149話 戦場はおしくらまんじゅう。
「じゃあみんな死んでたのか?」
おっさんを連れてライルの元へと戻った俺は簡単に報告をした。
「ああ。おっさんに生きていた城のものに聞いてもらったけど、誰も見つかっていないって言ってた」
「じゃあ目的達成か?」
「そうだ。もちろん送り届けるまでが目的だけどな」
お家に帰るまでが遠足だからっ!
「あのー私達は?」
「お前達はここで解放してやる。だが、俺達の事を誰かに話したら必ず見つけ出して殺す」
「ひぃっ!?」
大剣を一閃するとおっさんは尻もちをつき、他の奴らは首を振って了承した。
生き残り達には歩いて帝都に向かわせた。
「じゃあ転移するぞ?」
「おう」
『テレポート』
皇帝達を連れて転移した。行き先は…
「確かに預かった」
ここはナターリア城の一室。皇帝以外の皇族をカイザー様に預ける事にしていた。
「よろしくお願いします。後ほどナターリア王国軍にも援軍に必ず行きますのでご了承ください」
「わかっておる。ほれ。セーナ達が待っておるであろう?」
「はい。失礼します」
カイザー様に皇族を預けて城で朝まで仮眠させてもらった後、俺達は二人で転移した。
何故なら聖奈さんと合流するまでは皇帝は足手纏いだからだ!
他の皇族をカイザー様に預けたのは手柄を独占しない為だ。
よくわからんが聖奈さんが気にしていたから間違いない!
一度リゴルドーへバイクを取りに戻ってから聖奈さん達と別れたところへと転移した。
「流石にいないな」
「そりゃそうだろ。早くいこーぜ」
バイクに二人乗りして皇国へ向かった。
向こうが大軍だという事を考えなくとも1時間くらいで追いつくはずだ。
恐らく国境を少し越えたあたりだろう。
ある程度見当をつけていたがこれは外れる事になる。
「なぁ…この音…いや声って、開戦してないか?」
1時間も走らせる前に異変を感じ取った為、バイクを降りた。
一先ずバイクをリゴルドーに置きに戻り、身軽になってから音のする方へ走って向かった。
キンッキンッガンッドンッ
様々な音や怒声が響き渡る戦場が目に入った。
「何でだ?開戦予定地はまだずっと先だろ?」
「わかんねーよ。とりあえずセーナ達を探そうぜ!」
そうだな…
俺達は帝国兵と思われる奴らを斬り伏せながら王国軍の中央へ向かっていった。
なんで乱戦なんだ?
side聖奈 時は聖達が出て行った頃。
「前進!」
私達はアンダーソン殿下と行動をともにする事になった。
シュバルツさんは前に聖くんが嫉妬したこともあってか馬車への同乗はしなかった。
「狭くてすまんな」
私が難しい顔をしていたせいか殿下が思ってもいなかった事で謝罪してきた。
「いえ。むしろ私どもの所為です。それよりもいいでしょうか?」
私は気になっていた事を聞いた。
「殿下は第二王子との事ですが、お兄様は?」
そこで殿下は答えづらそうに、しかし全てを話してくれた。
私は軽率な質問を後悔した。
「よい。しかしこの話は聞かなかった事にしてくれ。私も話すなと言われていたが、恩人のセーナであるから話したのだ」
謝った私に殿下は気にする素振りもなく許してくれた。
初めは仲間や店の為に参加したことだけど、今では殿下を助けたくなっていた。
流石王族だね…まさか魅了魔法じゃないよね?
「次の休憩はありません。野営地までこのまま向かいます」
どうやら進軍は順調の様だね。
殿下に報告に来た騎士はすぐに離れて行った。
「すまんが聞いての通りだ」
「いえ、大丈夫です。私達は冒険者ですよ?」
「そうだったな!はっはっは」
見た目は普通の女の子ばかりだもんね。女性に優しい紳士な殿下はさぞモテるでしょうね。
どこかの誰かに見習わせたいけど…私の揶揄いすぎも悪いから仕方ないかな。
後1時間程で野営地に着くところまできていた時に異変が起こった。
「敵襲!!」
カンカンカンッ
異常を報せる鐘の音が木霊する。
まさかこんな普通の街道で襲撃?
私が思考の渦に飲み込まれそうになっていたところでミランちゃんが声を掛けてくれた。
「セーナさん!まずは状況を確認しませんか?」
「…そうだね。現状は森に挟まれた普通サイズの街道での襲撃だね。こちらは大軍だけど向こうの凡その数だけでも知りたいな」
私の言葉にミランちゃんは双眼鏡を手にして馬車の上に上がっていった。
こちらは隊列が伸びてしまっている為、横からの攻撃に弱くなっているね。でも…それでも大軍だよ?ちょっとちょっかいかけたくらいじゃ行軍の速さは変わらないし、相手は何を狙って…
「もしかしてここが本命?」
普通の合戦だと、決着がつくまで時間がかかる事が多いよね。単に大将が一番奥にいるからなんだけど、ここでは簡単に横を突くことが出来る…
少数なら数で勝るこちらの守りが突破される心配はないけど、もし敵が全軍で街道ではなく、森の中を突破してきたとしたら?
「殿下!敵の数が多いようです。いかが致しますか?」
「うむ…セーナどう思う?」
「敵の狙いは殿下です。しかも奇襲が失敗に終わったのに、まだ攻撃してくるところを見ると…こちらの数の優位はないと考えるべきです」
「それは敵の本隊もすぐそばに?」
「はい。敵軍すべてが森を抜けて一気呵成の決着を仕掛けてきたのです」
流石の殿下も心の準備をする前に戦闘に突入してしまい、目を丸くしていた。
「こちら方面の敵の数は予想では25万です。対するこちら側は28万です。こちらも数を生かす事は出来ませんが、それは向こうも同じ事です。
森の中を歩いて来ている向こうの方が体力的に不利です。そして向こうは早期の決着が必要ですが、私達は時間が稼げれば大丈夫です!
敵軍の最大の目標である殿下を守り切る為に守りの堅い部隊をここへ召集してください」
木が生い茂っている為、弓兵と槍兵はほぼ無力。向こうはこれを想定した部隊編成で来ているはずだから実際の戦力数でも負けてるよね。
ただ、向こうは早期決着を目指していて、私達は時間を稼げばいい。それも多分そんなに長くないと信じてる。
セイくん急いでね。
side聖
「どうなっている?」
俺は帝国兵を斬り伏せてから指揮を取っていたエンガード王国軍の将兵に聞いた。
「わからん!昨日の夕方に奇襲を受けてからずっとこの場から動けていない!」
「殿下は!?」
「援軍を送っているが…状況が伝わってこない」
報告を受け取ってライルの元へと向かう。
「どうだった?」
「結局分からなかった。襲撃は昨日からのようだ」
まずい…こんな狭い戦場で一方からだけとはいえひっきりなしに攻撃を受けているのだとしたら…
「どうやって行く?」
「わからん…道が人で詰まっているからな…」
多分殆どの部隊長は殿下の援軍に人を出したのだろう。
それによって真ん中に人が殺到して身動き出来なくなってしまっているんだ。
「じゃあする事は一つだな」
「?なんだ?」
「森の中に敵がいるんだろ?じゃあ敵を倒したらお終いじゃねーか」
そんなアホな…いや、それしか無いな。
多分ここまで事態が収まらないという事は敵も相当数いるはずだ。
どうにか敵の本陣、本隊に一撃お見舞い出来たら何とかなるかもな。
「よし。一旦離脱しよう」
「おう。任せるぜ」
結局俺達は街道では前に進めない為、引き返す事にした。
頼むから無事でいてくれ。




