158話 三カ国会議。
「凄かったぞ!馬もなくこんなに速く移動出来るとは…持つべきものは変わった友だな!」
バーランドは車を気に入ったようだ。
変わったは余計だけど…
「これからだが、ウチに来ないか?」
「セイの家に?水都のか?」
ここは王城のサロン…毎度お馴染みだな。
「いや、リゴルドーのだ。変わったものが多いから楽しいかもな?」
「よし!行くぞ。アーロン。ついて参れ」
「はっ」
王様の許可があるからいつでも転移していいことになっている。
電化製品は間違いなく初めて見るだろうな。
少しでも喜んでくれるなら…
「これは本当に魔導具ではないのだな?」
バーランドは着いてそうそうキッチンにある電化製品に釘付けとなった。
「はい。こちらはオーブンになっています。もちろん薪なども使わないので手入れは殆どなく、使用時の準備もスイッチ一つです」
「冷蔵庫なるものも凄いが…どれも便利なものばかりだな」
ミランの説明にバーランドはすぐに理解を示した。
普通王族なら冷蔵庫やオーブン(電子レンジ)の有り難みなんて理解できないだろ…
ここの兄弟はなんで優秀なんだよ…
どうせならと湯船まで準備した。
流石に湯女などいないからアーロンが背中を流すと一緒に入って行った。
良かったな。聖奈さんがいなくて。絶対BLに持っていっていたぞ!
「凄い!蛇口をひねればいつでもお湯が出るとは…確かに魔導具に似たようなモノはあるがあれは魔石を交換したり、ここまでの細かな温度調節は出来なかったはずだ」
うん。苦労して電気温水器をつけたんだよ。態々裏庭に魔導具で水が貯めれる貯水槽を作って水圧という課題をクリアしたんだ。
やはりシャワーがないとな!
日が沈み辺りが暗闇に包まれた頃、聖奈さんが地球から帰ってきた。
「バーランド殿下。今日はセイを連れて帰ってください。さらに面白い話を聞けるはずです」
聖奈さんがこちらを見ながら伝えてきた。つまり…そういう事なんだろうな。
「そうか!ではそろそろお暇しよう。いいか?」
「もちろんだ」
この説明をするのは気が引けるけど俺しか出来ないだろうな。
バーランドとアーロンを伴い王城へと転移した。
「それで?面白い話とはなんだ?」
バーランドが笑顔でこちらに聞いてきた。
「アーロン。悪いけど二人きりで話したい。いいか?」
「かしこまりました」
バーランドに視線で許可を貰ったアーロンは退室した。
「なんだ?アーロンにも聞かせられないような話か?」
「最初の話は聞かせられるが後半はな。まずは俺と聖奈の事だ」
俺達が異世界人である事を話した。
バーランドは俺との日々で不思議な事ばかりを聞いたり見たりしていた為、すぐに腑に落ちたようだ。
「そうか…そんな世界があるのだな。この事は他には?」
「王族に限って言えばバーランドだけだな。この世界を壊したくないから向こうのものを取り入れるのにもこれでも気を使っているんだ。
もし、カイザー様にバレたら断る為に関係が壊れてしまうかもしれないしな」
便利だからといって、色んなものを考えなしで持ち込めばいずれ不幸が訪れるのは目に見えている。
元々そんな気はないのに力を手にしたらカイザー様やエンガード王でも侵略戦争を起こすかもしれないしな。本人にその気がなくても周りがその気になれば止める事が出来なくなるかもしれないし。
トランシーバーなどは簡単に軍の強さや国力が増すだろう。
わかるだけでもかなりの数の地球製品が危険物だ。
俺にはわからないものも沢山あるだろうし、やはり気軽に誰かにあげたりは出来ない。自分達が使うだけならいいけど。
やはり今、店で売っている食生活の向上品くらいだな。後は文房具やお洒落関係とか。
「うん。危険は理解した。ではなぜ私に伝えた?死ぬからか?もしかしたら父上に報告するかもしれないぞ?」
「報告されたらそれまでだ。後悔はない。伝えた理由だけど、それはこの後の話だ」
「アーロンに聞かせられないというやつか」
もしバーランドに言いふらされても後悔はない。自分の人を見る目が無かっただけだからな。
「この二つの薬について説明させて欲しい」
俺は聖奈さんと話た会話をそのままバーランドに伝えた。時間があるならまだこの話はしなくてもいいけど、それがわからんからな…いや、それすらもわからないと言うべきか…
「ありがとう。この薬は大切に持たせてもらう。私も痛いのも苦しいのもゴメンだからな」
「済まない。もう少し向こうの医学について詳しければ何かわかったのかもしれないけど…」
「セイが気に病むことではない。それに私を案じてくれているのはその涙で理解している」
俺は友達に死ぬ為の薬を渡す事が我慢できず、いつの間にか涙を流してしまっていた。
もちろん地球産の薬だからこの世界の住人であるバーランドに必ず効くかはわからん。それも踏まえて説明したが、魔力以外は同じだから効く可能性の方が高いとバーランドは結論付けた。
「我が国には建国時には名誉の死というモノがあった。それは王侯貴族のみならず市井の者達にも適用されていた。
罪に問われた時、身の潔白を証明する為の自害であったり、内容は様々だが必ず統一されている事があった。
それは自害の時の介錯を自分が決めた信じる者に行わせるという事だ。
私にとってはセイがその介錯人だ。
ありがとう。友になってくれて」
「ゔるぜえー!まだぞのどぎじゃねーよ」
もう涙を止める事なんて出来なかった。
「それでは三国会議を始めます。司会進行は私セーナが務めさせて頂きます」
翌日の夕方に遂に三国の王族が集まり戦後交渉が行われた。
俺は知らなかったからビビったぜ…
普通こんな大事な日程は報告するよな?
聖奈さん曰く『伝えたら逃げるかもしれないよね?』との事だった。ミラン曰く『知らない方が緊張せずに日々を過ごす事が出来ますよね?』…気遣いどうも。
「いきなりですが元帝国を私達にください」
いきなりぶっ放したぁー!!アンタさっき司会進行って言ったやん!?
そんなのあり!?
「馬鹿な…いや、ここで喚いても何にもならないな。貰ってどうする?三国になんらメリットを示さないなら話にならんぞ?」
皇帝が異論…当たり前な事を発言した。
「勿論です。メリット以外に見当たらないと説明しましょう」
聖奈さんの強気な説明はこんな感じだ。
まず、このまま放っておいたら帝国は荒れる。統治する者がいないのではなく、貴族達がこぞって手を挙げるからだ。
内戦により国は疲弊して、三国は戦勝国であるにも拘わらず、何も得るものがない。さらには内戦により難民が三国に押し寄せてくる。
仮に三国で元帝国領を分け合っても領土の取り合い、取り決めに時間がかかる。その間に荒れてしまい、何の旨味もなくなる。
そしてとどめに、もし元帝国をくれるのであれば、今回の戦争で亡くなった兵一人につき100万ギルを10年を目処に渡すと約束した。
これには一番戦死者が多かった皇帝が喜びを隠せずにいた。
これだと援軍として参戦した二国に不満が出るかと思ったが、何も言われなかった。
まだ聞いていないが、裏で二国に取引でも持ちかけていたのだろう。
ゲスイ…間違えた。策士。
「では、ご了承頂けたので署名、捺印のほど、よろしくお願いします」
調印も済ませて会議は終わった。次にこの面子で会う時は一年後の四カ国会議の時だ。
あれ?俺って必要だったか?
いや、転移が出来るのは俺だけなんだから必要だ!
そして、運命の日はいつの間にか過ぎ去っていた。




