150話 飯?腰に付いてるのが全てだ!
俺達は街道を逆走して人混みになっている戦場を抜けた。
「ライルは森は得意か?」
「当たり前だ」
よし。なら先頭はライルに任せよう。
「森に入る前にこれに着替えてくれ」
王城でいつもの冒険者服に着替えて来たけど、森ならこれだろう。
「なんだこの柄物…」
「迷彩服って言ってな。森の中では見つかりにくい服なんだ。今回も隠密行動で行くぞ」
「りょーかい」
俺の迷彩服しかないけどライルなら少し折れば着れるだろ。
着替えた俺達は森の中に姿を消した。
「どっちだ?」
「二時の方向だ」
森の中で魔力波を使うが、しぼって使ってもあまりの反応の多さに眩暈がする。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ。急ごう」
心配は有難いが、先を急ぎたい。
ここでの一秒が一生の後悔に繋がるからな。
何とか敵に見つかる事なく密集しているところを視界に捉えることができた。
「派手に行くんだろ?」
「そうだな。気が進まないけど仕方ない。ライル。魔法を撃った瞬間にここを離れるぞ」
「やっと俺も見れるな!」
大量虐殺を楽しみにされても…
まぁ気が楽になるから有難いけど。
大勢が死んでしまうから出来るなら使いたくなかったけど仲間の命にはかえられない。
『トルネード・フレアボム』
木々を木の葉のように巻き上げながらトルネードが集団に向かい突き進んでいく。
それを一拍置いてフレアボムが追いかけた。
「逃げろ!」
俺とライルは全速力でその場から離れた。
sideセーナ
「人が密集しすぎていて撃ちづらいですね」
馬車の上にいるミランちゃんが報告して来た。
かれこれ半日は同じ報告だ。
「後少しでセイくん達が戻って来てくれるから頑張ってね!」
こんな気休めしか言えないことが辛い。
セイくん達がすでにここに来ていたとしても、いくらセイくん達でもこれだけ密集していたら近づけないよね。
フレアボムで焼き払っても火事になったらこっちも逃げ場がないし…他の魔法だと木々が邪魔して効果は薄いんだよね。
唯一の利点は現代兵器があるからここに近寄らせない事が容易っていうくらい。
やっぱりセイくん達が打開してくれるのを待つしか無いよね。
「て、敵軍が増員して来たです!」
「さっきまでとは違います!なりふり構わず突っ込んで来ています!」
遂に来てしまった…私が向こうの指揮官でもそうするよね…
向こうからしたら殿下の周りが団子状態になるのは予想の範囲内だったけど、知らない攻撃方法で攻めあぐねてしまった。
時間がかけられないなら被害は増しても防御は捨ててこちらの防衛力を上回る攻撃で殿下を害する為に総攻撃を指揮する。
夜が明けて日が出た事でその決断をしたようね…
「私も出るよ!みんな後少しだよ!」
私も馬車の上に出てライフルを握る。何の確約もない言葉だけど仲間達はみんな頷いて応えてくれた。
「セイくん。私を嘘つきにしないでね…」
最後の言葉は戦場の喧騒に掻き消された。
side聖
「うぉおおおおっ!?」
やべえ!?森で逃げるのが遅れたせいでまた吹き飛ばされたぁあ!
「ぶべっ!?」
地面に叩きつけられた俺は情けない声と共に生を実感した。
「ふぅ。ふぅ。なん、とか。生きてる、ぞ…」
ライルは?どこだ?
「ライルっ!!」
「ここだ…」
俺の呼び掛けに応えた方向を見ると…
「何、遊んでるんだ?」
「遊んでねーよ。降ろしてくれ」
ライルは木の枝に引っかかっていた。
ライルを木からおろすと現状の把握に努めた。
「じゃあ魔法を撃った所へ向かうでいいか?」
「そうだな。そこならセイの剣も自由に振れるだろ?」
ここまでは木が密集していた為、戦闘は避けていたけど木がないなら戦えるな。
どちらにしてもじっとしている事などできない為、現場に向かった。
辺りは金属片や木の破片くらいで何も無かった。そりゃそうか…スプラッタを見なくて済んだのは不幸中の幸いだな。
「やっぱとんでもねーな。セイなら世界征服出来るんじゃねーか?」
「その前に自分の魔法で死ぬだろうな。馬鹿言ってないで次はどうする?」
ここでの爆発は両軍共に見ていたはずだ。今も空には爆発で出来た雲(?)煙(?)がある。
「ここには殆ど来ねーだろうな。何も知らなきゃ俺でも近寄らねーよ。セイはまたあのデカいライフルを取りに行ってこいよ。俺はここで待ってる」
「そうだな」
どうやらいくら待っても敵さんはここへは来そうにない為、ここから聖奈さんたちを助けに向かう事にした。
パンパンパンパンッパンパンッ
俺が今使っているのは以前に使っていたアサルトライフルだ。
これでも金属鎧くらいなら貫通する。それに装弾数も予備のマガジンも豊富だ。
「ライル!前に出過ぎだ!ミラン達の銃弾に被弾するぞ!」
「わかった」
遠くから銃声が聞こえた。間違いなく聖奈さん達だ。
漸く目標地点を見つけられた俺達は後方からの援軍を無くした敵兵を後ろから強襲した。
「くそっ。まだ一万くらいは取りついているな…」
「セイ!埒があかねー。フレアボムを撃て!」
火災が心配だけどそれしかないか…
『フレアボム』
ドガーーーン
「ギャー」「火、火がぁあ!?」
着弾付近は地獄絵図と化したが仕方ない。
仕方ないって便利な言葉だね。
現実逃避しながら魔法を連発していった。
3発程撃ったところで俺達の仕業だと気付いた敵軍が…崩壊した。
「に、逃げろー」「ば、化け物だっ!?」「しし死にたくねぇよー」
おいっ!誰だ!?こんな好青年をつかまえて化け物呼ばわりした奴は!?
「セイさんっ!」
怒声、悲鳴に紛れて声が聞こえた。
「ミラン!?」
どこだ!?くそっ!まだ見えないぞ!
銃はミラン達に当たるかもしれない為、近くに落ちていた剣を拾い、声のした方へ駆け出した。
「うぉぉおお!!俺の仲間に手を出すなぁあー!!」
がむしゃらに剣を振りまくり、もはや剣ではなく鈍器として扱った。
「セイさん!!」
「ミラン!!待っていろ!」
「はいっ!」
遂に馬車の上に陣取っている仲間達を見つける事が出来た。
その距離100mくらいだが…味方が多過ぎて辿り着けん。
敵兵はもはや逃げ惑うばかりだから放っておこう。
どうしようかと考えていたら…
「皆の者!此度の戦の功労者に道を開けよ!」
拡声器のような魔導具を使い、殿下が声を上げてくれた。
モーゼのように俺の前にいた人だかりが割れて馬車がはっきり見えた。
「セイさん!」
ガシッ
「ミラン!無事だったか!」
飛びついて来たミランを受け止めた俺は怪我が無いか確認しながら聞いた。
「はい!みなさん怪我なく無事です!」
「ミラン!交代です!」
ガシッ
あれ?これみんなにするのか?
最初は気持ちが入っていたから気にならなかったけど恥ずかしいぞ…
聖奈さんも飛び掛かって来たから脇に抱えた。
マリンはライルとお話し中だ。
聖奈さんを降ろしながらこれまでの事を聞いた。
王子も無事だし、国軍にある程度の被害は出たが規模からすると大した事ではなかった。
それでも千人単位で死者を出し、怪我人は万に及んだ。
「では、国軍はこのまま進行する。他の戦地も頼んだぞ」
「はい。大丈夫だとは思いますが戦争に絶対はありませんのでお気をつけて下さい」
エンガード王国軍とはここで一旦お別れだ。
普通の軍では兵站などの輸送があるため、万を越えた軍での進路外の行軍は不可能だ。何故相手が奇襲してこれたかと言うと、街道から森に入る時に食糧を個人に持てるだけ配り、戦後はこちらから奪う算段でやって来たとのこと。
「後先考えない無茶苦茶戦法だな…」
「ゲームとかでは使えるけど、実際には失敗した時のことを考えると出来ないよね」
もし、国軍を見つけられなかったら飢えで崩壊するし勝てるかも絶対ではないしな。
この後の崩壊した帝国軍も無事に本国に帰れるものは少ないとの見通しだった。




