3話 無銭飲食を撃退せよ!
ここでおさらいだが、この大陸の名前は中央大陸。まぁ他の大陸の情報ゼロだから名前に意味などないんだが。
それでリゴルドーがあるエンガード王国は北に位置する。
その西に皇国があり、皇国の南にナターリア王国がある。
そしてこのバーランド王国はエンガード王国の南、南北に長い皇国の東、ナターリア王国とザイール王国の北に位置している。
そしてバーランド王国を含めたこの6カ国が大陸の北西部になっている。
見事に周りは行った事のある国に囲まれているわけで、俺が向かう方角は限られてくる。
後、唯一どの国とも接していない東側は通行困難どころか未踏の大地…山や深い森だ。
ここで問題がわかる。
俺が新たな旅を始めるのに東以外に向かうのは微妙。もちろん行った事のない国に面しているナターリアやザイールを通過しても良いんだけど、新たな旅とは?となってしまう。
じゃあ東だよな?
ということで方角さえ決まれば後はのんびりだ。
最早馬車も、ましてや車もいらん!
やっちまったなっ!
男は黙って徒歩っ!
誰がクー○ポコわかんねん…
城を出発した俺は太陽の位置を確認して前人未到の大地へ向けて足を踏み出した。
方位磁石がある?
いいんだよ。その方が冒険ぽいだろ?
「へぃ。そうでさぁ。きぃつけてつかぁせい」
とんでもない方言だったな…翻訳の能力が壊れたのかと思ったぞ…
この場所はこの農民の人の話によるとバーランド王国最東端の村らしい。
俺は身分を偽り、冒険者と名乗って話を聞いた。
ホントは越後のちりめん問屋と名乗りたいところだったが、この世界ではこの意味がわからん人しかいないからやめた。
そもそも世直し行脚でもないしな……
「つまり、ここから先は道すらないって事か……」
いざとなれば転移魔法で帰ればいいじゃん?ってなりそうだけど、今回からは一人旅だ。
毎回城に帰ってたらみんなから馬鹿にされそうだし、何より旅の醍醐味は野営だと思っているからな。
サバイバル王に俺はなる!!
「フレアボムで焼き払いながら通ったら怒られるよな?」
目の前の茂みに突っ込むのに躊躇していたが、何だかこんな事にも戸惑う自分の貧弱さに全てが吹っ切れた。
「うぉおお!!日本の田舎育ちなめんじゃねぇぇえっ!!」
ガサガサッ
「うむ。ここがどの辺りだかさっぱりだな」
周りは木ばっかりだ。森かと思えば山になったりそろそろ下るかと思えばまた登ったり。
「もう3日も道無き道を歩いているがホントに越えられるのか不安になってきたぞ…」
王都を出発してから3日で最東端の村に来た。これは人気がなくなる度に身体強化しながら走っていたからだが…
いくら平坦な道と山道の違いがあれど……広すぎない?
「異世界舐めすぎていた…」
少し後悔が募るが諦めるつもりは無い。
だって諦めて帰ったら恥ずかしいじゃん?
「後、なんで人が住めないのかもわかったな…分かりたくなかったけど……」
この場所は魔物がやたらと強い。
数は多くなくてそんなに出会さないけど、どいつもコイツもダンジョンのゴーレムに強さが匹敵するんじゃないだろうか?
もちろんパワー重視のヤツもいればスピード重視のヤツもいるから一概には言えないけども。
「そりゃあ割に合わないよな…開拓してもすぐに破壊されて……最悪開拓組の護衛や戦闘員がランクA冒険者になる条件みたいな強さの魔物達に勝てなかったら全滅だろうし…」
うん。絶対無理だし、なんなら俺達がみんないても村の維持すら2日ともたないだろうな。
一人で尚且つ周りの被害を気にしなくていいからやっていけてるくらいだからな…
地球では歴史上開拓者が原住民や他の勢力と争って開拓が進まない場所があったと聞いたが、ここでは話し合いにすらならない魔物が相手だから、魔物がいなくならない限りここは発展しないんだろうな…
ビバ大自然…
翌日、同じような景色に飽きてきた俺は初めての変化に遭遇した。
「あれは……湖か?」
視界の先。木々の隙間からキラキラと輝く湖面らしき物が見えた。
この移動に大分げんなりしていた俺は初めて目を刺激するものに飛びついた。
「いやっふぉー!!魚魚魚!!さ・か・な!!」
うん。色々と溜まってたんだよ。
「綺麗なところだな。透明度が高くて底まで見える。魚もいるし、今日はここでキャンプで決まりだな!」
釣竿♪釣竿♪
俺は意気揚々とテントを張ってソロキャンを楽しむ事にした。
まだ日は高い。釣りして釣った魚を焚き火で炙って食べるぞー!
ツンツン
「おっ!来たなっ!とりゃあー!」
見える魚は釣れないと昔近所の爺さんに聞いたけど、釣れるじゃん!
「大漁大漁〜っと。これだけ釣れたら釣竿はしまって食事の支度だな!」
湖畔から森へと入り、乾燥した枝を集めた。
「よし。後は魚の処理をしてっと」
腑や鱗を取り除き、文明の利器である鉄串に魚を刺して準備完了だ!
えっ?木の枝に刺せ?
いや…そういうのはちょっとやってないっていうか…
取ってきた余るほどの枝を少量とり、火を起こした。
もちろん魔法だ。ある物は使う。しかし雰囲気を損なうことはしない。
これがソロキャンの基本だぜ!
した事ないけど……まぁソロ(ぼっち)のプロだから…
パチパチ
火に焚べた木が心地良い音を奏でながら燃える。
「この音だけで一升呑めるな」
まぁ魔物が出るここで、そんなに呑んだら流石にヤバいが。
「ふぅ」
俺は身震いした。まぁ飲み過ぎて催しただけだが…
「湖の近くでするのは気がひけるから森でするか」
トイレはないからな。
俺は焚き火から少し離れた森の中へ向かった。
「ふぅ。スッキリしたぜ!魚もまだあるし飲み直そっと」
意気揚々と焚き火に戻ると予期せぬ先客がいた。
「はふはふはふっ。もぐもぐもぐっ」
それは一生懸命俺が釣った魚を食べていた。
「いや!誰だよ!?」
「はぐっ!?」
俺が咎めたそいつは驚いてこちらを見るも、視線を魚へと戻して食事を再開させた。
なんつー図太い神経してんだよ……
「いや、何食事を優先してんだよ。俺のだぞ」
「もぐもぐ。ごきゅっ!?」
ジタバタッ
「はぁ。これ飲め」
急いで食えって意味じゃねーよ……
食事を喉に詰めたそいつに、コップに入れておいたチェイサー用のお茶を渡すと勢いよく飲み干した。
「あ、ありがと。これ美味しい」
「どういたしまして。魚か?これだけいるんだ。今はもう暗いけど獲って食べればいいだろ…なんで人の晩飯食ってんだよ…」
「私が焼いてもこんなに美味しくない」
「…?ああ!塩か。沢山あるから分けてやろうか?その代わり聞きたいことがある」
俺はどうみても金を持っていなさそうな無銭飲食者に取引を持ちかけた。
「いいのっ!?なんでも聞いてっ!」
「わかった!わかったから離れろっ!」
俺に女性耐性は無いんだぞ!!年齢イコールなめんなっ!
無銭飲食者は同い年くらいの女性だった。
この世界に来てからというもの、女性との出会いはあるんだよなぁ…訳あり、天使、
困窮、などだが…ミランは天使だけど歳が…
今度は無銭飲食者だし…はぁ……儘ならん。
「それで!?何を教えたら良い?」
「まぁ座って落ち着けよ。とりあえず食べながら話そうぜ」
よく見なくてもめちゃくちゃ美人やんけ…
まぁ今更緊張しようもないけど。
俺達は夜が更けるまで食事を楽しみながら話をした。
尖った耳だけどやっぱエルフなんだろうなぁ。美人だし?




