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155話 酒好きに悪い人はいない。by聖






「では、此の方らが行った事は事実だと言うことか…」


皇都の門を潜った俺達は援軍として訪れた二国と皇国軍の階級が高い人達と一緒にパレードをしながら城へとたどり着いた。

車は俺たちしか運転できない為、城の前でみんなを下ろした後に俺だけ馬車置き場に車を駐車しに行った。


そして二国のトップ階級の人達と共に城の中へと入っていった。

城自体もどこにでもある尖塔が付いている城だ。まぁ西洋のお城だな。


謁見室というか、玉座の間みたいなところに案内された後、皇国のお偉いさん達が質問してきた事にみんなで答えたら皇帝からのお言葉が先ほどのモノだった。


「はい。セイ殿は二国の王族からの手紙を預かっています」


そう言われたので俺は手紙を二通取り出して、従者らしき人に渡した。

従者はそのまま宰相と思われる人に手紙を渡した。


「間違いありません。両国の手紙です」


宰相は手紙の封蝋を確認して皇帝に渡した。


「ふむ…」


皇帝は読み終わるとこちらに質問してきた。


「ここに書かれている事は誠か?」


「はい。エンガード王国はどちらの王族が出られるかは不明ですが、ナターリア国王は自ら出席なさると」


それに聖奈さんが答えた。

よく何について質問してるかわかるな…


「わかった。今日にでも戦勝パーティを開こうかと思っていたが話が変わった。

ナターリア軍、エンガード軍両方を丁重に持てなせ。

アルカナの探求者はついて参れ。以上だ」


皇帝は理解しているが、他の貴族達は動揺している。しかしここは君主制だ。みな直ぐに表情を戻して最敬礼した。


俺達は皇帝の後を付いて行き、一つの部屋に案内された。

部屋は豪華ではあるが流石にナターリアのお城の部屋ほどセンスは良くなく、調度品があるだけだった。

高いんだろうけど…いらんな。


部屋に似合わないソファに座るように促されて、みんなで並んで着席した。

六人掛けのソファって…キャバクラか?行った事ないけど。


「早速だが…転移できると言うのは本当か?」


皇帝は聖奈さんを見て話し始めた。

どうやらリーダーだと思われているようだな。さすが皇族…お目が高い!


「本当です。先程は配慮して頂きありがとうございます」


「当たり前だ。そんな事が出来るとバレたら、あの狡猾な貴族共が何かするのは目に見えているからな」


自国の貴族なのに凄い言い方だな。色々あるんでしょうね…

手紙には転移の事が書かれていたんだな。


「はい。この度、両国軍を伴って来たのもその為です。ナターリア軍は最終戦には間に合いませんでしたが。

ですので来賓の際は皇都の外で待つ、両国軍の所で転移します」


そりゃ王様だけ来たら事情を知らない貴族はビックリするよな…

その為にも両国軍をここへ来させたのか…

数万の軍勢なら国王が来て増えたかどうかなんてわからんもんな。まぁ国境の警備がしっかりしていたらどこから来たんだ!ってなるけど、今は両国軍が自由に出入り出来るから大丈夫だな。


「承知した。ナターリア王の手紙に書いてあったが…珍しい酒があると…」


歯切れ悪く皇帝が聞いてきた。カイザー様は何を書いてんだよ…


「ありますよ。これなんかどうです?」


俺は日本酒を取り出して献上(?)した。


「ほほう。見事な瓶だな」


まずそこかよ…ただの一升瓶なんだけどな。こちらにも瓶はあるから珍しい物じゃないはずだが、多分皇帝の語彙力の無さか、審美眼のなさのせいだな。


「それでお前達は誰がAランクなのだ?」


「全員です」


「なんだと?この小さな娘もか?」


「ちなみに陛下が小さな娘とおっしゃったのは18歳の女性です。最年少はこちらのミランで14歳です」


エリーは失礼なっ!って顔で驚いているけど仕方ないだろう。


「14歳でAランク冒険者…リーダーは其方か?」


「いえ。私ではなく、こちらのセイです。転移魔法の使い手も彼です。さらに言うと、これは脅しですが彼がその気になれば一瞬でこの皇都を城ごと消し飛ばせますのでお気をつけ下さいね」


皇帝のあまりの鈍感さに聖奈さんがわざわざ脅しだとまでつけて釘を刺した。舐めてるといてこますぞワレ!って感じだ。


ちなみに融合魔法で出来るがするわけがない。

例え狙われても逃げればいいだけだし。皇都の民は何も関係ないのに危害など加えない。

もちろん仲間を傷つけたら何すっかわかんねーぞ!オラッ!


「そんな事が…いや、転移などと言う人智を越えた事が出来るのだから可能なのか?」


考えが口に出るタイプなんだね!

為政者には向かないよ!

えっ?俺も?知ってるよ!


「そんなヤバい魔法は見せられませんが転移なら見せられますよ」


「本当か!見せてくれ」


そう言われた俺は徐に立ち上がり部屋の隅にある壺の前に来た。

人が入れそうな壺だけど何に使うんだよ…


「これと一緒に転移します。俺だけだと高速移動だと思うでしょうし」


そう考えて壺を持とうとしたらやけに重い…

中を覗くと…


「うわっ!?誰だ!?」


中に人がいた。マジかよ…冗談で言ってたのに…


「済まん。そいつは皇族を守る忍びだ」


し、忍び…ニンニン。

異世界に居たのかよ…地球にはもう居ないのに。


「まぁ話を聞かれたので…」


そう言うと中にいた忍者さんは身体を震わせた。


「一緒に転移します」


こんなところに隠れていたのが見つかったら恥ずかしいだろうし、出てこなくていいよ。


『テレポート』


俺は部屋の反対側に壺ごと転移した。

もちろん中の人には何が起こったか、わかっていない事だろう。唯一壺の中から見える天井は真っ白で段差もないから尚更だ。


「す、凄い!凄いぞ!」


皇帝は大はしゃぎだ。

その後、他の人達(大臣職、側近)が入ってきて手紙の内容や、こちらが求めている事には否定的だったが、俺達…いや、俺のヤバさを知ってしまった皇帝が黙らせた。


そりゃ皇都を破壊はしないと思っていても寝てる時に転移で来られて寝首をかけると思ってるだろうからこれで俺達は皇国で無碍にはされないだろう。

その脅しを込めた転移の披露だったはずだ。知らんけど。





ドンドン


「いらっしゃいますかっ!?」


その日の夜、俺が部屋でごろごろしていると焦った感じで扉がノック?叩かれて?問いかけられた。


「はい。開いてますよ」


ガチャ


「お休みのところ申し訳ありません!陛下並びに大臣方達が至急との事です!」


入ってきた侍従と思われる人は何事かは聞かされていないようだ。焦りすぎだろ。


まさか命の危険が…?


一瞬不穏な未来が頭を過ったが恐らく予想しているものだろう。

俺は侍従に付いて行き、大広間へと入っていった。






「待っていたぞ!」


皇帝がテンション爆上がりで手招きしてきた。

はぁ。やっぱりか…


「酒ですよね?」


「そうだ!まだあるか?金ならいくらでも出そう!」


流石皇帝。いや、こんな事で威厳を感じるのは違うな…

その日の夜は大いに呑みニケーションした。

死語か…






「よし。ではまずはエンガードに行くぞ」


いや…アンタはフットワーク軽すぎだろ…


「ホントにいいのですか?また怒られるんじゃ…?」


「馬鹿を言うな!これは爺と妻からも頼まれている事だから問題などない!余は国王だぞ!」


アンタ尻に敷かれてるやん…人のこと言えんけど。

俺はエンガード王国王都の前に近衛騎士達を転移させた後、カイザー様と一緒に転移した。


「聞いていたし見てもいたが…体験するのはまた別だな」


流石の王族も帝王学に転移の項目はないから驚いているな。

騎士達にも転移が出来るのがバレてしまったが、必要経費の為致し方ない。


「陛下。エンガード王国国王が会談に承諾致しました」


良かった。ここで断られていたら出直しだからな。

アポ無しなのは仕方ないがこの世界ではアポをとるのに手紙くらいしか無くて、その手紙も届くかどうかわからん。そんな理由もあってアポが取りたくても取れない時もあるから受ける側は臨機応変に対応しなきゃな。

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