみたいなぁ。でもギルだと参加できないよね?」
「それはブリリアント国王に頼めば何とかなるかもな」
流石に権力に頼ったら不味いか?
まぁ友好国アピールが出来ていいかもな?
しかし正規ルートだと遠すぎて国交を結べないから意味はないか…
「なーんで向こうの王様の名前を知っているのかな?」
しまったっ!!?!?!
しかも『しまった』っていう顔をしちゃったし……
その後、狐耳のお姉さんの話以外を正直に話した。
『セイさん…貴族と喧嘩しないとダメな病気なんですか?』
ミランは声にこそ出さなかったが、表情は雄弁にそれを物語っていた。
「罰としておやつ十日抜きです!その分は私がしっかり食べますっ!」
エリーは相変わらずだった。
「ブータメン子爵って……豚に豚って言えば怒っちゃうのは当たり前だよ…ぷぷっ」
聖奈さんにはウケたようだ。
確かに俺の事を童貞って言う奴がいたら魔法で消し炭にするな…すまん豚さん。
粗方報告を終えたので宿に戻って休むことにした。
翌日内密に城へと呼び出された俺は例の王族の私室に来ていた。
「えっ!?ブータメンって豚の獣人だったのか…」
マジで差別じゃん…
「うむ。確かにバーランド国王の発言は褒められたものでは無かったが、そもそも子爵が問題を起こさなければ何もなかったとも言える」
流石の俺でも何もしなかった人に暴言は吐かないからな。
しかし、この国ではデリケートな問題だろう。
今更だが迷惑を掛けた感がパない。
「まぁそれは我が国の問題であるから置いておこう。
ブータメン子爵だが男爵に降格の上、罰金と誓約書を書かせた」
「降格なんてあるのか…こほん。では読ませてもらおう」
何何〜?
要約すると
豚は次に同様の問題を起こせば貴族としての身分剥奪。
土地はそのままにしてやるから家業の畜産を頑張れ。成果が出ればまた子爵に戻してやらん事もない。
か…。
まぁいいんじゃねーの?俺の国じゃないからどーでもいいっちゃいいし?
「了承した」
「いいのか?余から見れば軽く感じたが…流石北西部の覇王と呼ばれる男よ。器が違うようだな」
何だよ覇王って!
聖奈さんか!?ガチで広めてるの!?
黒い馬に跨って指先一つで『あべしっ』すればいいのか!?
………そりゃラ○ウか。
「一ついいか?」
俺は誓約書の中でとっても気になったある一文について聞く。
改まって問いかける俺にブリリアント国王は少し緊張しているように見える。
「な、なんだ?」
「畜産ってあるけど…豚を飼っているのか?」
豚獣人が畜産って…倫理的に大丈夫なのか?
「…あぁ。何が言いたいのかはわかった。豚獣人であれ食べ物は人と変わらん。
狼獣人が狼の毛皮を着るようなものである」
獣人トークむずっ!
王様は人だけど。
「つまりそれは倫理的に問題ないと?」
「うむ。人であれ、人を奴隷とするであろう?それと同じではないが、それよりも遥かに倫理的だ。豚獣人は豚の特徴が出ているだけで豚ではないからな」
…すみません。差別したのは私です。
ですが私は今でも無罪を主張します。あれは区別です!
うん。俺みたいな考えのやつがいる限りこの世から差別はなくならないんだよな。
人が人を飼っているのに豚獣人が一部の見た目以外は別物の豚を飼っても問題ないという事のようだな。
「わかった。つまり獣人とは人と同じ感覚で付き合えばいいんだな?」
「それも少し違う…」
「面倒だな…」
「それがこの国を治めるのに一番苦労する事であるな」
最後の方は何だか国王同士の愚痴の言い合いみたいになってしまったが、大事な話は聞けたので城を後にした。
結局城を行ったり来たりしていたら旅に出た意味がないんちゃうか?
ないんやろなぁ…
はぁ。狐耳のお姉さんには騙されるし…豚に豚って言ったら怒られるし……
良い事と言えば魔法の鞄が買えたくらいだな……
いや、一時だがお姉さんの良い匂いと柔らかさに包まれたんだ!
俺はそれまでのただの童貞ではない!ワンランク上のスーパー童貞になれたんだ!
…アホくさ…帰ろ…そんで明日には王都出よ……
王都ターミナルでえたもの
まほうのかばん。
うしなったもの
じゅんすいなどうていごころ。




