151話 国王演説会。皇帝を添えて。
「ご苦労であった。次も頼んだぞ?」
ここは水都のお城の一室だ。カイザー様に報告をして、新たにお願いされた形だ。
「元よりそのつもりです。ナターリア国軍も奇襲を受けているかもしれないので、行って参ります」
「その可能性は低いが、頼んだぞ」
可能性が低いのはナターリアからは王族が戦場に来ないのは周知の事実だからだ。
逆にエンガード王国軍には必ずどちらかの王子が来ると帝国に知られていた。
戦争の旗印がその場にいないなら自国が不利になるだけなので、普通の合戦になるとの事。
ナターリアとハンキッシュの国境へと転移した。
「だいぶ前に通過したみたいだね」
聖奈さんがナターリア側の国境の騎士に問い合わせて大体の現在地を考える。
「もう合戦の予定場所に着いていそうだな」
「うん。陛下が私達の事を伝えてくれているから飛び入り参加だね!」
そんなどこかのライブにでも参加するみたいに言われても…
「とりあえず皇国内に転移して車で向かおう」
6人だと少し狭いけど乗れない事もない。
一度水都の屋敷に転移して庭に置いてある車に乗り込んでから皇国内に転移した。
「あっ。ここ見覚えがあるよ!予定地にもう少しだね!」
暫く街道を北上すると聖奈さんが声を上げた。今回も助手席はミランで、聖奈さんはサンルーフを開けてライフルを構えている。
中々現代の紛争地っぽい感じになってきたな。
ちなみに他のライフルは車の揺れで折角ゼロインしたのに照準が狂ってしまわないように魔法の鞄の中だ。
「いたよ!街道にナターリア国軍!」
ようやく助っ人に来られたな。
軍人の前に車を止めると聖奈さんが降りずに説明をした。
そこでカイザー様からの書状を見せると街道から戦場となっている広場までの間にある国軍の天幕へと案内してくれた。
ガチャ
バタンッ
「き、君たちが陛下からの手紙を?」
得体の知れない乗り物から降りてきた俺達を見て、少し挙動不審になったのがここの指揮官のようだ。
あれ?車はまだ見慣れないのか?イランさんも水都にでは乗り回しているだろうに。
まぁ形が全然違うから仕方ないか。
「そうだ。カイザー様からナターリアの為に最善を尽くすように仰せつかっている」
「戦況はどうですか?」
「思わしくない。こちらには被害らしい被害はないが、向こうも同じだ」
あれ?さっきの砲撃音は?
「魔法の無駄打ちですか?」
「見ていたのか?」
「いえ。ナターリアの魔導士部隊は有名ですので帝国も何かしら対策を取ってきていると思いまして」
やはり魔法は撃っていたんだな。
「そうだ。帝国軍は魔法の射程距離になると足を止めて発動と共に下がる事ばかりだ」
「魔法はどんな種類を?」
「一番殺傷力の高い爆発系の魔法で統一している」
「物質系の魔法は何故使わないのですか?」
物質系とはアイスブロックみたいにその場に形として残るものだ。
「射程が短いから使えないな」
そうなのか…
魔法を統一するのはわかる。片や火魔法で片や水魔法だと相殺しちゃうもんな。
「そうですか。でしたらこのまま行くと負けますね」
「何だとっ!?我が魔導協会の精鋭達を侮辱するか!?」
指揮官の横で聞いていたおっさんが声を上げるが…魔導協会かよ。ロクな奴いないんじゃないか?
「いくら魔法に長けていようが、ここは戦場です。魔法の品評会なら他所でしてください」
「貴様ー!」
「待て。喧嘩をするな。そこまでいうならなぜ負けるか聞こう」
指揮官が冷たい視線を聖奈さんに向けるが当の本人はどこ吹く風だ。
「簡単です。向こうはなぜ突破を図らないと考えますか?こちらの手の内を曝け出させる為です。
物質系の魔法や爆発の魔法を揃って使ってくる相手には指揮官ならどう対処しますか?」
「それは…盾、それも複数人で持つ大楯を掲げて突っ込ませる。魔法着弾の時だけ身構えればいいからな」
指揮官の答えに
「はい。私も同じように指揮します。なので今は向こうが大楯を準備する為の時間稼ぎの時ですね。準備が終わり次第、総攻撃が待っています。
魔法使い…いえ、ここでは魔導士でしたね。魔導士は近接戦に向いていますか?
恐らくすぐに負ける事になります」
昔の戦争では現地で攻城兵器や武器を拵えたと聞いたことがある。
大楯くらいなら構造は単純だからすぐに準備するだろうな。
「…どうすればいい?」
「ご安心ください。私達に任せて頂ければ大丈夫です」
聖奈さんのそのセリフを聞いて、指揮官がチワワの様な不安そうな眼差しから、天女を崇拝する様な顔つきへとかわった。
その神は疫病神だから崇拝はやめた方がいいですよ?
「で?どうするんだ?」
話が終わり、一度指揮官は軍議を開く為に俺たちだけになった。
「簡単だよ。私達が無双するんだよ!」
「もしかして俺たちだけで相手取るのか?」
「そうだよ!ここで恩を売りまくれば陛下や王子に望んだ報酬も現実になるよ!」
欲深い天女だこと…
「もちろん無駄に殺したいわけじゃないから初めに手を打つけどね。それがダメならみんなで暴れようね!」
「はい!私の魔法を魔導協会に見せつけてやるです!」
エリー。相手は向こうだぞ?間違えるなよ?
さて、戦いの前に舞台を整えますかね。
「帝国兵よ!我が名はカイザー・セイレーン・ナターリア。ナターリア王国の国王だ」
拡声の魔導具を使い、急遽拵えた高台の上からカイザー様が帝国兵に向け、演説を始めた。
俺達にとっては戦争回避の予定の策だが、王国軍にとっても知らない演出の為、驚きの声が上がる。
「帝国はすでに負けておる。ここより遠く離れたエンガード王国軍との合戦も敗れている。今、素直に投降するのであれば我が名において命は保証しよう」
帝国軍のあちこちでザワつきが収まらない。
所々では嘘つき呼ばわりする声もあがる。
「余の言葉を信じられぬか?仕方ない。では証拠を見せてやろう」
カイザー様の合図で袋を頭から被せられた一人の男が前に出された。
「この男はお前達のよく知っている人物だ!しかと見よ!」
バサッ
そこに現れた皇帝を見て、帝国軍の騒めきは最高潮に達した。
「ほれ。言葉を聞かせてやれ」
皇帝は木の棒のような拡声の魔導具を縛られている皇帝に向けた。
「な、何をしておる!ターナー!ジルバ!早く余を助けぬか!イーザルも何を惚けた顔をしておる!」
「へ、陛下…」
流石に最初は影武者だと思った帝国軍の高官だったが、自らの名前を呼ばれた事で本物だと確信した。
カイザー様はうるさく喚く皇帝に袋を掛けさせて黙らせた。
「わかったな?帝都にあるはずのお前達の守る城はすでにない。他の皇族も我が手中にある。しかし、我がナターリア王国は無辜の民には危害を加えない。帝都の城はなくなったが、帝都は無傷だ!
二度目だが問おう。
お前達が降伏するのなら命は取らん。しかし三度目はない。決断しろ」
帝国軍は投降しなかった。
「ご足労お掛けしました」
「いや、出来れば血は流させたくなかったが余は無力だったようだ」
慰めの言葉くらいはと思ったが、時間もない為、城に皇帝と共にカイザー様を送り届けて俺はトンボ帰りした。
「作戦は?」
戻った俺は聖奈さんに問いかける。
「ないよ?無くても大丈夫でしょ?」
「…」
もはや言葉にならなかったがよく思えばいつも通りか。




