156話 二国会議with聖。
「なるほど…ではナターリア王が此度ここを訪れたのはエンガードからも王族をその会合に参加させる為だということか」
俺だけ場違いなんだよなぁ。
聖奈さん達は王都の店に行ってしまうし…
「父上。今回もアンダーソンに行かせては如何でしょうか?
アンダーソンは後のエンガード王家を背負って立つ存在。内外にそれを知らしめる良い機会かと」
バーランド王子は確か身体が悪いんだったな。可愛い弟の為に出来るだけの事をしてあげたい気持ちはわかるぞ。
これで死なない世界線ならあんたが主人公間違い無しだ!
「そうであるな。よし。我が国からはアンダーソンに行ってもらおう。私が行っても良いが、バーランドの言っている事がもっとも我が国の為になる」
周りはどこを見ても王族。俺の正面にはエンガード王妃、その右に国王で反対側に第一王子のバーランド。
俺の右にはカイザー様で、左には第二王子のアンダーソン。
立っているのはこの国の宰相と近衛騎士団長。
息が詰まりそうだから早くしてね?
side聖奈
「おう。それは三つで450ギルだな」
ライルくんが接客しているのは王都のギャル…いえ、女性。
水都の店でも王都の店でもライルくんは女性に大人気のカリスマ店員さん。
今も絶対わかる計算を態々ライルくんに聞いてるし、ライルくんには『スケコマシ』の才能があると思うの。
「マリン。いいの?」
「な、何が!?」
店の隅で在庫を帳簿と照らし合わせる作業を一緒にしているマリンに聞くと、明らかに挙動不審な返事…
残念(?)だけどセイくんにはこういう心配はないからいいけど、マリンは大変だね。
「ライルくんの事だよ。本人には全くそんな気はないけど、貴女は大変ね」
「にゃ、にゃにを!?何の事かしら?ライル?良くわからないわ」
この子はまだバレていないと思っているのかな?あのセイくんにもバレてるのに…
「はぁ。あまりグズグズしてると誰かに先越されちゃうよ?」
「うっ…善処します…」
ダメそうね。良かったね。セイくんならホイホイいってついていっちゃうけど、ライルくんに限ってそれはなさそうだから。
私達がひと時の日常を取り戻しているところで
カランカランッ
入り口のベルが来客を告げた。
side聖
「城に行くぞ」
店に着いた俺はパーティメンバーにそう言った。
「どういう事?」
「聖奈の企みの為にまずはエンガードの貴族達を納得させる為のお披露目パーティーがあるみたいだぞ。まぁ順序としては皇国よりこっちが先でいいだろ?」
漸く解放されたかと思ったらパーティ…もはやハーレムに全く夢が見れなくなってしまったから何の魅力もないな。
むしろ静かに暮らしたい…
「ああそういう事ね!わかったよ!ドレスに着替えたいからリゴルドーに送ってね!」
「ああ。みんなだからな。ライルは逃げようとするな」
パーティと聞いて逃げ出そうとしたライルを捕まえた。
俺も逃げたいんじゃ!死なば諸共!仲間だからなっ!
「なんだ…これは…」
城を囲んでいる城壁の前、つまり門の前に着いたんだが…
「お待ちしておりました。我が国…いえ、三国の救世主である『アルカナの探求者』の方の案内を仰せつかりました、王国騎士団団長のフレンドリクスと申します」
騎士が城門前から城の入り口まで壁の様に並んでいる…こんな悪目立ちがあるのか?むしろなんの嫌がらせだよ…
「では、こちらへ」
俺は騎士団長と聞いても顔も名前も知らないが聖奈さんは知っている様だ。
仕方なく付いていく。
「英雄にっ!」
門にたどり着くとフレンドリクスさんが騎士に何事か告げると
「「「「英雄にっ!」」」」
ガッ!
そういうと剣を抜き正面に掲げた。
えっ…更に恥ずかしいんだけど?やめてくれない?無理?あ、そう…
「セイくん。そんなしたばかり見てないで真っ直ぐ前を見て。何だか悪いことして連行されてる人に見えちゃうから」
「うっせぇ!」
俺が恥ずかしさのあまり下を向いて進むと聖奈さんが揶揄ってきた。
今日のパーティで可愛い貴族令嬢を探す目的がある事をバラすぞ!
お巡りさんこの人です!
「セイ。帰っていいか?」
「俺が帰りたいんだよっ!我慢しろ!」
どいつもこいつも好きなことばかり言いやがって!ぷんぷんだっ!
まさかの城の中まで続いていた…
初めて来た場所なのにどこに行けば良いのか俺でもわかる…
「こちらでお待ちください」
騎士団長はそういうと下がっていった。
俺たちは両開きの豪華な扉の前に着いた。そして俺は覚悟を決めた。
『ご静粛に!これより我が国の英雄であるアルカナの探求者の方々の入場です。皆様あちらの扉にご注目を』
俺には悪魔の声に聞こえる。しかし引き返すことも出来ない。
かなり手入れがされているんだろうな。
音もなく両開きの扉が開かれていく。
「どうぞこちらへ」
案内の従者に先導されて、沢山の人達の好奇の目に晒されながら王族が待つ壇上へと案内された。
王族の前に行くと司会?進行?の人が俺達の活躍を誇張なく伝えていた。
誇張はないけど実際に見ていない人からすれば誇張アリにしか聞こえないよな。
「セイ。何かないか?」
カイザー様が聞いてきた。
今は紹介も済み、煌びやかなドレスを着た人達がダンスを踊るのを壇上で椅子に座り観賞している時間だ。
「これでいいですか?」
「おお!これはシャンパンだな!」
どうせエンガード王に自慢したいのだろうから、高貴なお酒の方がいいだろうと思いシャンパンにした。
「エンガード王も飲まれないか?セイの出す酒はどれも美味であるぞ」
「知っている。王都にも店があるからな」
ドブトリー…じゃなかった。ドリトニー子爵の一件でここでも一躍有名店になったからか。それかアンダーソン王子から聞いたか。
「それがな。セイが持っているモノは店に置いてある安物とは一味違うのだ。余も王都セイレーンのセイの店で買うこともあるが、やはり酒はセイから直接買ったものが一番美味いのだ」
「そうなのか…どれ。飲んでみよう」
うん。ここの王様は真面目そうだからあまり酒乱の道には引き込まないでやってほしい。
「セイ。後で話がある」
「はぁ。わかりました」
すぐ近くに座っていたアンダーソン王子から伝えられた。
何の話かわからないけど幼い妹を紹介するとかはやめてね。メンバー内で変な話が広まるから。
パーティでは居並ぶ貴族達が司会者からの俺達の話は本当かどうかを戦争に参加した騎士達に聞いていた。
別に聞かれるのはいいんだけど、せめてパーティが終わってからでいいじゃん…
「セイ殿!ご挨拶を!」「何を!私達の方が先である!」「待て待て、ここは騎士の息子が世話になった私からにさせてもらおう!」
貴族が焦って情報収集をしていたのはこのためだったか…
我先に俺達と知己を得ようとするくらいには戦争の話は衝撃的な内容だったようだな。
居並ぶ貴族とその娘達を見て聖奈さんが動き出した。
「セイは話が苦手なのです。ですので私が代わりにお伺いしますのでお並びください」
俺は机の上にカメラを置いたのを見逃さなかった。
まぁ好きにさせよう…そもそもダンス中もビデオモードで撮りまくっていたから今更だし。
どんだけ異世界好きなんだよ…
どうやら貴族達は自由行動が許される時間になったからここにやってきた様だ。
と、いう事は退室も自由なわけで俺はアンダーソン王子との約束を果たす為に席を立った。
俺が席を立つとアンダーソン王子も気づいた様で、来賓の出口で待つとすぐにやって来て部屋を用意してくれた。
「まあ座ってくれ」
「はい。それで話とは?」
ここは所謂サロン。応接間っぽいところだ。一人掛けのソファにそれぞれ腰を下ろしたタイミングで俺は本題を切り出した。
「兄上についてだ。セイたちの事を詮索する気はない。どこからやって来たのか、何を目的としているのか、それらに興味はない。だが、戦争でも見せた知識や店で売っている不思議な商品。私達が知らない知識で兄の病状を見てくれないか?」
「私には医学の知識はありません」
応急処置の知識は学校でも自動車学校でも習ったからあるくらいで、医学の知識など持ち合わせていない。
「では力にはなれないと…」
「いえ。やれるだけやります。私ではなく聖奈が」
俺より遥かに適任だろう。偶には俺からキラーパスを出すのもいいしな!これに懲りたらちょっかいが減るかもしれないし!
「そ、そうか。ではセーナだとわかるのか?」
「それはないでしょう」
気休めは良くないからな。
余りにもハッキリと告げる俺をアンダーソン王子は驚愕の眼差しで見つめた。




